表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜転生〜俺の鑑定スキル、全部チャートで表示されるんだが、ポートフォリオ召喚術で異世界無双します〜  作者: スローインベスター


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/12

第8話 過剰な備えと、小さな守り

少しずつ物語に光が見えてきます。

でも。


前世と違うところが、ひとつあった。


今度は隣に、この仕組みの"答え"を知っていそうな相棒がいる。


(……ガク様)


オルカの思念が、そっと触れてきた。いつもの淡々とした調子で。


(さきほど(こら)えた代償で、今ひとつ分だけ払えます。

渡したい"種"が、ひとつあるのでます)


「種?」


(はい。深くは手繰れません。

引けるのは、ほんの欠片——たったひとつの"種"だけ。

それでも、今はどうしても必要です)


……わけが、わからない。

けど、こいつが言うなら。


「ああ。やってくれ」


その瞬間、残り少ないマナが、つうっと、また少し抜けていった。

くらり、とめまいがする。——さっき堪えさせられた、あの代償だ。

ほんとうに、知ることにさえ、この世界は対価を求めるらしい。


——けど。


めまいの向こうで、オルカの思念が、はっきりと像を結んだ。


(ガク様は、さっきの灰鼠に、私を振るい続けました。

けれど、あの群れの"環境"は、複雑度★1。ただ弱気なだけの、単純な相場でした)


「……ああ」


(単純な相手に、万能の私を全力でぶつける。

それは、たとえるなら——たった一通の手紙を届けるのに、毎回、大砲を撃つようなもの。

届きはします。ですが、撃つたびの火薬代が、手紙の中身より、ずっと高くつく)


——過剰な備えは、費え。


鑑定の窓が、最後に告げた言葉がよみがえる。

あれはこういう意味だったのか。


(その、撃つたびに黙って出ていく火薬代。

それを、ガク様の世界では——コスト、と呼んだはずです)


コスト。


……ああ。覚えがある。

前世で、何冊か、投資の本をかじった。

そのどれもが、しつこいくらい書いていた。

手数料は、利益を静かに食う。

コストは、ほとんど唯一、確実にリターンを蝕む敵だ、と。


俺は、それを読み飛ばしていた。

派手な儲け話のほうが、ずっと面白かったから。


まさか、命がけの異世界で、その読み飛ばしのツケを払うことになるとは。


(★1の相手には、本来、小さく、安い"守り"を、一体、ちょっと出すだけで足ります。

それが、いちばん安く、確実に、収支を黒字にする手)


「小さく、安い、守り……お前みたいな、万能じゃなくて?」


(はい。私は複雑で、手のつけられない相手

——いくつもの脅威が絡み合う、★4や★5の嵐でこそ、真価を発揮します。

あの灰鼠に、私は過剰なのです)


……なるほど。


ようやく腑に落ちた。俺の相棒は、ハズレなんかじゃない。

ただ、使いどころを、俺が間違えていた。

雑魚に大砲を撃ち込んで、火薬代で自滅していたのは——俺の配分ミスだ。


(ですが、ガク様)


オルカの思念が、ひとつ付け加えた。


(その"小さな守り"を、ガク様はまだ持っていません。

私以外の精霊との(えにし)を、まだ結んでいないのですから)


