↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜転生〜俺の鑑定スキル、全部チャートで表示されるんだが、ポートフォリオ召喚術で異世界無双します〜  作者: スローインベスター


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
71/96

第71話 早く、小さく、断て

 一体が、飛びかかってきた。


 トトが剣で受け止める。


 軽い。拍子抜けするほど、弱い。


「こんなの、楽勝じゃ……」


 *


 だが、トトの剣が浅く掠めた場所から、じわりと黒い影が滲み出し——新たな一体が、生まれた。


「な、なんだこれ!?」


 俺は、鑑定を向けた。


====================

▼ 鑑定結果

 名称:焦げ付きの群れ/不良債権化した澱み


 ─── 銘柄カルテ ───

 個体戦闘力 …… 低

 増殖性 ……… 高 ⚠

 対象選好 …… 弱った者へ集中⚠

 継続耐性 …… 低

 気になる兆し … 先延ばしが増殖を呼ぶ⚠⚠

────────────────

 見立て:小さな焦げ付きも、

     放置すれば、

     次の焦げ付きを呼ぶ。

     早く、小さく、断つべし。

====================


 ……銘柄カルテ。


 敵に、この書式が出るのは初めてだ。


 いつもは、天気の窓が出る。荒れているか、凪いでいるか。外側の話だ。


 これは違う。中身を診る窓のほうが出ている。


 ……つまり、こいつは、相場じゃない。


 こっちの持ち物が傷んでいる、という種類の話だ。


 *


 欄が、四つ。


 個体戦闘力、低。継続耐性、低。


 弱い。それは、トトが最初に感じた通りだ。


 増殖性、高。⚠。


 対象選好、弱った者へ集中。⚠。


 ……そして、いちばん下。


 先延ばしが増殖を呼ぶ。⚠⚠。


 ⚠が二つ並んでいる。


 敵の窓に、この欄が出ること自体が、初めてだった。味方の札では、いつも、伸びしろの下にあった欄だ。


 あっちでは、そのうち危なくなるかもしれない、という程度の話だった。


 こっちでは、時間が経つほど確実に悪くなる、という宣告だ。


 *


「長引かせるな!」


 俺は叫んだ。


「一体ずつ、確実に、素早く仕留めろ! 傷を長引かせるほど、数が増える!」


 ……この敵は、強いから厄介なんじゃない。


 放っておくと増えるから厄介なんだ。


 こっちが手を止めた時間の長さが、そのまま、向こうの数になる。


 増やしているのは、こいつらじゃない。俺たちだ。


 *


 トトが、方針を切り替える。


 一撃で仕留めることだけに集中し、無駄な削り合いをやめた。


「なるほど……! ちまちま削るんじゃなくて、一発で決める!」


 半端に当てるほうが、当てないより悪い。


 そういう相手が、いる。


 ……前世で、これと同じ形を、何度も見た。


 少しだけ損が出た札を、少しだけ売る。全部は切らない。切ったら負けを認めることになる、と思うからだ。


 そうやって、少しだけ残しておいたものが、翌月、倍の顔で戻ってくる。


 *


 ホムラが、群れの中心へ、鋭い一撃を放つ。


 あの支洞で、封じられていた炎を、一点だけに絞って通した時のやり方だ。


 広げない。散らさない。深く、細く、一度で。


 まとめて数を減らす、有効な一手だった。


 *


 オルカが、淡い光の壁を展開し、群れの包囲を分断する。


「経路を制限します」


 いつもの、平らな声。


「各個体を、各個撃破可能な状態に誘導します」


 ……こいつが、こんなに効く局面も珍しい。


 いつもは、地味に支えているだけの一枚だ。派手な場面では、たいてい他の札が前に出る。


 こういう、一体ずつ確実に処理していく戦い方の時だけ、この静かな支えが、いちばん強い手になる。


 *


 群れは、疲弊した仲間へ、優先して群がろうとする。


 トトが息を切らしはじめた瞬間、複数の個体が、彼へと殺到した。


「トト、下がれ!」


 *


 俺が割って入り、ホムラが援護し、オルカが壁で守る。


 かろうじて、トトを庇いきる。


「……悪い、助かったっす」


「気にするな。数さえ減らせば、こっちのものだ」


 ……弱った者へ集中、の一行が、そのまま起きた。


 窓は、脅かすために書いてあるんじゃない。どこから崩れるかを、先に教えてくれている。


 崩れるのは、いつも、いちばん薄いところからだ。


 *


 早期処理の方針が、じわじわと効きはじめる。


 増える速度より、倒す速度が、わずかに上回りはじめた。


 最後の一体を、シルクの小刀が仕留める。


 *


 通路に、静寂が戻った。


 誰も、大きな怪我はしていない。だが、全員、確かに消耗していた。


 *


 ……ナギを、一度も呼ばなかった。


 肩で息をしながら、俺は、そのことを考えていた。


 あの淵の時は、逆だった。


 動くな。底を、待て。あの窓には、そう書いてあった。手を出すたびに悪くなる相手だったから、何もしないことが、いちばん強い手だった。


 あの日、ナギは最高の一枚だった。


 今日は、出す場面がなかった。


 待てば待つほど、増える相手だからだ。


 ……同じ手が、いつも正しいわけじゃない。


 あの時、俺は「動かないこと」を覚えた。覚えたつもりで、たぶん、少し信じすぎていた。


 待つのは、技術だ。


 いつでも通じる教えじゃない。


(第72話へ続く)


====================

 【用語辞書】第71話に出てきた「投資」の話


 この回のテーマは、時間が経つほど悪くなるものへの、向き合い方です。


 ● 半端に手を出すと、かえって悪くなる


 少しだけ処理して、少しだけ残す。この形が、いちばん傷を広げることがあります。全部切ると負けを認めることになるので、一部だけ残す——気持ちは分かりますが、残した部分がまた同じ問題を生みます。切ると決めたら、一度で切る。それができないなら、最初から手をつけないほうが、ましなことすらあります。


 ● 早期の損切り=先延ばしにするほど、傷は広がる


 焦げ付きの群れは、傷を長引かせるほど数を増やします。これは、不良債権や損失の処理にも通じる教訓です。問題を先延ばしにすればするほど、被害は雪だるま式に膨らんでいく——早い段階で、小さいうちに、確実に処理することが、結果として最も被害を抑える方法になります。


 ● 群れ・連鎖のリスク=個別には小さくても、まとまると脅威になる


 一体一体は弱くても、数が集まれば、大きな脅威に変わります。投資の世界でも、個々には小さなリスクが、連鎖的に重なり合うことで、大きな損失につながることがあります。小さなリスクを軽視せず、早めに手を打つことの大切さは、ここでも共通しています。


 ● 弱った者へ集中する=苦しい時ほど、追い打ちが来る


 この敵は、疲れた相手を狙います。現実の市場でも、資金繰りが苦しい時ほど、条件の悪い取引しか回ってきません。追い打ちは、余裕がある時ではなく、余裕がない時に来ます。だから、余裕は、余裕がある時にしか作れません。


 ● 待つことは技術であって、教義ではない


 以前、手を出すほど悪化する相手がいました。あの時は、待つことが正解でした。今回は逆で、待つほど傷が広がります。一度うまくいったやり方を、そのまま次にも当てはめると、同じ手で正反対の結果になります。方針は、相手の性質を見てから決めるものです。


 ※本作は投資の学びを物語仕立てで描くフィクションです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。