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枯れゆく時に思ふこととは  作者: 靉靆
桜の眼差し
11/13

桜の眼差し、人の約束

前回よりはちゃんと書けてると思いたいです。。。

「もう明日が卒業式なんだね」


 少し寂しそうな楓の声が響く。


「うん、すごく短かった気がするよ」


 同意する伸吾の声。


 桜の木が一瞬で過ぎ去ったかのように感じた時間。それに気が付いたのは春の訪れの時期。それから間もなくして訪れているのが今この時だった。


 およそ二年もの間、桜の木は時間の進行を極端に認識しなくなっていた。このような事は人には考えられないことだろう。しかし、およそ四百年も生きてきた桜にとっては二年など短い期間に過ぎないのかもしれない。


 そのような事実があるとは知らないであろう楓と伸吾が桜の木の目の前でこの会話をしているのは偶然か、それとも必然か。桜の木には答えの出しようがなかった。


 それでも今、目の前でこの会話がなされているのである。桜の木が興味を抱くことになった人達の会話。


 様々な人の一面を見られるのは桜の木にとってはやはり嬉しい物である。伸吾と楓の二人に対してもそれは例外ではない。寧ろ伸吾と楓の場合は、興味を持った人の一面だからこそ嬉しいのかもしれない。


 一方で伸吾と楓の会話は物語の中ではテンプレートとも言える会話であった。何の面白みも感じられないと思う人が圧倒的多数になるのだろう。それだけに実感することがあるのは、やはり使い古された言葉の力なのだろうか。


 等しく流れるはずの時間も、楽しい時間であればあるほど一瞬で流れてしまうのだと、改めて実感できる。


 同時に、桜の木はおぼろげながらこの二年間を思い出す。


 伸吾との邂逅。伸吾と楓の出会い。伸吾の絵。楓の笑顔。二人が桜の木の下で過ごしてきた時間。


 どれもこれもが楽しかったことを思い出す。その時だけは、自分の死を考えないでいられたことを思い出す。何もなかったように感じていただけで確かに二年間は存在していた。


 そうして認識する。


――そうか、僕は楽しかったんだ。


 桜の木は今まで自分の死を考えてこなかった。また、人に多少の興味を持つことはあれど、人との関わりを深くは考えていなかった。


 そんな日々が、伸吾と楓を通して劇的に変化したのだった。


 自分自身が死んでしまうことは恐ろしい。しかし、桜の木に死を認識させた伸吾と楓がいたからこそ、楽しい日々が一瞬で過ぎ去ったのだ。


 自身の死を認識したからこそ、絶望をかみしめ続けたからこそ、おぼろげに思い出した楽しさが何倍にもなって桜の中で膨れ上がる。桜の木は充実した時間を過ごせていたのだ。


 ありきたりな表現だが、ありきたりだからこそ伝わるだろう。


――これから僕がするべきことはきっとこれなんだ。


 桜の木は夕日に照らされながら枝を広げるように力を入れた。次の瞬間、優しい風が吹きわたる。そして、枝に咲く桜の花びらが金色の風にさらわれて宙へ舞う。


「わぁ♪」

「すっげぇ……」


 その日の桜の木は、それまでと変わらないはずなのに何倍も優しく、力強く咲き誇っていたという。



===================



 天気は快晴。暖かくなってきた風が桜の花びらをどこへともなく旅に連れ出す。連れ出された花弁はもう二度と戻ることはない。


 それでもその一瞬の美しさを忘れることはないのだろう。そして、きっとどこまでも高く飛んでいくだろう。


 伸吾と楓の第二の旅立ちの日の朝。中学校の卒業式当日。いつもより心なしかシャキっとした伸吾とどことなく大人の美しさを纏い始めた楓が、それぞれ学校へ向かって行った。


 今はちょうど卒業式の真最中だろう。


 この時間は人通りが少ないのもあり、桜の木は空を見上げていた。


 雲一つない空はどこまでも清々しく、今の桜の木の心を表しているようだった。


 今日この日は、桜の木も自らの卒業の日だと考えていた。ただ惰性で同じ事を繰り返した日々からの卒業。


 できる事がないのは何も変わらない。それでも、人を見守る楽しさや嬉しさを知れた事は桜の木にとっては大きな成長と言えるだろう。だからこそ、惰性で生きていた今までを取り返すため、そんな自分から卒業する日だと考えていた。


