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答えのない世界で、それでも僕らは歩き出す  作者: UTARO
第六章 祝福の値段
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Ⅳ自分の答え

 メリディア南部、街道。


 日が昇り始めた頃。


 ドンッ!


 ドンッ!


 シンが銃を撃つ。


 弾が針の球体へ当たるたび、棘が消え、ただの木の実へ戻っていった。


「爆発はしませんね」


 シンが前方へ銃を向けたまま続ける。


「見えにくい場所へ置かれている可能性もあります。ソラ君は左側を警戒してください」


「分かりました」


 馬車は街道を進んでいく。


 やがて道の両側に木々が増え、林の中へ入った。


 前を走っていた馬車は、もう見えない。


「さっきからありませんね」


「油断させるつもりか、Codeを使いすぎたのか。まだ分かりません」


 ソラは左側の林へ目を向けながら、手綱を握る。


 枝の間から朝日が差し込んでいた。


 その光の中に、何かが見えた。


「シンさん! 上です!」


 木の枝の間に、針の球体がいくつも浮かんでいた。


 ドンッ!


 シンが一つを撃ち抜く。


 続けて引き金を引いた。


 カチッ。


「……セル切れ」


 ソラが片手を手綱から離し、銃を抜いた。


 ドンッ!


 ドンッ!


 枝の間に浮かぶ球体を次々と撃ち抜く。


 銃声に馬が暴れた。


「うわっ!」


 ソラはすぐに銃を収め、両手で手綱を握る。


 馬を落ち着かせた。


「自分は並の腕ですが、ソラ君は射撃のセンスがありますね」


 ソラは少し照れくさそうに笑った。


「そんなことないですよ」


「自分の腕は、正しく把握しておいた方がいいです」


「……分かりました」


「ソラ君。先ほど渡したセルを使わせてもらえますか?」


「はい」


 ソラがセルの入ったポーチを渡す。


 シンは新しいセルを銃へ装填し、空になったポーチをソラへ返した。


「このままだと逃げられます。自分は先回りします」


「一人で行くんですか?」


「後で合流します。ソラ君は無理に距離を詰めず、警戒しながら来てください」


 シンは馬車から飛び降りる。


 ブーツに青い光が走った。


 地面を蹴り、そのまま林の中へ消えていく。


 しばらくして、林の奥から何度か銃声が響いた。


「シンさん……」


 ソラは前を向き、手綱を握り直した。


◇


 馬車はレストラへ続く街道を走っていた。


 街へ近づくほど、道沿いに咲く花が増えていく。


「花ばっかりだな」


 キートが辺りを見回す。


「ここは花の街、レストラだ」


 オズマは手綱を操ったまま答える。


「お前の好きな歓楽街はないぞ」


「まじかよ」


「馬を替えたら、すぐに出るぞ」


 馬車がレストラへ入った。


 通りの両側にも花が並び、朝早くから店を開ける者の姿がある。


「酒くらいは売ってるよな?」


「多分な」


 通りの先に、馬屋の看板が見えた。


 オズマが手綱を引き、馬車を馬屋へ寄せようとした。


 ドンッ!


 左腕から血が飛んだ。


「オズマ!」


「キート、上だ!」


 キートが顔を上げる。


 建物の屋根に、シンが銃を構えていた。


「捕捉しました」


「追いついてきやがったのかよ……!」


 オズマが右手で手綱を引き、馬車を止めた。


「俺がやる!」


 キートが御者台から飛び降りた。


《トアレム》


 両足の靴底に、いくつもの小さな車輪が現れる。


 キートは壁へ足をかけ、一気に屋根へ駆け上がった。


 ドンッ!


 シンが撃つ。


 キートは屋根の上を横へ走って弾をかわし、指の間に細い針を挟んだ。


 シンはブーツを起動し、屋根から通りへ飛び降りた。


 キートも壁を駆け下り、シンを追って通りへ降りた。


 ビュンッ!


 一気にシンへ追いつき、すれ違いざまに針を放つ。


 ヒュンッ!


