AEGIS√Ⅰ夜明けには遠く
作業小屋の開け放たれた入口から、三本の暗い農道が伸びていた。道の間には、人の背丈ほどに育った作物が続いている。
小屋の左手には、少し離れて道具保管庫が建っていた。
作業小屋の中では、農具や木箱が壁際へ寄せられ、中央が空いている。奥には小さな部屋が一つあった。
両手を後ろで拘束されたホンが、椅子に座っていた。
緑色のカッパを着たまま、その両脇を二人のAEGIS隊員が固めている。
「護送馬車は、まだですか?」
ホンが入口を見る。
「座ってろ」
ハインが答えた。
「座ってますよ」
「なら黙って待て」
「移送先くらい、教えてもらえませんかね」
「着けば分かる」
「そうですか」
ホンが背もたれへ身体を預けた。
「いやあ、私一人にずいぶんな人数ですね」
ハインと数人の隊員が、小屋の入口を固めていた。
オリヴィアと学院生たちは、壁際や小屋の奥に分かれて護送を待っている。
外にも、入口の前と左右の農道へ隊員が配置されていた。
「お前が心配することじゃない」
「心配というより、申し訳なくて」
ハインがホンを睨む。
ホンは口を閉じた。
外を確認していたリアナとクラネスが戻ってくる。
「周囲に異常はありません」
「馬車は?」
「まだ見えていません」
ハインが端末を確認し、入口の外へ目を向けた。
「予定の時刻を過ぎてる。端末で問い合わせても返事がない。来たらすぐに出る。全員、そのまま待機だ」
「はい」
ソラが入口から農道を見る。
三本の道の先には、畑と低い丘が続いていた。
「まだ見えない?」
ミレアが隣から農道をのぞく。
「うん。道の向こうにもいない」
「途中で何かあったのかもしれんのう」
「何かあっても、この人数なら問題ないっすよ」
ソラは入口の向こうへ目を凝らした。
中央の農道の先にある丘。その斜面の縁から、紫色の光が持ち上がった。
一つ。
二つ。
続けて、その左右にも現れる。
十の紫色の光が、斜面の向こうから並んで上がってくる。
その一つ一つに、黒い砲身が浮かんでいた。
「先生、あれ……!」
オリヴィアが、ソラの指した方を見る。
十の砲口が、作業小屋へ向けられていた。
「全員、伏せて!」
十の砲身が、一斉に火を噴いた。
ドドドドドドォンッ!!
一発が小屋の前へ着弾した。
土煙と爆風に呑まれ、入口を固めていた隊員たちの身体が跳ね上がる。
別の砲弾が、左の農道をえぐった。
残る砲弾も、小屋とその周囲へ降り注ぐ。
ドォオオオオオンッ!!
衝撃が床を突き上げた。
壁が砕け、屋根が内側へ崩れ落ちる。
「――っ!」
ソラの身体が床を転がった。
木材と土煙が視界を埋める。
隊服を走る青い光が、激しく点滅していた。
耳鳴りだけが残り、周囲の音が遠い。
誰かがソラの腕を掴んだ。
「ソラ、立てるかの!」
リーゼだった。
口は動いているのに、声がうまく聞こえない。
ソラは手をつき、身体を起こした。
崩れた屋根の向こうに、夜空が見えた。
横倒しになったホンを、リノが身体でかばっている。
少し離れた場所には、ホンの両脇にいた二人の隊員が倒れていた。
「ホンは!」
耳鳴りの向こうで、ハインが叫んだ。
「生きてるよ!」
リノがホンの上から身体を起こした。
二人の隊員の首元へ順に手を当て、ハインへ首を横に振る。
「あまり無理をするな!」
「ホンに死なれちゃ終わりでしょ!」
入口の前や農道には、砲撃で飛ばされた隊員たちが倒れている。
ハインが声を張り上げた。
「リノ、ネア! 状況把握を急げ! 動ける者を入口へ集めろ!」
「了解!」
「了解っす!」
「クラネス、リアナ! 周囲の負傷者を確認しろ! 奥まで行くな!」
「はい!」
オリヴィアも学院生たちへ指示を出す。
「学院生の皆さんは、近くの負傷者を小屋の奥へ運んでください!」
「ソラ、こっちに来て! エリオが!」
ミレアの声に、ソラが振り向く。
積み上げられていた木箱が崩れ、エリオの右脚を挟んでいた。
