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AEGIS√Ⅱ灯の消えぬうちに

 正面の畑。


 白い光球が、真っすぐソラたちへ迫ってきた。


 ソラが銃を向けた。


 バンッ!


 弾丸が光球へ当たり、白い光とともに小さな爆発が起きた。


「ハインさん! 真っすぐ来ます!」


「近づく前に落とせ!」


 別の光球が向かってくる。


 今度は途中で大きく曲がり、速さを落とさないままハインの背後へ回った。


「この速さなら――」


 バンッ!


 ハインが振り返りざまに撃ち、背後まで来ていた光球を弾けさせた。


 畑の向こうで、トリスがソラへ指を向ける。


「無駄ですよ。おとなしく死んでください」


 トリスの周囲に、新しい光球が四つ現れた。


 同じ間隔で横一列に並び、ソラへ向かってくる。


 ソラが左端の光球へ銃口を向ける。


 バンッ!


 一つが弾けた。


 白い光の向こうから、残る三つが間隔を崩さず進んでくる。


 ソラが次の一つへ銃口を向けた時には、もう目の前まで迫っていた。


 三つ同時に白く光る。


 ドォンッ!


 重なった爆発が畑の土をえぐり、巻き上がった土がソラの隊服へ降りかかった。


「ぐっ……!」


 ソラは腕で顔を守りながら、爆風の外へ下がった。


「ハインさん! 三つ重なると、爆発も大きくなります!」


 ソラが銃を構え直す。


「一つずつ落としながら本体へ近づくぞ。左右から挟む!」


 ソラが右へ走り、ハインは左へ開いた。


 新しく向かってきた三つの光球も、二人を追って左右へ分かれる。


 ハインへ向かった一つが、ほかの二つから離れた。


 バンッ!


 光球が畑の上で弾ける。


 ソラも正面から来た二つへ続けて銃を撃った。


 バンッ! バンッ!


 二つの光球が、作物の間で続けて弾けた。


 二人は足を止めず、トリスとの距離を詰めていく。


 だが、撃ち落とすそばから、トリスの周囲へ新しい光球が浮かんだ。


 一つ、二つと増え続け、やがてその背後に十二の光球が並ぶ。


「減らない……」


「撃つのを止めるな!」


 十二のうち、六つが動き出した。


 三つがソラを追い、残る三つがハインへ向かう。


 あとの六つは、トリスの周囲に浮かんだままだった。


 ソラは右へ走りながら、追ってくる三つへ銃口を向けた。


 一つずつ狙いを変え、近づかれる前に撃ち落としていく。


 バンッ! バンッ! バンッ!


 白い爆発が、ソラの後ろで間を空けて続いた。


 ハインもブーツを起動して加速し、畑の中を大きく回った。


 三つの光球が、同じ道を少し遅れて追ってくる。


 ハインが走りながら振り返り、一つずつ撃ち抜く。


 バンッ! バンッ! バンッ!


 三つ目が弾けるのと同時に、トリスの指先が動いた。


 周囲に残っていた光球の一つが、作物の上を横切ってハインの進む先へ回り込む。


「――っ!」


 正面に現れた光球が、白く光った。


 ボンッ!


 爆発を正面から受け、ハインの身体が畑の中を転がった。


 隊服の青いラインが激しく点滅し、光が弱まっていく。


 ハインは受け身を取り、片膝をついた。


「ハインさん! 大丈夫ですか!」


 ソラがブーツを起動し、ハインへ駆け寄る。


「ああ、大丈夫だ!」


 ハインが立ち上がり、もう一度ブーツを起動した。


「ソラ! 気をつけろ! 今のは先回りしてきた!」



 作業小屋の左手。道具保管庫の前。


 クラネスの刃が正面から迫る。


 バレッサは左へかわしたが、返された刃先までは避けきれず、鉄灰色の服が浅く切れた。


 一歩下がった足元を、リアナの弾丸がかすめる。


「あんたが一番うっとうしいのよ」


 バレッサがリアナへ向きを変え、土を蹴った。


 リアナの懐へ入ったところへ、横からリーゼが駆け込んでくる。


「リアナさん!」


 バレッサの拳へ刃を合わせた。


 ガギィンッ!


