04
気持ち悪い。
それが、三木坂麗雅の部屋を目にした大和の、率直な第一印象だった。
『やまちゃん、一致したよ!あの両手、やっぱり三木坂麗雅のもんだ』
馴染みの鑑識から、村井琴の元に届いた『純白の両手』が三木坂本人のものだと断定する報せを受けた大和は、すぐさま捜査の舵を三木坂の身辺へと切り換えた。
白亜の本社で彼女に関する聞き込みを続けるよりも、先ほどまで長須賀を聴取していた銀行の場所からは、三木坂の自宅マンションの方が圧倒的に近かった。そのため、大和は陽菜を伴ってそのまま彼女の私生活の拠点へと向かったのだ。
車を止めた地下駐車場では、すでに先行班の刑事たちが、三木坂の愛車と思われる高級車を入念に調べている最中だったが、二人はそれを横目にエレベーターへと乗り込み、彼女の部屋へと直行した。
しかし、リビングの扉を開けて目にした光景に、二人の足は完全に止まった。
「なんなんだよ、この部屋は……」
「三木坂社長は昔、大好きな人に『色白な肌』を褒められたそうなんです。それ以来、白という色が大好きになったって、以前雑誌のインタビューで嬉しそうに答えていました」
「白が好き、ねえ……。それにしちゃあ、限度ってのもんがあるだろ」
白い壁に、白いカーペット。配置されているモダンな家具も、最新の家電も、何から何まで例外なく白一色で統一されていた。
静寂が支配する真っ白なその空間からは、『白以外は一切許さない』『すべてが白くなければいけない』という、どこか強迫観念めいた、狂気じみた主張が痛いほどに溢れ出しているように感じられた。
「とにかく探すぞ。なんでもいい、何か少しでも手がかりになりそうな物を見つけ出すんだ」
「はい!」
大和たちは、まるでモデルルームのように寸分の狂いもなく綺麗に整頓されている部屋のなかから、ほんの僅かな違和感の糸口を探し始めた。本棚の隙間から食器棚の引き出しに至るまで一つひとつを丁寧に確認し、誰かに、あるいは何かに繋がる可能性を貪欲に追う。先行班から『室内での激しく争った形跡も、荒らされた痕跡も一切なし』との報告を受けてはいたが、それでも自分たちの肉眼で、徹底的に確認していく。
「おい、陽菜っこ。この中に見覚えのあるモンはあるか?」
大和は寝室のドレッサーで見つけた、小さな高級ジュエリーボックスを陽菜の目の前へと差し出した。中に入っている貴金属はどれも素人目にも一級品だと分かるが、ブランドやアクセサリーの流行に疎い大和には、それ以上の細かい価値が判別できなかったからだ。
「ええと……。あ、大和さん、この指輪! 三木坂社長がご自身のSNSに何度も上げていました。『私の一番のお気に入りで、肌身離さずいつも着けている』って」
陽菜が小さな人差し指で指し示したのは、精緻なカットの施されたダイヤが美しく輝く、シルバーの指輪だった。そのデザインは、まるで誰かと誓いを交わした『結婚指輪』のようにも見える。しかし、三木坂麗雅は世間的には独身のはずだった。
「後で周囲の奴らに確認を取る。中身を全部、一枚残らず写真に収めておけ」
「え?あ、はい!」
ジュエリーボックスを陽菜の手へと託し、大和は再びリビングへと引き返した。
――本当に、グレーの隙間すらねえのかよ。
部屋の中をもう一度くまなく見渡したが、先行班の報告通り、事件に直結しそうな不審な物品は何一つとして見つからなかった。通帳や印鑑といった貴重品をはじめ、高価な貴金属類やブランド品も、すべて奪われることなく綺麗に残されている。物盗りの犯行ではない。
「大和さん、写真、すべて撮り終わりました」
大和がリビングの白い壁を睨みつけていると、寝室から陽菜がスマホを片手に戻ってきた。その横顔は暗く沈んでおり、これから自分が尋ねる質問の答えなど、すでに容易に想像がついた。