エリオが歯を食いしばり、両手で木箱を押し上げようとしている。
「エリオ、しっかりしろ!」
ソラが駆け寄り、ミレアと一緒に木箱へ手を掛けた。
ライゼルも反対側へ回る。
「三人で上げるぞ! 一、二、三!」
三人が一斉に力を込めた。
木箱が持ち上がり、挟まれていた右脚が抜ける。
「ぐあっ……!」
エリオの右脚は、膝の下から不自然な方向へ曲がっていた。
裂けた隊服から血が流れ出している。
「おい、これ……どうすりゃいいんだ!」
ライゼルの手が止まる。
「小屋の奥へ運んでください!」
ルーナが駆け寄る。
「脚は私が支えます。二人は身体を持って!」
ソラとライゼルがエリオの身体を持ち上げ、ルーナが傷ついた脚を下から支える。
小屋の奥では、別の隊員が救急鞄を開き、運び込まれた負傷者の手当てをしていた。
「包帯と固定具をください!」
隊員が救急鞄から道具を取り出し、ルーナへ渡す。
ルーナはエリオのそばへ膝をついた。
「そこに寝かせて!」
ソラたちが、エリオを床へ寝かせる。
ルーナはエリオの太ももへ鎮痛剤を打ち、傷口へ止血布を当てた。
そのまま脚の両側へ固定具を添え、包帯を巻いていく。
「すげぇ……」
ライゼルが、その手元を見ていた。
「ほら! 見てないで救助を急ぐわよ!」
「あ、ああ!」
その近くで、リーゼが壁に打ち付けられたヴェインの頬を叩いていた。
「ほれ、しっかりせい。意識を保つのじゃ」
ヴェインがリーゼの手首を掴む。
「いてぇよ……」
「それだけ元気があれば大丈夫じゃな」
ドォンッ!!
途切れていた砲声が、再び小屋を揺らした。
追撃の砲弾が、作業小屋の正面へ落ちる。
爆風が、入口の前に倒れていた隊員たちを呑み込んだ。
土が高く吹き上がる。
煙が薄れても、倒れた隊員たちは誰一人動かなかった。
「このままでは、ここも持たんのう……」
リーゼが正面を見る。
作業小屋の前から伸びる三本の農道。
中央の農道の先にある低い丘の斜面に、三人が立っていた。
三人とも、鉄灰色の服を着ている。
中央には、ほかの二人よりひと回り大きな男。
その背後に、紫色の光が浮かんでいた。
さらに斜面の上へ、十人の男たちが姿を現す。
その手には、青い光の線が走る漆黒の刃。
中央の男が右腕を上げた。
「諸君。目の前にいる敵を一人残らず殲滅せよ」
少年と少女が右拳を胸へ当てる。
「ハッ! ブラム隊長!」
ブラムの腕が振り下ろされた。
二人が斜面を駆け下りる。
十人の男たちも漆黒の刃を手に、そのあとへ続いた。
「狙いはホンだ!」
ハインが迫る敵から目を離さず、後ろへ叫ぶ。
「リノ、応援要請は!」
「もう済ませてあるよ!」
入口へ集まった隊員は九人。外へ出たリアナとクラネスは、まだ戻っていなかった。
「迎え撃つ! 動ける隊員は前へ出て隊列を組め!」
ハインとネア、動ける隊員たちが入口の前へ走る。
「後ろへ回せる隊員はいない! 学院生は負傷者とホンの護衛を頼む!」
オリヴィアが、農道の先にある丘の斜面を見る。
そこには、ブラムだけが残っていた。
その周囲に、再び紫色の光が浮かび始める。
光の中から、黒い砲身が一本ずつ伸びてきた。
「ハインさん、あの砲撃手を止めないと、また撃たれます」
オリヴィアは刃を左手に構え、背負っていた長い筒を右手で外した。
「あの砲撃手は、私が止めます」
「一人で行く気か」
「今動ける中で、あの丘まで届くのは私だけです」
ソラがオリヴィアへ駆け寄る。
「先生、待ってください」
「ソラくんは、ハインさんの指示に従ってくださいね」
「あんな砲撃をする相手に、一人で行くんですか?」
「砲撃を止めないと、ここにいる全員が狙われます。ソラくんは、負傷者とホンさんをお願いしますね」
オリヴィアのブーツに青い光が走った。
そのまま小屋の外へ飛び出す。
「先生!」
オリヴィアは振り返らなかった。
作物が左右へ大きく揺れる。
畑を駆け抜け、奥に残るブラムへ向かっていった。
「ソラ、下がれ!」
ガキィンッ!
