▼558▲ 一片のリスペクトも無く他人の才能をかっぱらって自分の功績に見せかけようと企むパクリ野郎を地獄に突き落とすだけの立派なお仕事
「じゃ、じゃあ、あの拳銃をコンテナボックスに入れたのは――」
思わずアラン君がそう言いかけたのを、
「おっと、『壁に耳あり障子に目あり』だ、あまり滅多な事は口にしない方がいい」
と制し、ディスプレイ画面に表示していた医療データを閉じてから、
「ところで、解剖実習で『壁に耳あり』を実際にやった医学生は一発で退学になるらしいな!」
今回の事件と全く関係ない不謹慎な都市伝説ネタで強引に話題転換を試みるエイジン先生。
「真偽の程はともかく、死者を冒涜するのはいけませんよね……」
話題転換の代償として猟奇的な光景を想像させられ、気持ち悪そうな顔になるアラン君。
「もっとも、シャーロック・ホームズは解剖室の死体を棒で叩いて回ってたけどな!」
正にそのホームズコスプレで嬉々として気持ち悪い話題を追加するエイジン先生。
「冒涜を通り越してタダの危ない人なんですがそれは。何かヤバいクスリでもやってたんですか、ホームズ」
「原作じゃコカインとモルヒネをキメてた。マジで」
「うわぁ……ホームズものって、子供にも安心して読ませられる物語だと思ってたんですが」
「ホームズに限らず名探偵って奴はどこかイカれてるもんさ。ま、俺はどこからどう見ても善良な常識人だけどな!」
と誇らしげにのたまうエイジン先生へ、無言で「何言ってやがるこいつ」的な視線を向けるアラン君。
「ここは突っ込む所だよ、ワトソン君。さて、医療データはまた後で検討するとして、弾丸の方も見ておくか」
そう言って顕微鏡専用ソフトを起動し、ヘディ先生がセットしたままの弾丸の映像をディスプレイ画面に表示し、
「この引っかき傷が、刑事ドラマでお馴染みの線条痕だ」
その表面に刻まれた斜めの縞模様を指し示すエイジン先生。
「確か弾丸が発射される時に、銃身内部に刻まれた溝とこすれて付く傷ですよね。撃った銃を特定する決め手になるっていう」
「そう、指紋照合やトレパク検証と一緒さ」
「トレパク検証?」
「他人の絵や写真をトレースしたものをオリジナル作品として発表していないかどうかを調べる作業だ。これでパクリがバレた絵師は一気に信用を失う羽目になる」
「線条痕と何か関係あるんですか?」
「線条痕も指紋もトレパクも、基本的に画像を重ねて一致するかどうかがカギとなる。ただトレパクの場合、パクる側も元ネタを反転させたり複数のパーツを結合させたりと手が込んでるから、検証する側も高度な技能が要求される」
「まあ、線条痕や指紋は反転したり結合したりしませんね」
「そもそも元ネタの作品を探し当てるのが最難関だが、トレパク検証サイトにはそれも含めて特定を軽々とやってのける名探偵がゴロゴロいてな、『よく気付いたなこんなの』と感心させられっぱなしさ。
「だが感心ばかりもしてられない。これから線条痕を調べる俺達も、そのトレパク特定班の高みを目指さなけりゃならんのだからな!」
「あまり目指したくない高みなんですが。『トレパク特定班』って響きがちょっと」
「一片のリスペクトも無く他人の才能をかっぱらって自分の功績に見せかけようと企むパクリ野郎を地獄に突き落とすだけの立派なお仕事だぜ? しかも基本無給で! 頼まれてもいないのに!」
「微妙にディスってませんか、それ」
エイジン先生のおかしなノリに付いていけなくなる、いつものアラン君。




