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気まずいお茶会

 全員が揃ったところで、授業が開始となった。各々が案内された席に着く。

 先生の説明によると、今日のお茶会は一年生同士の交流を目的としたものらしい。同じ席に着く者と話し合い、一度自由に席を移動して、再度元の席に戻り感想を出し合うという流れだ。


「それで?あの魔法なんてどうでもいいってイニアの王子が、何でここにいるのかな?」


 私は今すぐにでも席を移動したいけど、席替えの時間まではまだまだある。アルケミラは目を輝かせながら茶菓子を頬ばっているけれど、私は目の前に置かれたカップにちびちびと口をつけるか、紅茶の水面を見つめていることしかできない。


「ダンは礼儀知らずと聞いていたが、本当にそうだとは思わなかった。そのことを知れただけでも魔法学校に来た意味があるというものだ」

「ああ、イニアは他国との関りが薄いから、そういう感想になるのも当然かもね」


 ダン王国とイニア王国の関係がよくないとは聞いたことがある。

 ダンは西の国、イニアは北の国。一つ王国を挟んではいるものの遠くはない場所にある。両国の相性の悪さはダンが魔法、イニアが武力をそれぞれ誇る国であることが大きいと言われている。魔法と武力は大きな力で、どちらかに偏った国は、もう一方を軽視する傾向があると師匠が言っていた。


「おや、せっかくのお茶会ですのに、二人で話が盛り上がるのは悲しいですね」


 私の後ろから声がした。各テーブルを見回っている先生が、私達のところにも来たのだ。


「エリンさん、どうです?あなたからもお話ししてみては」


 落ち着いた雰囲気の女性の先生は、誰の立場も――恐らく噂が飛び交っているであろう私についても気にせず、学生と教師の関係を保っているように見えた。好奇も恐怖も嫌悪もない声色は新鮮で、緊張していた私の心を解きほぐしてくれた。


「何を、話せばいいのか、わからなくて……」

「そうですね。お話が苦手な人もいます。同じ席になったのですから、助けてあげてはいかがですか」


 先生はディルフとワーシアを見てそう言うと、また別のテーブルへと移動していった。


「あー、悪かったよ、エリン」

「エリン・アイル……アイル王国の姫か。アイルについては最近よく話を聞くが、実のところアイルはどうなっているんだ?」


 ワーシアは何の感情もない顔でそう言った。

 ディルフは信じられないとでもいうようにワーシアを見て、アルケミラは手に持っていた茶菓子を思わず握り潰してワーシアを睨みつけた。


「何かまずいことを言ったか?」

「どうやらお話が苦手なのは堅物王子も同じみたいだな。どの国にも事情はある。良い噂なら止めはしないが、今のアイルの噂の真偽を当事者に訊ねるなんて配慮が足りない」

「それは、悪かった」


 ワーシアは私の顔を見てから謝罪した。


(そんなに酷い顔してたかな……)


「いや、いいです。私はそれ以外に話せることもないだろうし」

「エリン……」

「大丈夫だよ、アルケミラ。その内に公式の発表があるから、その内容を先に伝えるだけ。変な噂を気にされるよりはいいでしょ?」

「そうじゃなくて、私はエリンが……ううん。エリンが、いいならいいよ」


 何も気にすることなんてないはずだ。全ては終わったことなのだから。だから大丈夫。


「アイルの前王は、弟の息子を王代として宣言していました」

「待て、君は既に戴冠しているのか?」

「いいえ、その時点では国民へのお披露目もまだでした」


 質問をしてきたディルフはそのまま言葉を失ってしまった。

 王代は王の代わり。父の代わりとして叔父を、父の即位後に任命するなら何の問題もないが、次の王の代であるその息子を、次の王と見なされる私が戴冠する前に指名するのは、順序が違う。たとえある程度の話がまとまっていたとしても、公に出したりはしない。