 人をより深く知る為に、生きて行くのだと決めたのだ。


 それから少し経ち、道行く人が少し増えてきた。学生服を身に纏っている人が多数見受けられることから、卒業式帰りの人々だと思われる。


 そんな人々が通り過ぎて少し経った時、伸吾と楓が歩いてきた。


「あ~もう中学生生活とはお別れかぁ……」


 伸吾が伸びをしながら呟いた。適度に温められた風が心地よいのだろうか、その表情は気持ち良さそうだ。


「そうだね、もう来月にはもう高校生だよ?」


 はにかみながら楓が伸吾に答える。


「うん。僕と日野山さんと学校から帰るのもこれで最後なんだね……」


 少し顔を赤らめながら伸吾が答える。


 伸吾と楓はそれぞれ高校への推薦入学が決定していた。その入学先は違う学校であるらしく、学校へ通う伸吾と楓をセットで見るのはもしかしたらこれが最後なのかもしれないと桜の木は思った。


「伸吾君が転校してきてからの二年間だからもう何回一緒に帰って来たかわからないもんね」


 楓も答えたが、頬を赤らめながら俯いてしまった。


 この二人は二年間の間にとても仲良くなったと桜の木は感じていた。初めて会った時にはお互いに訳の分からないまま学校へ向かっただろう。


 それからの二人は毎日ではないが一緒に帰る日も多く、よく会話をしながら帰っていた。その時の会話を桜の木は思い返した。


 転校したクラス配属により、伸吾と楓が同じクラスになったこと。部活動をしている事や、学校の行事。テストの点数や仲の良い友達。本当に色々なことを話していたと思う。


 そして、現在へと至る。


 桜の木は人間ではないが、それなりに良い雰囲気であると感じていた。見ている方が恥ずかしくなるくらいである。


 そんな空気を破ったのは伸吾だった。いや、むしろ加速させたと言っていいかもしれない。


「あの、日野山さん。少し話があるんだけど……いいかな?」

「えっ? う、うん。何?」


 少し表情を引き締めて楓に話しかけた伸吾。それを受けて驚きつつも何かを期待するように答える楓。


 それは本当にどこかで見る物語そのままと言えるかもしれない。


「あの……さ。話って言うよりお願いになるのかな……」

「う、うん。何?」

「僕と……」


 伸吾の体に自然と力が入る。


 それに釣られるかのように楓の体に力が入る。


 桜の木もその様子を固唾をのんで見守っている。


「僕と……あの、一年後にここで会ってくれませんか!?」

「え?」


 楓が何かが抜けたような声を漏らした。


 当然だろう。この雰囲気はまさしく告白シーンなのである。雰囲気も最高に良かったと言えるだろう。その先に出て来ると期待するのは告白の言葉のはずである。それがまさかの再開の申し出だったのだ。


 楓が抱いていた期待は半分ほど吹き飛んだであろう。


 しかし、次の瞬間には吹き飛んでしまったはずの楓の期待は舞い戻ってくる事になる。


「あの……さ、正直言うと僕は日野山さんのことが好きなんだ」

「えっ!?」

「でも……さ、今の僕だと日野山さんにつり合いが取れるなんて思えないんだ。だからもしよければ一年後の三月三十一日にここで会って欲しいんだ。その時にはきっと釣りあえるような男になって来る」

「伸吾くん……」

「もしも一年後、他に好きな人が居たり僕の事を忘れてしまってたならばそれでも構わない。日野山さんが良ければ一年後、ここでちゃんとした告白をしたいんだ」


 好きだと告げられた楓は、伸吾の言葉を全身で受け止めた。


「うん。一年後。私も一年後に伸吾くんに置いていかれないようにがんばるね♪」


 桜の木は、一年後の二人の再会が、良き再会になるようにと心から願ったのであった。

前回よりはちゃんと書けていると良いのですが。。。

何より完全に不定期状態なのは申し訳ありません。

まだ続いてしまう伸吾&楓編ですが、これがひと段落つくと弥生にフォーカスが戻ります。きっと。


皆様の出会いと恋にも幸がありますように。

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