「おお、ありがとな。……で、何か気になるものはあったか?」
「……いえ。やはり、何もありませんでした」
「だよな……」
目視による確認はすべて、抜かりなく行った。その結果が『収穫なし』。そうなれば、これ以上この部屋に留まって大和たちにできることはもう何もない。
だから――。
「大家にスペアキーを返しがてら、一階の管理室へ向かいましょう」
次の一歩を踏み出すしかない。
大和たちは白一色の奇妙な部屋を後にし、マンションの一階に設置された管理室へと向かうべく、静かにドアを閉めた。
「やっぱり、都心の高級マンションともなると防犯カメラの数が多いですね」
エレベーターに乗り込むと、陽菜は天井の隅に設置されている黒いドーム型のレンズを見上げた。
「立地も大いに関係あるが、住んでる奴らから高い管理費をきっちり回収して設備に回してるんだろうよ。金さえあれば、大抵の安全は買えるからな」
「金さえあれば、なんでも……っ。――築年数だけの問題じゃ、なかったんですね」
陽菜は合点がいったように急にうつむいたが、大和は特に何も言わず、ただエレベーターの階数表示モニターをじっと眺めていた。
――まだまだ、可愛いひよっこだな。
陽菜が大和と行動を共にするようになってから、およそ一週間。自分なりにベテランの背中を見て貪欲に学んでいるのか、今では聴取のコツも掴み、物事の『裏側』を立体的に考えられるようになりつつある。だからこそ、村井琴のマンションの家賃が異常に安かった理由にも、自力で思い至ることができたのだ。
けれど、そんな些細な気づき一つでいちいち気分を沈ませるし、その繊細な感情を隠すのも相変わらず下手くそのままだ。本当に、手がかかる奴だ。
「管理人の対応、お前に任せたぞ」
「……はい!」
力強く頷いた陽菜は、エレベーターのドアが開くと同時に、迷いのない足取りでズンズンと前へ進んでいく。
一方、一階の管理室の受付窓口の奥では、管理人の男が下を向いて熱心に何かを記入している最中らしく、大和たちの接近にまだ気がついていないようだった。
「お疲れ様です。スペアキー、ありがとうございました」
陽菜が窓口越しに声をかけると、管理人の一宮はハッと顔を上げ、すぐに人当たりの良い柔和な笑顔を浮かべた。
「ああ、刑事さん、お疲れ様です。随分と早かったですね、お部屋の方はもうよろしいのですか?」
「はい、ご協力ありがとうございました。……それで、お忙しいところ大変恐縮なのですが、次はマンション内の防犯カメラの映像を拝見させていただけますか?」
「ええ、承知いたしました。少々お待ちください」
一宮は丁寧に一礼して窓口の奥へと一瞬姿を消したが、すぐに横の通用口ドアから通路へと姿を現した。
「オーナーからも、今回の警察の捜査には全面協力するようにときつく言われておりますので。どうぞ、こちらへお入りください」
「あ、はい。ご丁寧にありがとうございます」
大和たちは案内されるがまま、厳重なロックの解除された管理室の内部へと足を踏み入れた。
室内にはスチール製のデスクやロッカー、各種備品が整然と置かれていたが、隅々まで美しく整理整頓されているためか、まるで洗練された小さなオフィスのようだった。
「あちらの専用パソコンで、すべてのカメラ映像が確認できます。データは三十日前まで遡れますが、具体的な日時のご指定はございますか?」
「先週の水曜日の……朝からの映像を、一通り確認させていただけますか?」
「かしこまりました。今、データを呼び出しますね」
一宮は丁寧に微笑むと、大型のデスクトップパソコンが置かれている奥の事務机へと進んでいく。
その後ろを、陽菜は目的意識を持って真っ直ぐについていったが、大和は周囲の備品を鋭く観察しながらゆっくりと歩き――受付窓口のカウンターの上に置かれている、一冊のノートの前でピタリと足を止めた。
