召喚魔法1
春、私とアルケミラは魔法学校の二年生になった。
一年生で基本魔法を使えるようになった二年生は特殊な魔法を学んでいく。その一つが召喚魔法だった。
「召喚魔法は二種類あります。
一つは魔法だけでなく私達の生活に深く関わる精霊を呼び出すもの、もう一つは魔物と呼ばれる魔力の高い生物を呼び出すものです。
今回は精霊の召喚を行いますので、四元素について説明します」
実験用の広い教室に集まって、最初に座学を受ける。
「四元素とはこの地を形成する元素です。火、水、土、風があり、これは私達の性質にも関わってきます。
どの四元素と相性が良いかで扱える魔法が変わってくるというわけです」
特に複数の元素との相性を要求される魔法は、扱える者が少ない。アルケミラがまだドラゴンの姿だった時、ネロはアルケミラが割った窓を時間の魔法で直していたが、それがそうだ。
優秀な魔法使い――黒の髪に金の瞳を持つ者は複数の元素と相性が良いと言われている。
「第五元素エーテルについては三年生の範囲ですから詳しくは説明しませんが、特殊なため召喚には向きません」
教師の言葉にディルフは残念そうに肩を落とした。
「魔法学校でもエーテルは特殊扱いか」
「エーテルって何?」
四元素の話は知っているが、エーテルについては聞いたことがなかった。こっそり訊ねると、
「この地を構成する元素ではないけど、この地に存在する特別な元素のことだよ」
ディルフは囁き声で教えてくれた。
「エリンが知らないとは驚いたね」
師匠から教えられていないことだ。もしかしたら今後教えてもらう内容だったのかもしれない。そうだとすると三年生で習うことにも納得がいく。
「自身の四元素との相性を知るためには精霊を召喚するのが一番です。精霊は四元素と深く結びついていますからね。
呼び出せる精霊の種類、そしてその格によって相性とその度合いがわかります。精霊の格は大きさを基準としています。小さな虫程度なら低級、指の長さほどなら中級、手のひらほどなら上級となります。一年生なら低級が召喚できれば十分ですね」
「先生、精霊とはディアナのことでしょうか?」
後ろの方から質問が飛んでくる。
「ええ。最近では精霊についての知識は共有されませんから、知らない人もいるでしょうか。
かつてこの地には精霊――ディアナと呼ばれる存在がいました。人と関わっていた時期もありましたが、この地を巡って争いが起き、人間の勝利によってほとんどのディアナが姿を消しました。遥か西の方へいったと言われています。
しかしこの地にはディアナの思い出もあるからでしょうか、ディアナの一部、小さな欠片はまだこの地に残っていると言われています。また、遥か西からほんの一部をこの地に飛ばしているとも。私達はそれを主に精霊と呼んでいます」
教師の言葉に感心しながら、ディルフが私を見る。
「エリンは知ってた?」
「うん、精霊については知ってる」
「なんだ、そうか」
ディルフは面白くなさそうに呟いた。
彼は知らないが私は精霊術を使うことができる。当然習う際には精霊のことを知る必要がある。
人間が精霊というのはディアナの一部。普段は見えない小さなもの。逆にディアナという時はかつてこの地にいた時のままのディアナのことを言う。
ブランがディアナとのハーフというのは、遥か西に行かずに残ったディアナと人間の子どもという意味だ。ブランは私が精霊術を応用した姿魔法を使っていることに気づいていた。それは私には見えない精霊が見えていたからだ。私には見えなかったその小さなディアナを精霊と呼ぶ。
「さて、説明はここまでです。実際に召喚を行いましょうか」
教壇の周りに集まっていた学生は各々でグループを作り、他のグループとは間隔を空けて教室に広がる。
私はディルフ、ワーシア、アルケミラと一緒だ。
