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Ⅲ二十の道の向こう

 翌朝。


 ガイルスは昨日と同じ黒いスーツを着ていた。


 マルタが折りたたんだ紙を差し出す。


「紹介状だ。入口の男に渡しな」


「これだけで入れるのか?」


「話は通してある。腕っ節が強くて、仕事を探してる男ってことになってる」


 ガイルスが紹介状を懐へ入れる。


「中で何か分かったら、どうすりゃいい」


「持ち出せるものがあれば持ってこい。無理なら、場所と内容を覚えて戻れ」


 ノアが答える。


「俺とルシアで出入口を見ておく」


「……《クトリアス》も使う」


 ルシアがガイルスを見上げる。


「外へ出れば、援護できる」


「頼りにしてるぜ」


 マルタが机の上に地図を広げる。


「場所は街の外れにある古い花の競り場だ。今は新しい市場が使われてるから、何年も前に閉じてる」


「人も馬車も集められるってわけか」


「街道から外れてる。昼間なら、馬車が出入りしても花農家の荷運びに紛れる」


「先に行くぞ」


「……うん」


 ノアとルシアが教会を出る。


 ガイルスは襟元へ指を入れた。


「やっぱ窮屈だな、これ」


「破るんじゃないよ。借り物なんだからね」


「分かってるよ」



 レストラの街を外れ、花畑の間を進むと、色あせた花の看板を掲げた建物が見えてきた。


 半円形の屋根の下に大扉があり、その脇に細い通用口がある。


 何年も前に閉鎖された花の競り場だった。


 建物の周囲には、壊れた荷車や木箱が残されている。


 ノアとルシアは、競り場を見下ろせる斜面に身を伏せた。


「俺は裏へ回る」


「……私は正面を見る」


「何かあったら呼べ」


「……分かった」


 二人が持ち場へ移る。


 しばらくして、ガイルスが花畑の道に現れた。


 競り場へ向かい、通用口の前で足を止める。


「止まれ」


「紹介を受けて来た」


 ガイルスが懐から紹介状を取り出し、男へ渡す。


 男は紙を開き、末尾に押された印を確かめた。


「聞いてる。入れ」


 紹介状を返し、通用口を開ける。


 ガイルスが中へ入ると、男も続いて扉を閉めた。


 斜面に残ったルシアのそばに、白い眼が現れる。


 白い眼は競り場の屋根より高く上がり、建物の周囲を見下ろした。



 競り台の前の広間に、五十人近い男たちが集まっていた。


 左右には、段差状の木製客席が並んでいる。


 正面には、かつて花を並べていた競り台が残され、その脇に奥へ続く通路があった。


 ガイルスは壁際に立つ。


 近くにいた男が声をかけてきた。


「おい、あんたも報酬に釣られた口か?」


「まあな」


「見たところ、護衛か」


「荷運びよりは向いてるだろ」


「そりゃそうだ」


 競り台脇の通路から、一人の若い女が出てきた。


 ショートパンツの右太ももには、細長いケースが付いている。


 その後ろには、肩幅の広い男がついていた。


 若い女が競り台へ上がる。


「はーい、みんな集まってくれてありがとー」


 両手を叩き、男たちを見渡す。


「今回の仕事を回すのは私。まず役割を分けるね」


 広間の左右を指す。


「馬車を扱える人は右。荷運びは左。武器を使える人はその場に残って」


