新年会2
新年会当日、アイルは大盛り上がりだった。
外賓を迎える前に行われた国内向けの新年会で、ダン、イニア、ハーモルを新年会に迎えることが発表され、アイルの人々は驚き喜んだ。
新年会に向けて、街に飾りが増えていった。王城に近い街では街ぐるみで装飾が行われ、寒い冬の中、一足早く春が来たようだった。
「やはりアイルは遠いな」
ワーシアの声には疲れが滲んでいたが表情は普段と変わらない。
城の門番から馬を預かった時点で連絡があったので、城前で彼を迎えた。
魔法学校にいる時とは違い正装をしているので、普段よりも大人っぽく見える。護衛二人も武の国らしい装いで威厳がある。
「寒いのに、ありがとう」
「イニアよりは暖かいから、気にするな。アルケミラはどうした?」
「ディルフが入国に手間取ってるって連絡があったから、そっちに迎えに行ってもらったの」
「たしかに入国時に前方が詰まっているようではあったが、手間取ることがあるか?」
ワーシアは不思議そうに首を傾げる。
「乗り物をどう扱うか困ってるみたい。アイルは魔法使いが少ないから」
「ああ、そういうことか」
ワーシアは呆れたように溜息をついた。
ディルフはダンで開発された魔法の乗り物でアイルにやってきたそうだ。馬ならば慣れているが、未知のものを預かるのは難しい。それも大国の王子のものであれば、もしもが起きても困る。
「考えなしだな」
「考えなしで悪かったね!」
丁度、アルケミラに連れられてディルフが到着した。ディルフは二人従者を連れてきていたが一人は護衛のようには見えなかった。
「ディルフ!無事に来られたんだね」
「ああ、アルケミラに感謝しないと。一つくらい壊れたって大丈夫だって言うのに、聞いてくれなくて……アルケミラがエリンの友人だから心配するなって言うまで解放されなかったよ」
「アルケミラ、ありがとう」
「どういたしまして」
こうして四人でいるのに、ここが学校ではなくアイルというのが不思議だった。先にアリウムを迎えた時はまだアイルとしてお客様を迎えている気分だったのに。
「改めて、招待を受けていただきありがとうございます。ぜひアイルの新年会を楽しまれてください」
気を引き締め直して、二人を城内に招き入れる。
大広間には既にアイルの貴族と他国の招待客が集まっていた。二人が最後の招待客だったので、それを確認した侍従が部屋の最奥に座っている王代に耳打ちする。
王代は立ち上がり皆の前に進んだ。
「皆様、お集まりいただきありがとうございます。
アイルが新年を迎えることがでたのも、皆様のお力添えあってのこと。今日は思う存分楽しまれてください」
恒例となっている開始の挨拶が済み、城内に音楽が流れ始めると、客人たちは思い思いに動き出した。
ディルフとワーシアも私に目配せしてから王代の元に挨拶に向かう。
「二人とも大丈夫かな?」
「大国の王子だから、大丈夫だと思うよ」
私とは違って、幼い頃から王族としての経験を積んできているだろうから。
アルケミラの視線の先にはディルフとワーシア、そしてその更に先に王代がいる。
王代――シラードとは帰って来てから一度も言葉を交わしていない。ダンとイニアから王子が、ハーモルから王女が来ることはオリバーを通して伝えているので、そのことをどう思っているかもわからない。
「エリン様、本日はご招待いただきありがとうございます」
「アリウム様」
王代への挨拶が済んだのかアリウムが私のところに来てくれた。アルケミラは嬉しそうに彼女に駆け寄る。
「遠いところからありがとうございます。
大したものではございませんが、お料理も用意しておりますからぜひご賞味ください」
「ありがとうございます、いただきますね」
実りの多いハーモルに比べれば華やかな料理ではないかもしれないが、料理人の腕は確かだ。
「ところで、ダンとイニアの王子はどちらに?」
「ちょうど今、王代への挨拶に向かわれました」
再び王代の方に視線を戻すと、丁度挨拶をしているところだった。ディルフが悪戯っぽい顔をしている。王代は困惑しているもののどこかほっとしているようにも見える。近くにバビーとクケットからの招待客がいるから、王代が困らされているところを助けてくれたのかもしれない。
「お二人は、エリン様のことをとても大切に想っているのですね」
「そう、でしょうか」
魔法学校では一緒にいることが多い。仲が良い方だとは思う。けれど、それはあの学校で同学年の王族だからということもある。こうして遥々アイルに来てくれているのだから、良くしてもらっているとは思うが自分でそうだと言い切る自信はなかった。
「この時期は新年会で王族は忙しいです。私のように跡継ぎではない者は自国の新年会のみ気にしていればよいですが、お二方は次期王と見なされています。自国でのお立場はもちろんのこと、他国からの招待もたくさん受けています。その中で、アイル王国の新年会に参加されているのですから、エリン様のことを大切に想われていると思いますよ」
アリウムに言われて、二人が今ここにいることの意味を理解する。普段から落ち着いて感情を見せないワーシアの声に疲れが滲んでいたのも、アイルとの距離が遠いからだけじゃない。
「そうですね、はい、とても良くしていただいています」
「何の話をされているんです?」
挨拶を終えて二人が戻ってきた。
「ディルフ様、ワーシア様、ごきげんよう」
「これはこれは、アリウム様。アイルでお会いできるとは」
「アリウム様、お久しぶりでございます」
ディルフとワーシアがアリウムに挨拶をする。
学校で一緒にいるところを見たことはないが、交流があるのだろう、顔見知りの挨拶だった。
「お話し中のところ失礼いたします」
三人が揃うのを待っていたのか、オリバーが私たちの前に現れた。
「ディルフ殿下、ワーシア殿下、アリウム殿下。お初にお目にかかります。オリバー・カンリアンと申します」
「祖父の代からアイルの相談役を務めており、今も王代と私を支えてくれています」
私も共に並んでオリバーを紹介する。
できればブランやバイスも紹介したかったけど、バイスは警備の任を与えられて、ブランは人前に出るのは好きではないとのことだった。
三人は驚いたようにオリバーと私を見て、納得したようなほっとしたような顔になった。
国外で聞くアイルの噂は酷いものもある。私を支えてくれる人物がいるとその目で見て安心してくれているようだった。
「場が盛り上がる前にご挨拶させていただきたかったのです。歓談中に失礼いたしました。どうぞアイルを楽しまれてください」
そう言ってオリバーは下がった。
「それなら私もエリン様に紹介させていただきたいのだが……」
ディルフがちらりと自身の背後にいる従者に目を向けた。
続きます。




