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Lv9・狼男の片思い

拝啓 母上様と父上様

お久しぶりです、日向朱莉です。お元気でしょうか?

私は元気です。ちょっぴり悲しい夢を見たけれど、元気です。


今日は佐々木君とアリスちゃんとエミリオ君と遊びました。

トランプです。大富豪です。私大金持ちですっ!

大貧民は佐々木君でした。……ぷぷぷ、私は愉快でたまりませんでした。

じつは、このゲームは罰ゲームつきでした!勝った人(つまり私)が最下位(つまり佐々木君)に1つ命令するのです!

私は佐々木君に女装するよう命じました!

佐々木君には日ごろからの恨みがたっぷり溜まっていたので、ここらで鬱憤を晴らしておきたかったのです!

ぷぷぷっ!たいそう間抜けな姿になるんでしょうなぁ……ぷぷぷぷぷっ!!


……ところがです、聞いてください母上様、父上様。


「まぁっ!ササキ、とても美人ですわ!!」

「ササキお兄ちゃん、すっごい美人だよ」


……ええ、ええ!ええ!よおく考えたらわかることでしたよ!

佐々木君は平凡な名字に似合わずイケメンだと言うことをねっ!!

もう、びっくり!女の私よりも美人っ!ビューティ!お姉さまって呼びたいっ!!

しかも佐々木君、嫌がるどころか……


「まあ、俺は何でも似合うからなっ!」


と、調子に乗る始末……む、無念。

その上、佐々木君に対する嫌がらせという名の街へのお散歩が、逆に私の女としてのプライドが傷つくはめになるという悲しい結果となってしまいました。

……とほほ。


ところで、母上様、父上様。



「君の隣にいた美人さん、なんていう名前なんだいっ?!」



……こちらの狼男さん、どうすればよろしいのでしょうか?





 ◇ ◇ ◇





彼の名前は、ジャック。街で見かけた佐々木君の女装姿に惚れてしまったようでした。

彼はクラウスさんの知り合いで、あの時たまたまクラウスさんと一緒にいたそうで。

運が良いのか悪いのか、クラウスさんは佐々木君が女装してることに気づかず、私に聞けばいいのでは?とここに行くよう勧めたと言う。


「あの人を見た瞬間、電撃が走ったような気がしたんだ。彼女だ!って。

……実は俺、つい数日前に結婚を考えていた彼女に振られてさぁ、もう誰も愛せないっ!て思ってたのに、これは運命だって思ったんだ。

神秘的な黒髪に、同じ色の強い意志を持った瞳っ!……女性にしては身長が高かったけれど、守ってあげたいと思わせる儚さを彼女は持っていたなぁ……」


うっとりとした目でそういうジャックさんに、私は横目で佐々木君を見た。

佐々木君は深い(もしくは不快)溜息をついていた。

……ていうか、そもそもっ!

本人がいるのに気付かないってどうなのっ?!それは本当に愛なのかっ?!

そりゃあ、鬘をつけたり、化粧したり、可愛らしい服着せたりしたけどさぁ……気づけよ。貴方の愛しの美人さんそこにいるよ。

ちらちらと佐々木君に視線を送る。……彼の目は「お前が蒔いた種だ、お前がどうにかしろ」と言っている。

どうしよう、言ったほうがいいのかなぁ……?でも、運命の女性が男だったなんて知ったらトラウマになるのでは……?

いや、でも!誤魔化した所で傷つくのは彼であることには変わりないではないか!


「……ジャックさん、よぉく聞いてください」


覚悟を決めて、私はジャックさんに本当のことを話すことにした。




 


 ◇ ◇ ◇





結果……ジャックさんは爆笑。


「なにを馬鹿なことを言ってるんだい。あんな美人が男なわけないだろう?」


そのうえ、面白いことを言うね、と私の頭をぽんぽんと叩く。

佐々木君が頭を抱えている。……ど、どんまい、佐々木君。

どうしよう……と考えていると、ジャックさんは私の手を取り、うるうるとした瞳で私に言う。


「一度!一度でいいんだ!彼女とデートできるように協力してくれないだろうかっ?!」


……痛い、無茶苦茶痛い。この人、私がわかったと言わなければ、私の手をぐちゃぐちゃにするつもりなのだろう。

気づけば、私は涙目になりながら、わかりましたと頷いていました。

そして、その言葉を言った瞬間、佐々木君の方から殺気を感じました。

……もう、最悪です。まるで私が罰ゲームを受けている気分でした。

ジャックさんが「それじゃあ頼むよ。明日だからね」と満足げに帰った後、必死で私を佐々木君を説得しました。

土下座もしましたし、晩御飯の海老フライをあげてご機嫌を取ろうとしました。

……けれど、駄目だったのです。ノリノリだったくせに、もう二度と着るか!と言って聞きません。


結局、説得は上手くいきませんでした、まる。





 ◇ ◇ ◇






……ええ、ええ。わかっていました。わかっていましたとも!上手くいきませんでした、なんて言って終わりなんて思っていませんでしたよっ!!

私は泣きそうになりがらも、目の前の私よりも泣きそうなジャックさんを慰めます。

ええ、ええ!わかっていますよ!「貴方はタイプじゃないらしいです」なんて言い訳、言ったらいけないことぐらいわかってましたよ!

でも、言っちゃったものはしょうがないじゃないですか……はぁ。

だいたい!佐々木君が女装して、「好きな人がいるので、ごめんなさい」って言えば丸くおさまったのにっ!

佐々木めっ!イケメンのくせに、生意気なっ!!!


「……はは、そうだよな。

あんな美人さんが、俺なんかに興味持つわけないよな……前の彼女にも、"貴方よりも素敵な人を見つけたの!"って振られたし。

……俺って、何の魅力もないんだろうな……ははは」


暗い表情をするジャックさん。……ああ、どうしよう。私はおろおろとしながら、慰めます。


「そんなことないですよ!た、たまたまですって。

……そ、それに!そんな振られ方をして相手の女性を恨まないのって、すごいと思います!

優しいんですね!ジャックさん。それに、とっても一途な方だと思います!

ジャックさんのそんな一途なところが好きっていう女性がきっと現れますよ!」


女装した男を男と気づかないにぶちんではあったけれど。

……と、心の中で思いながら、適当に並べた言葉でジャックさんを慰めました。

すると、なんてことでしょう!暗い表情をしていた、ジャックさんの表情が明るくなってきました!

おお!さっすが、私!慰めることに成功した様子!

ジャックさんは、ほんのりと頬を染めて私の手をそっと握りました。


「……君の名前、聞いても良いかな?」


……あれ?





 ◇ ◇ ◇





後日、ジャックさんが惚れっぽい性格だと言うことをクラウスさんから聞きました。

……慰めて損した。


「アカリちゃん!今日こそはデートしてくれるかな?」

「……ジャック、アカリさんは俺と将来結婚する約束をしているのです。変なことは言わないでください」

「何言ってるんだい、クラウス。約束は破るためにあるんだろう?」


……わーい、私もてもてー……はぁ。

溜息を吐く私に、魔王様は言った。


「魔性の女、だな。アカリ。……どこにそんな魅力があるのか、俺にはよくわからないが」


……魔王様のばーかっ!!



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