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春祝い1

 大地は春を迎えた。厳しかった冬も過ぎ去り、私の心を波立たせた者は既に牢に入り罰を受けている。

 晴れやかな気持ちにはなるが、私の心が舞いあがることはなかった。


「春祝いの宴を開く?」

「そうだ。この地の王となったのだから、この地に訪れる季節は祝うべきだろう?」


 ブローラの言葉が原因だった。


「春は春祝い、夏は騎士の祭り、秋は収穫祝い、冬は新年の集い。各季節で行事があるはずだ」

「夏は丘の女神の祭りだよ」

「さあ?ディアナの時代は知らん」


 ブローラは自分で話を振っておいて、どこかそっけない。


「春祝いは城の中から見ていたことはあるけど、実際に何をどうするかなんて知らないよ」


 そういった王族の仕切る行事の存在は知っていても、その場に出たことがないので想像すらつかない。

 自国での春祝いさえ知らないのに、この地の王としてふるまえるわけがない。


「知る者を呼べばいいだろう。お前の国にこういったことに詳しい者はいないのか?」

「いるよ。だけどアイルの人は呼べない」


 きっとオリバーなら、上手く取り仕切ってくれるだろう。だが彼をここに呼ぶわけにはいかない。

 私が地の王となって、ダンやイニア、そしてバビー、クケットはアイルに手出しできない状態となっている。本当なら直接何か言うなり命を下すなりしたいが、そこまであからさまにすると反感も買ってしまう。

 アイルにも干渉して、シラードの一派を解体させ、オリバー達を城に戻した。オリバーがいれば、シラードが何かやらかすこともない。私を追いやったことについて、またアイルの民を危険に晒したことについてはしっかりと灸をすえると言っていた。シラードに聞く耳さえあれば、オリバーがいなくなる前にアイルの王はそれなりになるだろう。

 アイルは危機が去り、ようやく立て直せるようになってきている。そんなアイルから人を抜くわけにはいかない。


「ブローラは何か知らないの?」

「俺か?まあ、多少の知識はある。以前王の宴を手伝ってやったこともあるからな」

「それなら手伝ってくれない?」

「孤独な王の願いなら聞き入れてやってもいい」


 すんなりと受け入れてもらえてほっとする。私とアルケミラだけではどうにもならないことだ。


「他にも地の王としての決まりごとがあれば教えてほしいんだけど」

「決まりごと?そんなものはない。

 王は民から税を集め、好きなようにやればいい。周りは王に従うだけだ。逆らう者がいれば俺に任せればいい」

「そんなことはできないよ。王には務めがあるでしょう?」

「人間の王にはあるのかもしれんが、地の王にはない。お前がそう思うのなら、思うようにやればいい。

 だが王だからと言って民に優しくしてやる必要はない。民はお前の行いで、どのような王だと思うだけだ。

 どうせ破滅の道を行くのなら、わざわざ民に尽くしてやる必要もあるまい?」


 破滅の道。忘れそうになるけれど、私には破滅の運命が刻まれている。エイオスと同じ存在はこの地に破滅をもたらす。

 それも覚悟してブローラの手を取った。四宝を集め、地の王となり絶対的な力を手に入れた。ペルダの仇も取った。

 ここからどうなるかはわからない。


「私に破滅の運命が刻まれていて、勝手にそうなるというなら、自分からその道に進む必要もないでしょう?私は私のやりたいようにやるよ。

 ブローラ、春祝いの準備をして」

「我が王の仰せのままに」





 花の匂いが最も強くなる頃、中央にて春祝いの宴を開いた。住みかとしている神殿の庭先を開放し、そこに会場を設けた。

 招待状は各王国と魔法機関の治める国々の統治者すべてに送った。この地の王として宴を開くのであればどこかを除くわけにはいかない。


「まさかこんなに人が集まるとは思わなかった」


 迎えた当日、ほとんどの客が招待状を持ってやって来た。

 この日のために人も少しずつ雇ってはいたが、それでも門での客の案内が滞っている。


「それはそうだろう。お前に会いたい人間は多かっただろうからな」

「私に?」

「地の王が決まったが、会う場所はない。特にお前はエイオスと同じ存在であるとして追われる身でもあった。そんなやつが王になったとなれば、己の立場をどうにかよくしたい者もいるだろう」

