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AEGIS√Ⅰ夜明けには遠く

 作業小屋の開け放たれた入口から、三本の暗い農道が伸びていた。道の間には、人の背丈ほどに育った作物が続いている。


 小屋の左手には、少し離れて道具保管庫が建っていた。


 作業小屋の中では、農具や木箱が壁際へ寄せられ、中央が空いている。奥には小さな部屋が一つあった。


 両手を後ろで拘束されたホンが、椅子に座っていた。


 緑色のカッパを着たまま、その両脇を二人のAEGIS隊員が固めている。


「護送馬車は、まだですか?」


 ホンが入口を見る。


「座ってろ」


 ハインが答えた。


「座ってますよ」


「なら黙って待て」


「移送先くらい、教えてもらえませんかね」


「着けば分かる」


「そうですか」


 ホンが背もたれへ身体を預けた。


「いやあ、私一人にずいぶんな人数ですね」


 ハインと数人の隊員が、小屋の入口を固めていた。


 オリヴィアと学院生たちは、壁際や小屋の奥に分かれて護送を待っている。


 外にも、入口の前と左右の農道へ隊員が配置されていた。


「お前が心配することじゃない」


「心配というより、申し訳なくて」


 ハインがホンを睨む。


 ホンは口を閉じた。


 外を確認していたリアナとクラネスが戻ってくる。


「周囲に異常はありません」


「馬車は?」


「まだ見えていません」


 ハインが端末を確認し、入口の外へ目を向けた。


「予定の時刻を過ぎてる。端末で問い合わせても返事がない。来たらすぐに出る。全員、そのまま待機だ」


「はい」


 ソラが入口から農道を見る。


 三本の道の先には、畑と低い丘が続いていた。


「まだ見えない?」


 ミレアが隣から農道をのぞく。


「うん。道の向こうにもいない」


「途中で何かあったのかもしれんのう」


「何かあっても、この人数なら問題ないっすよ」


 ソラは入口の向こうへ目を凝らした。


 中央の農道の先にある丘。その斜面の縁から、紫色の光が持ち上がった。


 一つ。


 二つ。


 続けて、その左右にも現れる。


 十の紫色の光が、斜面の向こうから並んで上がってくる。


 その一つ一つに、黒い砲身が浮かんでいた。


「先生、あれ……!」


 オリヴィアが、ソラの指した方を見る。


 十の砲口が、作業小屋へ向けられていた。


「全員、伏せて!」


 十の砲身が、一斉に火を噴いた。


 ドドドドドドォンッ!!


 一発が小屋の前へ着弾した。


 土煙と爆風に呑まれ、入口を固めていた隊員たちの身体が跳ね上がる。


 別の砲弾が、左の農道をえぐった。


 残る砲弾も、小屋とその周囲へ降り注ぐ。


 ドォオオオオオンッ!!


