表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜転生〜俺の鑑定スキル、全部チャートで表示されるんだが、ポートフォリオ召喚術で異世界無双します〜  作者: スローインベスター


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/10

第9話 土くれの守り手

主人公は、うまく仲間を獲得できるでしょうか。

横穴の、いちばん奥。


誰の足音も届かない行き止まりの暗がりに、その小さな光は灯っていた。


「……お前」


俺はふらつく足を引きずってしゃがみこんだ。


近くで見ると、それはますます地味だった。丸っこい、土くれのような体。


ところどころに苔がむして、てっぺんに芽が一本、頼りなく揺れている。


掌に乗りそうなほど小さく、光は弱々しくて、今にもふっと消えてしまいそうだ。


まるで、踏まれて忘れられた道端の小石みたいだった。


なんとなく——ほんとうに、なんとなく、俺はそいつに鑑定を向けてみた。


▼ 鑑定結果

名称:(縁なき燃えさし) / 守りの型

─── 持ち高 ───

属性 ………… ディフェンシブ

火力 ………… 低

耐久 ………… 高

コスト ……… 極小

─── 銘柄カルテ ───

割安・割高 …… 割安(誰も欲しがらず、安い)

体力(財務)…… 厚い(借りなし・頑丈)

還元(尽くす度)… 手厚い(黙って尽くす)

気になる兆し …… なし

─────────────

見立て:地味。されど中身は健全。——本物の、割安。


……なんだ、これ。


いつもの、敵の"天気予報"とは違う。


魔物を鑑定したときに出る地合いだの複雑度だのじゃなく、今度は、こいつ自身の"中身の通信簿"みたいなものが、ずらりと並んでいる。


ディフェンシブ、という言葉には、覚えがあるような、ないような。


けれど、その下の欄は、俺にも読めた。


割安。


誰も欲しがらないから、安い。


なのに体力は厚くて、頑丈。おまけに、黙って尽くす。


気になる兆しは、なし。


……つまり、これは。安く見くびられているだけで、中身はまっとうに健全な——掘り出し物、ってことじゃないか。


火力、低。耐久、高。コスト、極小。殴る力は弱いが、打たれ強くて、維持にはほとんどマナが要らない。


オルカが一振りで俺をすっからかんにする大砲だとしたら、こいつはその正反対だ。


その瞬間、昼間オルカが渡してくれた言葉が、よみがえった。


——★1の相手には、小さく安い"守り"を一体、ちょっと出すだけで足ります。それが、いちばん安く確実に、収支を黒字にする手。


小さく。安い。守り。


……これ、じゃないか。


俺が喉から手が出るほど欲しかったもの。


大砲じゃない、火薬代で自滅しない、安い相棒。それが誰にも縁を結ばれず、ここでひとり、消えかけている。


入り口で若いハンターに足蹴にされた、あの守りの精霊。


「使えねえ」「銭にならねえ」。派手じゃない、というだけで。


……ばかな話だ。こいつは、ちゃんと使える。


少なくとも今の俺には、オルカよりずっとありがたい。


中身は健全だと、鑑定まで言っている。


なのに世界中の誰ひとり、その価値に気づいていない。


(……ガク様)


オルカの思念が、そっと触れてきた。


いつもより、ずいぶんか細い。


(その窓の言葉の、深いところまでは、今は手繰れません。私のマナも、ガク様のマナも、もうほとんど残っていませんから。ですが)


ひと呼吸、置いて。


(その小さきものが"守り"であることは、確かです。そして今、いちばん入り用なのも、それです)


