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僕らは一度も始まらなかったはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。  作者: 大天使ミコエル


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61 暑いんだから泳がなくっちゃ(5)

 あれ……?


 アンナをみんなの元へ連れて行って、すかさず莉子と兄貴のところへ戻るつもりだった。

 けど、売り場へ向かう間も、また戻ってきてからも、二人の姿は見えなかった。


 さーっと、青ざめる。


 二人で……どこ行ったんだよ……。


 もう、疑いようがなかった。

 二人は、二人だけで何処かにいるらしい。




 そのまま、様子をみていたけれど、二人がようやく戻ってきたのは、もうそれから1時間以上が経った後だった。

 どう話していいかもわからなくて、それきり莉子とも兄貴とも、会話らしい会話も出来ないまま、帰宅の時間になった。


 こんな気持ちで乗る電車は、居心地が悪い。


 外は夕焼けだった。

 窓から夕陽が射す。

 揺れるつり革がチラチラと、光を反射して眩しかった。


 意図したわけではないけれど、たまたま僕の隣には莉子が座った。

 反対側には日向がいる。

 莉子の向こうは兄貴だ。


 莉子と兄貴が隣同士で座っているだけで、苦しい気持ちが頭をもたげる。

 肩が触れたり、手が触れたり、してるんじゃないかと思うと、僕はもうそっちを見ることが出来なかった。


 莉子の存在を感じる。

 莉子の存在を感じるのに。


 近くにいるはずなのに。

 僕にはどうにもできないくらい、遠くて。遠くて。


 ただ、日向とつまらない話をしながら、ガタンゴトンという電車らしい音に耳をすませるしか、出来ない。




「莉子?」

 ふいに、兄貴の小さな声が聞こえた。

 そちらを見ると、莉子は兄貴に寄りかかり、小さな寝息を立てていた。


 後半はほとんど橘と吉岡の三人で、はしゃぎながら海に浸かっていたようだから、疲れてしまったんだろう。


 ドキリとする。

 その寄りかかり先が、兄貴だということに。


 なんで、こういう時に支えられるのが僕じゃないのかと、そんなことを考える。


 いつだって、こんな時間に隣にいるのは僕だった。

 お互いに頭を寄せて眠ってしまったことも一度や二度じゃない。


 けど今日は、僕じゃない。


 見たくはなかった。

 兄貴がどんな顔をしてるのかなんて。


 息が、詰まる。


 僕の手の届かないところで、緩やかな空気が流れる。




 駅を出ると、もう真っ暗だった。

 場所が場所なら星の一つでも見える時間だろう。こんな都会では星を見ることは叶わないけれど。


 まだ少し眠気でトロトロしている莉子と、莉子の荷物まで持っている兄貴の後ろをついて歩いた。

 二人きりにさせるのは、やっぱり癪だった。


「ほら、莉子。もうすぐ家だからちゃんと歩け〜」

 ふらふらしている莉子の背中を押してやる。


「んなぁ〜」


 莉子が、誰かを呼んだ気がした。

 けど、もし兄貴の名前だったらなんて思ってしまって、聞き返すのは止めておいた。

そんなこんなな海でした〜!

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