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答えのない世界で、それでも僕らは歩き出す  作者: UTARO
第一章 君の祈りに、祝福がありますように。
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Ⅳ残された痕跡

 ホンスーン支部を出たリアナたちは、そのまま医療センターへ向かった。


 ライナース支部長が事前に手続きを済ませていた。


 受付を終えると、すぐに地下へ案内された。


 重い扉が開く。


 冷えた空気が肌に触れる。


 中央には、白い布を掛けられた遺体が横たわっていた。


 リアナが遺体を見るのは初めてだった。


 喉が乾く。


 目を逸らしかける。


 それでも、その場に踏みとどまった。


 イネスが遺体の傍らへしゃがむ。


 胸部には、大きな穴が空いていた。


 ラディスも反対側から傷を確認する。


「……イネス」


「ああ」


「どうしたんですか?」


「リアナ」


「ドルディアの特徴は覚えているか?」


「はい!」


「黒い球体を操り、対象を貫くCodeです」


「小さな球体に分けて、複数放つこともできます」


「そうだ」


 ラディスが傷口を示す。


「よう見てみ」


 リアナが一歩近づく。


 傷の周囲が黒く焼け焦げていた。


「……焼けてる」


「せや」


「貫通した跡もある」


「ドルディアの記録と一致しとる」


「でも……」


「レベル1のドルディアに、ここまでの威力はない」


 イネスが答える。


「人体を完全に貫通している」


「しかも、この焼け跡だ」


 ラディスの声から、いつもの軽さが消える。


「会議で引っかかっとったんは、やっぱりここやな」


「はい」


 イネスが立ち上がる。


「ダブリスのCodeレベルが上がったとは、まだ断定できない」


「ですが、この傷は……」


「ああ」


「記録にあるレベル1の出力では説明できない」


 二週間前の測定ではレベル1。


 それなのに、ベテランの三級員を殺した。


「今後は、ダブリスが記録以上の出力を使える前提で動く」


「発見しても一人で接触するな」


「はい!」


「ラディス」


「分かっとる」


「まず現場やな」


「ああ」



 医療センターを出る。


 辺りはすでに暗くなっていた。


「俺、ちょっと街見てくるわ」


「今からですか?」


「酒場も見ときたいしな」


「ダブリスの話が聞けるかもしれへん」


「あまり遅くなるなよ」


「分かってるって」


「ついでに美人でもおったら最高やけどな」


「……ラディス」


「冗談や」


 ラディスは繁華街の方へ向かっていった。


「一人で大丈夫なんですか?」


「放っておけ」


「ああ見えて、仕事はする」



 薄暗い廃墟。


「……うるさい」


 ダブリスは両耳を塞いでいた。


 それでも声は消えない。


『――――』


「やめろ……」


『――……』


 何を言っているのか分からない。


 男の声なのか。


 女の声なのか。


 それすら分からない。


「黙れ……」


 頭の奥で、何かが囁き続けている。


 ダブリスは床へ膝をついた。


 両手が震えていた。


 あの光景が離れない。


 黒い球体。


 飛び散った血。


 胸を貫かれ、崩れ落ちた男。


「殺すつもりなんてなかった……」


「ただ……追い払おうとしただけだ……」


 両手を見る。


 血など付いていない。


 それでも、あの感触が消えない。


『――――』


「やめろ……!」


 胸の奥が熱い。


 コアが脈打つ。


 そのたびに、頭の中へ何かが入り込んでくる。


「俺は……」


「俺は、あんなこと……」


 黒い球体が浮かび上がった。


「……え?」


 ダブリスは手を動かしていない。


 球体が壁へ向く。


「やめろ」


 止まらない。


「違う……」


 黒い球体が放たれた。


 轟音。


 石壁が吹き飛ぶ。


 瓦礫が床へ降り注いだ。


「やめろ……!」


 もう一つ。


 黒い球体が生まれる。


「出すな……!」


 さらに一つ。


「やめろって言ってるだろ!!」


 胸の奥が激しく脈打つ。


 頭の中で声が重なる。


『――――』


『――……』


『――――』


「黙れ……」


 黒い球体が宙を埋めていく。


「黙れぇぇぇぇぇぇッ!!」


 次々と放たれる。


 壁が砕ける。


 天井が崩れる。


 ダブリスの絶叫が廃墟に響いた。


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