 衝撃が床を突き上げた。


 壁が砕け、屋根が内側へ崩れ落ちる。


「――っ!」


 ソラの身体が床を転がった。


 木材と土煙が視界を埋める。


 隊服を走る青い光が、激しく点滅していた。


 耳鳴りだけが残り、周囲の音が遠い。


 誰かがソラの腕を掴んだ。


「ソラ、立てるかの!」


 リーゼだった。


 口は動いているのに、声がうまく聞こえない。


 ソラは手をつき、身体を起こした。


 崩れた屋根の向こうに、夜空が見えた。


 横倒しになったホンを、リノが身体でかばっている。


 少し離れた場所には、ホンの両脇にいた二人の隊員が倒れていた。


「ホンは!」


 耳鳴りの向こうで、ハインが叫んだ。


「生きてるよ!」


 リノがホンの上から身体を起こした。


 二人の隊員の首元へ順に手を当て、ハインへ首を横に振る。


「あまり無理をするな!」


「ホンに死なれちゃ終わりでしょ!」


 入口の前や農道には、砲撃で飛ばされた隊員たちが倒れている。


 ハインが声を張り上げた。


「リノ、ネア! 状況把握を急げ! 動ける者を入口へ集めろ!」


「了解!」


「了解っす!」


「クラネス、リアナ! 周囲の負傷者を確認しろ! 奥まで行くな!」


「はい!」


 オリヴィアも学院生たちへ指示を出す。


「学院生の皆さんは、近くの負傷者を小屋の奥へ運んでください!」


「ソラ、こっちに来て! エリオが!」


 ミレアの声に、ソラが振り向く。


 積み上げられていた木箱が崩れ、エリオの右脚を挟んでいた。


 エリオが歯を食いしばり、両手で木箱を押し上げようとしている。


「エリオ、しっかりしろ!」


 ソラが駆け寄り、ミレアと一緒に木箱へ手を掛けた。


 ライゼルも反対側へ回る。


「三人で上げるぞ! 一、二、三!」


 三人が一斉に力を込めた。


 木箱が持ち上がり、挟まれていた右脚が抜ける。


「ぐあっ……!」


 エリオの右脚は、膝の下から不自然な方向へ曲がっていた。


 裂けた隊服から血が流れ出している。


「おい、これ……どうすりゃいいんだ!」


 ライゼルの手が止まる。


「小屋の奥へ運んでください!」


 ルーナが駆け寄る。


「脚は私が支えます。二人は身体を持って!」


 ソラとライゼルがエリオの身体を持ち上げ、ルーナが傷ついた脚を下から支える。


 小屋の奥では、別の隊員が救急鞄を開き、運び込まれた負傷者の手当てをしていた。


「包帯と固定具をください!」


 隊員が救急鞄から道具を取り出し、ルーナへ渡す。


 ルーナはエリオのそばへ膝をついた。


「そこに寝かせて!」


 ソラたちが、エリオを床へ寝かせる。


 ルーナはエリオの太ももへ鎮痛剤を打ち、傷口へ止血布を当てた。


 そのまま脚の両側へ固定具を添え、包帯を巻いていく。


「すげぇ……」


 ライゼルが、その手元を見ていた。


「ほら! 見てないで救助を急ぐわよ!」


「あ、ああ!」


 その近くで、リーゼが壁に打ち付けられたヴェインの頬を叩いていた。


「ほれ、しっかりせい。意識を保つのじゃ」


 ヴェインがリーゼの手首を掴む。


「いてぇよ……」


「それだけ元気があれば大丈夫じゃな」


 ドォンッ!!