 男たちが動き始めた。


 二十人ほどが右へ移り、何人かが左へ向かう。


 ガイルスを含めた残りは、その場に留まった。


「使う馬車は二十台。全部、同じ時刻に出てもらうよ。どの道を使うかは、これから渡す紙を見て」


 一人の男が手を上げる。


「荷は何だ?」


「知らなーい」


「知らない?」


「私も聞いてないからね。荷を開けなきゃ問題ないでしょ」


「報酬は?」


「仕事が終わったら全額。途中で逃げたらなし」


 肩幅の広い男が、奥の部屋から紙の束を運んでくる。


 若い女は一枚ずつ確認し、集まった者へ渡していった。


「紙には馬車の番号と役割、使う道と時間が書いてある。同じ番号の人と裏庭で合流してね」


 ガイルスの前にも一枚の紙が差し出された。


 紙には「七番」とあり、その下に護衛と記されていた。


 出発は正午。使う道と二つの通過地点、それぞれの時刻も続いている。


「あなたは七番の護衛ね」


「一人か?」


「ほかにもいるよ。顔合わせは馬車の前で」


 若い女は次の男へ紙を渡す。


 ガイルスは紙を折り、懐へ入れた。


 肩幅の広い男が、再び奥の部屋へ向かう。


 ガイルスは男が入った扉を見た。


「紙を受け取った人から裏庭へ行って。まだの人はここで待っててね」


 ガイルスは、ほかの男たちと競り台脇の通路へ向かう。


 裏庭には、番号を付けた二十台の馬車が並んでいた。


 男たちは手元の紙を見ながら、それぞれの馬車へ向かっていく。


 ガイルスは七番の馬車を確認し、通路を振り返った。


 人影はない。


 そのまま引き返し、紙を運び出していた部屋へ入る。


 壁際の机には、一から二十までの経路表が並べられていた。


 ガイルスが「一」の経路表を開く。


 出発は正午。


 使う道と二つの通過地点、その時刻が記されている。


 「二」も出発は正午だった。


 だが、道も通過地点も違う。


 三、四、五。


 すべて正午に出発し、別々の道を使う。


 二十台の馬車を、同時に散らすつもりらしい。


 ガイルスが経路表を戻す。


 シュンッ!


 その背後に、若い女が現れた。


「え、それ見る?」


 ガイルスが振り向く。


 一瞬前まで、そこには誰もいなかった。


「道を間違えたんだよ」


「そう」


 若い女が通路へ向かって呼ぶ。


「ダリオ」


 大きな足音が近づいてきた。


 肩幅の広い男が扉の前に立つ。


「どうした、イラちゃん」


「その人、勝手に入ってきた」


 ダリオがガイルスを見る。


「そうなのか?」


「違うって言ったら信じるのか?」


「イラちゃんが嘘を言う理由がないからな」


 ダリオが若い女を背中へ隠す。


「イラニ、下がってろ。俺がやる」


「お願い。私は外を見てくる」


「一人で行くのか?」


「こいつの仲間がいるかもしれないから」


 ダリオはガイルスから目を離さない。


「危なくなったら呼べよ」


「分かってる」


 イラニが通路へ向かう。


 ガイルスも続こうとしたが、ダリオの巨体が扉を塞いだ。


「行かせない」


《ドドレグ》


 ダリオの両肩に光が集まり、二本の腕が現れた。


 肩から伸びた二つの拳が、左右からガイルスへ迫る。


 ガイルスは両腕で受けた。


 その下から、ダリオ自身の右拳が伸びる。


 ドッ!


