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答えのない世界で、それでも僕らは歩き出す  作者: UTARO
第二章 それぞれの未来
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Ⅵ捜査の歩み

 コンコン。


「入りたまえ」


「失礼します」


 リアナが部屋へ入る。


 机の上には報告書が山積みになっていた。


「どうした」


 リアナは一礼した。


「例の猟奇殺人事件についてです」


「捜査員の応援をお願いしたくて伺いました」


「その件なら報告書は読んだ」


「応援は出せん」


「……」


「Code犯罪、教団、誘拐……グランディアだけでも事件は山積みだ」


「北区全体で手が足りていない」


「一件の殺人事件に、多くの捜査員は回せん」


「ですが、この事件ではCodeが使われています」


「分かっている」


 捜査員長はようやく顔を上げた。


「だが、現時点でCodeは殺害には使われていない」


「使われたのは遺体の固定だ」


「優先順位は変わらん」


「リアナ」


「はい」


「お前は三級捜査員だ」


「この事件は、自分たちで解決してみせろ」


「行き詰まれば、その時は私が判断する」


「だが今は、人員は動かせん」


「……分かりました」


「失礼します」



 会議室へ戻る。


「どうだったっすか?」


「応援は出せないって」


「やっぱりっすか……」


「街中でCodeが使われてるのに」


「二人だけなんて無茶っすよ」


「仕方ないよ」


「納得いかないっす」


「じゃあ」


「私たち二人で解決しちゃおっか」


「もちろんっす!」


「昇格!」


「功績章!」


「ガレリアももらうっすよ!」


「そのためにも、一回整理しよ」


 リアナは事件資料を机へ広げる。


 ネアも事件写真と調書を並べた。


 被害者は歓楽街で働く酌婦。


 仕事を終えた深夜、路地裏へ追い込まれて胸部を刺され死亡。


 その後、遺体は切断。


 一本の鉄の棒が地面に刺され、切断された部位が固定されていた。


「固定にCodeが使われてたんだよね」


「はい」


 ネアが調書をめくる。


「普通の道具じゃ再現できない固定方法だったみたいっす」


「固定系のCodeだけでも四十種類以上」


「該当する登録者は数千人っす」


「Codeから探すのは難しそうだね」


「そもそも未登録の可能性もあるっす」


「じゃあCodeはいったん置こう」


「目撃証言にあった青黒い刃と赤いカッパ」


「目撃者、酔ってたみたいっすし」


「証言としては弱いっすね」


「猟奇殺人に見せかけた可能性もある」


「まずは被害者の交友関係を洗ってみよっか」



 二人は歓楽街へ向かった。


 まずは被害者が勤めていた店。


 店長や同僚から話を聞き、その足で馴染みの客や友人のもとへ向かう。


「客と揉めた話は聞いたことないね」


「真面目な子だったよ」


「誰とでも分け隔てなく接する子だった」


 聞き込みを重ねても、有力な情報は出てこなかった。


 日が傾く頃には、二人とも歩き疲れていた。


「被害者は特にトラブルもなし」


 ネアが手帳を閉じる。


「めぼしい容疑者も見当たらないっすね」


「この線は弱そうだね」


「私怨でここまでやるもんなんすかね」


「恨みを晴らすだけなら、殺した時点で終わる気がする」


「それなのに、犯人は遺体にまで手を掛けた」


「何か別の目的があるんすかね」


「まだ分からない」


「でも、ただ殺すことが目的だったとは思えないかな」


「そうっすよねぇ……」


 ぐぅぅ……。


 ネアのお腹が鳴った。


「あ」


 ネアが腹を押さえる。


「……」


「リアナ先輩」


「お腹すいたっす」


「しかも今月もう金欠っす」


「じゃあ今日は私が出すよ」


「えっ!」


「ほんとっすか!」


「その代わり、明日も頑張ろうね」


「もちろんっす!」



 二人が入ったのは、歓楽街で評判の洋食屋だった。


 焼きたての香ばしい匂いが店いっぱいに広がっている。


 運ばれてきたのは、焼き色の付いた大きなパイ。


「ここのパイシチュー、今めちゃくちゃ人気なんすよ!」