ハインが、迫っていた男の刃を受け止めた。
「前を見ろ!」
ソラが正面へ向き直る。
男たちは、すでに作業小屋の前まで迫っていた。
三人が正面から押し込み、左右の畑でも作物が大きく揺れる。
「左右へ回ったぞ!」
ハインが叫ぶ。
作物をかき分け、一人の男が飛び出した。
ガキィンッ!
ハインが振り下ろされた刃を弾く。
「狙いはホンだ! 奥へ行かせるな!」
「学院生はホンと負傷者を警護! 隊員は左右へ回らせるな! 正面へ押し返せ!」
「了解っす!」
ネアが右から迫る刃を受け止め、リノも反対側から抜けようとした男の前へ入った。
ほかの隊員たちが二人の間を埋める。
ガキンッ!
ギィンッ!
小屋の入口で、十数本の漆黒の刃がぶつかり合った。
◇
作業小屋の左手にある道具保管庫から、リアナとクラネスが一人の隊員と出てきた。
外では、別の隊員が三人を待っていた。
「助かった。身動きが取れなくて」
「気にするな。大きなけががなくて何よりだ」
クラネスが周囲を見渡す。
「……状況は最悪だな」
外で待っていた隊員が、作業小屋の方を見る。
入口の前では、隊員と襲撃者が入り乱れていた。
銃声と、刃がぶつかる音が途切れない。
「三人とも、こっちだ!」
隊員が走り出そうとする。
その背後で、背の高い作物が揺れた。
「後ろです!」
リアナが銃を抜く。
鉄灰色の服を着た、小柄な黒髪の少女が作物の間から飛び出し、隊員の脇腹へ拳を叩き込んだ。
ドッ!
「ぐっ……!」
拳を受けた場所から、隊服の上へ光るひびが走った。
脇腹から胸へ、一気に広がっていく。
隊服の青い光が点滅した。
リアナが少女へ銃口を向ける。
ドンッ! ドンッ!
少女が頭を下げ、一発目をかわす。
続く一発には上体を反らし、すぐに体勢を戻した。
ひびの走った脇腹へ、左拳を打ち込む。
《ラグレス》
バリィンッ!
隊員の身体が砕けた。
「なっ……」
クラネスが足を止める。
頭も、腕も、胴も、透明な破片となって土の上へ散っていく。
リアナの銃口が一度揺れた。
助け出された隊員が、砕けた仲間へ向かおうとする。
「行くな! 構えろ! あの少女を止めるぞ!」
少女は三人の間で、両手を下ろしたまま動かなかった。
肩までの黒髪の下で、大きな目が鋭く三人を追っている。
土の上に散った透明な破片から、色が戻り始める。
千切れた肉。
押し潰された臓器。
破片の間から血が流れ、土へ広がった。
リアナは銃を握り直し、少女の左へ回る。
「拳を受けないで! まだ何をされたのか分かりません!」
「俺が前に出る。二人は援護してくれ」
クラネスが正面で刃を構え、隊員が少女の右へ回った。
少女が両拳を上げる。
「次は誰?」
クラネスが斬り込んだ。
少女は刃をかわし、クラネスの手首を蹴り上げる。
刃が跳ね上がった。
少女が身体をひねり、クラネスの胸へ拳を突き出す。
リアナが引き金を引いた。
ドンッ!
少女が横へ跳び、弾丸をかわす。
弾丸はその脇を抜け、後ろの土をえぐった。
「……うっざ」
リアナがもう一度、少女へ銃口を向ける。
その手元が、白く照らされた。
顔を上げると、白い光が音もなく三人の頭上へ落ちてきていた。
すでに、手を伸ばせば届く高さまで迫っている。
「離れろ!」
三人が散る。
ボンッ!
逃げ遅れた隊員を、白い光が巻き込んだ。
隊員の身体が土の上へ投げ出される。
「くっ……!」
隊員が両手をつき、身体を起こそうとする。
少女は倒れた隊員へ踏み込み、胸へ右拳を叩き込んだ。
ドッ!
拳の跡から、胸と腹へひびが走る。
続けて、左拳を同じ場所へ打ち込んだ。
《ラグレス》
バリィンッ!