「くっ……」


 シンの左腕に針が刺さる。


 左手を握ろうとしたが、腕が下がり、指先に力が入らない。

 

「……ハイザールの針術ですか」


「知ってんのか」


 キートが新しい針を指に挟む。


「俺よりオズマの方が上手いぜ。あいつの腕、先に撃っといてよかったな」


 シンの足元を見る。


「俺らに追いつくのに、セルをだいぶ使ったんだろ」


 シンの隊服に光はない。


「だったら、こっちにも勝ち目はあるってもんだ」


 ドンッ!


 キートが反射的に加速した。


 弾が左腕をかすめる。


「どこから……!」


 通りの先で、ソラが銃を構えていた。


 隊服とブーツに青い光が走っている。


「あのガキか」


 オズマも御者台から降りる。


 キートが声をかけた。


「大丈夫か、オズマ」


「利き腕はまだ使える。正隊員は俺がやる。お前はあのガキを頼む」


「おっけぇ」


「ソラ君」


 シンは前を見たまま声をかける。


「あのCodeは、ブーツの最大速度より速いです。気をつけてください」


「分かりました!」


 キートが両手に針を挟む。


「行くぞ、ガキ!」


 車輪が高速で回り始める。


 キートが針を放つ。


 ソラが身をかわした。


 キートはそのまま通りの先へ加速する。


 ソラもブーツを起動し、後を追った。


「キートなら大丈夫だろ」


 オズマがシンへ向き直り、光の消えた隊服を見る。


「隊服の防御が切れてるなら、針も通るってわけだ」


 腰の袋から木の実を取り出し、口へ含む。


 プッ。


 ドンッ!


 吐き出した木の実が、空中で砕けた。


 オズマがもう一つ口へ入れる。


「自分の射撃の腕は並ですが」


 プッ。


 ドンッ!


 次の木の実も、棘が伸びる前に弾け飛んだ。


「それで並かよ……」


 オズマは木の実を数個口に含み、右手の指に針を挟んだ。


 ヒュンッ!


 シンが頭を傾け、針をかわす。


 続けて二本。


 銃を持つ手と胸元へ飛んでくる。


 シンは身体を引いてかわした。


 オズマは針を投げながら、木の実を次々と吐き出す。


 シンの足元を、木の実が通り過ぎていく。


《デマルグ》


 散らばっていた木の実が、一斉に浮き上がる。


 表面から無数の棘が伸びた。


 銃を上げるたび、顔や手元へ針が飛んでくる。


 シンは撃てず、後ろへ下がった。


 正面から、三本の針が散って飛んでくる。


 シンは横へ跳んだ。


 オズマの右手が握られる。


 ドンッ!


 そばの球体が弾け、棘が脇腹をかすめた。


 体勢を立て直す前に、背後で球体が弾けた。


 ドンッ!


 背中へ棘が刺さり、シンが前へよろめく。


 前へ出た右脚に、針が刺さった。


「っ……!」


 膝が折れ、足に力が入らない。


 シンは右手の銃をオズマへ向け、引き金を引いた。


 カチッ。


 オズマは右手に針を残したまま、通りの先へ足を向ける。


「ここで引かせてもらうぞ」


 シンは銃を手放し、左腕に刺さった針を右手で掴んだ。


 針を引き抜き、去っていくオズマへ思い切り投げつける。


 ヒュッ!


 オズマが振り返りかけた。


「ぐっ!」


 右脚に針が深く刺さり、踏み出した足が崩れた。


 地面へ手をつき、シンへ顔を向ける。


「……やりやがったな」


「やぶれかぶれでも、当たるもんですね」


 通りの向こうから、ブーツの駆動音が近づいてきた。


「AEGISです! 武器を捨ててください!」


 ブーツを起動した数人の隊員が、銃を構えて迫ってくる。


 シンは通りに残る球体を指した。


「球体を撃ってください!」


 オズマが右手を上げかける。


「動くな!」


 一人の隊員が銃口を向けたまま、オズマへ迫った。


 ドンッ!


 ドンッ!


 ほかの隊員たちが球体を撃ち抜いていく。


 棘を失った木の実が次々と地面へ落ちた。


 オズマの指から針が落ちる。


「……参った。ここまでだ」


◇


 通りを歩いていた人々が、迫る二人を避けるように左右へ散っていく。


 ヒュンッ!


