表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
枯れゆく時に思ふこととは  作者: 靉靆
桜の眼差し
12/13

桜の眼差し、人の結び目

久々の更新ですね^^;

――いよいよ明日なんだな。


 伸吾と楓の約束から一年と少しが経った今日は三月三十日。明日には伸吾がこの場を訪れるだろう。


 伸吾は学校の方面の影響で一年間姿を現すことはなかった。桜の木はそのことを少し寂しく感じつつも、逞しくなっているであろう伸吾を楽しみにしていた。


 楓においても学校の方面の影響からか、この場に姿を現す機会が減っていた。それでも一年間姿を現さなかった伸吾とは違い、何度かはこの場を訪れている。


 この場を訪れた時の楓は、とても穏やかな表情をしていた。


 伸吾との約束に思いを馳せる様に、約束の日を待ちわびる様に。


 しかし、その目には少しだけ不安の色も湛えられている。その時の楓の目を見た桜の木は怖くない訳がないのだと感じていた。


 短い時間でも人は劇的に変化する。それなのに長い時間、伸吾と楓は離れていたのだ。


 桜の木にとって一年は比較的短いと言える。それは四百年の長い時間を生きてきたから言えるだけであり、十数年しか生きていない人にとっては一年は長いものだろう。


 ましてや待っている日が先に存在するのだ。より長く感じていたことだろう。


 楽しい時間は一瞬で過ぎ去っても、楽しみな日はなかなかやって来ない。


 だからこそ不安は募る。


 伸吾の心変わりを少しも疑わずにはいられない。伸吾が約束を忘れていない保証もない。自分は彼の横に立っていられるほどの価値を作れているだろうか。過度な期待をし過ぎて冷めてしまわないだろうか。


 不安は募りこそすれ無くなりはしないだろうと桜の木は考えていた。全てが願った通りに進むということはないのだから。


 桜の木はこのような楓の不安を汲み取った一方で、自らは不安を感じてはいなかった。


 およそ月に一度ずつしか訪れなかった楓は訪れる度に美しく、魅力的な女性へと成長していった。


 最後に楓を見かけた時には、長く、綺麗な黒髪がふわりと風に舞っていたことを桜の木は思い出した。


 中学生時代のあどけなさを多少は残しつつも、楓特有の美しさがそれを感じさせなかった。


――何も不安に思わなくていい。


 桜の木は楓を見て素直にそう思えた。


 伸吾にしてもまっすぐに物事を見据えることができる綺麗な瞳の持ち主だったことを桜の木は覚えている。


 だからこそ伸吾を信用できたのだ。


――明日、君たちの出す答えを僕は早く知りたいな。


 こうして三月三十日は静かに、ゆっくりと過ぎ去って行く。



===================



 ゆっくりと昇る太陽は、少しずつ世界を明るく彩る。空は黒の世界から、紫の世界へ。そして、まぶしく爽やかな青の世界へと変化する。


 桜の木は暖かな春の日差しを受けてたくましくも繊細な花を咲かせる。


 今日は約束の日。


 桜の木も、楓も。きっと伸吾も待ちに待った約束の日なのである。


 桜の木は二人の世界に淡い、桜色の彩を添えるためによりいっそう気合を入れていた。


 そして、時が流れた九時三十分。


 桜の木の視線の中に一つの人影が飛び込んできた。


「久しぶりにここに来たな……」


 そこから聞こえたのは伸吾の声だった。


 桜の木は最初に伸吾の身体的な成長を感じた。


 現に声は少し低くなっており、体も一回り大きくなっていた。身長は百七十後半くらいになっているのだろうか、全体的な体格が以前に比べるとがっしりして男らしくなっている。


――ここまで来ればもう安心して見ていても大丈夫かな?


 伸吾は約束通りに現れた。楓も待ちわびるように何度かここを訪れていた。桜の木には二人の思いが重なっているように感じられる。


「そう言えば、時間の約束はしていなかったな……」


 唐突に伸吾が呟いた。


 桜の木も確かに一年前、時間までは約束していなかったことを思い出した。


 とは言え、そもそも直前に連絡を取らない限り時間までは覚えていない可能性の方が高いのだが。


――でもきっと二人なら大丈夫さ。


 桜の木はそんなことを考えながら暖かく、穏やかな日差しを感じていた。




===================



――ん……?