――あれは……さっきの奴が、隠すように書き込んでいた……。
分厚い布張りのノートは、大和たちが部屋に入る直前、不自然にパタンと裏返しに伏せられた状態になっていた。そのため、表紙に何と書かれているのかは確認できない。
一宮本人に「それ、見せてくれ」と直接ストレートに聞いてもいいのだが、男は今、席に着いた陽菜の隣に屈み込み、システムの操作方法を熱心に説明している真っ最中だ。少し声を掛けづらい空気がある。
映像を確認し終えた後で、正式に「そのノートも確認させてほしい」と頼めばいいだけの話だ。――頭では分かっている。分かっているのだが、大和の刑事としての凶悪な本能が、あの不自然に伏せられたノートからどうしても目を離させてくれない。
一宮が陽菜に気を取られている隙に、しれっと手を伸ばして、今ここでひっくり返して中身を覗き見てしまいたい。
だが、この先も何度も協力を依頼する可能性がある以上、この優秀で従順な管理人の好感度は、今の段階で絶対に損なうべきではなく――。
「大和さん、映像の準備が……って、どうかしたんですか?」
「なんでもねえよ。で、映像の方はどうだ?」
「はい。出入り口、廊下、エレベーターの内部と外。それに地下駐車場まで、すべて綺麗に残っていました」
「よし。じゃあ……まずは地下駐車場の映像から流せ」
大和は一宮が用意してくれたパイプ椅子を引き寄せ、陽菜の斜め後ろに陣取って画面を凝視した。
深夜の駐車場は、都心の最高級マンションとはいえ、一~二台の高級車が出入りした程度で目立った動きはなかった。そこから数時間後、世間が通勤ラッシュの時間帯を迎えると、住人らしき人々が次々と車に乗り込んで出発していく姿が映し出され始める。
そして、午前八時ちょうど。ロングヘアーに全身を白で包んだ人物が画面に現れた。
「止めろ!……一宮さん、これ、誰だか分かるか?」
「こちらの方は……おそらく住人の三木坂様ですね。この先に三木坂様の愛車が停めてありますし、普段からご自身で運転して出勤されていると伺っておりましたので」
「へえ。通勤の方法まで把握してるなんて、ずいぶんと親しいんすねえ」
「滅相もございません。私はただの雇われフロントマネージャーですよ。敷地内の駐車場の登録状況を把握するのは通常業務の一環ですし、お話しさせていただく機会があったとしても、他愛のない世間話の程度ですから」
完璧な笑顔を一切崩さずに淡々と答える一宮に、大和は「そうっすか」と頭をガシガシと掻き、再び視線をモニターへと戻した。
――油断のねえ、面倒な奴だな。
常に笑顔で丁寧な対応を徹底している一宮は、表向きは非常に感じが良い。きっと困りごとがあれば迅速に対応してくれる、有能な男なのだろう。ゆえにマンションの住人たちから深く信頼されている可能性は高い。だが、だからこそ、彼を起点に住人間で何らかの歪んだいざこざが発生していたとしても不思議ではなかった。
年齢も三十代前後ならば三木坂と同世代で話も合うはずだ。三木坂自身の交友関係と同様、この一宮という男の素性に関しても、裏で詳しく洗ってみる必要がありそうだ。
「――大和さん、これで水曜日の日付が変わりました」
「はあ……長いな。そのまま続けろ」
人と車が淡々と出入りするだけの単調な映像に、集中力が途切れかけたその時。陽菜からようやく一日分のチェックが完了したことを告げられた。しかし、三木坂の車が「戻ってきた姿」はいまだに確認できていない。大和たちは微かな疲労を押し殺し、さらに目を皿のようにして映像を追い続けた。
動きのない画面を見続けること、さらに数分。
