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四宝を探す旅5

 アイルでは光の槍――を召喚するための指輪を手に入れ、残るは王の石のみとなった。


「順調だな」


 ブローラは機嫌が良さそうだった。

 ディアナの四宝は着実に手に入れられているし、何よりも残りの一つがある場所が、彼をよろこばせているようだった。


「王の石が西端にあるとは、これは楽しそうだ」


 最後の王の石は西の端――つまりダンにあった。

 場所はいつものように人のあまりいない森の中ではあったが、ブローラはダンの王族と遭遇するだろうと予想していた。


「銀の剣を取りに行った時、見張られていただろう?あれでわかった。

 それなりに力のある者は、既に四宝がどこにあるかあたりをつけていた。精霊の霧を晴らすほどの力はなかっただろうから正確な場所は特定できていないだろうが、どのあたりにあるかは水晶に映せたのだろう。

 四宝のある国がそのありかを知っているなら、当然見張り用の罠を仕掛けておく」

「だからイニアではすぐにワーシアが来たんだね」

「つまり奴らにはもう、お前が何をしようとしているかはわかってしまったわけだ」


 それなら、ダンではもうディルフが私を待ち構えているかもしれない。ワーシアなら彼に伝えるだろう。


「それなら一度時間を置いた方がいいんじゃない」

「どうした弱気なドラゴン?まさかエリンを思ってとか言うんじゃないだろうな?

 時間を置けば準備されるだけだ」

「それは、そうだけど……」


 アルケミラには今日、取り乱した姿を見せてしまった。

 アイルに行くと決めた時に覚悟はしていたはずなのに、オリバーに会って、アイルの現状を知って、醜態をさらしてしまった。

 ブローラにもアイルの内情を探ってもらっていたが、オリバーの言ったとおりだった。ひと先ずはまだ、アイルが持ちこたえているというのも本当だったから、もうあんな情けない姿をさらすことはしない。


「アルケミラ、これが終わったらちゃんと休むよ。だから明日にでも行こう」

「それがいい」


 ブローラは笑みを引っ込めて同調した。


「四宝さえ手に入れば後はこちらのものだ。急ぐ必要もない。一度体を休めたほうがいい」


 まさかそちらの方への賛同だとは思わず、すぐには言葉を返せない。

 アルケミラも意外だったのか、青い目を見開いてブローラを見ていた。


「お前は興味深い人間だ、エリン。だがお前のその脆さは気がかりだな」


 ブローラはあの場にいなかった。それなのに、金の瞳には今までになかった憐れむような慰めるような優しさが見えた。


「何を呆けている?さあもう休め、明日は最後のお楽しみだからな」


 しかし彼の表情はまた元に戻ってしまった。好戦的な笑みに、先ほどの光景は幻覚だったのだろうかと思った。





 西にあるダンは北のイニアほど寒くはなかった。

 雪もなく視界は良好で、目指すべき森の入り口にダンの兵士がいるのもよく見える。


「待ち伏せされてるね」

「ああ。だが数は集めきれていないようだな。強行突破するぞ。

 ドラゴン、お前も敵の相手をしろ。それくらいならできるだろう?」

「言われなくても」


 今までは四宝を見つけるまで人に遭遇しなかった。いくら占術で場所がわかっているとはいえ、その場所にたどり着くまでは時間がかかる。乾燥して硬い土から四宝を掘り起こすのもすぐにはできないだろう。

 どくどくと心臓が早鐘を打つ。上手くいくのか。そして、今は姿が見えないディルフは来るのだろうか。


「エリン、行くぞ」


 わからないことを心配している暇はない。


「うん、行こう」


 私は森に向かって足を進めた。


 先にブローラが向かって、入り口の見張りを引き付けてくれる。私とアルケミラはその隙に内部に転移魔法で移動し、私が四宝を掘り出すまではアルケミラが周囲を警戒する。

 既にブローラは見張りを一人倒し、注意を引いていた。私はアルケミラと頷きあって、魔法で移動する。

 移動先は占術で見えた場所の近くだ。隠れている場所から見えている中で、一番四宝に近い場所だったが、宝の埋まる場所まではまだ距離がある。周囲の景色を頼りに、宝のある場所へと進む。

 季節外れの花が目に留まったところで足を止める。


「アルケミラ、ここだ」

「今のところ誰もいない。私が周りを見てるから、エリンは四宝を探して」

「わかった」


 思ったよりも早く目的の場所にたどり着けた。

 地面に膝をつけて土を掘る。表層がかりかりと削れるばかりで掘り進めるのが難しいため、魔法で周囲を湿らせる。


(魔法を感知されるかも知れないけど、転移魔法も使ってるから今更だ)


 ブローラが姿を現した時点で連絡されているかもしれない。そうなれば手段を問わず、いかに早く四宝を手に入れられるかが鍵だ。


(早く、早く出てきて!)


