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答えのない世界で、それでも僕らは歩き出す  作者: UTARO
第五章 救いのかたち
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Ⅳ光は誰のもの

 五月半ば。


 セントリアへ向かう汽車の中。


 ソラは向かいに座るハインを見ていた。


「すまなかったな。あの時、お前一人に全部押しつけて」


「謝らないでください。僕も、自分の身くらい守らないと駄目だったので」


「ソラ君」


 隣のオリヴィアが口を挟んだ。


「そもそも、危険な場所へ自分からついていくのが駄目なんですよぉ」


「はい……」


「オリヴィアさん、そこは褒めてあげてください」


「学院生だってことを忘れるくらいの働きでしたから」


「ハインさん!」


「あっ、すみません」


 ソラの目が、オリヴィアの手元で止まった。


 黒い絹地に、桃色の花が刺繍された手袋を着けている。


「先生、それ」


「気づきましたか?」


 オリヴィアが両手を持ち上げた。


「この前、お見舞いに来てくれた友達にもらったんです」


「すごく似合ってます」


「ありがとうございます」


 オリヴィアが嬉しそうに笑った。


「でも、褒めても今回の行動については、ちゃんと反省してもらいますからね」


「はい……」


 ハインは何も言わず、窓の外を見た。


「それにしても、学院生で功績章を授与されるってのはすごいな」


「私が教員になってからは初めてですよぉ。学生の頃、同級生がもらったことはありましたけどねぇ。今じゃずいぶん出世してますよ」


「ソラ君も、出世頭になるかもしれませんね」


「僕、この授与ってよく分かってないんですけど」


「こういう説明は、正隊員になった時にされるものですからね」


「今回の作戦に参加して、生還した隊員には、所属支部を通して全員《従戦章》が授与されます。それとは別に、個人の功績に贈られる章もあるんですよ」


「個人に贈られるのは、《勇翼章》《銀盾章》《金冠章》……その上が《天翼章》ですねぇ。報奨金だけじゃなく、昇格の評価にも関わります」


「章をもらえば、そのまま昇格するんですか?」


「そうとは限りません。今回のハインさんと私は、これまでの功績も含めて判断されたんです」


 ハインが続ける。


「二級員以上はガレリアを持てる。その分、上へ行くほど実力だけじゃ通らない。正式に認められた功績も必要になるってことだ」


「《天翼章》だけは別格ですけどね。一階級の即時昇格が認められることもありますし、報奨金も桁が違います」


「そんな章まであるんですね……」


「授与自体は各支部で済ませることもあるんですけど、今回はセントリア総本部で行われるんですよぉ」


 ソラが窓の外へ目を向ける。


 窓の向こうには、セントリアの街並みが見え始めていた。


「もうすぐですね」


◇


 セントリアの駅には、数人のAEGIS隊員が待っていた。


 三人は隊員に案内され、総本部の集会所へ向かった。


 大きなホールは、各支部から集まった隊員たちで埋まっている。


 舞台の見える控室へ通されると、オリヴィアがソファーへ座った。


「ど、どうしましょう。緊張してきました」


「あんなに人がいるものなんですか」


「私もセントリアでの授与は初めてなので……こんなに人が集まるとは思いませんでしたよ」


 ソラは姿勢を固くしたまま、舞台を見ていた。


「ソラ君?」


「は、は、はい」


 会場のざわめきが収まり、舞台へ一人の男が上がった。


 短く整えた銀灰色の髪を後ろへ流し、鋭い灰色の目をしている。


 隊服に身を包んだAEGIS総司令官、グランツが立っていた。


 演台に備えられたセル式の拡声装置を確かめ、会場を見渡す。


「本日は、各支部から集まってもらったことに感謝する」


 グランツの声が、ホールの隅まで届いた。


「まず、先日のグランディアでの作戦について話しておきたい」


「この作戦で、十二名のAEGIS隊員が命を落とした」


 グランツは、亡くなった十二名の名を一人ずつ読み上げた。


「黙祷を」


 隊員たちが頭を下げる。


 しばらくして、グランツが顔を上げた。


「今回の襲撃が最後とは限らない。今後も、同じ組織による妨害や攻撃が予想される」


