表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/27

アイル王国3

 ロッドミン夫人から指輪と通花とおしばなの鎖を受け取って、私達は隠れ家に移動した。

 隠れ家は居酒屋の地下にあった。ロッドミン夫人の家からはかなり離れており、着いたのは夜中だった。それにも関わらず、中の人びとは喜んで私達を迎え入れてくれた。


「エリン様!よくぞご無事で!」

「お話は聞いております。アイルのために立ち向かわれると」

「姫様、共にアイルを取り戻しましょう!」


 一定の距離を空けながら声をかけてくれるが、視線は痛いほど熱く強く、緊張する。


「これ、お前たち。そう騒いでは姫様が怖がってしまう。

 明日は早いのだから休みなさい」


 どうしようかと迷っているところで、ここのまとめ役となっているであろう人が現れた。緑がかった黒髪の還暦くらいの男性だ。


「オリバー様!」

「オリバー?」


 聞き覚えのある名前だった。


「エリン様、オリバー・カンリアンです。

 お会いしたのは姫様がまだお小さい時。覚えてはいらっしゃらないでしょう」

「オリバー……お会いした時のことはよく覚えてはいないのですが……お祖父様じいさまのご友人だと聞いております」

「ご友人とは畏れ多い。ただの従者ですよ」


 オリバーは謙遜した。


「姫様もお休みになった方が良いでしょうが、少しだけお話に付き合ってくれますか?」

「わかりました」


 更に奥にある部屋に案内された。

 入ったのはオリバーと私、ネロ、ブラン、バイス、アルケミラだった。


「姫様、まずご安心いただきたいのは、姫様の味方は多いということです」


 薄暗い室内でオリバーの緑の瞳は静かに光を湛えていた。


「今ここにいる兵士は多くはありませんが、姫様が現れれば、王代の支配後も城に残る人間も、姫様の味方となりましょう。多くの者は正式な王の味方です。

 元々、王族の支持については、三つの派閥がありました。次期王として姫様を望む者、シラード様を望む者、そしてどちらかを望むわけではないが正式な王を望む者です。

 元王はシラード様を後継としましたが、それには納得していない者も多くいました。お披露目が行われていなくても、正式な継承の儀式が行われていなくても、姫様が元王の娘であることは周知の事実です。そこに王弟の息子が割って入るなど、本来ならあり得ないことでだからです。

 ここにいる多くの者は、姫様を支持しています。城に残っている者はほとんどが正式な王を望む者です。メラン様も噂はあれど、王に認められた王代です。姫様が行方不明の今はメラン様を支持していますが、姫様が戻れば姫様側につきましょう」

「オリバーはお祖父さまが亡くなって城を出たと聞いていますが、随分と内情に詳しいですね」

「私を慕ってくれる者もいるので、情報は入ってきます。

 それと、私は城を出たのではなく追い出されたのですよ」


 オリバーはさらりと言った。


「本当は城に残る予定でした。王に息子を頼むと言われていましたからね。その頼みもきけないままとなってしまいましたが。

 先代王は元王を心配していたのですよ。身内、特に弟に甘く、そのくせこの国への贈り物でもある自身の娘を蔑ろにしていた。民にとって悪い王ではないが、この国の未来を歪めてしまう王となるだろうと。

 結局は私を遠ざけ、自身の意のままにシラード様を王代とし、身を滅ぼされた」

「待って、この国への贈り物って?」


 そんな言葉は初めて聞いた。師匠にだって言われたことがない。


「先代王は姫様に負担がかからぬよう、そして民が身勝手に心を乱さぬよう、ごく限られた者にしかお話しになられませんでしたが……今がその時。お話ししても問題ないでしょう。

 姫様はご存知でしょうか。この国には泉を所有するバビー王国とクケット王国により、たびたび脅威が訪れるのです」


 その話は師匠からも何度か聞いていた。アイルの王となるのであれば、知っておくべきだと。この国の者ではないネロだって知っているくらい、よく起きることだ。


「数十年に一度起こるのですよね。

 そういった時、いつもアイルは大きな力に助けられたと聞いています」

「ええ、その通りです。それは人であったり物であったりしますが、どうしてそう毎回、大きな力を手にできるかおわかりになりますか?」

「それは……考えたことがなかった」


 私が産まれてから二国による脅威はなかった。遠い昔のおとぎ話のような感覚だったかもしれないが、稀なことでもないのに、常に解決されているのは不思議にも感じられる。


「アイルの王は、その力を見つける目を持っているからですよ」

「力を見つける目……」

「ええ、この国への贈り物がわかるのです」


 オリバーはじっと私を見つめた。


「それが、私?」

「左様でございます。

 あなた様がお生まれになった時、先代王はたいそうお喜びになりましたよ。王族に祝福された子どもが誕生したと。

 そして同時に、何も起こらなければいいと祈っておいででした。この国への贈り物があったということは、その力を必要とする事態が起きうるということですからね」


 寂し気な声に、つい下を向いてしまいそうになる。

 私が産まれたから災難が降りかかるわけではない。その有事の際に、私が対処できる力を持っているというだけの話だ。それでも、お祖父様の気持ちを思うと悲しくなる。


「姫様、今までご存じなかったということは、あなたの師であるメラン様もご存じないのでしょう。これは好機でございますよ」


 オリバーは慰めるように明るく言った。


「この国に姫様の味方は多いです。私も含め、皆で力を合わせて、メラン様を退けましょうぞ。

 ロッドミン様からも支援をいただいたときいておりますよ」

「ありがとうございます、オリバー。そうですね、皆の力があればきっと上手く行きます」

「もちろんですとも。雑兵どもは我らにお任せください。

 そして今まで姫様を守ってくださった皆様方、明日もどうぞ姫様をお願いいたします」


 話を聞いていたみんなは当然のように頷いてくれる。


「ありがとうございます。

 皆さま、お疲れのところ長々と失礼いたしました。狭い場所ではありますが、布団を用意しましたのでお休みになられてください」


 私達は僅かな光を掴み取るために、真っ暗な地下で、眠りに着いた。

続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