 今回は召喚する指輪ではない。石そのものだ。占術では黒く光り輝いていたが、今までと同じであれば光を失いくすんでる。土には普通の石も埋まっていて、いちいちそれが四宝でないかと確認する手間がかかる。

 掘り起こされる石をこれではないと除いている内に、がさりと音がする。


「アルケミラ!」

「エリン、集中してて!」


 バン、と何かが弾かれる音がするけど、そちらを振り向くこともできない。

 一刻でも早く石を見つけたい。縋るように土を掘り進めていくと、ようやく、水晶の中で見た形の石が見えた。

 掘り起こして土の着いたままの石を握り、立ち上がってアルケミラを見ると、ちょうど防御用の魔法が崩れたところだった。


「アルケミラ!」

「やあ、エリン。こんなところで何をしてるのかな?」


 届いた声に心臓が早鐘を打ち、その割に全身の血液がサーっと引いていくのがわかる。


「ディルフ……」


 金の瞳と目が合った。

 懐かしいかつての友が、倒れかけたアルケミラを抱き止めていた。

 アルケミラは外傷こそなさそうだが、魔法の結界を破られた衝撃を受けたようで、ディルフの拘束から逃れるほどの力がないようだった。


「この前はワーシアに何の挨拶もなかったそうじゃないか」

「……アルケミラを放して」

「僕とも話す気がない?」

「話す意味がない」

「僕にはあるよ」


 ディルフは呪文を唱えて、アルケミラの体を魔法の縄で縛った。それはアルケミラの銅や手足を縛るだけでなく、その首にも巻き付いている。ディルフが小さく指を動かすと、アルケミラが苦しそうに呻く。


「君にも僕と話す意味ができたね」


 私自身への殺意や好奇の目は覚悟していた。そういうものなのだと理解していたから。

 それでも彼は今、私ではなくアルケミラを苦しめている。アルケミラを利用して私をこの場に留めた。それが簡単にできてしまうことに、言葉が出ない。


「エリン、君は今何をしようとしているんだ?

 イニアにも行っていたようだし、ディアナの四宝を集めているのは確かだ。だがそれは何のため?

 君がどういう存在かは理解しているんだろう?四宝を手に入れた先の褒美は、君には似合わない」

「……そんなの、一つしかないでしょう」

「おや?意外だね、この地を壊す気かい?」

「もしそうなっても構わない」


 もう二度と、この世界にいいように利用される気も、みすみすと殺される気もない。


「そう、だけど諦めてもらわないとね」


 ディルフはアルケミラの拘束を強くした。


「石を渡すんだ、エリン・アイル。さもなくばどうなるかは、わかっているな?」

「エ、リン、私のことは、いいから」


 アルケミラは苦しそうに顔を歪めながらも、抵抗する。


「僕にできないと思ってる?あの日、君を追い詰めたのは誰だと思ってるんだ?」


 ディルフの言葉に、あの時の光景が蘇る。

 友達だと思っていたのに、殺されたくなければ利用される道を選べと言ってきた。事実、逃げた後で私はワーシアの剣に貫かれた。

 もう二度と、彼を信用するつもりはない。何の取引を持ち掛けられても鵜呑みにする気はない。だけど、逆に彼はアルケミラを殺すだろうとも思う。

 私は石を握っていた手を開いた。


「エリン!……ぐっ!」

「アルケミラ、大人しくしてろ。

 エリン、いい子だ。それをこのままこちらへ」


 ようやくこれで揃ったと思ったのに。もう誰にも邪魔されない力を手に入れられると思ったのに。


(それでも、アルケミラを失うよりはましだ)


 石についていた土を払い、ディルフに渡そうとしたところで石が光り出した。


「なんだ?!」


 石は独りでに宙に浮くと、輝きを増し、


「この地の王、エリン・アイル!」


 遠くまで響くほどの大きさでそう告げた。


「石が、喋った?」

「王を称えよ!王に捧げよ!」


 ディルフも驚いているようで、呆然と石を見上げている。


「ははは、こんなことになるとはな」


 そこへブローラが現れる。


「哀れな人の子よ。エリン・アイルは四宝をすべて手にしたぞ。それだけでこの地の王となれる、それが人間の約束だろう?

 王の石の宣言もあったというのに、お前はまだエリンを支配できると思っているのか?」


 ブローラが指を動かすと、アルケミラを戒めていた縄が解ける。


「一国の王というのなら、約束を違えるな。この地の王となったエリンに従うのだ」


 ディルフは大きく目を見開いたまま私を見た。

 驚愕と恐れと絶望に満ちた顔だった。彼の目には私がどう映ったかはわからない。

 私にも、自分がどんな顔をしていたかはわからなかった。

続きます。

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