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答えのない世界で、それでも僕らは歩き出す  作者: UTARO
第三章 揺らぐ境界
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ⅩⅢ守りの内側

 グランディア郊外。


 トーマとエリンが保護施設を出てから、二日が過ぎていた。


 二人が新たに暮らし始めた貸家の前に、AEGISの馬車が停まっている。


 入口には縄が張られ、数人の捜査員が周囲を固めていた。


 レナードとクラネスが馬車を降りる。


 現場を確認していた捜査員が、二人のもとへ駆け寄った。


「今朝、定期確認に訪れた捜査員が発見しました」


「中は?」


「発見後、すぐに現場を封鎖しています。検視担当以外は触れていません」


「分かった」


 レナードが玄関へ向かい、クラネスも続く。


 家の中へ入ると、玄関にはまだ荷ほどきの終わっていない木箱が積まれていた。


 居間の机には、二人分の食器。


 棚の前には、包みを解かれていない生活用品が残っている。


 その中央に、二脚の椅子が並んでいた。


 クラネスの足が止まる。


 トーマとエリンが、それぞれ椅子へ縛りつけられていた。


 両手は背中側。


 足首にも縄が巻かれている。


 二人の頭には麻袋がかぶせられ、胸元の服が赤く染まっていた。


 レナードが検視担当へ尋ねる。


「二人で間違いないか」


「はい。トーマさんとエリンさんです。二人とも胸を一度刺されています。傷口の幅と形もよく似ています」


 捜査員が遺体の胸元を示す。


「同じ刃物が使われた可能性はあります。ただ、一般的な片刃の刃物でも残る傷です」


「死亡時刻は?」


「昨夜遅くから、今日の夜明け前までの間です。詳しくは戻って調べます」


 クラネスが二人の手首を見る。


 縄が食い込み、皮膚が赤く変色していた。


「縛られた時は生きてたのか?」


「その可能性が高いです」


 レナードが室内を見回す。


 居間に倒れた家具はない。


 床にも、争った跡は残っていなかった。


「押し入った形跡は?」


「ありません。玄関も窓も壊されていません。玄関の鍵は、発見時には開いていました。二人の鍵も、トーマさんの上着とエリンさんの鞄から見つかっています」


 二人の正面にある壁には、刃物で二文字が刻まれていた。


『粛清』


 削られた壁のかけらが、床へ落ちている。


「……袋をかぶせたまま、正面にこの文字か」


 クラネスがつぶやく。


 レナードは近くの捜査員へ目を向けた。


「文字と床のかけらを記録しておけ」


「先日拘束した三人は、今も支部に?」


「ああ。別々に拘束されている」


「じゃあ、まだ他にもいるってことですか」


「その可能性が高いな」


 レナードは現場を担当する捜査員を呼んだ。


「周辺を洗ってくれ。昨夜、この辺りで不審な人間や馬車を見ていないか確認しろ」


「はい」


「それと、ほかの保護対象も確認しておけ」


 捜査員が外へ向かう。


 クラネスが玄関で足を止めた。


「二人がここへ移ったのは、二日前ですよね」


「二日前だ」


「貸家も別名義だった」


「二人の名前は出していない。居場所を知る人間も絞っていた」


「それでも見つかった……」


「まずは外から追え。尾行された可能性もある」


「分かりました」



 その日の午後。


 グランディア支部。


 周辺への聞き込みから、目立った証言は出なかった。


 不審な人影も、馬車も見られていない。


 貸家の管理人も、トーマとエリンの素性を知らなかった。


 クラネスが報告書をめくる。


「……何も出ませんね」


「二人が外部へ連絡した記録は?」


「ありません。貸家へ移ってから、外出した記録もありません」


 クラネスが移送記録を開く。


「移送中に尾行された可能性は?」


「担当した捜査員は、気づかなかったと話しています」


「気づかなかっただけかもしれないな」


 レナードが会議室に集まった捜査員を見る。


「ネグラの関係者による犯行と見て進める。ただし、教団全体が動いたとは限らない。決めつけるな」


「はい」


「二人の過去の交友関係も洗ってくれ。保護前に接触していた人間もだ」


 レナードが資料を閉じる。


「何か出たら報告してくれ」


 捜査員たちが会議室を出ていく。


 入れ替わるように、ハインとリノが入ってきた。


「急に呼び出して悪かったな」


 レナードが二人へ座るよう促す。


「トーマさんとエリンさんが殺害された」


「……二人ともですか」


「ああ。今朝、郊外の貸家で見つかった」


 ハインが尋ねる。


「二人は保護施設にいたはずです」


「三週間はな。そのあと、二人から外へ出たいと申し出があった」


 ハインが問い返す。


「認めたんですか?」


「保護は拘束じゃない。危険が残っていることも伝えた」


「名前を伏せて貸家を用意した。移って二日後に殺された」


「学院生たちには?」


 リノが尋ねる。


「今は伏せておく」


 ハインが答えた。


「あいつらが知っても、今できることはない」


 レナードがハインとリノを見る。


「そうだな。学院にはこちらから報告する。二人も学生には話さないでくれ」


「分かりました」


「了解です」


 ハインとリノが会議室を出ていく。


 クラネスだけが席に残った。


「レナードさん。少しいいですか」


「どうした」


「二人の居場所が、内部から漏れた可能性も調べたいです」


「尾行の線は?」


「まだあります。二人が誰かに伝えた可能性も消えてません」


 クラネスは貸家の記録を机へ置いた。


「でも、あの家に移って二日です。別名義で借りて、住所を知っていた人間も限られてる」


「……内部も外せないか」


「はい」


「正式な調査にすれば、関係部署へ話が回るぞ」


「だから、まずは記録だけ見ます」


「何を見る?」


「保護記録の閲覧履歴と、貸家の手配。それから移送に関わった人間です」


「分かった。必要な記録は見られるようにしておく」


「ありがとうございます」


「ただし、記録を見るだけにしろ」


「分かってますよ」


「お前はそう言って、何か見つけたら動くだろ」


「……否定はできませんね」


「だから言ってる」


「何かあったら呼べ。俺も行く」


「分かりました」


 クラネスが資料を抱え、席を立つ。


「クラネス」


「はい?」


「無茶はするなよ」


「……レナードさんも、心配性ですね」


「部下に無茶される方の身にもなってくれ」


「じゃあ、無茶しそうになったら頼ります」


 クラネスは会議室を出た。



 記録管理室。


 クラネスは担当者へ、レナードから受け取った許可証を渡した。


「トーマさんとエリンさんの保護記録を見たい」


「どこまでですか?」


「保護施設を出てから殺害されるまで。住所の閲覧履歴と、貸家の手配、移送記録も頼む」


「分かりました」


 しばらくして、机の上へ記録が運ばれてきた。


 クラネスは椅子へ座り、最初の一冊を開いた。


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