 途切れていた砲声が、再び小屋を揺らした。


 追撃の砲弾が、作業小屋の正面へ落ちる。


 爆風が、入口の前に倒れていた隊員たちを呑み込んだ。


 土が高く吹き上がる。


 煙が薄れても、倒れた隊員たちは誰一人動かなかった。


「このままでは、ここも持たんのう……」


 リーゼが正面を見る。


 作業小屋の前から伸びる三本の農道。


 中央の農道の先にある低い丘の斜面に、三人が立っていた。


 三人とも、鉄灰色の服を着ている。


 中央には、ほかの二人よりひと回り大きな男。


 その背後に、紫色の光が浮かんでいた。


 さらに斜面の上へ、十人の男たちが姿を現す。


 その手には、青い光の線が走る漆黒の刃。


 中央の男が右腕を上げた。


「諸君。目の前にいる敵を一人残らず殲滅せよ」


 少年と少女が右拳を胸へ当てる。


「ハッ! ブラム隊長!」


 ブラムの腕が振り下ろされた。


 二人が斜面を駆け下りる。


 十人の男たちも漆黒の刃を手に、そのあとへ続いた。


「狙いはホンだ!」


 ハインが迫る敵から目を離さず、後ろへ叫ぶ。


「リノ、応援要請は!」


「もう済ませてあるよ!」


 入口へ集まった隊員は九人。外へ出たリアナとクラネスは、まだ戻っていなかった。


「迎え撃つ! 動ける隊員は前へ出て隊列を組め!」


 ハインとネア、動ける隊員たちが入口の前へ走る。


「後ろへ回せる隊員はいない! 学院生は負傷者とホンの護衛を頼む!」


 オリヴィアが、農道の先にある丘の斜面を見る。


 そこには、ブラムだけが残っていた。


 その周囲に、再び紫色の光が浮かび始める。


 光の中から、黒い砲身が一本ずつ伸びてきた。


「ハインさん、あの砲撃手を止めないと、また撃たれます」


 オリヴィアは刃を左手に構え、背負っていた長い筒を右手で外した。


「あの砲撃手は、私が止めます」


「一人で行く気か」


「今動ける中で、あの丘まで届くのは私だけです」


 ソラがオリヴィアへ駆け寄る。


「先生、待ってください」


「ソラくんは、ハインさんの指示に従ってくださいね」


「あんな砲撃をする相手に、一人で行くんですか?」


「砲撃を止めないと、ここにいる全員が狙われます。ソラくんは、負傷者とホンさんをお願いしますね」


 オリヴィアのブーツに青い光が走った。


 そのまま小屋の外へ飛び出す。


「先生!」


 オリヴィアは振り返らなかった。


 作物が左右へ大きく揺れる。


 畑を駆け抜け、奥に残るブラムへ向かっていった。


「ソラ、下がれ!」


 ガキィンッ!


 ハインが、迫っていた男の刃を受け止めた。


「前を見ろ!」


 ソラが正面へ向き直る。


 男たちは、すでに作業小屋の前まで迫っていた。


 三人が正面から押し込み、左右の畑でも作物が大きく揺れる。


「左右へ回ったぞ!」


 ハインが叫ぶ。


 作物をかき分け、一人の男が飛び出した。


 ガキィンッ!


 ハインが振り下ろされた刃を弾く。


「狙いはホンだ! 奥へ行かせるな!」


「学院生はホンと負傷者を警護! 隊員は左右へ回らせるな! 正面へ押し返せ!」


「了解っす!」


 ネアが右から迫る刃を受け止め、リノも反対側から抜けようとした男の前へ入った。


 ほかの隊員たちが二人の間を埋める。


 ガキンッ!


 ギィンッ!


 小屋の入口で、十数本の漆黒の刃がぶつかり合った。



 作業小屋の左手にある道具保管庫から、リアナとクラネスが一人の隊員と出てきた。


 外では、別の隊員が三人を待っていた。


「助かった。身動きが取れなくて」


「気にするな。大きなけががなくて何よりだ」


 クラネスが周囲を見渡す。


「……状況は最悪だな」


 外で待っていた隊員が、作業小屋の方を見る。


 入口の前では、隊員と襲撃者が入り乱れていた。


 銃声と、刃がぶつかる音が途切れない。


「三人とも、こっちだ!」


 隊員が走り出そうとする。


 その背後で、背の高い作物が揺れた。


「後ろです!」


 リアナが銃を抜く。


 鉄灰色の服を着た、小柄な黒髪の少女が作物の間から飛び出し、隊員の脇腹へ拳を叩き込んだ。


 ドッ!


「ぐっ……!」


 拳を受けた場所から、隊服の上へ光るひびが走った。


 脇腹から胸へ、一気に広がっていく。


 隊服の青い光が点滅した。


 リアナが少女へ銃口を向ける。


 ドンッ! ドンッ!


 少女が頭を下げ、一発目をかわす。


 続く一発には上体を反らし、すぐに体勢を戻した。


 ひびの走った脇腹へ、左拳を打ち込む。


《ラグレス》


 バリィンッ!