「ぐっ!」


 拳が腹へ入り、ガイルスが後ろへ下がる。


 さらに四つの拳が続く。


 ガイルスは両腕で受けながら、広間の奥にある集荷場まで押し込まれた。


 集荷場には、出荷に使われていた木箱がいくつも積まれている。


 先ほどガイルスへ声をかけた男が、二人へ顔を向ける。


「面倒事まで報酬に入ってねぇぞ」


 男は紙を持ったまま裏庭へ向かい、ほかの者たちも争いを避けて馬車へ移っていった。


 集荷場の中央まで下がったガイルスが、両手を合わせる。


《オラシオ》


 赤いオーラが身体を包み、背中から獣のような二本の腕が現れた。


「そのCode……お前も、教会の人間か」


「だったらどうした」


「また俺たちを殺しに来たのか」


「殺しに来たわけじゃねぇ」


「前もそう言って、俺たちを襲った」


 ダリオが床を蹴る。


「イラニには近づけさせない」


 四本の腕が、一斉にガイルスへ襲いかかった。



 建物の裏手。


 裏口を開けたイラニの前に、ノアがいた。


「止まれ」


「やっぱり仲間がいたんだ」


「中の男を出せ」


「それはダリオに言って」


「なら、お前を押さえる」


「んー、それは困る」


 建物の中から、拳がぶつかる音が響いた。


「大人しくしてろ」


「ダリオを置いて? それは無理」


 イラニが花畑へ駆け込み、ノアもあとを追う。


 花の列の間には、細い道が何本も通っていた。


 ノアが距離を詰めると、イラニは花の列を横切り、ノアの周囲を大きく回り込んだ。


「何のつもりだ」


「別にー」


 イラニが右太もものケースの留め具を押す。


 カシュッ!


 ケースに収まっていたナイフの柄が、一斉に起き上がった。


 その中から二本を抜き、ノアへ投げる。


 ヒュヒュッ!


 ノアが右腕を上げる。


 バチィイッ!


 腕を覆っていた服が粒子になって消え、緑の光を帯びた右腕が現れた。


 白い刻印が、その腕全体に浮かび上がる。


 キンッ!


 二本のナイフが右腕に弾かれ、花の間へ落ちた。


「……その腕、刃も通らないんだ」


 続けて投げられた一本も、ノアが右腕で弾く。


《レムディス》


 シュンッ!


 イラニの姿が消えた。


 次の瞬間、ノアの背後に現れる。


 ヒュッ!


 ナイフが二本飛んできた。


 ノアが頭を下げると、二本の刃が髪の上を抜けていった。


 イラニが腰の後ろから短い棒を抜く。


 カシャンッ!


 棒が前後へ伸び、一本の警棒になった。


 シュンッ!


 イラニの姿が消え、ノアの右側に現れる。


 警棒が横から迫った。


 ノアが右腕を上げる。


 警棒が右腕の下を抜けた。


 ドッ!


 ノアの左脇腹へ入る。


「ぐっ……!」


 二歩よろめいたノアを追い、イラニが警棒を振り上げた。


 上空の白い眼が、イラニへ向く。


《クトリアス》


 振り上げられた警棒が止まった。


「……あれ?」


 イラニの視線がノアのいた場所を通り過ぎ、その向こうへ向けられる。


 ノアが足音を殺し、イラニへ近づく。


 あと三歩。


 パキッ。


 踏み出した足で、花の茎が折れた。


 シュンッ!


 イラニの姿が消え、裏口の前に現れる。


 頭上の屋根が白い眼の視線を遮った。


「そこにいたんだ」


 イラニがすぐに花畑へ走り出す。



 集荷場。


 ダリオの四つの拳が迫る。


 ガイルスは両手を合わせたまま、二本の獣腕を前へ出した。


 獣腕が太くなる。


 ガガガガッ!!


 左右の獣腕が、四つの拳を正面から受け止めた。


 ダリオの右肩から伸びた腕が振り下ろされる。


 ガイルスは身体を覆う赤いオーラを右の獣腕へ集め、その拳を受け止めた。


 ダリオ自身の左拳が伸びる。


 ドッ!


「ぐっ!」


 拳がガイルスの脇腹へ入った。


 ガイルスは右の獣腕を引き、左の獣腕を太くして横から振るう。


 右肩を覆う赤いオーラが薄くなった。


 ダリオは肩から生えた二本の腕で、太くなった獣腕を押さえ、自身の右拳を突き出した。


 ドッ!


 拳がガイルスの右肩へ入る。


 ガイルスが後ろへ下がった。


「ずいぶん、器用じゃねぇか」


「お前もな」


 ダリオがガイルスの両手を見る。


 胸の前で、ずっと合わされたままになっている。


 ガイルスが二本の獣腕を大きく振った。


 ダリオが低くかがむ。


 赤い腕が頭上を抜けた。


「その手か」


 ダリオが四本の腕を引き、合わされた両手へ打ち込んだ。


 ドンッ!!