「――おい、きたぞ!ナンバーを確認しろ……よし。時間は木曜の午前七時だ。車から降りてくるのは……ん?三木坂、なのか?」
画面の防犯カメラに映し出されたのは、間違いなく三木坂麗雅の所有する白の高級車だった。だが、運転席から降りてきた全身白コーデにロングヘアーの人物は、つばの広い白い帽子を目深に被っており、その絶妙な角度のせいで顔が一切確認できなかった。
「一宮さん!これ、ここから拡大はできないっすかね!?」
「申し訳ございません。リアルタイムの監視映像でしたらデジタルズームが可能ですが、過去の録画映像となりますと、この端末のシステムからはこれ以上の解像度は出せかねます。サポート会社にデータを送って依頼すれば、数日中には鮮明化の対応をいただけるかと思いますが――」
「じゃあ今すぐそのサポート会社に連絡して手続きしといてください!陽菜っこ、少し映像を巻き戻せ。もう一回、そいつが車から降りた瞬間から見直すぞ」
大和はパイプ椅子から身を乗り出し、画面を貪るように睨みつけた。
もし、この映像に映っている人物が三木坂本人であれば、彼女は少なくとも木曜の午前七時の時点までは、自力で動ける状態で無事だったという決定的な証明になる。しかし、もしこれが「彼女ではない別の誰か」だったとしたら――犯人が意図的に三木坂に扮し、彼女が生存しているかのように偽装工作を行った、極めて猟奇的で狡猾なトリックということになる。その場合、この偽者を早急に特定し、身柄を確保しなければならない。
ゆえに、何が何でもその顔を確認したかった。
しかし――。
「クソが、誰なんだよこいつは……っ!」
どれほどコマ送りにしてみても、その人物は徹底してカメラの死角を突くように動いており、一瞬たりともその素顔を晒すことはなかった。
「大和さん。あの……確固たる根拠があるわけではないのですが、この映像の人物、三木坂社長本人ではないと思います」
パイプ椅子に深くふんぞり返る大和に向けて、陽菜が遠慮がちに、しかし芯のある声で呼びかけてきた。自身の発言にまだ自信を持てずにいる迷いとは裏腹に、その両目だけは真っ直ぐに大和を射抜いている。
「あぁ?んなこと、言われなくても分かってるよ。だからこそ、このクソ野郎がどこのどいつなのかが知りてえんだ」
コマ送りの映像を何度繰り返し眺めてみても、その素顔を拝むことはできなかった。だが、見えないからこそ、逆に確信に変わる。
この人物は――このマンションに設置された防犯カメラの正確な位置を完全に把握した上で、完璧に三木坂麗雅へと成りすましているのだ。
そうでなければ、地下駐車場に車を滑り込ませてから、住人用エレベーターへと乗り込むまでの数分間、ただの一瞬たりともレンズに顔を晒さずに行動することなど、天地がひっくり返ってもできるはずがない。どこにどう立ち、どう頭を動かせば顔が映らないのか。カメラの細かな死角を熟知しているからこそ、不自然さを一切感じさせない流麗な立ち振る舞いで、白いつばを操って顔を隠し通せるのだ。
おまけに、もし映像の人物が三木坂本人であるならば、彼女が今さら顔だけを必死に隠す理由がどこにもない。なんせ、乗ってきたのは彼女自身が所有する白の高級車であり、服装もメディアで有名なお決まりの白コーデなのだ。顔を隠したところで、周囲からは三木坂だと簡単に推測されてしまう。
つまり、この映像の人物は「自分は三木坂麗雅である」と、我々警察の目を欺こうとしている真っ赤な偽物なのだ。
「ったく、どこまでも手の込んだ真似をしやがる……。一宮さん、このマンションのエントランスは当然オートロックですよね。住人の出入りの電子記録とかって、今すぐ出せますか?」
「ええ、もちろん管理データがございます。そちらのシステム画面から一覧でご確認いただけますよ。防犯カメラの映像データは、このままにしておきますか?」