 隊員の身体が砕けた。


「なっ……」


 クラネスが足を止める。


 頭も、腕も、胴も、透明な破片となって土の上へ散っていく。


 リアナの銃口が一度揺れた。


 助け出された隊員が、砕けた仲間へ向かおうとする。


「行くな! 構えろ! あの少女を止めるぞ!」


 少女は三人の間で、両手を下ろしたまま動かなかった。


 肩までの黒髪の下で、大きな目が鋭く三人を追っている。


 土の上に散った透明な破片から、色が戻り始める。


 千切れた肉。


 押し潰された臓器。


 破片の間から血が流れ、土へ広がった。


 リアナは銃を握り直し、少女の左へ回る。


「拳を受けないで! まだ何をされたのか分かりません!」


「俺が前に出る。二人は援護してくれ」


 クラネスが正面で刃を構え、隊員が少女の右へ回った。


 少女が両拳を上げる。


「次は誰?」


 クラネスが斬り込んだ。


 少女は刃をかわし、クラネスの手首を蹴り上げる。


 刃が跳ね上がった。


 少女が身体をひねり、クラネスの胸へ拳を突き出す。


 リアナが引き金を引いた。


 ドンッ!


 少女が横へ跳び、弾丸をかわす。


 弾丸はその脇を抜け、後ろの土をえぐった。


「……うっざ」


 リアナがもう一度、少女へ銃口を向ける。


 その手元が、白く照らされた。


 顔を上げると、白い光が音もなく三人の頭上へ落ちてきていた。


 すでに、手を伸ばせば届く高さまで迫っている。


「離れろ!」


 三人が散る。


 ボンッ!


 逃げ遅れた隊員を、白い光が巻き込んだ。


 隊員の身体が土の上へ投げ出される。


「くっ……!」


 隊員が両手をつき、身体を起こそうとする。


 少女は倒れた隊員へ踏み込み、胸へ右拳を叩き込んだ。


 ドッ!


 拳の跡から、胸と腹へひびが走る。


 続けて、左拳を同じ場所へ打ち込んだ。


《ラグレス》


 バリィンッ!


 隊員の胸から上が、透明な破片となって崩れた。


「クラネスさん!」


 クラネスはすでに少女へ踏み込んでいた。


 クラネスが刃を振り上げる。


 その進路に、数個の白い光球が浮かんでいた。


「っ!」


 クラネスはとっさにブーツを起動し、横へ跳ぶ。


 少女が畑へ顔を向けた。


「トリス! 邪魔しないで!」


 少し離れた場所に、鉄灰色の服を着た少年が立っていた。


 濃い眉の下にある大きな目が、こちらを見ている。その周囲には、いくつもの白い光球が浮かんでいた。


「ごめん、バレッサ。僕は任務に戻るね」


 トリスと呼ばれた少年は、正面の作業小屋へ歩き出した。


「……気持ち悪い奴」


 バレッサが吐き捨て、クラネスたちへ向き直る。


「さあ、仕切り直しよ」


 畑の向こうでは、いくつもの白い光球がトリスとともに作業小屋へ向かっていた。



 ハインは襲撃者の刃を受け流し、空いた腹へ蹴りを入れた。


 男の体勢が崩れたところへ、刃を振り抜く。


 ザシュッ!


 男が地面へ倒れた。


「はぁ……はぁ……」


 ハインは刃を構えたまま、周囲を見る。


「こいつら、手ごわいな」


 崩れた屋根の向こうから、白い光球がまとまって降りてくる。


 正面の乱戦の中にも、同じ光球がいくつも浮かんでいた。


 ハインが学院生たちへ声をかけようと、後ろを振り向く。


 ボンッ! ボンッ! ボンッ!


 後方で爆発が重なり、土煙が学院生たちを隠した。


「後方は!」


 返事がない。


 ハインが土煙の向こうへ目を凝らす。


「被害ありません!」


 ミレアの声が返ってきた。


 ハインが正面へ向き直る。


 白い光球が襲撃者たちの間を抜け、隊員へ迫っていた。


 ボンッ!