 桜の木は眠りから目を覚ました。


 桜の木は伸吾が訪れてから、伸吾と共に楓の姿を待っていた。


 しかし、その途中に温かな日差しを受けて心地よくなり、眠ってしまったようだ。いつの間にか時間はお昼過ぎになっている。


――寝過ぎた……?


 桜の木は伸吾が立っていたはずの場所や、周囲のベンチを見回したが誰もいなかった。


 伸吾は諦めて帰ってしまったのだろうか、二人はどうなってしまったのか。


 勝手だと思いつつも、桜の木は伸吾と楓の二人が結ばれれば良いと思っていた。それどころか一年ぶりに伸吾が現れたことで、二人は結ばれるだろうという確信めいた物まであった。


 しかし、それらはあくまでも桜の木の予想であって答えではない。


 桜の木は伸吾と楓の出す答えが知りたかった。例えどんな答えを出そうとも二人とも前に進むことができるだろうと思っていた。


 その瞬間を見逃してしまったのかもしれない。


 桜の木は心が深く沈みこんでしまいそうになった。


――いつの間に……?


 ふと自分の根元に温かさを伴った重さを感じた桜の木は、その場所を見下ろした。


 すると、灯台下暗しとは誰が言ったものか、そこには伸吾だけではなく楓までもがいた。


 二人は少し離れてはいるが、並んで桜の木にもたれかかっていた。


 どうやら伸吾は眠ってしまっているらしく、楓はその隣で本を読んでいた。


 眠ってしまっている伸吾を怒る訳でも起こす訳でもなく、ただ横に並び本を読んでいる。


 まるでこの場所の時間だけがゆっくりと進んでいるかのようである。


「ん……」


 小さく声を漏らしながら伸吾が身動ぎした。


「きゃっ!?」


 伸吾は動いてしまった事でバランスが崩れたのか、楓の方に向かって少しずつ傾き、倒れてしまった。


 げんざいの状態は楓が伸吾に膝枕をしているような状態である。


「伸吾君……?」


 眠ったまま伸吾が倒れてきたことに最初こそ驚いて声を上げた楓だったが、伸吾が眠ったままバランスを崩した事を把握すると、きょとんとした顔をして伸吾の名前を呼んでいた。


 すると、その声に反応したのだろうか。伸吾が目を開けた。


「……あれ?」


 自分の状況を理解していないのか、まだ寝ぼけているのか。伸吾は微かな疑問の声を上げた。


 次第に自分の状況を把握したのだろうか、伸吾は顔を赤く染めて勢いよく起き上がった。


「ご、ごご……ごめん!」

「う……うん」


 楓も冷静になって状況を把握したのだろう。伸吾と同じように顔を赤くしている。


――二人とも想いは変わっていないのかもしれないな。


 桜の木はそんな様子を微笑ましく思いながら眺めていた。


 

===================



 あれから伸吾と楓はお互いの一年間を埋め合わせるように話していた。


 それから間もなくして伸吾が立ちあがり、気を引き締め直して楓に告白していた。


「ずっとあなたが好きでした。今でもあなたのことが好きです。僕と付き合って下さい」


 愚直なまでにまっすぐで単純な告白文句。だからこそ伸吾の真摯さが伝わってくる。


 楓も待ちかねていたのだろう。顔を赤くしながら微笑み、そして伸吾を受け入れた。


 この時には高校二年だった彼らは、それからも仲良く過ごしていた。高校卒業後に伸吾はもう一つの夢の為に海外へ出た。楓は日本の大学へ入り、勉強を続けた。


 数年間は手紙だけのやり取りだったらしい彼らは、それでもお互いを愛し合っていたらしい。楓の大学卒業に合わせて伸吾が海外から帰国、その後プロポーズをして結婚した。


 もちろんプロポーズも桜の木の目の前で行われていた。季節は春。満開の桜の木の下で言葉は紡がれていた。


「楓さん。僕はあなたを待たせてばかりだった。離れてばかりだった。それでも心はあなたのそばにあり続けたと思っています。これからもあなたの傍にいたい。僕と結婚してくれませんか」


 強い意志をもった言葉だった。


「ありがとうございます。伸吾さん」


 綺麗な瞳に涙を浮かべて楓はプロポーズの申し出を受けていた。


 そして、この一年後が桜の木と弥生の初めての出会いになる。

少し間が空きすぎました。。。

本当は書きたかった内容があったのですが見事にスルーした気がします。


楽しみにしてくださっていた方もそうではない方もいつもありがとうございます^^


感想や意見等いつでもお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