……そうだった。


俺の手駒は、オルカ、ただ一体。大砲しか持っていないのだ。


じゃあ、どうする。火薬代を抑えるには。


——答えは、ひとつしかなかった。


「……オルカ。次から、お前は殴るな」


「は?」


「俺が、自分でやる」


もう一度、浅い層に降りて、灰鼠の群れと向き合った。


オルカは振るわない。守るだけ。

俺は、震える手で、落ちていた折れ剣を拾い、自分の体に、ほんの少しだけマナを巡らせた。

肉体強化。ハンターたちが、当たり前にやっている、いちばん安い戦い方。


——怖い。


正直、怖かった。オルカの後ろで、踏ん反り返っていたのとは、わけが違う。

灰鼠が、牙を剥いて飛びかかってくる。

ひっ、と、情けない声が漏れた。

すかさず、オルカの腕が割り込んで、俺をかばう。

その隙に——俺は、めちゃくちゃに、剣を振り下ろした。


ぐしゃ、と手応え。


灰鼠が一匹、ほどけて、こつん、と、結晶になった。


……倒した。自分の手で。


マナの減りはわずか。肉体強化の、ほんの少しだけ。

拾った結晶のほうが、ずっと大きい。


差し引き——プラスだ。


ほんの、ちょっぴり。情けないくらい、ちょっぴり。

だけど、初めて収支が赤じゃなかった。


俺は、青白い結晶を握りしめた。冷たくて、芯が、ほのかに脈打っている。

半日かけて、大砲をぶっ放して稼いだ銅貨八枚より、

このたった一個のほうが、ずっと、温かい気がした。


(……お見事です、ガク様)


「うるさい。……けど、ありがとな」


ただ。


息は上がっていた。膝も笑っている。

自分の体で戦うのは、安いけれど、危ない。

さっき、オルカが守ってくれなかったら、

今ごろ、俺の喉に牙が刺さっていた。


一日中、これを続けるのは無理だ。


安く、丈夫に、俺の代わりに前で踏ん張ってくれる、何か。

大砲じゃない、小さな盾みたいな、相棒が要る。


はあ、と息を吐いて、俺は薄暗い横穴の奥に目をやった。


そこはハンターたちが見向きもしない行き止まりだった。

"使えない"とされた精霊の消えかけた残り火が、いくつも力なく転がっている。

誰にも縁を結ばれず、ただ、薄れていくだけの光の燃えさし。


さっき、入り口で、足蹴にされた、あの守りの精霊も。

きっと、こういう場所に流れ着くのだろう。

派手じゃない、というだけで。

銭にならない、というだけで。

誰の目にも、留まらないまま。


——なんだか、見ていられなかった。


その、いちばん奥。


ひときわ小さな、ひとつの光が——まだ消えずに、ぽつ、と灯っていた。


丸っこい、土くれのような影。

体に、苔と、小さな芽を、一本。無骨で、地味で、派手さなんて、かけらもない。

誰も振り返らない。誰も欲しがらない。


でも。


その、小さな燃えさしは、じっと、こちらを——俺を見ているような気がした。


胸の奥が、ちりっと、引っかかった。

昨日、路地裏で目が合った、あの痩せた獣人の子と同じだ。

見くびられて、打ち捨てられて、それでも必死で、消えずにいる、何か。


……ほうっておけない。


俺は、ふらつく足で、その光に、一歩近づいた。


「……お前」

【用語解説】本話に出てきた「投資」の話


この回のキーワードは、地味なのに、投資でいちばん大事とも言われるコストです。


● コスト(=手数料)は、静かに、確実にリターンを削る

主人公は、雑魚(★1の単純な相場)に、万能で高コストの相棒オルカを全力でぶつけ続け、稼ぎ以上のマナ(=火薬代)を垂れ流していました。これは投資でいう手数料負けそのものです。

値上がりするかどうかは、誰にも読めません。でも、手数料コストは、勝っても負けても、必ず出ていく。だからプロほど「唯一、確実にコントロールできるのはコストだ」と考え、低コストを重視します。信託報酬(投資信託の運用手数料)の0.1%の差が、何十年もの複利で、驚くほど大きな差になる——というのは、投資本が“しつこいくらい”書いている定番の教えです。


● オーバースペック(過剰)=“適材適所”という考え方

鑑定窓の「過剰な備えは、ついえ」は、これを指しています。単純な相手に、高価で万能な道具を使うのは、オーバースペック。一通の手紙を届けるのに毎回大砲を撃つようなもので、届きはしても、火薬代コストで赤字になります。

逆に、★4・★5のような“複雑で危険な相場”でこそ、万能な備えは真価を発揮します。「強い道具=いつでも得」ではなく、相手(相場環境)に見合ったものを、見合った分だけ使う——この適材適所が、コストを抑えて着実に黒字を積む、地味だけど王道の考え方です。


● “安い守り”への伏線

主人公が次に探すのは、「安く・丈夫に・前で踏ん張ってくれる」精霊。投資でいえば、値動きが穏やかで、悪い相場に強いディフェンシブ(守りの資産)にあたります。次話で、その“守り”との出会いが描かれます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