 爆発を受けた隊員が、爆風に押されて後ずさる。


「なんなんすか、これぇ!」


 ネアが光球から距離を取りながら、襲撃者の刃を受け止める。


「ハインさん!」


 一人の隊員が、正面の畑を指した。


「中央の畑に、Code保持者と思われる少年が――」


 ドォンッ!!


 隊員の前で、いくつもの光球がまとめて弾けた。


 その身体が吹き飛び、地面へ叩きつけられる。


 畑の中から、さらに白い光球が左右へ広がりながら迫ってきた。


 光球へ気を取られた隊員へ、襲撃者が斬り込む。


 隊員が刃を受け止めた直後、その背後で光球が弾けた。


 ボンッ!


 また一人、爆発に巻き込まれる。


 前線が押し下げられ、空いた場所へ襲撃者たちが踏み込んできた。


「まずい、抜かれる!」


 ハインが後方へ叫ぶ。


「動ける奴、前のカバーに入ってくれ!」


「俺たちが行きます!」


 ヴェインとライゼルが同時に奥から飛び出した。


 二人の刃が起動する。


 迫っていた襲撃者へ、正面からぶつかった。


 ガキィンッ!


 ギィンッ!


 二本の刃が、押し込んできた敵の足を止める。


「ハインさん、俺たちもやれます!」


「……頼む! 無理に倒さなくていい! 抜かせるな!」


「おう!」


 バンッ! バンッ!


 ソラの弾丸が、迫る光球を二つ撃ち抜いた。


 白い光が空中で弾ける。


 ソラは銃を片手に持ち替え、端末を畑の中にいる少年へ向けた。


 表示された情報を確かめ、ハインへ叫ぶ。


「ハインさん! Codeスキャンの結果が出ました!」


「Codeは《ピネシア》。出力はレベル2です!」


「分かった! 保持者を押さえる!」


「リノ!」


 バンッ!


 リノが銃を撃つ。


 同時に、左手の刃で襲撃者の斬撃を受け止めた。


 さらに一発。


 バンッ!


 襲撃者が後ろへ下がる。


「なんですか、先輩!」


「俺はあの少年を押さえに行く。ここを頼む!」


「いや、絶対私が適任じゃないですよね!?」


「ほかに動かせる奴がいない。頼んだ!」


「あーもう、分かりましたよ!」


 リノが正面へ向き直る。


「ネア! 学院生のフォローお願い!」


「了解っす!」


「ハインさん! 僕も行きます!」


 ソラが銃を構えたまま、ハインの横へ出る。


「お前をあいつのところまで連れていくわけにはいかない」


「僕なら、離れた場所から光球を落とせます。ハインさんが近づく隙も作れます」


 畑の中から、新たな光球が浮かび上がる。


「このまま撃たれ続けたら、防衛線がもちません」


 ハインがソラを見る。


「……迷ってる時間はないな。ソラ、ついてこい」


「はい!」


 リーゼは崩れた梁へ足を掛けた。


 ブーツを起動し、残った屋根へ上がる。


 そこから左右の畑を見渡す。


「ハインさん!」


 屋根の上から、リーゼが叫んだ。


「左側で、リアナさんとクラネスさんが押されておる!」


 リーゼが左の畑へ目を向ける。


「二人が倒れれば、こちらの防衛線も崩れる。わらわが加勢に行くぞ!」


「一人で行くつもりか!」


「今、ほかに誰を回せるというのじゃ!」


「……分かった。俺の責任で許可する。行け!」


「任せておくのじゃ!」


 リーゼはブーツを起動し、残った屋根の端からリアナたちのもとへ跳んだ。



 正面の防衛線。


 AEGIS隊員が、首元を黒い布で覆った男と刃を交えていた。


 ギィンッ!


 隊員が男の刃を押し返す。


 さらに踏み込み、男を後退させた。


「やべぇな。きついって……」


《オルメト》


 隊員の背後で、大きな石が浮き上がる。


 次の瞬間、勢いよく飛んだ。


 ガンッ!