……ああ。わかってる。


俺は、剣を握らなかった。


鑑定なんて、もうどうでもよかった。


ただ地面に膝をついて、その消えかけの光に、ゆっくりと手を伸ばした。


光が、びくっとふるえた。


ちぢこまって、奥へ逃げようとする。


——ああ。こいつ、人の手が怖いんだ。


きっと、いままで伸びてきた手は、全部、自分を払いのける手だったから。


蹴って、捨てて、行き止まりに追いやる手。


胸の奥が、ちりっと痛んだ。


「……だいじょうぶ。とって食ったりはしないよ」


声が、自分でもびっくりするほど優しく出た。


「ひどい目にあってきたんだな、お前も。——わかるよ。俺も、似たようなもんだった」


ばかみたいだ、土くれに何を語りかけている。


でも止まらなかった。


どれだけ働いても報われず、「使えない」と何百回も言われて、それでも辞めずにしがみついて消えずにいた——あの灰色の日々が、勝手に口からこぼれていく。


「だからさ」


俺はふるえる光を追いつめないように、ただ掌を開いて待った。


「もしよかったら、俺と来ないか。たいした飯も食わせてやれないけど。……一緒に、揺るがず踏ん張ってくれる、やつが欲しいんだ」


しばらく、何も起きなかった。


暗がりの中で、小さな光が、俺の掌と顔を、おそるおそる見比べている。


(だれも、こんなふうに手を伸ばしてくれなかった。蹴る手か、つかむ手しか知らなかった。こんな、ただ待つだけの手は、はじめてだ)


やがて、ふるえていた光が、つう、とこちらへにじり寄ってきた。


一寸。また一寸。そしておそるおそる、俺の掌の上に、ころりと転がりこんだ。


あたたかかった。


ひんやりした土の感触なのに、芯のほうがほのかに脈打って、あたたかい。


さっき拾った結晶と同じ、命の脈動だ。


『……あたたかい』


ぽつり、と。土くれが、はじめて声を出した。


低く、ゆっくりとした、土を踏むような声。


『……ひと、の、て。……あたたかい、の、は……はじめて、だ』


……そっか。


なんだか、目の奥が、じわっと熱くなった。


縁が、結ばれたらしい。


掌の上の土くれと自分のあいだに、細く、けれど確かに、何かがつながった感触があった。


これが、精霊との"縁"か。オルカ以外で、はじめて自分の手でたぐり寄せた、つながり。


「名前を、つけてやらなきゃな」


俺は掌の上の丸い体を見つめた。


最初は、いつもの調子で適当に決めようとした。


オルカのときが、そうだった。流行りのニュースで小耳に挟んだ便利そうな響きを、ぽいとつけただけ。


深い意味なんて、なかった。


でも——今度は、なぜか口が止まった。


苔がむして、芽が一本ちょこんと生えた、小さな土くれ。掌に乗るくらいのささやかな体。


なのにこいつは、揺るがないと窓は言った。悪い地合いでも、踏ん張ると。


……土だ。


畑の土。


麦を育てる土。


人がどんなに世を儚んでも、けっきょく最後にはまた鍬を入れて耕しはじめる、あの土。


ちっぽけなくせに、世界のいちばん下で、すべてを支えている。


「ダイチ」


気づけば、その言葉がこぼれていた。


「大地の、ダイチ。——お前はちっこいけど、きっといつか、俺の揺るがない地面になる」


掌の上で、土くれが、ぽう、とほんの少し明るくなった気がした。


『……ダイチ』


ゆっくり、噛みしめるように、そいつは自分の名前をなぞった。


『……いい、なまえ、だ』


(……心から、名づけられたのですね)


ふいに、オルカの思念が静かに割りこんだ。


(私のときとは、ずいぶん違います。あのときのガク様は、まだ心がすり減っていました。……今のは、いい名です)


「……うるさい。心、読むなって」


言いながら、けれど悪い気はしなかった。


前世の俺なら、土くれに名前をつけるなんて照れくさくてできなかった。


それが、すらりと心から出てきた。


少しは、まともになってきたってことだろうか。こんな、世知辛い異世界で。


やっとオルカ以外の仲間が増えます。

主人公は這い上がって行けるでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