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処罰

 王の石が私を王と宣言して、状況は一変した。

 私を追ってきていた者はいなくなり、あのディルフとワーシアでさえ、私を王と認めた。

 元々は人間の間の決まりごとだ。それがいつ決められたものであっても、たとえ王族であっても、古い決まりを覆すことはできない。

 そして何より、ブローラがいる。フォムルの中でも強い彼がいる限り、約束ごとを破ってまで私に手を出そうと思う者はいないようだった。

 また、四宝が集まったからなのか、中央の丘に突如として神殿が出現した。迷宮のように入り組んだ構造ではないそれは、美しい建造物だった。

 そしてブローラはその神殿を王の城とすると言った。もちろん反発はあったが、彼は意にも介さなかった。


「丘の女神がなんだ?関係ないだろう、この地の王なのだから」


 中央の土地を治める者はいない。既存の国を侵略したわけでもないのだから、問題はないはずだと言っていた。

 私自身はどこでもよかった。アイルには戻る気になれないから、むしろ都合が良かった。


「さて、王様?まずは何をする?」


 ブローラは私が力を手に入れても傍に残った。

 四宝を集めてこの地の王となる。私がブローラに望んだ願いはかなったというのに。飽きるまでは暇つぶしのつもりなのだろうか。彼がいる限り、変な気を起こす人間はいないだろうから、それはそれでありがたいけど。


「まずは、罪を償わせる」


 真っ赤に染まった視界を、私はまだ覚えている。


「ブローラ、ペルダを殺した男を連れてきて。それから彼の両親も」

「ああ、もちろんだ」





 私がこの地の王となって一月ほど過ぎた時、ブローラが望んだ人間を連れて戻ってきた。


「エリン、この男で間違いないだろう?」


 神殿に設けた玉座の前に、一人の男が投げだされる。

 そうだ、この男だ。内から湧き上がる衝動を抑えて、高い椅子の上から男を見下ろす。

 男は憔悴しきった顔には似合わない上等な服を纏っていた。


「何をそんなに震えているの?あなたには立派な衣があるのに。

 それはどうやって手に入れた?あの子を殺して得た金で?それとも私の情報を売った金で?」


 男は口を開かない。ただじっと私だけを見つめて、何の戒めもない体を縮こまらせている。


「自覚はあるみたいね。

 ブローラ、牢に入れて」

「わかった、我が王」

「ま、待ってくれ!」


 ブローラが男の腕をつかみ引き上げようとしたところで、男はようやく声を出す。


「お、俺は、ああ、確かに悪かった!王様の大事な子どもだとは知らなかったんだ!

 それに、俺は頼まれただけで!俺は――」

「その口を閉じなさい」


 見当違いなことを訴える男に、抑えようとしている怒りが暴れ回る。


「あなたは私の大事な子を手に掛けた。

 だけど、あなたが牢に入れられるのはそれが理由じゃない。

 子どもを殺した。だから罰を受けるの。誰に頼まれたかも関係ない。あなたが犯した罪に対しての罰だ」


 男は困惑したように私を見上げる。それにさえ苛立って、喉の奥から潰れた息が出る。


「私の大事な子を殺した。それに対しての罰を望むのなら、今ここで死んで」


 本当なら目に入れたくもない。姿を見た瞬間に上等な衣を引き裂いて、その下の臓器を貫いてやりたい気にもなった。

 だけどそれはできない。してはならない。だからこうやって、規定の範囲で罰を与えているというのに。


「ひっ!牢に!牢に入ります!」


 男はブローラへの恐れも忘れ、彼に早く連れて行ってほしいと懇願の視線を送る。


「エリン、いいのか?」

「早くして。銀の剣を召喚する前に」

「はは、仰せのままに」


 ブローラは雑に男を引っ立てると、そのまま部屋を出て行った。

 それと入れ替わるように、アルケミラが入室してくる。


「エリン、顔色が悪いよ」


 アルケミラは私の傍まで来ると、労わるように頬を撫でた。


「大丈夫。ここに住んでから、休息も取った。体は元気だよ」

「体は元気でも……」


 アルケミラの言葉は続かなかった。


「ペルダの……父親を牢に入れたよ」


 ペルダを殺した男はブローラに、ペルダの両親はアルケミラに捜索を任せていた。


「母親の方は?」

「彼女は関与していなかった」


 確かに、あの男はペルダの親に頼まれた、と言っていたけど、そのどちらか、あるいは両方だとは言わなかった。父親の知り合いだと言っていたことを考えても、父親だけが関わっていることはおかしくはない。