隊員の胸から上が、透明な破片となって崩れた。
「クラネスさん!」
クラネスはすでに少女へ踏み込んでいた。
クラネスが刃を振り上げる。
その進路に、数個の白い光球が浮かんでいた。
「っ!」
クラネスはとっさにブーツを起動し、横へ跳ぶ。
少女が畑へ顔を向けた。
「トリス! 邪魔しないで!」
少し離れた場所に、鉄灰色の服を着た少年が立っていた。
濃い眉の下にある大きな目が、こちらを見ている。その周囲には、いくつもの白い光球が浮かんでいた。
「ごめん、バレッサ。僕は任務に戻るね」
トリスと呼ばれた少年は、正面の作業小屋へ歩き出した。
「……気持ち悪い奴」
バレッサが吐き捨て、クラネスたちへ向き直る。
「さあ、仕切り直しよ」
畑の向こうでは、いくつもの白い光球がトリスとともに作業小屋へ向かっていた。
◇
ハインは襲撃者の刃を受け流し、空いた腹へ蹴りを入れた。
男の体勢が崩れたところへ、刃を振り抜く。
ザシュッ!
男が地面へ倒れた。
「はぁ……はぁ……」
ハインは刃を構えたまま、周囲を見る。
「こいつら、手ごわいな」
崩れた屋根の向こうから、白い光球がまとまって降りてくる。
正面の乱戦の中にも、同じ光球がいくつも浮かんでいた。
ハインが学院生たちへ声をかけようと、後ろを振り向く。
ボンッ! ボンッ! ボンッ!
後方で爆発が重なり、土煙が学院生たちを隠した。
「後方は!」
返事がない。
ハインが土煙の向こうへ目を凝らす。
「被害ありません!」
ミレアの声が返ってきた。
ハインが正面へ向き直る。
白い光球が襲撃者たちの間を抜け、隊員へ迫っていた。
ボンッ!
爆発を受けた隊員が、爆風に押されて後ずさる。
「なんなんすか、これぇ!」
ネアが光球から距離を取りながら、襲撃者の刃を受け止める。
「ハインさん!」
一人の隊員が、正面の畑を指した。
「中央の畑に、Code保持者と思われる少年が――」
ドォンッ!!
隊員の前で、いくつもの光球がまとめて弾けた。
その身体が吹き飛び、地面へ叩きつけられる。
畑の中から、さらに白い光球が左右へ広がりながら迫ってきた。
光球へ気を取られた隊員へ、襲撃者が斬り込む。
隊員が刃を受け止めた直後、その背後で光球が弾けた。
ボンッ!
また一人、爆発に巻き込まれる。
前線が押し下げられ、空いた場所へ襲撃者たちが踏み込んできた。
「まずい、抜かれる!」
ハインが後方へ叫ぶ。
「動ける奴、前のカバーに入ってくれ!」
「俺たちが行きます!」
ヴェインとライゼルが同時に奥から飛び出した。
二人の刃が起動する。
迫っていた襲撃者へ、正面からぶつかった。
ガキィンッ!
ギィンッ!
二本の刃が、押し込んできた敵の足を止める。
「ハインさん、俺たちもやれます!」
「……頼む! 無理に倒さなくていい! 抜かせるな!」
「おう!」
バンッ! バンッ!
ソラの弾丸が、迫る光球を二つ撃ち抜いた。
白い光が空中で弾ける。
ソラは銃を片手に持ち替え、端末を畑の中にいる少年へ向けた。
表示された情報を確かめ、ハインへ叫ぶ。
「ハインさん! Codeスキャンの結果が出ました!」
「Codeは《ピネシア》。出力はレベル2です!」
「分かった! 保持者を押さえる!」
「リノ!」
バンッ!
リノが銃を撃つ。
同時に、左手の刃で襲撃者の斬撃を受け止めた。
さらに一発。
バンッ!