「ぐっ……!」


 握っていた刃が手を離れる。


 刃は地面へ落ちる寸前で止まり、宙に浮いた。


 そのまま向きを変え、切っ先が隊員へ向く。


 ザシュッ!


 刃が隊員の喉へ突き刺さり、その身体が地面へ倒れる。


 男は柄をつかみ、喉から引き抜く。


「本物の刃、げっとぉ」


「おい、お前」


 男が顔を上げる。


 ヴェインが正面から斬り込んだ。


 ガキィンッ!


 二人の刃がぶつかる。


「人を殺して、ふざけてるのか」


「殺し合いなんて、こんなもんだよ。僕ちゃん」


「ふざけんな!」


 ヴェインが男の刃を押し返し、そのまま踏み込む。


 男が奪った刃を手放した。


 刃は地面へ落ちず、そのままヴェインの背後へ回り込む。


「ヴェイン!」


 ガギィンッ!


 ライゼルが横から飛び込み、迫っていた刃を受け止めた。


「何やってんだ! 周り見ろ!」


「Codeは見た……。《オルメト》だ」


「おっ、よく分かるねぇ」


「こんなの、よくあるCodeだろ」


 男が右手の偽造された刃を手放した。


「俺が持てる重さなら――」


 刃は地面へ落ちず、奪った刃の隣へ浮かぶ。


「ほら、この通り。地味もいいとこさ」


 空いた右手が腰へ伸びる。


 鞘から抜かれたのは、幅広く湾曲した片刃の剣だった。


 男が剣を構える。


「やっぱり、使い慣れた剣じゃないとねぇ!」



「こっち、押し込まれてるっすよ!」


 ネアが銃を撃つ。


 ドンッ!


 男が短く息を吐いた。


 ネアが撃った弾丸が勢いを失い、男の足元へ落ちる。


「保持者も混ざってるっすよ!」


 男の後ろから、別の襲撃者が刃を振り上げて迫ってきた。


「見れば分かる! 右を詰めて!」


 リノが叫び、ネアの横へ入る。


 二人の男が同時に斬りかかった。


 ネアとリノが、それぞれ刃を受け止める。


 その隙に、小柄な男が二人の間を抜けた。


「あっ、やばいっす! 抜かれたっす!」


 ネアが振り返る。


「ミレアちゃん! 一人抜けたっす!」



 小屋の奥。


 拘束されたホンが、ミレアを見る。


「この拘束、解いてくれないかなぁ。もう、やばいと思うんだけど」


「大丈夫です」


 前方から、ネアの叫ぶ声が聞こえた。


 ミレアが入口へ目を向ける。


「下がっていてください」


「いや、でも……」


「ホンさんは奥の部屋で、みんなと一緒にいてください」


「マジかよ……」


 ホンが奥の部屋へ入っていく。


 ミレアは刃を起動した。


 鍔から漆黒の刃が伸び、青いラインが走る。


 正面から響く銃声と金属音の中、刃を構えたまま入口と物陰へ目を走らせた。


 シュッ!


 短いナイフが飛んできた。


 キンッ!


 ミレアが刃で叩き落とす。


 ナイフを弾いた隙に、小柄な男が短剣の間合いまで踏み込んでいた。


「――まずい!」


 短剣がミレアの脇腹を捉える。


 ガギィンッ!


 隊服の青いラインが激しく点滅した。


 短剣の刃が、脇腹の手前で止まる。


 男がすぐに離れた。


 点滅が収まったあとも、青い光は先ほどより弱くなっていた。


 ミレアが短く息を吸う。


 その瞬間、男が床を蹴った。


 短剣が下から走る。


 ギィンッ!


 ミレアが刃で受け止める。


 男はすぐに身体を引いた。


 シュッ!