「些細な違和感でも構わない。必ず上長へ報告してほしい」


「今回の作戦において、特に功績の認められた三名を表彰する」


 控室の扉が開かれた。


「グランディアAEGIS学院二年生、ソラ」


「は、はい!」


 ソラは立ち上がり、舞台へ向かった。


「学院生でありながら、他の隊員を守るためCode保持者へ一人で立ち向かい、これを制圧した。その功績をたたえ、《勇翼章》を授与する」


 グランツから章を受け取る。


 《勇翼章》の中央には青い星があり、その左右に銀色の翼が広がっていた。


「正隊員になってからが楽しみだよ、ソラ君」


「あ、ありがとうございます!」


 ソラは一礼し、控室へ戻った。


「グランディア支部、ハイン三級員」


「はい!」


 今度はハインが舞台へ上がる。


「三級員でありながら、崩れた部隊を立て直し、現場の指揮を執った。自ら危険へ踏み込み、学院生を守った功績をたたえ、《銀盾章》を授与する」


 ハインが章を受け取る。


 《銀盾章》は、中央の青い星を二枚の銀色の盾が挟んでいる。


「これまでの功績も踏まえ、二級員への昇格を認める。これからも頑張ってくれ」


「ありがとうございます」


 ハインが一礼した。


「グランディア支部、オリヴィア二級員」


「はい!」


 オリヴィアが舞台へ進み、グランツの前に立つ。


「敵側の指揮官を食い止め、壊滅的な砲撃を阻止した。部隊の壊滅を防いだ功績をたたえ、《金冠章》を授与する」


 オリヴィアが章を受け取った。


 《金冠章》は、中央の青い星を二枚の金色の盾が挟み、その上には金の冠があしらわれている。


「これまでの功績も踏まえ、一級員への昇格を認める。おめでとう。今後の活躍にも期待している」


「教員に、そんな期待しないでくださいよぉ」


 グランツが微笑んだ。


「それなら、兼任で頼むよ」


 オリヴィアが一礼した。


 オリヴィアが控室へ戻ると、グランツが会場へ向き直った。


「以上をもって、集会を終了する」


 グランツは一礼し、舞台を下りた。


◇


「終わりましたねぇ」


 控室へ戻ったオリヴィアが、ソファーへ深く腰掛けた。


「よかったです……どっと疲れました」


 ハインが立ち上がった。


「俺は昇格とガレリア受領の手続きがありますので、お先に失礼します」


「はい。お疲れさまでした」


 ソラも一礼する。


「ハインさん、またよろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくな」


 ハインが控室を出ていった。


「先生は行かなくていいんですか?」


「私は明日でも大丈夫なので、その時にします」


「そういえば、ソラ君も明日はお休みでしたね」


「はい。ルーナと出かけることになってます」


「それは、すごく素敵ですねぇ」


 オリヴィアが口元に手を当てる。


「……なんですか、その反応」


「なんでもありませんよぉ」


 その時、扉がノックされた。


「はーい」


 扉が開く。


「授与、おめでとうございます」


「おめでとさん」


 入ってきたのは、シンとラディスだった。


「ありがとうございます。お二人とも、お久しぶりですねぇ」


 ラディスがソラの前へ来る。


「ソラ君、やるやんか」


「ありがとうございます」


「学院生やのに、えらいもん貰ったなぁ。今後が楽しみやで」


「少し持ち上げすぎでは?」


 シンが横から口を挟む。


「祝う時くらい、ええやろ」


「事実を言っただけです」


「相変わらず固いやっちゃなぁ」


「僕も、運がよかっただけだと思ってます」


 ソラは胸元の《勇翼章》に触れた。


「でも、これに負けないように頑張ります」


「ええ先生持つと、こんなええ子になるんやなぁ」


「ふふっ。嬉しいですねぇ」


「そういや俺らも、今の仕事が片づいたらグランディアへ応援に行くことになっとる」


「そうなんですか?」


「まだ少し先になりますが」


 シンが答えた。


「そん時はよろしくな、ソラ君」


「はい。こちらこそお願いします」


「せっかくやし、今日は飯でも奢ったるわ」


「お言葉に甘えますね」


「恐縮です」


 シンが頭を下げる。


「お前は別や!」


◇


 同日。


 グランディア支部。


 仕事に復帰したクラネスの机には、何冊かの報告書が置かれていた。