襲撃者が後ろへ下がる。
「なんですか、先輩!」
「俺はあの少年を押さえに行く。ここを頼む!」
「いや、絶対私が適任じゃないですよね!?」
「ほかに動かせる奴がいない。頼んだ!」
「あーもう、分かりましたよ!」
リノが正面へ向き直る。
「ネア! 学院生のフォローお願い!」
「了解っす!」
「ハインさん! 僕も行きます!」
ソラが銃を構えたまま、ハインの横へ出る。
「お前をあいつのところまで連れていくわけにはいかない」
「僕なら、離れた場所から光球を落とせます。ハインさんが近づく隙も作れます」
畑の中から、新たな光球が浮かび上がる。
「このまま撃たれ続けたら、防衛線がもちません」
ハインがソラを見る。
「……迷ってる時間はないな。ソラ、ついてこい」
「はい!」
リーゼは崩れた梁へ足を掛けた。
ブーツを起動し、残った屋根へ上がる。
そこから左右の畑を見渡す。
「ハインさん!」
屋根の上から、リーゼが叫んだ。
「左側で、リアナさんとクラネスさんが押されておる!」
リーゼが左の畑へ目を向ける。
「二人が倒れれば、こちらの防衛線も崩れる。わらわが加勢に行くぞ!」
「一人で行くつもりか!」
「今、ほかに誰を回せるというのじゃ!」
「……分かった。俺の責任で許可する。行け!」
「任せておくのじゃ!」
リーゼはブーツを起動し、残った屋根の端からリアナたちのもとへ跳んだ。
◇
正面の防衛線。
AEGIS隊員が、首元を黒い布で覆った男と刃を交えていた。
ギィンッ!
隊員が男の刃を押し返す。
さらに踏み込み、男を後退させた。
「やべぇな。きついって……」
《オルメト》
隊員の背後で、大きな石が浮き上がる。
次の瞬間、勢いよく飛んだ。
ガンッ!
「ぐっ……!」
握っていた刃が手を離れる。
刃は地面へ落ちる寸前で止まり、宙に浮いた。
そのまま向きを変え、切っ先が隊員へ向く。
ザシュッ!
刃が隊員の喉へ突き刺さり、その身体が地面へ倒れる。
男は柄をつかみ、喉から引き抜く。
「本物の刃、げっとぉ」
「おい、お前」
男が顔を上げる。
ヴェインが正面から斬り込んだ。
ガキィンッ!
二人の刃がぶつかる。
「人を殺して、ふざけてるのか」
「殺し合いなんて、こんなもんだよ。僕ちゃん」
「ふざけんな!」
ヴェインが男の刃を押し返し、そのまま踏み込む。
男が奪った刃を手放した。
刃は地面へ落ちず、そのままヴェインの背後へ回り込む。
「ヴェイン!」
ガギィンッ!
ライゼルが横から飛び込み、迫っていた刃を受け止めた。
「何やってんだ! 周り見ろ!」
「Codeは見た……。《オルメト》だ」
「おっ、よく分かるねぇ」
「こんなの、よくあるCodeだろ」
男が右手の偽造された刃を手放した。
「俺が持てる重さなら――」
刃は地面へ落ちず、奪った刃の隣へ浮かぶ。
「ほら、この通り。地味もいいとこさ」
空いた右手が腰へ伸びる。
鞘から抜かれたのは、幅広く湾曲した片刃の剣だった。
男が剣を構える。
「やっぱり、使い慣れた剣じゃないとねぇ!」
◇
「こっち、押し込まれてるっすよ!」
ネアが銃を撃つ。
ドンッ!
男が短く息を吐いた。
ネアが撃った弾丸が勢いを失い、男の足元へ落ちる。
「保持者も混ざってるっすよ!」
男の後ろから、別の襲撃者が刃を振り上げて迫ってきた。
「見れば分かる! 右を詰めて!」
リノが叫び、ネアの横へ入る。
二人の男が同時に斬りかかった。
ネアとリノが、それぞれ刃を受け止める。
その隙に、小柄な男が二人の間を抜けた。
「あっ、やばいっす! 抜かれたっす!」
ネアが振り返る。
「ミレアちゃん! 一人抜けたっす!」
◇
小屋の奥。
拘束されたホンが、ミレアを見る。
「この拘束、解いてくれないかなぁ。もう、やばいと思うんだけど」
「大丈夫です」
前方から、ネアの叫ぶ声が聞こえた。
ミレアが入口へ目を向ける。
「下がっていてください」
「いや、でも……」
「ホンさんは奥の部屋で、みんなと一緒にいてください」
「マジかよ……」
ホンが奥の部屋へ入っていく。
ミレアは刃を起動した。
鍔から漆黒の刃が伸び、青いラインが走る。
正面から響く銃声と金属音の中、刃を構えたまま入口と物陰へ目を走らせた。
シュッ!
短いナイフが飛んできた。
キンッ!