「なんじゃ、その拳。硬いのう」


 リーゼが押し返される。


「また増えた。うざすぎ」


「リーゼちゃんまで、どうして……」


「わらわが助けに来たから、もう安心じゃ」


 クラネスが二人の横へ並んだ。


「話はあとだ。まず、あいつを止める」


 刃を構え、リーゼを見る。


「リーゼ。一度殴られた場所へ、二発目をもらうな。あの二人は、それで砕かれた」


「承知した」


 リアナは銃を左手へ持ち替え、腰の刃を起動した。


 鍔から漆黒の刃が伸び、青いラインが走る。


「早くかかってきなさいよ」


 バレッサが両拳を上げた。


 左右から斬り込む二人の刃を、バレッサが拳で弾いた。


 ギィンッ! ギィンッ!


 二人の間を抜けてきた弾丸も、身体をひねってかわす。


 クラネスとリーゼが間合いを取り直した。


「三人がかりでも、簡単にはいかないか」


「何人来ても同じよ」


 バレッサが腰の懐中時計へ目を落とした。


 顔を上げた時、その目はリアナへ向いていた。


 ドンッ!


 地面を蹴り、一気に迫る。


「速い……!」


 右拳がリアナの胴へ伸びる。


 リアナは右手の刃を横にし、ぎりぎりで受け止めた。


 ギィンッ!


 反対の拳が刃の下を抜ける。


 ドンッ!


「がっ……!」


 拳がリアナの腹へ入った。


「リアナ!」


 クラネスが横から斬り込む。


 バレッサは刃をかわし、後ろへ下がった。


 リアナが腹を押さえる。


 拳を受けた場所から、光るひびが広がっていた。


「問題ないです……」


 右手の刃を下げ、左手の銃を構え直す。


「まだ動けます」


「無理はするな。後ろから援護してくれ」


 クラネスがブーツを起動した。


「うぉおおおっ!」


 一気にバレッサへ斬り込む。


 その動きに合わせ、リーゼも反対側から飛び込んだ。



 作業小屋の奥。


 ホンが奥の部屋から顔をのぞかせ、床に倒れた襲撃者を見る。


「ずいぶん、ひどいことになっていますね」


「他人事みたいに言わないで」


 入口の向こうでは、いくつもの光が弾けていた。


 銃声と刃のぶつかる音が、作業小屋の中まで響いてくる。


「逃げませんよ。もう、覚悟は決めましたから」


「そこから動かないで」


 ホンは奥の部屋へ引っ込んだ。


 ミレアは入口へ刃を向け直した。



 作業小屋の正面。


「おいおい、AEGISさんよ。どうした、どうした?」


 浮いている刃が、次々と襲いかかる。


 ヴェインとライゼルが受け流している間にも、男は二人の隙を縫って片刃の剣を振るった。


「ヴェイン!」


「オラァッ!」


 剣がヴェインの胴へ入る。


 ガギィンッ!


 男の刃が隊服に弾かれ、青いラインが激しく点滅した。


「その服に、何度も命を助けてもらってんなぁ」


「ずるいよな。いいよなぁ」


 ライゼルが銃を向けた。


 ドンッ! ドンッ! ドンッ!


 男は浮いている刃を動かしたまま、銃口の向きに合わせて身体をずらす。


「おい。Codeを使い始めたばかりの奴と、一緒にすんなよ」


 ライゼルがもう一発撃つ。


 ドンッ!


 男は弾丸をかわし、そのままライゼルの懐へ入った。


 腹へ蹴りを入れる。


 ドンッ!


「ぐっ……!」


 ライゼルの身体が後ろへ飛ぶ。


「銃口を見りゃ、どこへ撃つかくらい分かるんだよ」


 ヴェインとライゼルの隊服を走る青い光は、どちらも弱くなっていた。


「つまんねぇの。そろそろ終わりにすっか」


 男が刃を向ける。


 ドンッ!


 浮いていた偽刃の柄が撃ち抜かれ、回転しながら地面へ落ちた。


「二人とも、けがはないっすか?」


 ヴェインが振り向いた。


「ネア……さん」


 ネアが銃を構えたまま、二人を見る。


「二人とも、防衛線へ回ってほしいっす」


「俺たちは、まだやれるって!」


 ライゼルが立ち上がる。


「あなたたちの駄々に付き合ってる暇はないの」


 ネアはライゼルから目をそらさない。


「私が抜けた分、向こうは押されてる」


「……」


「迷惑をかけに来たの? 早く行きなさい」


 ヴェインが歯を食いしばる。


「あとは、よろしくお願いします!」


 ヴェインが走り出し、ライゼルも男をにらんだままそのあとを追った。


「ごめんなさいね。見苦しいところを見せて」


「あぁ? いいぜ。この偽物もぶっ壊されたしな」


 男が残った刃を浮かせたまま、片刃の剣を肩へ乗せる。


「どうせ、お前が持ってる正規品の刃をもらうからよ」


「そう」


 ネアが銃を下ろし、刃を起動した。


「なら、奪ってみればいい」



 ブラムの背後で、十の紫色の光が開いた。


 中から伸びた細い銃身が時間をずらして火を噴き、オリヴィアの進路へ弾丸を重ねていく。


 ダダダダダッ!


