62 もう言っちゃえば?
「うあーーーー!」
「ちょ……っ」
カラオケの曲一覧を眺めていた日向が、苦笑まじりの視線を向ける。
カラオケの一室。時刻は午後7時を過ぎたところだ。
空が暗くなってきて、バスケが解散になったところで、僕は日向を連れてカラオケに勤しんでいるというわけだ。
「……最近、デスボ練習してて」
「なってないなってない」
「だから、練習だって言ってる」
「……俺、もう帰ってい?」
日向はすっかり呆れた声だ。
「ちょっと練習付き合ってよ」
そう言うと、日向はソファの背もたれに寄りかかり、呆れた声で笑う。
「練習って……。莉子のいるとこ帰りたくないだけだろ」
ムッとした顔を日向に向ける。
それは、すっかり図星だった。
兄貴の部屋に入り浸っている莉子のいる場所へ帰りたくなかった。
二人で同じ部屋にいるっていう事実がもうダメだった。
日向が、おもむろにマイクを取る。
流れてきたのは、しっとりとしたラブソングだ。なかなか上手い歌をなかなか本気で歌うものだから腹が立つ。
日向が上目遣いで立ち上がったままの僕を見上げる。
「もう言っちゃえば?」
「何を?」
「告白すればって言ってんの」
「“コクハク”……」
正直、思ってもみないことだった。
告白?
正直、言う気がないのは勇気がないせいばかりとも言えない。
想像がつかないんだ。
莉子が、僕のことを『好きだ』という想像が。
想像してみる。
僕が『好き』だと言うと、莉子は照れた顔でこちらを見上げて、『あたしも……尚のこと、好きなんだぁ……』なんて言うんだろう。
そしたら、僕たちは付き合うことになるんだ。
二人で朝から出掛けたり。二人で部屋でのんびりしてるところで、莉子が薄着で近づいて来たり。二人っきりなら、手を繋いだり、……キスをしたり…………。
ボフッと音が出そうなほど顔が熱くなる。
いや、こんな不毛な妄想はやめよう。
死亡フラグなんていう言葉もあることだし。こんな風に考えるのは逆効果な気がする。
けど、兄貴だったら……。
莉子と朝から出掛けることも、部屋で二人きりでのんびりすることも日常的にすでにやっていることだと気づくと、余計に虚しい気がしてしまう。
「もうちょっと、自信が持ててからにするよ」
ため息をついて、テーブルの上のフライドポテトをつまむ。
「告白して意識してもらうっていう方法もあるみたいだぞ?まあ、そんときゃ最初はフラれるんだろうけど」
莉子にフラれる覚悟、か。
『ごめん、尚。あたし、今までそんな風に見たことなくて』
なんていうのは、ここまでずっと好きでいることがまったく伝わってないってことで落ち込むけれど。でも、これならまだ成功らしい。
『ごめん、あたし実は、拓真のことが……』
なんて言われた日には、確実に立ち直れなくなるやつだ。
「お兄ちゃんに取られるよりよくないか?」
なんて、日向が痛いところを突いてくる。
「告白、ね」
そして結局僕は、ため息をひとつついて、
「考えとくよ」
なんていう返事しか出来ないでいるんだ。
尚人くんが動かないと、なかなか動きそうにない二人ですかだね。ここから頑張って欲しいものですね!




