65 君に会いたい(1)
なんで。
そんな言葉が、ずっと、頭の中を駆け巡っている。
兄貴が帰って来ない。
そんなことはどうでもいい。
ただ問題なのは、莉子も一緒に出かけたらしいということだ。
早朝。
電車に乗って。
二人で。
そして、夕方を過ぎても、日が暮れても、二人は帰っては来なかった。
こんな長い時間、二人で何してるんだよ。
嫌な想像だけが脳内に浮かび上がる。
どうしても、距離の近い二人に嫉妬してしまう。
いつの間に二人はそんなに仲良くなったんだ?
どうしたって僕の方がそばにいたはずなのに。
なんでこんなに苦しいんだ。
僕の怠慢だった。
必死で莉子と仲良くなろうとしなかった。
そばにいるのが当たり前過ぎて。
もっとそばにいける人間がいるなんて、思ってもみなかった。
連絡先だって未だに聞けないまま。
夕食は焦げた焼きそばを、なんとか腹の中に収めた。
明日は絶対に莉子と会う。
理由なんてなんでもいい。
ただ、会わないといけない。
僕だって。
そんなわけで、翌日僕は、莉子の家に押しかけた。
タンタンタン、と包丁が小気味よく音を立てる。
カウンター越しに、莉子がこちらを覗いている。
何が面白いのか、いつだって莉子は僕の方を見ていた。
飯で釣るではないけれど、料理をしていればいつだって莉子はこちらを見てくれた。
「昨日は、どこに行ってたの?」
「昨日?」
莉子の静かな声が返ってくる。
これは、言う気がないやつだ。
直感でそう思ったけど、話を続ける。
「もしかして、兄貴と一緒にいた?」
少しの沈黙。
パスタを茹でるために沸かしているお湯の、ポコポコとした音が耳についた。
「うん。ちょっと、お出かけしてたんだ」
そこは、隠さないんだな。
「ちょっと遊びに?」
「うん。ちょっと遊びに」
それは、デートだったと言っているようなものだった。
それもそうか。
そんな長時間出かけていて、そうじゃない用事があるっていう方が無理がある。
きっと、朝食も昼食も夕食も、一緒に食べたんだろうし。
けど、もうそんなことでいちいち傷付いてはいられない。
パスタは、トマトソースをベースに、チーズとバジルを飾りつけた。
パスタを前に、二人で向かい合う。
出来るだけ、自然に聞こえるように言葉にした。
「まだ夏休みは終わってないしさ、僕とも二人で出かけない?」
それは、喉が痛くなりそうなほど緊張した言葉だった。
正直、必死だった。
少しでも、僕に希望があるなら。
「うん」
その返事に、ドキリとする。
きっといつもの、友達としての返事だろうって、そう思った。
けど。
莉子の顔が赤らむのを見る。
少し、目を逸らされる。
これは……、もしかして、ちょっとは伝わってる?
伝わっていればいい。
僕がデートしたいのは莉子だっていうことが。
この好きな気持ちが。
少しでも、伝わっていればいい。
尚人くん、今回はいつもより頑張れたでしょうか。