 ネアは懐から小さな革のケースを取り出した。


 中にはフォークとナイフが一本ずつ。


「ネアちゃん」


「また持ち歩いてるの?」


「もちろんっす!」


「これじゃないと美味しく食べられないっす!」


 慣れた手つきでフォークとナイフを並べる。


 リアナはネアのフォークを見る。


「……ねぇ、ネアちゃん」


「はい?」


「現場にあった鉄の棒って」


「もともと路地にあった物だったっけ?」


「リアナ先輩!」


「食事中っす!」


「そんな話しないでくださいよ~!」


「ごめん」


「食べ終わってからにしよっか」


「それがいいっす!」



 食事を終え、店を出る。


「ごちそうさまでした!」


「さっきの続きなんだけど」


「鉄の棒っすね」


「うん」


「ネアちゃんがフォークを持ち歩いてるのを見て思ったんだ」


「あの鉄の棒も、犯人が持ち込んだ物だったのかなって」


「……確かに」


 ネアは手帳を開く。


「由来までは確認してなかったっす」


「現場にあった物として見てたっす」


「もし持ち込んだ物なら、犯人は事前に準備してきたことになる」


「明日一番で確認してみます!」


「お願い」



 二人は支部へ戻った。


「お疲れ様です」


 受付へ声を掛け、奥へ向かう。


「おーい、リアナ」


 短い緑髪の青年が、片手を上げて歩いてきた。


「クラネスさん」


「お疲れ」


「お疲れ様です」


「例の猟奇殺人、お前たち二人で追ってるんだって?」


「はい」


「大変だな」


「何かあったら言えよ」


「捜査員長には内緒で手伝ってやる」


「ありがとうございます」


「でも大丈夫です」


「クラネスさんも担当事件がありますよね」


「お気持ちだけで十分です」


「そっか」


「無理だけはするなよ」


「はい」


 リアナは軽く頭を下げる。


「急いでますので、失礼します」


「ネアちゃん、行こっか」


「はいっ!」



 更衣室。


 隊服を脱ぎながら、ネアが口を開く。


「クラネスさん」


「相変わらずっすね」


「ん?」


「リアナ先輩に気があるの、丸見えっす」


「またそんなこと言って」


「絶対そうっす」


「だって毎回話しかけてくるじゃないっすか」


「たまたまだよ」


「たまたまじゃないっす」


 リアナは脱いだ隊服を畳む。


「ほら、早く帰ろ」


「明日も朝から捜査だよ」


「話そらしたっすね~」



 自宅。


 頭から温かいシャワーを浴びる。


 赤いカッパ。


 青黒い刃。


「……見間違いなのかな」


 目撃者は酒に酔っていた。


「……AEGIS Blade」


 AEGIS Bladeは厳重に管理されている。


 それでも、持ち出されていないとは言い切れない。


 シャワーを止め、濡れた髪をタオルで包む。


「隊員が関わってないなんて……言い切れないよね」



 翌朝。


「リアナ先輩!」


 ネアが書類を手に駆け寄ってくる。


「鉄の棒の底に、工場番号がありました!」


「工場番号?」


「はい!」


 ネアが書類を差し出す。


「これなら作った場所が分かるかもしれません!」



 二人は工場番号を手掛かりに、鉄工場を訪れた。


 工場長は写真を確認する。


「間違いない」


「これはうちで加工した物だ」


「販売先は分かりますか?」


 工場長は首を振る。


「悪いが、そこまでは分からん」


「この番号は加工した工場を示すだけだ。出荷先までは記録されていない」


「じゃあ、この番号だけじゃ犯人までは追えないってことっすね……」



 工場を後にする。


「結局、犯人にはつながらなかったっすね……」


「でも、鉄の棒が作られた場所まではたどれた」


 二人は支部へ戻った。



 薄暗い部屋。


 静かな口笛が響く。


 ♪──。


 布が青黒い刃の上を滑る。


 シャッ……。


 磨き終えると、柄元のセルへ指を添える。


 カチッ。


 青い光が刃を走る。


 青黒い刃が柄の中へ収まる。


 部屋の隅には、何本もの鉄の棒が立て掛けられていた。


 その中の一本へ手を伸ばす。


 口笛は止まらない。


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