 撃ち終えた銃身が消えるそばから、新しい紫色の光が浮かぶ。


 次の銃撃まで、ほとんど間がない。


 オリヴィアはブーツの出力を上げ、地面を滑るように移動しながら、傘の先端をブラムへ向けた。


 ダンッ!


 ブラムが横へかわす。


 ダンッ! ダンッ!


 続けて放たれた赤い弾もかわし、十の銃身をオリヴィアへ向け直した。


 ダダダダダッ!


 オリヴィアは傘を開き、弾丸を受けながら横へ走る。


「こちらが数発撃てば、何十倍にもなって返ってきますね」


 傘を閉じ、先端からもう一発放つ。


 ダンッ!


 ブラムが上体を引いてかわした。


 消えた銃身はすぐに補われるが、十一本目は現れない。


 オリヴィアは作業小屋とブラムの間から外れず、傘の先端を向け続けた。


 ブラムが足を止める。


 十の銃身も、その背後で動きを止めた。


「見事だ。若きAEGISの隊員よ」


「ありがとうございます」


 オリヴィアも距離を保ったまま、傘の先端を向ける。


「君を倒すには、私もなかなか無茶をしなければならん」


「でしたら、お互いのためにも、ここで引いていただけませんか?」


「ハッハッハッ!」


「それはありえんよ」


 十の紫色の光が、ブラムの正面へ集まり始めた。


「コアとの同調を深めれば、こんなこともできる」


《グレゼルド》


 十の光が一つに重なる。


 紫色の光が大きく広がり、その中から大口径の砲身が現れた。


 ブラムが砲身を動かす。


 砲口がオリヴィアから外れ、その先にある作業小屋へ向いた。


 砲身の奥へ、紫色の光が集まり始める。


 オリヴィアがブーツの出力を最大まで上げ、作業小屋へ向かって走り出した。



 正面の畑。


 ソラの背後で、作物の葉が揺れた。


 根元を縫ってきた三つの白い光が、作物の間から浮かび上がる。


「油断しましたね」


 三つの光球が、同時に強く輝く。


「ソラ!」


 ハインがブーツを起動した。


 ソラのもとへ飛び込み、横から突き飛ばす。


 ドォンッ!!


 三つの光球が爆発し、ハインの背中を直撃した。


 その身体がソラへぶつかり、二人まとめて地面を転がる。


「ぐっ……!」


 ソラが身体を起こす。


 すぐそばに、ハインがうつ伏せで倒れていた。


 隊服を走る青い光が激しく点滅し、そのまますべて消えていく。


「ハインさん!」


 返事はない。


 ソラがハインの身体を起こし、首へ指を当てる。


 指先に、かすかな脈が伝わった。


 爆発で巻き上がった土煙が、二人とトリスの間を遮っていた。


 ソラはハインの片腕を肩へ回し、その間に農道の端まで運んだ。


「……すみません」


 ハインを地面へ寝かせ、銃を握り直す。


「今度は、僕が止めます」



 作業小屋の左手。


 道具保管庫との間で、クラネスとリーゼがバレッサを挟んでいた。


 クラネスの刃を左拳で受け止めたバレッサへ、反対側からリーゼが胴を狙う。


 右拳がその刃を弾いた。


 ギィンッ!


 リアナが二人の間から銃口を向ける。


 バンッ!


 バレッサが身体をひねり、弾丸が服の肩をかすめた。


「しつこいのよ!」


 バレッサはクラネスの刃を押し返すと、そのままリーゼの横を抜けた。


 向かう先にはリアナがいる。


「いかん!」


 リーゼが振り向く。


 リアナも続けて発砲した。


 バンッ! バンッ!


 バレッサは左右の拳で弾丸を弾きながら、リアナの前まで踏み込んだ。


 右拳が、腹に残るひびへ向かう。


「やめろおおお!」


 クラネスが二人の間へ飛び込んだ。


 ドンッ!


「ぐっ……!」


 バレッサの右拳が、クラネスの右脇腹へ入った。


 拳を受けた場所から、光るひびが広がる。


 バレッサは左拳を引いた。


「二発目よ」


 左拳が同じ場所へ伸びる。


「やらせるものか!」


 リーゼが横から刃を振った。


 刃がバレッサの左肩を浅く切り、そのまま左腕を押す。


 ドンッ!


