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社畜転生〜俺の鑑定スキル、全部チャートで表示されるんだが、ポートフォリオ召喚術で異世界無双します〜  作者: スローインベスター


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第44話 じいちゃん、くる、ひ

 嗅ぎ分けの民の若者が持ってきた、あの気味の悪い話。


 聖導院に"救われた"者たちが、日に日に、生気を失っていく。


 ——それを、もう少し詳しく聞くために、俺たちは、シルクの一族が暮らす、町はずれの集落へ向かった。


 道すがら、シルクは、いつもより少しだけ、歩幅が大きかった。


 尻尾も、いつもより高い。……こいつにとっては、帰る場所なんだな、と思った。


 着いてみると、集落の空気は、思っていたより、静かだった。


 貧しい。食べ物も、足りていない。壊れかけた小屋が、寄り添うように、並んでいる。


 それでも——完全に、荒んでは、いなかった。


「あれ。……なんか、ここ、思ったより、暗くないっすね」


 トトが、辺りを見回して、首をかしげる。


 ……たしかに、そうだ。


 これだけ足りていない場所は、たいてい、もっと、とげとげしい。飢えは、人から順番を奪う。奪われた者から、次の誰かのぶんを、削りにいく。


 なのに、ここには、それが無い。


 シルクが、駆けてきた小さな子と、鼻先を、ちょんと突き合わせた。


 言葉は、ほとんど交わさない。それで、通じているらしい。


 この一族は、いま、あちこちの隊に斥候として雇われはじめている。俺の宿に噂を運んでくる若者も、その一人だ。


 ……なのに、集落そのものは、まだ、これだ。


 稼ぎが回りはじめるまでには、時間がかかる。頭で分かっていても、実際に目にすると、こたえた。


「……きょう」


 子どもたちが、通り過ぎながら、口々に言った。


「……じいちゃん、くる、ひ」


「じいちゃん? 誰っすか、それ。村長とか?」


「……ちがう」シルクが、答えた。


「……たまに、くる。……ごはん、くれる。……いたいの、すこし、なおして、くれる」


 ……少し、治す。


 俺は、その言い回しに、ふと、引っかかった。


 ふつう、癒し手といえば「治してくれる」だ。なのに、シルクも、周りの子どもたちも、みんな、そろって「少し」と言う。


 しかも、誰ひとり、不満そうじゃない。少ししか治らないことを、当たり前として、受け入れている。


 どこか、控えめな、その言葉の裏に、何かが、匂った気がした。


 *


 そこへ、ぎしぎしと、きしむ音が近づいてきた。


 古びた荷車を押す、一人の老人だった。


 白い髭。丸く曲がった背中。杖代わりの、使い込まれた木の枝。


 ……絵に描いたような、優しげな爺さんだ。だが、その柔らかさの奥に、どこか、芯の通った気配があった。


「お、パンじゃないっすか! 一個、もらって——」


 トトが、無遠慮に、荷車へ手を伸ばす。


 こつん。


 杖の先が、その手の甲を、軽く叩いた。


「順番を、待てい。腹が減っとるのは、お前だけでは、なかろう」


「い、痛って! ……す、すいませんっす」


 トトが、しゅん、と手を引っこめる。


 俺は、思わず、笑いそうになった。


 ……優しいだけの爺さんじゃ、ないらしい。施すけれど、甘やかしはしない。


 しかも、叩いたのは、手の甲だ。


 パンを取り上げてもいないし、追い払ってもいない。順番を待てば、こいつにも、ちゃんと回ってくる。


 断っているんじゃない。待たせているだけだ。


 ……この加減は、たぶん、一日でできるようになるものじゃない。


 *


 老人は、集落の一人ひとりを、じっと見ながら、荷車の中身を、丁寧に配っていった。


 子どもには、柔らかいパンを。


 動ける若者には、干し肉を。


 具合の悪そうな年寄りには、薄い粥を。


 そして、まだ動ける者には、粥と一緒に、「明日、薪を割ってくれんか」と、軽い役目まで、手渡す。


 ただ、ばらまいているんじゃない。


 誰に、何が、どれだけ要るのかを、見極めながら、渡している。


 ……ああ。


 これ、俺が、いつもやっていることだ。


 相手の天気を読んで、噛み合う一枚だけを、選んで切る。強い札を出すんじゃない。その場に合った札を出す。


 この爺さんは、鑑定なんて持っていないのに、同じことを、パンと粥でやっている。


 しかも、働ける者には、施しだけでなく、役目まで返す。


 ——受け取るだけで終わらせない。


 ……これは。


 俺の中で、何かが、静かに、繋がった気がした。


 あの、聖導院の"施し"とは、まるで、違う。


 あっちは、救うと言いながら、相手を、依存させていく。


 こいつは、支えながらも、相手の足まで、奪っていない。


 配っているんじゃない。明日も、自分の足で立てるように、少しずつ、戻しているんだ。


 この集落が荒んでいない理由が、やっと、わかった。


 配られているのは、パンじゃない。——明日の順番だ。


(第45話へ続く)


====================

 【用語辞書】第44話に出てきた「投資」の話


 ● 相手を見てから、渡すものを決める


 老人は、全員に同じものを配っていません。子ども、動ける若者、弱った年寄りで、渡すものを変えています。投資でいえば、同じ商品が誰にとっても正解ではない、ということです。年齢、収入、どれだけの損に耐えられるか、いつまでにいくら要るのか。条件が違えば、正解は変わります。「みんなが買っているから」は、自分の条件を一度も見ていない、ということです。


 ● 支えることと、足を奪うこと


 同じ「助ける」でも、相手が自分で立てるようになる助け方と、助けなしでは立てなくなる助け方があります。前者は相手の力を残し、後者は相手の力を少しずつ削ります。受け取る側にとって、後者のほうが、その場は楽です。だからこそ、見分けがつきにくくなります。


 ● 少ししか戻らない、を受け入れる


 この集落の人たちは、「少ししか治らない」ことに不満を持っていません。もらえる量が、続く量だと知っているからです。一度に大きく受け取ることを望まないほうが、結果として長く受け取れる——地味ですが、これが継続の考え方の入口です。


 ※本作は投資の学びを物語仕立てで描くフィクションです。特定の銘柄・商品の売買を勧めるものではありません。



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