「まずは僕から行こうか」
ディルフは得意げに言う。
魔法の盛んなダン王国の王子で、優秀な魔法使いの象徴とも言える黒い髪に金の瞳を持っている。きっと自信があるのだろう。
「この地を彷徨う精霊よ、呼びかけに応じ給え」
右手を前に出し、手のひらを上に向けて呪文を唱えると、彼の指先から小さな粒の光があふれ出した。それは線のように細く長くなると、手首、肘、肩と、螺旋を描きながら上昇し額に到達する。そこで光の線は消え、変わりに手の平の上に光るもの――精霊が現れた。
「さすがダンの王子だ」
こっそりと様子を伺っていた他のグループの学生のつぶやきが聞こえてきた。
彼の手と同じ大きさの精霊が彼の手の上に四体浮かんでいた。
他の学生は小さな光の粒が手の平に乗っていたり、手の平に二体ほどの小さな精霊がゆったりとくつろいでいたりしたが、ディルフの呼び出した精霊は上級のため手に収まっていなかった。
「すごいね」
「思っていた通りだね。国で色々と魔法を試していたから予想はしてたよ」
「国にいる時は召喚してみなかったの?」
「実際に召喚するには魔法学校――中央が一番なんだ。丘の女神が眠っているからか、精霊が集まりやすい」
私は精霊術を教わっていたけど、精霊を召喚したことはなかった。それは地理的な問題もあったのかもしれない。
「さ、次はワーシア、君の番だ」
「勝手に決めるな」
「なら最後にするか?」
「やらないとは言っていない」
いつも通りのやり取りを挟んで、ワーシアが右手を伸ばす。
「この地を彷徨う精霊よ、呼びかけに応じ給え」
ディルフの時と同じように光が出て、彼の手のひらには二体の指ほどの大きさの精霊が現れた。
一体は水色の髪と青い瞳、もう一体は白い髪と青い瞳をしていた。
「ふうん、水と風か。北の国らしいね」
ディルフにとっては想定内の結果のようだった。
水色の髪――水の精霊の方はワーシアの指より大きいので、風よりは水と相性がいいのだろう。
「じゃあ次はアルケミラ」
ディルフが言って、アルケミラが呪文を唱える。
アルケミラが召喚したのはワーシアと同じくらいの大きさで、水色の髪と赤色の髪、水と火の精霊だった。
「水と、火?」
ディルフは困惑していた。
「あまりない組合せだな」
ワーシアも驚いているが無理もない。
ディルフのように全ての元素と相性が良ければ火と水も揃うが、三つの元素以下の場合、水か火のどちらかが欠けていることが多い。それほど火と水は相性が悪い組合せなのだ。
「私は予想通りだよ」
「本人がそう言うなら、そういうものなんだろうね」
ディルフはいまいち理解できないといった表情でそう言った。
皆は知らないがアルケミラは白い体に青い瞳のドラゴンだ。水や氷に親しみ親しみがあると判断される色合いだ。私もブランもそう思っていたが、アルケミラは火も出せると言っていた。
ドラゴンのことはドラゴン自身がわかっている。アルケミラは自身のことをよくわかっていたということでもある。
「さて、最後はエリンだ」
ディルフに促されるまま、私は呪文を唱える。
「この地を彷徨う精霊よ、呼びかけに応じ給え」
指先から光があふれ出し、私の腕を辿ってくる。そこまでは他の三人と同じだった。
だが、額に到達したあとも光の線は伸び続け、私の体をくるりくるりと取り囲み、ディルフが口を開きかけたところでようやく消えた。
「なんか、長かったね……」
光で少し目がくらんでいたので直ぐには気づかなかった。
「エリン、君は……」
私の差し出した右手の平の上には何も乗っていない。ディルフの時と同じように、その上の空に精霊が浮いていた。それも人の赤ん坊程の大きさの精霊が、四体。
精霊を呼び出したことはなくとも、その四体の精霊には見覚えがある。
「精霊王……」
誰かのつぶやきがやけに大きく聞こえた。
続きます。