「まあそれはそうだろうね」


 エイオスと同じ存在として私を殺しに来た者は多くいる。ダンやイニアのような王国だけではなく、魔法機関の管理する国も、独自に兵を雇っていた。

 かつては死を望まれるだけだった私が、地の王となってしまった。そうなると対応を変える必要も出てくる。


「どうするつもりだ?」

「どうって?」

「お前を殺そうとしてきた人間どもが、今度はお前の恩恵を願ったとしたら」


 きっと今日はそういう場になる。


「事情によるかな。私の存在がこの地にとって脅威であることは確かだし、私は今死んでもいない。

 この先どうなるかはわからないけど、私だって戦いは望んでいない。平穏を願うのであれば、歓迎したいくらいだよ」

「そうでなければ?」

「そうでなければ……どうだろうね。何を求められるによるかな」


 私も今日何が起きるかはわからない。

 私がエイオスと同じ存在だと知られた時、私は排除すべき危険でしかなかった。それが今地位を得て、どう思われているのか正確にはわからない。

 エイオスと同じく王という存在となって、余計に死を望まれているのか。もはやそれすら望めないほどの恐怖の対象となっているのか。

 限りなく可能性は低いけれど、曲がりなりにも地の王となったのだから、立場に対する敬意くらいは持たれているのか。


「とにかく、会ってみなきゃわからないね」





 庭には百を超える人間が集まっていた。

 宴の進行は妙にやる気のあるブローラに任せたが、客人たちが凍り付いていたのを見て、アルケミラに任せればよかったと思った。

 だがアルケミラには私の側近として傍に控えてもらう必要があった。


「エリン、来た順に通すね」


 宴の宣言も終わり、客人が恐る恐る飲み食いを始めたところで、私への挨拶も始まったようだった。

 神殿側に設営した私の待機場所に次々と人が集まってくる。

 ある程度訪問する順は決まっているだろうから、アルケミラには肯定の頷きを返す。


「エリン・アイル陛下にご挨拶申し上げます。エオルのフェルティ―・エオルでございます」


 一番最初に挨拶に来たのは南に位置する王国、エオルの王だった。


「招待を受けてくれありがとうございます」

「地の王からの招待となれば受けないわけにも参りません。陛下はエオルにも足を運んでくださっていたようですが、その折は歓迎もできず申し訳ございませんでした」


 エオルの王は態度こそ礼儀正しく顔も柔和だったが、言葉の節々に私への不満が漏れている。


「その時はまだ、地の王ではありませんでしたから。ああ、何の通告もなく貴国へお邪魔してしまったのは申し訳なかった。先を急いでおりましたので。入れぬようであれば正式な手順でと思いましたが、転移魔法が使えたので許可していただいたのかと」


 普通、国にはある程度の魔法を防ぐための結界があるが、ブローラの魔法を弾くことなどできないだろう。


「それに、歓迎なら受けましたよ。貴国にお邪魔する前から、エオルの紋の入った兵士に熱心に後を追われたものです」


 そう言うとエオルの王はさっと顔を青くし、ぎりりと歯を食いしばった。


「冗談です。あの時の事情はわかっています。ですからどうか、私の事情についても理解していただけると助かります」

「……何か罰を与えるのではないのですか?」

「いいえ?私はただ春祝いの宴にお招きしただけです。事情については理解していると申し上げました。

 他になければどうぞ広場で食事を楽しまれてください」


 エオルの王はいぶかしげに私を見て、一度躊躇ってからまた口を開く。


「陛下はバビーやクケットの方々と婚約されるのですか?」

「何の話です?」

「いえ、アイルの姫君はバビーかクケットに嫁入りすると聞いておりましたので」


 何か探るような聞き方で、私への嫌味ではないようだ。


「それは昔の話でしょう。私はもはやアイルの姫ではありません」

「そうですか。それならば失礼にはあたらないでしょう。

 我が国には陛下と同じ年頃の王子もおります。もし気が向けばまたエオルを訪ねてください」


 言うだけ言ってエオルの王は下がった。

 エオルは私に良い印象は抱いていないようだったが、社交辞令とはいえエオルへの誘いを口にしたのであれば、今後すぐに敵対するようなことはないのだろう。王子達とは会うつもりもないけど。

 アルケミラは何か言いたげにしていたが、順番を待つ客は大勢いる。この場での役目を果たすため、次の客を呼びに向かった。

続きます。

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