魔法学校入学
花々が美しく咲き誇る春、私は中央の魔法学校に入学した。
中央はどこの国にも属さず、魔法機関が管理を行っている。そのため、国際組織などは中央に集まっている。魔法学校もそのうちの一つだ。
いろんな国の人達が集まっているが、十四で入学し、十八を迎えて卒業する人が多いので、ほとんどが同年代だった。だが、稀に成人済みの学生もいる。魔法学校に年齢の上限はないからだ。
入学式が終わり、寮への案内を待つ今の時間、たいていは同じ年齢で固まっているが、私の周りにアルケミラ以外の人はいなかった。
「アイルの姫だって」
「師匠を投獄したんだとか」
「次期王になれなかったから両親を殺したんだろう」
誰が発しているかもわからない噂話だけが耳に入る。
「エリン……」
「大丈夫だよ。時期が悪かったよね」
昔は土地を巡った争いなんかもあったらしいけど、今は平和だ。そんな時代に王国で騒動があれば、噂も広まりやすいだろう。ロッドミン夫人の進言通り入学まで時間を空けてもよかったけど、ネロもいなくなった今、何もしないまま彼を待つことはできなかった。むしろこういった目に晒されていた方が、ネロのことを考えなくて済むかもしれない。
「新入生、男女に別れて、着いてきて」
先導の上級生が現れて、噂話は消えていったが、ちらりちらりと投げかけられる視線に落ち着かなかった。
「女子寮はここ。三階が一年生と二年生、二階が三年生、一階が四年生のフロアになってる。階の行き来は問題ないけど、男子寮へ入ることも女子寮に男子を入れることもできないからね。
部屋分けはもう済んでるから、入学の案内にあった部屋に入って」
寮はいたって普通の建物だった。中央に入り口があり、その奥に上階へとつながる階段が見える。
一年生は入学式の緊張で疲れていたのか、大人しく部屋へと進んでいく。
「ねえ、私達一緒の部屋だね」
「これからもよろしくね」
先に知り合って部屋を教え合った子や、ドアの前でルームメイトと挨拶している子も多い中、私は一番奥の部屋にアルケミラと向かう。話しかけてくる子はいないし、部屋に着いた時、全員がもう自身の部屋へと入っていた。
「先生は四人部屋って言ってたけど……余ったのかな」
アルケミラが首を傾げる。
「どうだろうね」
アイルの王族だからなのか、ブランが長生きの力でどうにかしてくれたのかはわからない。
それを喜んでいるのか悲しんでいるのかもわからないまま、私は部屋に入った。
部屋の中も二人部屋に整えられており、物の間隔が広い。ベッドと机が二つずつある。
「エリン、どっちがいい?」
「私はどっちでも大丈夫だよ」
「なら、私が窓側使うね」
アルケミラがベッドに飛び込んだ。
「じゃあ私はこっち側だね」
荷物を置いて、机の上を見ると、手紙が置かれていた。私の机とアルケミラの机に一通ずつある。
中を開くと、招待状のようだった。
「アルケミラ、これ見てみて」
アルケミラの机から手紙を取って、寝転んでいるアルケミラの近くに腰かける。
「これは何?」
「明日の予定が書いてあるんだけど、招待状みたいになってる」
春祝いの茶会へのご招待、と書かれており、その下に私とアルケミラの名前、そして知らない人の名前が二つ書かれていた。
「ディルフ、ワーシア。エリンは知ってる人?」
「わからない。聞いたことがあるような気はするけど……」
私はネロに会うまで、城外の人とほとんど関わっていない。
「支給されたローブを纏って、朝の九時に学内の庭園に集合」
「庭園ってどこにあるの?」
「探してみようか、案内図をもらってたから持ってくるよ」
鞄の中から配布資料を取り出してアルケミラのところに戻る。アルケミラは起き上がって私の隣に腰かける。
「広いね」
「うん、そうだね。でも学校の範囲はこの辺りまでかな。中央は魔法学校の学習活動が認められてるから、広めに書いてあるのかも。ホウキを使うとなると学校の敷地だけじゃ狭いだろうしね」