ミレアが刃で叩き落とす。
ナイフを弾いた隙に、小柄な男が短剣の間合いまで踏み込んでいた。
「――まずい!」
短剣がミレアの脇腹を捉える。
ガギィンッ!
隊服の青いラインが激しく点滅した。
短剣の刃が、脇腹の手前で止まる。
男がすぐに離れた。
点滅が収まったあとも、青い光は先ほどより弱くなっていた。
ミレアが短く息を吸う。
その瞬間、男が床を蹴った。
短剣が下から走る。
ギィンッ!
ミレアが刃で受け止める。
男はすぐに身体を引いた。
シュッ!
右手から放たれたナイフが、ミレアの顔へ迫る。
ミレアが首を傾けてかわす。
シュッ!
二本目のナイフが右側から飛んできた。
その向こうに、右へ回り込む男の影が見えた。
ミレアはナイフから目を離し、身を低くして身体を回す。
ガギィンッ!
ナイフが肩へ当たり、弱くなっていた青いラインが再び点滅した。
ミレアは動きを止めず、そのまま背後へ刃を振り抜く。
ザンッ!
「ぐっ……!」
背後から声が漏れる。
ドサッ。
小柄な男が床へ倒れた。
柄を握るミレアの手が震えた。
◇
畑の奥にある丘。
丘のあちこちが銃弾でえぐれ、土煙が上がっていた。
ブラムの背後に、十の紫色の光が浮かんでいる。
八つの光から細い銃身が伸び、オリヴィアへ向いた。
残る二つの光では、ひと回り太い中型の砲身が生成されつつあった。
ダンッ! ダンッ! ダンッ!
オリヴィアのブーツに青い光が走る。
作物の間から飛び出し、三発の銃弾をかわした。
地面で土が跳ねる。
撃ち終えた三本の銃身が、紫の光とともに消えた。
別の二本がオリヴィアを追う。
ダンッ! ダンッ!
オリヴィアは左手に刃を持ったまま、右手の長い筒に付いたボタンを押した。
「ガレリア・起動」
長い筒の外装が開き、花模様の傘が広がった。
傘の表面を、青い光が覆う。
バギィンッ! バギィンッ!
二発の銃弾が青い光に弾かれた。
二本の銃身も、撃ち終えると消えた。
オリヴィアは傘をたたみ、ブーツの加速で丘を駆け上がった。
傘の先端に赤い光が集まる。
ドンッ!
一発の弾丸が放たれた。
ブラムがとっさに身をかわす。
弾丸はその後ろで生成途中だった、中型の砲身を包む紫の光へ当たった。
紫の光が弾け、中型の砲身が一つ消える。
「仕組みは分かりました」
オリヴィアのブーツが青く光った。
ブラムの背後へ、新たな紫色の光が浮かぶ。
細い銃身が次々と生成され、オリヴィアへ向いた。
その奥では、残る一つの中型の砲身が生成を続けている。
左右へ広がった銃口が、オリヴィアを追って内側へ向く。
照準が合うより先に、オリヴィアがブラムの前まで踏み込んだ。
刃を下から斬り上げる。
ブラムが上体を引き、刃先が胸元をかすめた。
細い銃身が、オリヴィアの胸元へ向く。
傘が開いた。
ダンッ!
弾丸が傘に弾かれる。
オリヴィアは傘の先端をブラムへ向け、右手の親指でスイッチを切り替える。
先端が開き、いくつもの穴が現れる。
穴の奥に赤い光が灯った。
ババババンッ!
散弾がブラムへ放たれた。
「ぐっ……!」
ブラムはとっさに後ろへ飛んだ。
数発が腕と脚へ当たり、体勢が崩れる。
ブラムが着地すると同時に、中型の砲身がオリヴィアへ向いた。
オリヴィアのブーツに青い光が走る。
ドゴォンッ!!
砲弾が、直前までオリヴィアの立っていた場所へ着弾した。
オリヴィアは爆風に押されながら後ろへ飛び、斜面へ着地する。
砲撃を終えた中型の砲身が消えた。
オリヴィアの隊服で青いラインが激しく点滅し、そのまま弱い光へ変わった。
「げほっ……」
「これで、中型の砲身は残っていませんね」
刃と傘を構え直す。
「これ以上、作業小屋には一発も撃たせませんよ」
ブラムの背後に、再び十の紫色の光が浮かんでいた。




