93.医科大病院ふたたび
宣山医科大病院、ここは治療ポッドを作るきっかけになった場所だ。
俺を呼んだのは、癌治療でともに協力した、山崎さんの主治医だった宇摩医師。隣りにいたもうひとりの医師は記憶に無いと思ったら、大田と名乗った。
「ご相談したいのは。前に開発中だとおっしゃっていた人工筋肉のことです」と、宇摩医師が切り出してきた。
しまった。アレって、作る作ると言っておきながら、いろいろ割り込みの仕事や弟子の教育が入って放置していたんだ。まさに、作る作る詐欺。
「実は私の患者の一人に筋萎縮症の患者がいるのです」と、大田医師。「宇摩先生から、そちらの会社で人工筋肉の開発をしていると聞きました」。なるほど、言いたいことは予想がついた。
「あれはまだ試作段階で。出力も弱く。小型のパペット程度を動かせるレベルです」
「人間に使えるようになる目安とかでもわかりませんか?」
なるほど。医師としては完全にお手上げ状態なのに。患者や家族からはせっつかれるから。他の力にすがったか。さて、どうするか。もともと医療用に開発する気はあったのだが。
「即答出来ません。戻って他の社員と相談をしての回答でよろしいですか?」
「それはもちろん。よろしくおねがいします」と言って、頭を下げてきた。
戻って、ヤミに情報収集を指示する。大学病院の患者の情報、地球の同じ症状の患者の状況と治療方法。そして、複数世界雲から、今回の治療に使えそうな情報全て。これらを、明日の夜までに集められる範囲で。と、指定して、丸投げ。
弟子の修行や。事務仕事で一日が過ぎる。大学の講義は式神まかせなので、最近は、大学内では、研究室と食堂以外の場所に足を踏み入れて無い気がする。
ヤミからのレポートが届いた。患者名・多賀由鷹、ALS(筋委縮症)、主治医、大田芳雄。入院先、宣山医科大病院
この病気の患者で有名なのはホーキング博士。地球には決定的な治療法がまだないため、博士は亡くなっている。複数世界雲では、類似の症状に対し、通常、次の3種類の処置がとられている。
1.全身サイボーグ化(成功率85%)
2.運動ニューロンの薬物と魔法による治療(成功率65%)
3.随意筋と神経の入れ替え(成功率55%)
うーん。成功率の高いのは擬体化かあ。これは、地球の現状だと厳しいものがあるなあ。ということで、追加情報の検索をヤミに指示。条件は、地球の現状でも受け入れやすいものを優先。
太田先生には「もう少しお持ちください」と一報を入れとく。
一晩寝て。発想を転換。
「外骨格と動力をギプスのように装着する案についても、あわせて検討せよ」と、追加指示。さあて、どんな結論がでるかな。




