▼557▲ 二本足で立った事で世界中の人々の記憶に残った少女
ディスプレイ画面に表示されている外付けハードディスクへの書き込み状況を示すプログレスバーを眺めながら、
「完了まであと三十分か。ダイヤルアップ接続でネットに繋いでた頃を思い出すな」
割とどうでもいいノスタルジーに浸るエイジン先生。
「ちょっと大きな画像を表示するのに一分以上かかってたそうですね。その時代に比べれば通信速度は格段に向上しているはずですが……」
ほとんど止まっている様にしか見えないバーをじっと注視しつつ、もどかしげに言うアラン君。
「何しろ、リング家の森の中にいるほぼ全ての人間の個人情報だからな。テキストはともかく画像データが重いんだろ」
「本当に全員分の情報が必要なんですか? 九十九パーセント以上は事件と無関係だと思いますが」
「百パーセント無関係だったとしても、それはそれで重要な意味があるさ。犯人はリング家の森の中でなく森の外の人間だって事になるからな!」
ああ言えばこう言ういつものエイジン先生。
「確かにそうですけれど……そもそも医療データから犯行との関連は分からないでしょう」
「分かる場合もある。例えば、ここに入院している重症患者はノータイムで容疑者リストから除外出来るぜ」
「それはまあ当然と言うか、犯行以前に身動き出来ませんからね……」
「逆にそこそこ動ける軽症の入院患者は怪しい。外部からリング家の森に潜入するのに入院という手段は非常に有効だと思わんかね?」
「では、犯人はまだここに入院していると?」
「疑ってみる価値はある。激しい雷を伴う嵐の晩に、車で十分以上かかるリング家の屋敷まで歩いて行き、ドアの真ん中に正確に狙いを定めて銃弾を撃ち込んだ後、また病院まで歩いて戻って来て、何食わぬ顔で病室のベッドに戻れる程度の症状の入院患者をリストアップだ!」
「それ、かなり健康な人でもハードルが高くないですか?」
そんなアラン君の冷静なツッコミを無視して、しばらく医療システムを閲覧しまくった後、
「ダメだ。思ったより重症患者だらけだ。ったく、どいつもこいつも使えねえ!」
社員が心身を壊してすぐ辞めて行くブラック企業の社長の様な事を言い出すエイジン先生。
「いや、重症患者だからこそ外部からの入院が許可されたんでしょう。軽症なら、かけられた魔法をここで無効化して、後は普通の病院で診てもらえばいいんですし」
「求人条件が厳し過ぎたか。雇用のミスマッチがこんな所にもあるとは」
「あ、でも、仮病の可能性は? 治ってるのに治っていないフリをしている入院患者がいるかもしれません」
「入院する時に全部検査して、その後の経過もレントゲンやらCTスキャンやらMRIで写真を撮って調べてるから仮病は無理だ。どこぞのクララみたいにほぼ立てる位まで回復している様な奴すらいない」
「クララを仮病の代表格みたいに言うのはやめてください!」
「ヤンキー三人娘が使えなくなった今、外部からの入院患者ってのは罪をおっかぶせるのに最適だったんだがなあ。残念!」
「人の心が無いんですか、エイジン先生」
どっと疲れた様子のアラン君。
「冗談だ。罪をおっかぶせる奴はもう決めてある。それはもちろん」
ディスプレイ画面にとある人物の医療データを表示して、
「よりによって、この俺達に罪をおっかぶせようとした奴だ」
強調する様に、そのデータの上でマウスのポインタをグリグリと回して見せるエイジン先生。