 二発目の拳が、クラネスの左肩へ入った。


「がっ……!」


 左肩から走った新しいひびが、右脇腹に残っていたひびと重なる。


 ガシャッ!


 重なった右脇腹が砕け、透明な破片となって土の上へ散った。


「クラネスさん!」


 リアナは右手の刃を消し、空いた腕で倒れかけた身体を抱える。


「大丈夫だ。少し欠けただけだ」


「同じ場所じゃなくても、ひびが重なれば……!」


 リアナの腹に残っていたひびが、拳を受けた場所へ縮んでいく。


 最後の一本が消えた。


 リアナが顔を上げる。


 リーゼがバレッサの前で刃を構え直していた。


「リーゼちゃん! ひびは長く残らないよ!」


「情報、感謝するぞ」


「分かったから、なんだってのよ!」


「お主、拳以外まで硬いわけではないのじゃな」


「いちいち知ったことを言わないと気が済まないの?」


 バレッサが地面を蹴る。


「拳だけで十分よ!」


 ガギィンッ!


 拳と刃がぶつかった。


「あ……」


 クラネスが土の上へ目を落とす。


 透明だった破片から赤黒い色が戻り、千切れた肉片へ変わっていく。


 右脇腹からも血があふれ、足元の土を濡らした。


「砕けた場所は……ひびが消えても、元には戻らないみたいだな……」


 リアナは銃を腰へ戻し、ポーチから止血用の布を取り出して傷口へ押し当てた。


 布がすぐに赤く染まる。


「クラネスさん、ここを押さえて。しっかりして!」


 クラネスが布へ手を重ねる。


 リアナはその手ごと傷口を押さえたが、指の間から血があふれ出した。


「悪い……ちょっと、きついな」


「クラネスさん!」


「リアナ……今度、飯でも行くか」


「行きます。だから今は、傷口を押さえてください」


 リーゼの刃と、バレッサの拳がぶつかる。


 ガキィンッ!


 背後の声を聞きながら、リーゼは一歩も退かず刃を構え直した。



 作業小屋の正面に広がる畑。


「小屋から離れてください!」


 オリヴィアが畑を駆けながら叫ぶ。


 丘の上では、砲身の奥に集まる紫色の光が大きく膨らんでいた。


 オリヴィアは速度を落とさず作業小屋の壁を蹴り、手前側に残る屋根へ飛び上がった。


 ズドォンッ!!


 丘の上から、紫色の砲撃が放たれる。


 屋根へ着地すると同時に傘を開き、斜め上へ構えた。


 セルの出力を最大まで上げる。


 傘の前へ広がった円形の防壁に、砲撃がぶつかった。


 ドォォンッ!!


 防壁が大きくへこみ、オリヴィアのブーツが屋根板を削る。


 弱っていた隊服の青いラインが、再び激しく点滅した。


 傘の骨が一本、二本と折れていく。


 防壁の中央から亀裂が走った。


 両腕が震え、焦げた袖から煙が上がる。


「まだ……!」


 オリヴィアが傘を斜め上へ押し上げた。


 防壁に食い込んでいた紫色の砲撃が、少しずつ上へ逸れていく。


 バキィンッ!


 防壁が砕け、傘の骨が一斉に折れた。


 弾けたセルの光とともに、オリヴィアの身体が斜め後ろへ吹き飛ばされる。


 その頭上を、逸れた砲撃が通り過ぎた。


 砲撃は作業小屋の屋根を外れ、そのまま空へ抜けていった。


 ドガァンッ!


 オリヴィアが屋根を突き破り、作業小屋の中へ落ちる。


 勢いのまま、室内の壁へ叩きつけられた。


 ミシッ。


 傷んでいた梁が折れ、手前側に残っていた屋根が内側へ崩れ落ちた。


 土煙が室内を覆う。


「ひっ……!」


 奥の部屋で椅子に座っていたホンが、頭を伏せて身体を縮めた。


 土煙が薄れていく。


 奥の一室にだけ、屋根が残っていた。


「先生!」


 ミレアが瓦礫を越え、オリヴィアへ駆け寄った。


 オリヴィアは壁際に倒れている。


 両袖は焼け落ち、腕の皮膚が赤黒く変わっていた。


 隊服の青い光も消えている。


 オリヴィアが右腕を動かそうとする。


 指先が、わずかに動いただけだった。


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