第二十一話 勧誘
こんな倒れ方は嫌だという言葉が脳裏をよぎった。
謎の生物だと間違えられて撃たれる。
覚悟したその時だった。
男が撃ったエアガンの玉は、綺と晃、二人の間をすり抜けていった。
握りこぶし一個分の狭い隙間だった。
そこに正確に撃ったのだ。
そして数秒後、呻き声が聞こえた。
綺と晃は止まって後ろを振り向く。
後ろにいたのは、頭にエアガンの玉が貫通し、出血多量で瀕死状態となっている謎の生物だった。
「………」
しばらく何があったのか理解できなかった綺と晃は我に返り、男がいたほうを向いた。
男はエアガンを鞄にしまうと、二人に背を向けて歩き出した。
「あ、あの! 」
再び晃が呼び止める。
男がこっちを向いた。
綺と晃は男の元へと駆け寄った。
「良かった~まだ生きてる人がいた~」
「ちょっと晃、その前にお礼でしょ」
「あ、そうだったね」
綺と晃はありがとうございましたと頭を下げた。
「あの、急でなんですが僕たちと一緒に行動しませんか? 」
「私達ここを脱出するために日々駅を探索したりしてるんです! 」
二人は必死に話しかけた。
その時、男が口を開いた。
「…一緒に行動するのは構わねぇけど…誰? 」
男に言われ、二人は自己紹介をした。
「僕、物岐 晃と言います!」
「私は蘇我見 綺です!よろしくお願いします!」
二人は再び頭を下げた。
「失礼ですが、あなたの名前は? 」
晃が聞いた。
「…てつあき…藤原 鐵昌だ」
鐵昌と名乗った人物。
声のトーンは少し低めだった。
生存者を見つけられ仲間にもできたので、綺と晃はハイタッチをした。
「もう戻ろうと思ってたところだし戻ろうか」
「そうだね」
「…拠点みたいなところがあんのか? 」
「はい。コンビニの…」
綺は鐵昌のほうを向いたとき、一瞬息が止まった。
鐵昌の後ろに、謎の生物がいたのだ。
「て、鐵昌さん! 後ろ! 」
と、綺が言うと同時に、鐵昌は動いていた。
体を捻り、鐵昌は右足のかかとで謎の生物に後ろ回し蹴りを喰らわせた。
一瞬の出来事過ぎて何が起こったのか理解できなかった晃と綺はポカーンと口を開けていた。
後ろ回し蹴りを首のところにもろに受けた謎の生物は少し離れたところまでぶっ飛び、壁に当たった衝撃で息絶えた。
「こいつらは人の後ろにいるのが好きなんだな」
鐵昌は体制を整えて、綺と晃の方を見た。
「…どうした? そんな口開けて」
「いやいやいやいや」
「今なにしたんですか? 」
「後ろ回し蹴り」
淡々と答える鐵昌に、綺は思わず苦笑いした。
綺と晃は鐵昌をコンビニにある拠点へと案内した。
「鐵昌さん、何か格闘技やってたんですか? 」
「格闘技? やったこともねぇし興味もねぇよ」
「でもあの後ろ回し蹴り凄かったですね」
「…少し前、職場の後輩が空手やってて、無理矢理練習に付き合わされたんだ」
「そ、そこで練習してただけであんなに出来るもんなんですか? 」
晃は凄いなと無意識に思った。
「仕事何してるんですか? 」
「数日前からフリーターを始めた」
「でもさっき職場の後輩って…?」
「その職場は半年前ぐらいに辞めた」
「辞める前は何の仕事してたんですか? 」
「…そんなに俺の過去が知りたいのか? 」
「ちょっと興味があるだけです」
鐵昌は呆れたのか頭を少し掻いて答えた。
「陸自だ」
「りくじ? 」
「陸上自衛隊の略」
「だからあんなに銃とかも上手かったんですね!」
「本物の銃とか撃った事あるんですか? 」
「訓練でならある」
「すげー! かっこいい! 本物の銃とか家にあったりするんですか? 」
晃は目をキラキラ輝かせている。
「んなわけあるか阿呆。捕まるわ」
綺と晃が確かにと笑う。