「前王は私を隣国のバビーかクケットに嫁に出すつもりでしたから」

「いくらそう決まっていたとはいえ、お披露目くらいはするはずだろう……」

「さあ、父が何を考えていたのか、私にはわかりません」


 道具として見られていた。そうだと思うけれど、そのことを理解したくはない。


「城仕えの魔法使い――私の魔法の師匠は、前王に自分を王代とするように迫りました」

「それは、急な話だな。何故だ?」

「それも、わかりません。私を他国に渡さないように地位と権利を得たかったと言っていましたが……」

「それなら、なぜ君はその師匠を投獄したんだ?」


 ようやく、ディルフが会話に復帰した。だが顔色は悪い。私の話す内容は、彼にとって受け入れ難いものなのかもしれない。


「私は、何もわからなかったのです。

 師匠が王代となったと同時に、父と母が亡くなったと聞かされました。王代となっていた従兄も地位を失ったと。その事実を受け入れられないまま、師匠が私を閉じ込めると言ったのです。それで、逃げました」


 王族として恥ずべきことだと今でも思う。それでも、だからこそ私はネロたちと出会えた。


「父も母も、そして叔父も事故、あるいは自死を選んだと後で知りましたが、その時は師匠が父母を手にかけたのだという噂もありました。それで国に戻る勇気も持てずに放浪していたのですが、良き仲間を得て、アイルに戻ろうと決断したのです。

 再会した師匠は変わらず私をアイルの王族としては認めていませんでした」

「いくら王代とはいえ、前王の子どもであるエリンの意向を無視することは許されないね。それで投獄を……」

「しかし君の師匠はなぜそんなことを?

 君の将来を案じて権力を持つことは理解できるが、それならばそのまま君を王に据えて王代としてやっていった方が良かったのではないか?」

「わからないんです。

 師匠は私が前王に不当に扱われていると思っていたでしょうけど、私が王になることは望んでいないようでした」


 ディルフもワーシアも哀れむような目を私に向けた。アルケミラが慰めるように手を握ってくれる。


「色々なことがあったんだね。エリン自身もまだ事態を受け止められていないように見える。それなのに君は魔法学校に来たんだね」

「一緒に、師匠と戦ってくれた仲間が一人、何も言わずに姿を消したんです。だからじっとしていられなくて――」


 こんなことまで言うつもりはなかった。慌てて言葉を止めたけど、慰めとして声をかけてくれたであろうディルフは真っ青になってしまった。


「す、すみません、あの……」


 何を言おうとしても失言となってしまいそうで、俯くことしかできない。


「エリン、ここは魔法学校だが、君は既に魔法をある程度は習得しているのだろう。

 正式な魔法使いの資格を得るのが目標になるのだから、気楽にやればよい、と思う」


 ワーシアが言葉を選びながらゆっくりと語り掛けてくれる。


「今回ばかりはワーシアに賛成かな。エリンは魔法学校で少し落ち着くといいよ。ここでは国のことを気にせずに、自分を見つめ直すといい」


 ディルフも優しい言葉を掛けてくれた。

 他国の、それも大国の王族とどう接すればいいのかわからなかったけれど、二人とも優しい人なのかも知れない。事情をわかってくれる人がいるという事実が嬉しかった。



*



 メランとネロはアイルの牢を抜け、()()()()()に来ていた。


「君まで連れて来るつもりはなかったんですけどね」

「見逃してくれればと言ったって、そうした時点で俺の居場所はなくなるよ。

 今のエリンには仲間がいる。俺一人消えたって、どうにかなるさ。

 それよりも俺は、エリンのためにできることをしたい。あの子を守る術があるなら、それに縋りたい」

「それに関しては感謝しています。流石に私もここで一人だとどうなるかわかりませんからね」

「一人で地下に行くつもりとは、恐れ入ったよ」

()()()()()()あの子を守るための鍵があるのなら、私はどこへでも行きますよ」


 淡々ととんでもないことを言う師匠に、ネロは尊敬とも呆れとも言えない感情を抱く。

 いっそのこと、全部を打ち明けてしまえばよいのに、と思う。それでも、自分がその事実をエリンに伝えられるのかと問われれば、難しいだろうと思う。


(エリン、君はとんでもない運命を背負って、生まれて来たんだね)


 思い出されるのは、年相応の笑みを浮かべるエリンの顔。その笑顔が曇ることのないように、そうでない未来を選べるように、ネロは湿った土を蹴り、メランの後を追った。

続きます。

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