「ぐっ……!」


 ガイルスの両手が弾き離される。


 バシュッ!


 二本の獣腕が形を失い、赤いオーラがガイルスの身体へ戻った。


「祈らないと動かせないんだな」


「もう、その手は合わせさせない」


 左右から拳が続き、肩から伸びた二本が上から打ち込まれる。


 ガイルスは両腕で頭と腹を守った。


 ドドドドッ!


 拳を受けるたび、身体を覆う赤いオーラが弾け散る。


 ゴッ!


 ダリオの拳がガイルスの頬を捉えた。


 ガイルスの身体が横へ吹き飛び、床を転がる。


「やってくれるじゃねぇか……!」


 ガイルスはすぐに立ち上がった。


 赤いオーラは、ガイルスの周囲で途切れ途切れに揺れていた。



 花畑。


 シュンッ!


 イラニがノアの左から消え、右に現れる。


 ヒュッ!


 飛んできたナイフを、ノアが右腕で弾いた。


 イラニが再び消える。


 今度は背後。


 ノアが振り向き、迫る警棒をのけぞってかわす。


 反撃に出る前に、イラニの姿が消えた。


 次に現れたのは正面。


 ノアが拳を伸ばすより先に、また姿を消した。


「何度でも飛べるのか」


「教えると思う?」


 白い眼が高度を下げ、花畑に残った足跡を追う。


 初めにイラニが走った跡は、ノアの周囲に大きな輪を描いていた。


 姿を現した場所では、その上に新しい靴跡が重なっている。


 ルシアが顔を上げる。


「ノア。裏口を押さえて」


 イラニが太もものケースからナイフを三本抜いた。


 ヒュヒュヒュッ!


 ノアは避けず、前へ出る。


 キンッ!


 右腕で二本を弾き、残る一本が頬をかすめた。


 シュンッ!


 イラニが背後へ戻る。


「後ろ!」


 ルシアの声が飛ぶ。


 ノアは振り向かず、裏口へ続く道へ走った。


 イラニも建物の裏口へ走る。


 ノアは花の列を斜めに横切り、扉の前へ回り込んだ。


 イラニは速度を落とさず、警棒を振るう。


 ノアがかがむと、警棒が頭上を抜けた。


 シュンッ!


 イラニの姿が消える。


 花畑の中央に、その姿が現れた。


 花の列の向こう。


 ノアはまだ、裏口の前にいた。


 白い眼が、二人の周囲に残った足跡を見下ろす。


「……今なら、どこに戻っても分かる」



 集荷場。


 ダリオの拳が、ガイルスの両腕を叩き続ける。


 身体を覆う赤いオーラは、拳を受けるたびにはがれ、途切れた箇所が増えていた。


 ダリオが四本の腕を引き、拳を一斉に突き出す。


 ガイルスは両腕で頭と腹を守ったまま、前へ出た。


 ドドドドッ!


 四つの拳が両腕と肩を打つ。


 それでも足を止めず、ダリオの目の前まで入る。


 ガイルスが両腕を開く。


 ゴッ!


 額をダリオの顔へ叩きつけた。


 ダリオがよろめいた。


 その間に、ガイルスが両手を合わせる。


《オラシオ》


 赤いオーラが集まり、二本の獣腕が現れた。


 ダリオがすぐに踏み込む。


 ガガガッ!!


 二本の獣腕と、四つの拳がぶつかり合う。


 肩から生えた二本の腕が、右の獣腕を押さえ込む。


 ダリオ自身の拳が、ガイルスの腹へ入った。


 ドッ!