「ホウキかぁ。うっかり翼が出ちゃいそう」
「気をつけてね」
アルケミラがドラゴンであることは学校側も把握しているけど、学生への周知はしないとなったとブランから聞いている。
「うん、気をつける。エリンと一緒にいたいから」
アルケミラは甘えるように私の肩に頭を預ける。
「私もアルケミラと一緒にいたい。ついてきてくれてありがとう」
「エリンが嬉しいなら私も嬉しい」
アルケミラは青い瞳を細めた。
「さて、庭園の場所を確認しようか。あと、明日の予定も見直しておかないと」
アルケミラはじっと、私を見つめる。
「何か変なこと言った?」
「ううん、何でもない」
どこか寂しそうで懐かしそうな顔に、ふと、ネロの顔が蘇る。
そういえば、依頼を一緒にやるときは、こんな風にネロと確認をしていた。ぐっと、胸の奥が痛む。
考えないようにしないといけないのに、私は結局、ネロの夢を見てしまった。
*
翌朝、酷い目ざめにうんざりしながら、アルケミラと一緒に準備をして庭園に向かう。
既に学生が何人かいて、先生たちに促されるまま空いているベンチに座っている。
「おはようございます、エリンさん、アルケミラさん。あなた達はあちらで座って待っていてください」
「おはようございます。わかりました」
私達は人があまりいないエリアに案内された。学校ではある程度他の学生と距離を取らされるのかと思っていたが、どうやらそうではないようだった。
迷っている学生も全員集まると、ベンチに座れず立っている者も増えていた。そんな中、ようやく私のベンチにも学生が来た。
「これはこれは。アイルのお姫様じゃないですか」
黒い髪に金の瞳の少年が声をかけてきた。整った顔立ちだが、優し気に見える。落ち着いた雰囲気でも気軽い雰囲気でもない。全然似ていないのに、その色合いはいなくなった人達を思い出してしまいそうになる。
「おはようございます。エリン・アイルです。お名前を伺っても?」
気を取り直して挨拶すると、少年は目を大きく開いて瞬きをする。
「今、僕の名前を聞いたのかな?」
「はい、そうですけど……」
「そうか。……まあ、東の国ならしょうがないか。
はじめまして、ダン王国の第一王子、ディルフ・ダンです」
「ダン王国……」
ダン王国。魔法が盛んな西方の中で、特に優秀な魔法使いを輩出する国だ。
「失礼いたしました、殿下」
「おや、やめてくれないか。ここは魔法学校。身分なんて関係ないよ。
君も王族なのだから、気軽にディルフと呼んでくれ、エリン。隣に座っても?」
「はい」
ディルフは私の隣に腰かける。反対側に座っていたアルケミラが、警戒するように私の腕を掴む。
「そちらの――お嬢さんは?」
「彼女はアルケミラです」
アルケミラはドラゴンで、今は雌雄が確定していないけど、女の子として入学している。アルケミラを彼女と呼ぶのには慣れない。
「ああ、そういえばそんな名前が招待状にあったな。よろしく、アルケミラ」
「よろしく、お願いします」
アルケミラは私から離れないままそう言った。
「もう一人は、ワーシア、イニアの王子だね」
「イニア王国の?」
「君はお姫様の割に、他の王国の事情に疎いんだね」
「すみません」
「いや、いい。僕だって東の国の話はあまり聞かないからね。
ま、王族がいるなら固めた方がやりやすいってことで、この組み合わせになったんだろう」
「そうであれば、学校側は随分と見当違いだな」
硬い声が私とディルフの会話に入ってきた。いつの間にか、私達の前に学生が立っていた。
銀の髪に赤い瞳。鋭い眼光は、ディルフとは違い怖い印象を与える。
「ああ、君の意見には賛成かな」
それまで優し気だったディルフの声に棘が出てくる。二人は知り合いで、それも仲が良くないのだろうか。私は今からのお茶会が急に不安になってきた。
お時間空きまして申し訳ございません。
続きます。