「クラネス。病み上がりなんだから、無理するなよ」


 隣の机から、レナードが声をかける。


「もう大丈夫ですよ。ずっと寝てる方が疲れます」


「そういう奴が一番無理するんだ。息抜きもしておけよ」


「息抜きですか」


「今度、リアナと食事に行くんだろ?」


「えっ。なんで知ってるんですか?」


「そういう話は、意外と耳に入ってくるもんだ」


「せっかくだ。仕事のことは忘れて楽しんでこい」


「それなら、レナードさんも少しは息抜きした方がいいんじゃないですか?」


「俺はいいんだよ」


「お子さんまだ小さいんですよね」


「……五歳だ」


「五歳かぁ。仕事しながらだと大変じゃないですか?」


 レナードが少し気まずそうな顔をする。


「お前には言ってなかったな。妻とは別居してるんだ」


「あ……すみません。余計なこと聞きました」


「気にするな。捜査員と家庭の両立は大変だぞ」


「そういうもんですか」


「家庭を持つ気なら、ちゃんと家族との時間も作るんだな」


「……肝に銘じておきます」


◇


 グランディアの噴水広場。


 この日はネグラ教会が事前に集会を告知しており、広場には多くの人が集まっていた。


 AEGISからは、リアナとネアが監視にあたっている。


 人だかりの中心に、一人のネグラ教会の信徒が立っていた。


 信徒の周囲へ、暖かな陽光を思わせる光が広がる。


 その中を、光の帯が幾重にも重なり、ゆっくりと揺らめいていた。


 噴水の水しぶきにも光が反射し、集まった者たちの顔を照らしている。


 ざわめきが静まり、集まった人々の表情が緩んでいく。


 人垣を抜け、リアナとネアが前へ出た。


「AEGISです。そのまま動かないでください」


 リアナが携帯端末を向ける。


 暖かな光は、信徒の周囲で揺らめき続けている。


 画面には「Code出力反応なし」と表示された。


「……反応がないっす」


 ネアが端末を覗き込む。


「その現象を止めてください」


 信徒の周囲から光が消えた。


「これはCodeではありません」


 信徒が答える。


「神から授かった祝福です」


「何なのかは確認できていません。詳しい検査のため、支部まで同行してください」


「分かりました」


 信徒は頷くと、集まった人々へ振り返った。


「皆さん、聞いてください。AEGISでも、祝福が何なのか判断できていません」


「これが、私たちの授かった祝福です」


「不安に思われる方もいるでしょう」


「ですが、ご心配なく。これから、より詳しい確認を受けてまいります」


 信徒は抵抗することなく、リアナたちに従った。


◇


 グランディア支部。


 信徒の検査結果が、レナードの机に置かれていた。


「コアは確認できませんでした。Code反応もありません」


 リアナの報告を聞きながら、レナードが結果へ目を通す。


「登録も非保持者か」


「はい」


「広場で何かの能力を使ってたのは間違いないっす」


 ネアが口を挟む。


「あれが何なのか、まだ分かっていません」


「今の規則じゃ、Codeと確認できない以上、拘束はできない」


「……分かりました」


◇


 数時間後。


 信徒が解放された後、噴水広場には先ほどよりも多くの人が集まっていた。


「皆さん! 私は戻ってきました!」


 広場の中央で、先ほどの信徒が声を上げる。


「AEGISの検査を受け、そのうえで解放されたのです」


 男の周囲に、先ほどと同じ暖かな光が広がった。


 集まった者たちの表情が緩んでいく。


「AEGISが証明してくれました。これはCodeではない。神から授かった祝福なのです」


「AEGISが認めたのか」


「やっぱり、Codeじゃなかったんだ」


「違います!」


 リアナが声を上げる。


「確認できたのは、Code反応がないことだけです!」


「私たちの言葉、誰も聞いてないっす……」


 信徒を囲む人の数は増えていく。


「これが、我々ネグラ教会の祝福です」


 男は光の中で両手を広げた。


「神を求める者に、その道は開かれています」


「迷いも恐れも、すべて神へ委ねなさい。信じる者に、恐れるものはありません」


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