「がっ……!」


 今度は、拳を止める赤いオーラがない。


「守りを捨てたのか」


「全部使わねぇと、作れねぇんだよ」


 左右の獣腕の付け根から、赤いオーラが伸びていた。


 ガイルスの背中でつながり、二つの肩が張り出す。


 その間に、厚い胸が形を持ち始めた。


 ダリオが四本の拳を振るう。


 二本の獣腕が太さを変えながら受け止める。


 その間にも、胸の上から太い首がせり上がった。


 ダリオの拳が獣腕の間を抜け、ガイルスの腹へ入る。


 ドッ!


 ガイルスの口から血が落ちた。


 それでも両手は離れない。


 太い首の先に、獣の頭が形を取る。


 頭の左右から、二本の太い角が伸びた。


「完成する前に止める」


 ダリオが獣腕を左右へ押し広げる。


 四本の腕を引き、合わされた両手へ向けて放った。


 四本の拳が、再びガイルスの両手へ迫る。


 届く寸前、二本の獣腕が内側から跳ね上がった。


 ドガッ!!


 ダリオの四本の腕が左右へ開く。


「――っ!」


 開いた四本の腕の間へ、赤い獣が頭から突っ込んだ。


 ドォンッ!!


 その額が、ダリオの胸を捉える。


 ダリオの身体が床から浮いた。


 そのまま集荷場の奥まで飛ばされ、積まれた木箱へ突っ込む。


 ダリオの肩から生えていた二本の腕が消えた。


 赤い獣も形を失っていく。


 ガイルスが両手を離し、その場に片膝をついた。


「……やっと、できた」


 ダリオは動かなかった。



 花畑。


 白い眼が、イラニと周囲の足跡を見下ろしている。


《クトリアス》


 イラニの目から、ノアの姿が消えた。


「また……消えた」


 正面にも、左右にも、ノアはいない。


 シュンッ!


 イラニが少し前の足跡へ戻る。


 そこも白い眼の下だった。


 ノアの姿は見えない。


「そういうこと……」


 イラニが警棒を構える。


 花を踏む音が、正面から近づいてくる。


 音へ向けて警棒を振った。


 ノアの右手が警棒をつかむ。


 バチィイッ!


 緑の光が弾け、警棒がつかまれた場所が粒子になって崩れていく。


「……!」


 イラニが警棒から手を離し、後ろへ下がろうとする。


 その首を、緑の光を帯びた右手がつかんだ。


「動くな」


 《クトリアス》が解除され、イラニの目の前にノアが現れる。


 警棒だった粒子が、二人の足元へ落ちた。


「動けば、次は首を崩す」


 イラニの動きが止まる。


 建物の裏口から、重い足音が聞こえてきた。


 ガイルスが花畑へ出てくる。


 片腕で腹を押さえ、もう片方の腕でダリオを引きずっていた。


「クソ重てぇ……」


 ガイルスがダリオを地面へ下ろす。


「こっちは、のしたぞ」


「ダリオ!」


 イラニが一歩踏み出そうとする。


 ノアの指に力が入り、イラニが足を止めた。


「生きてる」


 ガイルスが答える。


「当分、起きねぇだろうけどな」


「待って」


 イラニがノアを見る。


「話す。知ってることは全部話すから、ダリオには何もしないで」


「何を知ってる」


「二十台分の経路と出発時間。御者も護衛も、私が集めた」


「荷物は?」


「知らない。本当に聞かされてない」


「依頼人は?」


「直接は会ってない。受け取ったのは指示と報酬だけ」


「経路と時間を全部出せ」


「分かった」


「それと、仕事は予定どおり続けろ」


「え?」


「ここで止めれば、依頼した奴に気づかれる。二十台を予定どおり走らせろ。経路はこっちで追う」


 イラニが倒れているダリオを見る。


「それで、ダリオを見逃す?」


「全部終わるまでは、二人とも捕らえない。そのあとのことは、俺だけじゃ決められない」


「……分かった。取引成立」


 ノアがイラニの首から手を離す。


 ルシアが白い眼を消し、斜面から花畑へ降りてきた。


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