 キートの針が、ソラの顔の横を抜けた。


 人通りが途切れ、古い建物に囲まれた広場へ出る。


 ソラが足を止めた。


 銃を収め、腰の柄を抜いて起動すると、漆黒の刃が伸び、中央に青い光が走った。


 ソラが踏み込み、刃を横へ振るった。


「うおっ!」


 キートが横へ逃れる。


 車輪を回し、ソラを中心に大きく円を描いた。


 さらに速くなる。


「速い……」


 視線が追いつかない。


 背後から車輪の音が迫る。


 ドンッ!


「ぐっ!」


 蹴りが背中へ入った。


 隊服の青いラインが点滅する。


 ソラの身体が地面へ叩きつけられる。


「油断したな!」


 キートが両手を振った。


 ヒュンッ!


 ヒュンッ!


 三本の針が飛ぶ。


 ソラは起き上がりながら刃を振るった。


 キンッ!


 キンッ!


 二本を弾く。


 バチッ!


 残った一本が隊服へ当たり、青い光が瞬いた。


(この間合いを潰さないと……)


 キートが腰から新しい針を抜く。


「まだまだあるぜ!」


 キートがソラへ針を向ける。


 ドンッ!


「うおっ!?」


 キートの身体が横へ吹き飛んだ。


 古い建物の壁へ叩きつけられる。


 ソラが顔を上げた。


 広場の中央に、幼い少年が立っていた。


 身体を包んでいた黄色い光が消えていく。


「お兄ちゃん、大丈夫!?」


「なんだ、このガキ……!」


 キートが壁から身体を起こす。


 ソラは間を置かず踏み込んだ。


「ちっ!」


 キートが針を構える。


 車輪が回った。


「舐めんな!」


 一気に加速し、手にした針をソラへ突き出した。


 ソラは迫る針に刃を合わせ、突きを横へ流しながら半歩ずれた。


 キートの腕が、ソラの身体の横を抜ける。


「なっ――」


 流した後……


 ソラが一歩踏み込み、柄頭をキートの腹へ叩き込んだ。


 ドッ!


「がっ……!」


 キートが膝から崩れる。


 そのまま地面へ倒れ込んだ。


 ソラはキートの手元に落ちた針を蹴り離し、両手に拘束具を掛けた。


「はぁ……はぁ……」


 ソラが片膝をつくと、少年が駆け寄ってきた。


「助かったよ」


「ニコ!」


 鋭い声が飛んできた。


 肩まで伸びた青い髪を揺らし、イリヤスが駆けてくる。


「一人で何をしているんですか!」


「でも、このお兄ちゃんが……」


「僕が助けられたんです」


 ソラが立ち上がる。


 イリヤスはソラの隊服を見た。


「AEGISの方ですか?」


「学院生です。犯人を追ってきました」


「そうでしたか……」


 イリヤスが声を落とす。


「お願いがあります。今、この子が力を使ったことは、黙っていていただけませんか」


「僕からは何も言いませんよ。助けてもらっただけです」


 ニコの顔が明るくなる。


「ありがとう、お兄ちゃん! でも、もっと強くなった方がいいよ」


「え?」


「僕の先生だったら、あんなやつ一発で倒してたよ」


 ソラはニコを見て笑った。


「すごい先生だね。僕ももっと訓練しないと」


「ニコ!」


 ニコの肩が跳ねた。


「誰かを助けたかったのは分かります。だからといって、一人で飛び出してはいけません」


「……ごめんなさい」


「もし何かあったら、あなたが死んでいたかもしれないんですよ」


「はい……」


「帰ったら、マルタにもお話ししますからね」


「えぇ……」


 うつむくニコを見て、ソラは昔、マザー・エレナに叱られた時のことを思い出した。


 イリヤスはニコの手を取り、ソラへ頭を下げた。


「本当に、ありがとうございました」


 二人が通りの先へ歩いていく。


 ソラの端末が鳴った。


 画面にシンからの連絡が表示されている。


『一名確保しました。そちらは?』


 ソラは地面に倒れているキートへ目を向けた。


『こちらも確保しました』


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