「彼女は、ペルダの実の母じゃない。義理の息子と上手くいかなくて、彼を避けていたけど、死を望んではいなかった。

 ペルダが妹を抱き上げようとしてたけど、妹を落としてしまいそうだったから、叱った。だけどペルダが妹に、彼女の子に寄り添おうとしているのはわかった。だからペルダに対してきつく叱りすぎたと思って、彼を海に連れて行った。ペルダに向き合おうと、妹は彼女の両親に預けて。

 そこでペルダが迷子になって、海に連れて行った自分のせいだと責めてたみたい。彼女の夫は……ペルダの父親は彼女のせいじゃないと慰めて、時間も経ってようやく気を持ち直したようだったけど……」


 アルケミラはちらりと一度部屋の入り口を振り返った。


「ペルダが海で迷子になったのも、その父親が仕組んだことで、更には人を雇って殺させたという事実を知って取り乱していたよ」


 それはそうだろう。ようやく歩み寄れそうだった子どもの、実の父親がその子を殺せと頼んでいたんだから。少しだけペルダの母親が憐れになった。


「義理の親はペルダを受け入れる準備をしていたのに、実の親に死を願われたなんて……」


 だが母親以上に、やはりペルダがかわいそうだった。

 両親二人での企てなら、まだわからなくもなかった。父親が母親に傾倒しているなら、実の息子を亡き者にすることも厭わなかったのかもと思った。だって、私の父は弟のために命を捨てられたし、私の母は夫を失うことに耐えられずに自ら命を絶った。誰か大事に思う人のためなら、自分の子どもなんて気にしないのだと、むしろ邪魔ならば他国に売ってしまおうと思うくらい普通なのだと思っていたから。

 でもそうじゃないなら、ペルダの母親がそう望んだわけでもないのなら、父親が自分でそう考えたのだとしたら――言葉も見つからない。


「ペルダの母親は、子どもを連れて実家に帰ったそうだよ。もし叶うのなら、ペルダの墓に行きたいと言ってた。謝りたいって」


 それは叶わない。ペルダの遺体はダギードの住む、この地とディアナの地のはざまへと送った。


「しばらくしたら、ペルダの墓には行けないと伝えて。特別な場所に埋葬してあるからと。

 それから、あなたがペルダと過ごす時間を与えてあげられなくて申し訳ないと」


 もし私がペルダを守れていたら、父親が依頼主だと突き止めて、危険を排除した彼の家に帰してあげられていたら――きっとペルダは母親に温かく迎え入れられただろうに。

 お母さんはあなたを置いて行ったんじゃないんだよ。あなたをきつく叱ったことを気にして、あなたと向き合おうと思って、海に遊びに行っただけなんだよ。お母さんはあなたにいなくなってほしくなんかなかった。あなたを失って、つらい思いをしてる。

 あなたがいい子になんてならなくたって、お母さんはそのままのあなたを理解していた。


「なんで、こんなことに――」


 もうどうにもならないと知っている。失ったものは戻ってこないのだと理解している。

 それでも得られたかもしれないものを追ってしまう。


「男の人なんて、信用ならない」


 私の元を去った師匠、ネロ、私を利用しようとしたディルフ、殺そうとしたワーシア、嘘をついて私たちをおびき寄せたペルダを殺した男、ペルダを殺そうとした実の父。

 わかっている。そんなの偶然だって。ブランやバイスのように助けてくれる人だっている。

 だけどこうも色んなことが起きると、男の人というだけで怪しく思えてしまう。


「エリン、私がいるからね」


 アルケミラが私の頭を抱えるように抱きしめてくれる。柔らかな温もりに、瞼が落ちて、いつの間にか目に溜まっていた涙が流れていった。


「ありがとう、アルケミラ」

「それに、そんなこと言ったらブローラが気にするよ」

「ふふ、ブローラは怪しいでしょ?もちろん、今は信頼しているけど」


 もしかしたら、彼も私を手酷く裏切るのかも知れない。けれどもしそうなってももう驚きも傷つきもしないだろう。

 私にはアルケミラがいる。どこまでもついて来てくれて、私を想ってくれる、唯一の存在だ。


「アルケミラ、ずっと傍にいてね」

「もちろん。私はずっとエリンと一緒だよ。一緒にいたいから、いさせてね」


 ペルダを殺した男が捕まったと聞いてから、胸がざわついて眠る気にもなれなかったというのに、アルケミラの腕の中ではすぐに眠りに落ちてしまった。

続きます。

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