Ⅲ小さな違和感
「思ったより歩くなぁ。まだ着かへんの?」
「この広場を抜けたらすぐです!」
「頑張りましょう、ラディスさん!」
「いや、頑張るほどではないんやけどな……」
広場の中央には、明日の収穫祭に使う大きな塔が建っていた。
男たちが塔へ飾りを取り付け、その周りでは露店の準備も進められている。
「明日はここも凄い人になりますよ!」
「そら賑やかになりそうやなぁ」
「ラディス」
「分かってるって。仕事やろ?」
広場を抜けると、大きな白い石造りの建物が見えてきた。
正面にはAEGISの紋章が掲げられている。
「着きました!」
「ホンスーン支部です!」
◇
支部へ入ると、受付の女性が顔を上げた。
「リアナ、おかえりなさい」
「ただいま、アイネちゃん!」
リアナは敬礼する。
「イネス二級員、ラディス二級員をお連れしました!」
「遠方よりお越しいただきありがとうございます」
「イネスです。世話になります」
「ラディスです。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
アイネが受付横の黒いゲートを示す。
「入館前の検査をお願いいたします」
イネスがゲートへ入る。
赤い光が頭上から足元まで走った。
「コア反応なし」
「身分情報も一致しています」
「お通りください」
続いてラディスも検査を終える。
「問題ありません」
「では、リアナ」
「案内をお願いします」
「はい!」
◇
四階、会議室。
リアナが扉をノックする。
「ライナース支部長。リアナ四級員です」
「イネス二級員、ラディス二級員をお連れしました」
「おう。入ってくれ」
「失礼します」
部屋の奥には、白髪交じりの大柄な男がいた。
「遠いところご苦労さん」
「ホンスーン支部長のライナースだ」
「グランディア支部のイネスです」
「ラディスです。よろしくお願いします」
「ガハハッ!」
「二級員を二人も回してくれるとは、ありがたい話だ」
ライナースが三人へ席を勧める。
「移動したばかりで悪いな」
「まず事件の概要だけ説明させてくれ」
「今回、うちの三級員が一名殉職した」
「町で起きた窃盗事件を追っていた隊員だ」
「容疑者は?」
「ダブリスという男だ」
ライナースが写真を机に置く。
「喧嘩と窃盗で何度か拘留している」
「ただ、今まではどれも軽犯罪だった」
「殉職した隊員は?」
「三級員になって十年以上だ」
「現場経験もある」
ラディスが口を開く。
「それなら、簡単にやられるような人やないな」
「ああ」
「だから妙なんだ」
イネスが資料を確認する。
Code:《ドルディア》
Codeレベル:1
「……レベル1?」
「ああ」
「測定日は?」
「事件の二週間前だ」
「その時点ではレベル1だった」
「二週間……」
リアナが口を開く。
「事件までに、Codeレベルが上がった可能性はありませんか?」
「可能性だけならある」
ラディスが答える。
「けど、二週間でレベル2まで上がった例なんて俺は知らん」
「私も聞いたことがない」
イネスがライナースを見る。
「その間にCodeを使った形跡は?」
「今のところ出ていない」
「ダブリスは事件までホンスーンを離れていない」
「Code使用の通報もない」
「目撃証言もなしか?」
「ああ」
ラディスが少し考える。
「人目につかん場所で使っとった可能性は残るな」
「そこまでは否定できん」
ライナースが答える。
「ただ、それだけで今回の件を説明できるとも思っていない」
「仮にレベルが上がっていたとしても……」
リアナが言葉を止める。
「本当に、それだけで三級員を……?」
「そこだ」
イネスが答える。
「Codeだけで説明できるとは限らない」
「今分かっているのは、二週間前までレベル1だったことだけだ」
「……はい」
「他に人間がいた可能性は?」
「それも調べている」
「ダブリスといつも一緒にいた少年が一人いる」
「ジェイという男だ」
「事件当日の所在は?」
「確認できていない」
「事件のあとから姿も見せていない」
「なら、そのジェイが何か知っている可能性は高いな」
「ああ」
「こちらでも捜索を続けている」
「殉職した隊員の死因は?」
「胸部の致命傷だ」
「傷の状態は?」
「まだ検視中だ」
「事件が起きたのは昨日だからな」
「今あるのは簡易報告だけだ」
「現場は?」
「封鎖してある」
「鑑識も残している」
「分かりました」
「なら、先に遺体を確認します」
「傷を見たい」
「ダブリスのCodeと関係があるのか確かめます」
「その後で現場へ向かいます」
「分かった」
「すぐに手配しよう」
「リアナ」
「案内を頼む」
「はい!」
窓の外は、すっかり暗くなっていた。
「……もう夜やで?」
「飯くらい食べてからでもええんちゃう?」
「時間が惜しい」
「やっぱりそうなるかぁ」
「しゃあない。仕事や」




