第52話 小さな配当
戦いのあと、拾った結晶は、そう多くはなかった。
「……あれ? 思ったより、稼ぎ少なくないっすか」
俺は苦笑した。……たしかに、派手な儲けじゃない。
「得た結晶は少量です」オルカが補った。
「ですが、消費したマナも少ない。怪我人の搬送費、治療費、再起不能の損失を考えれば——収支は黒字です」
「……失わなかった分も、稼ぎってことっすか」
「そうだな」俺はうなずいた。「派手に増えたわけじゃない。でも——減らさずに済んだ」
……ここに来る前と比べて、増えたものは、ほとんど無い。
けれど、この支洞には、放っておけば失われていたものが、いくつも転がっていた。運べなくなった体。使えなくなる腕。二度と潜れなくなる誰か。
それが、ひとつも減らずに、外に出ていく。
窓には、その分は、映らない。
*
「じいさん。俺、ちょっとわかった気がするっす」トトが、シズクを見つめて言った。
「何がじゃ」
「これ、敵を倒す力じゃなくて。……倒れる前に、ちょっとずつ戻してくれる力なんすね」
「ふぉっふぉ。半分じゃな」
「半分?」
「戻してもらった者が。次に誰かを支えた時。そこまでいって——ようやく、一滴は配られたことになる」
……ああ。あの言葉と同じだ。渡した時に終わるんじゃない。
*
俺は、シズクに、もう一度鑑定を向けた。
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▼ 鑑定結果
名称:シズク / 尽くしの型
─── 持ち高 ───
属性 ………… 高配当・インカム
火力 ………… なし
防御 ………… 低
回復 ………… 小・継続
コスト ……… 低
─── 銘柄カルテ ───
割安・割高 …… 地味で見向きされず
体力(財務)…… 厚い
還元(尽くす度)… 極めて手厚い
継続性 ……… 高
減配リスク …… 要観察
気になる兆し …… 使い手の老い ⚠
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見立て:小さな実りを、絶やさず配る。
ただし、配る者が枯れれば、
雫もまた、止まる。
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……変わっている。
まず、いちばん上。集落で見た時、この欄は括弧つきの、よそよそしい呼び方だった。
今は、名前で書かれている。あの日、爺さんが呼んだ、そのままの名前で。
欄も、ふたつ増えていた。継続性。減配リスク。
……働くところを、見たからか。
窓は、その場で全部を教えてくれるわけじゃないらしい。一度、実際に動くのを見て、ようやく測れるようになる欄が、ある。
そして、いちばん下。
集落で読んだ時、そこには「一度には、間に合わない」と書いてあった。この札に、できないこと。
今は、違う。
使い手の老い。
……札の中身じゃない。札の、外側のことだ。
俺は、ふと、ロウエンの背中を見た。
笑っている。この間と変わらず。
……けれど、その背中は初めて会った日より、ほんの少しだけ小さく見えた気がした。
*
支洞を出る彼らを、遠くから、二人の白い衣の使いが見ていた。
「……また、勝手な救済ですか」
「ロウエン殿だけなら、古い水路で済んでいたのですがね」もう一人が静かに続けた。
「……あの召喚士が加わると。少々——流れが変わります」
二人は、それだけ言うと、静かに去っていった。
圧をかけるだけで、まだ戦いにはならない。
……けれど、その視線には、確かに警戒の色があった。
——あの召喚士が加わると。
それだけで、数え方が、変わったということになる。
*
帰り道。俺は静かに考えていた。
大きく勝つ力じゃない。一撃で救う力でもない。
ただ、ぽたりと落ちる、一滴。その一滴で、誰かが、立つ。立った誰かが、また誰かを支える。
——それは、あまりにも小さくて、見落としそうな実りだった。
けれど。
小さな配当は、たしかに——次の一歩を生んでいた。
……ただ、ひとつだけ。
あの窓の、いちばん下の行が、胸に残っていた。
配る者が枯れれば、雫もまた、止まる。
配当は、配る側の体力に、ぶら下がっている。
……あの背中が、いつまで、こつこつと石を詰め直していられるのか。
俺は、まだ、それを考えないことにした。
(第53話へ続く)
【用語辞書】第52話に出てきた「投資」の話
● 損失を抑えることも、立派な収益
この回で得たものは、決して多くありませんでした。それでも、失わずに済んだ費用を考えれば、差し引きは黒字です。投資でも、派手に増やすことだけが成果ではありません。大きな損失を避けられたこと自体が、立派な運用成績です。
● 減配リスク=配る者にも限りがある
配当は、それを生み出す側の状態に支えられています。業績が傾けば、配当は減ります。「使い手の老い」という表示は、まさにこれ。継続的な還元も、それを支える存在が衰えれば、いつか止まるという、静かな警告です。だからこそ、その力を次のものに引き継いでいくことが大切になります。
● 情報は、実績を見てから増える
この回の鑑定は、前回になかった項目が二つ増えていました。実際に働くところを見て、初めて測れるものがあるからです。買う前に分かることには限りがあり、持ってみて初めて見えてくる性質があります。だから、最初は小さく始めるのが理にかなっています。
※本作は投資の学びを物語仕立てで描くフィクションです。特定の銘柄・商品の売買を勧めるものではありません。