 右手から放たれたナイフが、ミレアの顔へ迫る。


 ミレアが首を傾けてかわす。


 シュッ!


 二本目のナイフが右側から飛んできた。


 その向こうに、右へ回り込む男の影が見えた。


 ミレアはナイフから目を離し、身を低くして身体を回す。


 ガギィンッ!


 ナイフが肩へ当たり、弱くなっていた青いラインが再び点滅した。


 ミレアは動きを止めず、そのまま背後へ刃を振り抜く。


 ザンッ!


「ぐっ……!」


 背後から声が漏れる。


 ドサッ。


 小柄な男が床へ倒れた。


 柄を握るミレアの手が震えた。



 畑の奥にある丘。


 丘のあちこちが銃弾でえぐれ、土煙が上がっていた。


 ブラムの背後に、十の紫色の光が浮かんでいる。


 八つの光から細い銃身が伸び、オリヴィアへ向いた。


 残る二つの光では、ひと回り太い中型の砲身が生成されつつあった。


 ダンッ! ダンッ! ダンッ!


 オリヴィアのブーツに青い光が走る。


 作物の間から飛び出し、三発の銃弾をかわした。


 地面で土が跳ねる。


 撃ち終えた三本の銃身が、紫の光とともに消えた。


 別の二本がオリヴィアを追う。


 ダンッ! ダンッ!


 オリヴィアは左手に刃を持ったまま、右手の長い筒に付いたボタンを押した。


「ガレリア・起動」


 長い筒の外装が開き、花模様の傘が広がった。


 傘の表面を、青い光が覆う。


 バギィンッ! バギィンッ!


 二発の銃弾が青い光に弾かれた。


 二本の銃身も、撃ち終えると消えた。


 オリヴィアは傘をたたみ、ブーツの加速で丘を駆け上がった。


 傘の先端に赤い光が集まる。


 ドンッ!


 一発の弾丸が放たれた。


 ブラムがとっさに身をかわす。


 弾丸はその後ろで生成途中だった、中型の砲身を包む紫の光へ当たった。


 紫の光が弾け、中型の砲身が一つ消える。


「仕組みは分かりました」


 オリヴィアのブーツが青く光った。


 ブラムの背後へ、新たな紫色の光が浮かぶ。


 細い銃身が次々と生成され、オリヴィアへ向いた。


 その奥では、残る一つの中型の砲身が生成を続けている。


 左右へ広がった銃口が、オリヴィアを追って内側へ向く。


 照準が合うより先に、オリヴィアがブラムの前まで踏み込んだ。


 刃を下から斬り上げる。


 ブラムが上体を引き、刃先が胸元をかすめた。


 細い銃身が、オリヴィアの胸元へ向く。


 傘が開いた。


 ダンッ!


 弾丸が傘に弾かれる。


 オリヴィアは傘の先端をブラムへ向け、右手の親指でスイッチを切り替える。


 先端が開き、いくつもの穴が現れる。


 穴の奥に赤い光が灯った。


 ババババンッ!


 散弾がブラムへ放たれた。


「ぐっ……!」


 ブラムはとっさに後ろへ飛んだ。


 数発が腕と脚へ当たり、体勢が崩れる。


 ブラムが着地すると同時に、中型の砲身がオリヴィアへ向いた。


 オリヴィアのブーツに青い光が走る。


 ドゴォンッ!!


 砲弾が、直前までオリヴィアの立っていた場所へ着弾した。


 オリヴィアは爆風に押されながら後ろへ飛び、斜面へ着地する。


 砲撃を終えた中型の砲身が消えた。


 オリヴィアの隊服で青いラインが激しく点滅し、そのまま弱い光へ変わった。


「げほっ……」


「これで、中型の砲身は残っていませんね」


 刃と傘を構え直す。


「これ以上、作業小屋には一発も撃たせませんよ」


 ブラムの背後に、再び十の紫色の光が浮かんでいた。


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