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答えのない世界で、それでも僕らは歩き出す  作者: UTARO
第一章 君の祈りに、祝福がありますように。
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Ⅹ歩き出す理由

 教会襲撃から数日後。


 駅のホームでは、イネスとラディスが帰還の準備を進めていた。


「助けを求めたあの男の子には、真実は伏せておいた方がいい」


 イネスが口を開く。


「せやなぁ」


「育ての親がCodeを使って、AEGISに殺されたなんて知ったら……教会の思想に引っ張られてしまうかもしれへん」


「幸せな人生を願うんやったら、黙っとくのも親心や」


「……はい」


「私には、何が正しいのか分かりません」


「でも……ソラ君が幸せな人生を送れるなら」


「ダブリスの解剖結果が出た」


 ライナース支部長が資料を差し出す。


「何か分かりました?」


「コアが心臓を食ってやがる」


「こんなもん、初めて見る」


「……グランディア支部でも情報共有しておきます」


「それとな」


「これは俺個人からだ」


「旧友の無念を晴らしてくれて、ありがとよ」


「噂に違わぬ捜査だった」


「がはははは!」


「ひゃっ……!」


 リアナが耳を塞ぐ。


「ほな、特別ボーナス期待しときますわ」


 ゴッ。


「ぐはっ!」


 イネスの肘がラディスの脇腹へめり込む。


「職務だ」


「いててて……」


 リアナは二人へ頭を下げる。


「お二人には、いろいろご指導いただき、本当にありがとうございました」


「こちらこそや」


「リアナちゃん、グランディア支部に来ぃひん?」


「嬉しいです」


「でも、まだまだ今の支部で学ぶことがたくさんあります」


「そか」


「またどこかでな、リアナちゃん」


「はい!」


「お二人とも、お気をつけて」


「それでは我々はこれで」


「次の任務がありますので」


「えぇぇぇ!? ここから次ぃ!?」


「休暇はぁぁぁ!?」


「黙れ」


 イネスがラディスを列車へ蹴り込む。


 列車の扉が閉まる。


 動き出す直前、イネスが呼んだ。


「リアナ」


「はい」


「正しい選択なんてものはない」


「私たちは秩序を守るAEGISだ」


「秩序を守るために、自分にできることを全力で探せ」


「……はい」


 列車が駅を離れていく。


 リアナは見えなくなるまで見送った。



 事件から数週間。


 ソラはユリィとエレナの墓の前に花を供えていた。


 事件のあと、犯人はAEGISによって排除されたと聞かされている。


 ノアやエイド、孤児院のみんなは、今も行方が分からない。


「ソラ君」


 振り返ると、リアナが立っていた。


 葬儀以来だった。


「新しい孤児院には、もう慣れた?」


「うん」


「僕は……あの時、何もできなかった」


「何一つ」


「誰かに助けを求めることしかできなかった」


「任せることしかできなかった!」


 ソラが拳を握る。


「僕に誰かを守る力があれば……」


 ユリィも。


 マザーも。


 ノアも。


 みんなも。


 リアナがソラを抱きしめる。


 ソラの肩が震える。


「何もできなかったなんて言わないで」


「ソラ君が助けを呼んだから、私はあの丘へ行けた」


「……」


「これから先も、どうにもならない時は誰かを頼って」


「私も、その一人なんだから」


 リアナがソラの頬を軽くつつく。


「……ありがとう」


 ソラは袖で涙を拭う。


 別れ際、手を振った。


 リアナも手を振り返した。



 リアナは遠ざかるソラの背中を見送った。


「ごめんなさい、ソラ君……」


「本当のことを言ってあげられなくて」


 墓地をあとにしようとした時、片隅に一人の男が立っていた。


 身寄りのない者たちが眠る墓の前。


 その後ろ姿には見覚えがある。


「ジェイ……さん?」


「あぁ……?」


 ジェイが振り返る。


「お、俺は何もしてねぇぞ!」


「今日は職務じゃありませんよ」


「……なんだよ」


 ジェイは頭をかき、墓石を見る。


「ダブリスの兄貴の墓だ」


「責められても仕方ねぇ」


「大勢の人を傷つけといて、助けてくれなんて虫が良すぎる」


「俺も兄貴も……ああ生きるしかなかった」


「だからって許されるなんて思っちゃいねぇ」


「やったことの責任は取らなきゃならねぇ」


「……でもよ」


「悲しいもんは、悲しいんだ」


 ジェイは軽く手を上げ、そのまま去っていく。


 リアナはしばらく、ダブリスの墓の前に立っていた。



 ノアは簡易テントの天井を見つめていた。


 あれから何日経ったのかも分からない。


 食事もほとんど喉を通らない。


「ノア」


「飯、持ってきたぞ」


 エイドがテントへ入ってくる。


 片手には湯気の立つスープとパン。


「エイド!!」


「なんで……!」


「ユリィやマザーが死んだのに、なんでそんな平気な顔してるんだよ!!」


「エイドがいれば……止められたかもしれないのに!」


「そうやって人にすがってていいのか?」


「……!」


「お前の役割はなんだ」


「今ここで駄々をこねることがお前の役割なら――」


「ここで終わりだ」


「ユリィとマザーに、向こうで謝るんだな」


「っ……!」


 ノアが拳を振り上げる。


 エイドへ殴りかかった。


 パシッ。


 拳を片手で受け止められる。


 押しても動かない。


 腕に力が入らなかった。


(こんなに……体が弱ってたのか)


「バーカ」


「そんなじゃ、殴ることもできねぇよ」


 エイドが拳を離す。


「飯食って、ちゃんと殴れるようになったら」


「もう一回かかってこい」


 頭をぼりぼりとかき、テントを出ていった。


 ノアは震える手でパンを掴む。


「僕は……」


 パンを口へ押し込む。


 スープで無理やり流し込んだ。


 絶対に。


 もう二度と。


 何も失わないために。


 ――俺の役割を果たしてやる。


         


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