64 夏のお祭りに行こうよ!(2)
目の前で、拓真の漫画をパラパラとめくっている人がいる。
緊張する。緊張するのだ。
もちろんこれはあたしの作品ってわけじゃない。
わけじゃないけど、あたしは今この瞬間、気づいてしまったんだ。
あたし、思ってたより拓真の作品好きだったのかも。
つまらなそうな顔をされると、やっぱりちょっとムッとする。
そんなパラ見でこの漫画の良さがわかるわけ!?
なんて。
「これください」
それでも意外と、拓真の本は売れていた。
「ありがとうございます!」
この調子なら、拓真が18禁なんて描かなくて良くなるんじゃないかな。
そう思った矢先、拓真が口を開いた。
「次の18禁さぁ」
描く気じゃん!?
「このゲームはどうかなって思うんだよね」
「え……」
若干ドン引きしていると、スマホのゲームを見せられる。
そこには、アニメ調の女の子がかわいくポーズしている画面があった。
「……これって、あたしが見てもいいやつ?」
「ん?」
と拓真がなぜかイケメン全開の笑顔を向けてくる。
その笑顔はセクハラでは?
「大丈夫だよ、全年齢のゲームだから」
「そ、なんだ」
おずおずと、画面を見せてもらう。
確かにかわいい、けど。
「……拓真って、そういうのに興味あるんだ……?」
「…………」
視線を感じた。
拓真は、こちらの様子を窺うように、無言であたしのことを見ていた。
目の前を、たくさんの人が通っていく。
たくさんの人の声がする。
挨拶の声、好きなものを語り合う声、事務的なことを伝える声。
汗が滴り落ちる。
あたしはただ、その視線に気づかないフリをするので必死だった。
「そりゃあ?」
拓真の声は、静かだった。
耳にほど近いところで、息が詰まるような、静かな声がした。
「全く何も考えてないなんて、そんなわけ、ないよ」
それはそうだ。
それはそう、なんだけど。
そんな事実を突きつけられると、顔が見られないじゃないか。
「79」
売り上げを数えながら、売り子に勤しむ。
「新刊と、既刊のこれ、ください」
「ありがとうございます!中、見なくて大丈夫ですか?」
「あ、大丈夫ですー」
拓真と顔を見合わせる。
「80」
時間、ギリギリだった。
「もしかして、目標達成!?」
これで、18禁を描かせなくて済む!?
なんて思った時、時間終了の放送が流れた。
「お疲れ様〜」
和やかに終われる、そう思った。
けど。
「あ」
拓真の発した「あ」は、少し不穏な空気をはらんでいた。
「……どうしたの?」
「これ、79部だ」
「え?」
「見本誌で提出したやつ、数えちまってた」
「…………え」
「かんぱーい!」
そこはファミレスだった。
ちょっと高級感のあるファミレス、とはいえ、お馴染みのチェーン店であることに変わりはない。
「本当に描くの〜?」
あたしは、不安そうに、疑わしそうに尋ねる。
「描くよ。じゃないと宣言した意味ないだろ」
「手伝ってなんて言わないでよ!?」
「当たり前だろ、一人で描き切ってみせるよ」
それは、自信ありげな、いい笑顔だった。
そんなわけで夏のお祭りエピソードでした!