「映像は……まだじっくり確認したいんでね。先週の木曜日からの直近一週間分、すべて書面でプリントアウトしてもらってもいいっすかね?」
「かしこまりました。刑事さん、少しだけパソコンの操作を失礼しますね」
「ええ、どうぞ」
一宮は陽菜からマウスを滑らかに受け取ると、手慣れた手つきで専用の管理パソコンを操作し始めた。
「大和さん。この……三木坂社長に変装した人物が、今回の事件の犯人なのでしょうか」
「さあな。だが、無関係ってことは絶対にねえだろ。わざわざ監視カメラに映るリスクを冒してまで、車をここまで戻しにきてんだからな」
「……警察に絶対にばれないという、絶対的な自信があるんですね」
「だろうよ。実際、俺たちの目をもってしても顔を拝むことはできなかったわけだしな。……どいつもこいつも、もっと別の建設的なことにその頭を使いやがれってんだよ!」
大和は忌々しげに吐き捨てると、自らの分厚い太ももへと固く握った拳をドスンと叩きつけた。
最初にこの猟奇事件の詳細を耳にした時、大和は脳裏で「人間の両手を送りつけるなんて狂った真似をする奴は、世間の注目を浴びたいだけの愉快犯の可能性がある」と考えていた。しかし、調べれば調べるほど、犯人は事前に綿密な下調べを重ね、何重もの緻密な計画を練り上げた上で実行に移しているような、冷徹なプロの気配がしてならない。
この『偽物の三木坂』がわざわざ自宅に車を返しに来た理由も、すべては警察の初動を遅らせるための偽装工作だ。
もし、出張中であるはずの社長の愛車が、白亜の本社や、あるいは全く関係のない路上に放置されていたらどうなるか。不審に思った社員や通行人がすぐに騒ぎ立て、何らかのアクションを起こしかねない。そうなれば、三木坂が出張などに行っておらず、すでに何らかの事件に巻き込まれていることが一発で発覚してしまう。
かといって、本社以外の見知らぬ土地に乗り捨てれば、周辺の街頭防犯カメラの網から、運転していた『偽物』の足取りを簡単に特定されてしまうリスクがある。三木坂の服を着ていても、彼女がそこに車を停める正当な理由がなければ、一瞬で本人ではないと見破られるだろう。
だが――ここが『自宅の個人駐車場』であれば話は別だ。たとえ一週間以上車が動かずに停まったままであろうとも、近隣の住民も管理人も、何一つとして疑問を抱きはしないのだから。
「お待たせいたしました。先週木曜日からのエントランスの通過ログ、すべて印刷が完了しました。どうぞご確認ください」
いつの間にか背後のプリンターを作動させていたらしく、一宮は温かい紙の束を大和の目の前へと差し出してきた。
「どうも。……警察の情けない醜態を見せちまって、すんせんでしたね」
「お気になさらないでください。目的のために懸命になっている姿というのは、大抵、泥臭くて格好悪いものですから」
「……ほんと、一宮さんはどこまでも底の知れない食えない人だ。よし、陽菜っこ!お前は引き続き地下駐車場の映像を洗え。俺はこのログと照らし合わせて、偽三木坂の出入りを完全に突き止める」
「はい!」
そうして狭い管理室のなかで捜査を続けること、数時間。
大和と陽菜は、ついに決定的なタイムラインを掴み取った。
あの『偽物の三木坂』は、木曜の午前七時に地下駐車場へ現れて車を格納した後、エレベーターで一度上階へと向かっている。そしてその二時間後――午前九時ちょうど。今度は正面玄関の防犯カメラの前に再び姿を現し、衣服を詰め込んでいるのか、ずっしりと重そうな『白の大型スーツケース』を片手に引きずりながら、悠然と外の世界へ退出していった。
そしてその足跡は、現在に至るまで、二度とこのマンションへと戻ってくることはなかった。




