↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜転生〜俺の鑑定スキル、全部チャートで表示されるんだが、ポートフォリオ召喚術で異世界無双します〜  作者: スローインベスター


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/96

第28話 冴えない金塊

 新しい力を、探しに行こう。そう決めた朝、俺はまず、オルカに相談した。


「(……ガク様。ひとつ、気づいたことが)」オルカの思念は、どこか、いつもより滑らかだった。「(ここ数日、ダンジョンで無理に消耗しなかったぶん、私に溜まったマナが、増えています。おかげで——ネットの海へ、少し、深く手を伸ばせるようになりました)」


「深く?」


「(ええ。前より、多くの知識を、引ける。あなたの成長に、私の目も、追いついてきた、ということです)」


 ……なるほど。休んだのも、無駄じゃなかったってことか。稼がなかった日が、力を溜める日にもなっていた。手元に残した余力が、こうして効いてくる。


 休んだ日に、何もしなかったわけじゃない。何もしなかったぶんが、そのまま、こいつの目の解像度になった。


「じゃあ、そのマナを使って調べてみてくれ。今の俺たちに、何が足りないのか」


「(承知しました。少し、お借りします)」


 軽い疲労感をともなって、溜め込んでいたマナがオルカに流れこむのを感じる。淡い光が、オルカの身体を静かに巡った。そのまま、彼女は目を閉じる。


「(検索、開始します)」


 辺りは静まり返った。しばらくして。


「(……見つかりました)」


 オルカが静かに目を開く。


「(現在の構成は、攻めと守りの均衡は取れています。しかし、大きな環境変化への耐性が不足しています)」


「大きな環境変化……」


 豊穣の層の崩壊が、脳裏をよぎる。


 あの時は、ダイチが踏ん張ってくれたから助かった。だが、もっと大きな災厄なら、どうなる。


「(現在の組み合わせは、以前より安定しています。ですが、まだ弱点は残っています。新たな精霊との縁を結べば、その穴を埋められる可能性があります)」


「弱点を埋める、か」


 ホムラは攻め、ダイチは守り。どっちも必要だ。でも、それだけじゃ足りない場面が、きっとまた来る。


「だったら、探してみよう。俺たちに足りない一枚を」


「なあ相棒、新しい仲間か!? どんなやつだ! 俺より強いのか!?」


 ホムラが、めずらしく浮き立っている。新しい相棒ができると聞いて、うずうずしているらしい。……こいつも、ずいぶん、素直になったもんだ。


「まだ、わからん。けど——うちに足りない"何か"を持ってるやつが、いい」


 その、少しだけ解像度の上がったオルカの目で、俺たちは、この町で"眠っている力"の噂を、拾って回った。


 *


 行き着いたのは、ダンジョンのはずれの、さびれた洞窟だった。


 昔は結晶が豊富に獲得できていたが、今はもう枯れて、割のいいモンスターは出ないため、誰も寄りつかない。入り口で、たまたま居合わせた老冒険者が、けらけらと笑った。


「あんなところに何を探しに? ——ああ、奥に変な精霊が眠ってるって噂か。やめときな。あれは、ハズレだ」


「ハズレ?」


「見た目は金ぴかの立派な塊さ。だが、呼び出しても、うんともすんとも言わねえ。攻めるでもなし、盾になるでもなし。ただ、そこに、ぼーっと在るだけ。……派手さも、使い道もねえ、冴えない金塊よ。何人もの召喚士が、拍子抜けして、置いて帰ったって話だ」


 攻めもせず、守りもせず、ただ在るだけ。冴えない。使い道がない。


 ……どこかで、聞いた台詞だ。


 ダイチもそうだった。「守りは銭にならねえ」と足蹴にされた。シルクもそうだった。「食うだけの役立たず」と無視された。派手じゃない、というだけで、みんな、その値打ちを、見ようともしなかった。


「……行ってみます。ありがとう」


 老冒険者は、物好きな、という顔で、肩をすくめた。


 *


 洞窟の奥は、しんと静まり返っていた。


 人の踏み込んだあとのない苔むした道。崩れかけた坑木。マナの気配も薄く、じっとりと、冷たい。シルクが、鼻をひくつかせながら、慎重に先導する。


「……おく。……ひかってる、なにか」


 やがて、行き止まりの、いちばん奥。


 崩れた岩の隙間に、それは、あった。


 鈍く光る、金色の塊。


 ……小さい。


 手のひらに、すっぽり乗るくらいだ。古びた金が、ずんぐりと丸まって、岩の隙間にうずくまっている。身じろぎもしない。目を開けているのかもわからない。


 噂の通り、拍子抜けするほど、地味だった。


 ダイチも、ホムラも、縁の中にいる時はこれくらいの大きさだ。呼び出せば、見上げるほどに膨れる。……こいつも、そうなのか。それとも、こいつは、このままなのか。


 こんなに小さいものを、みんな、わざわざ見に来て、わざわざ落胆して、置いて帰ったのか。


 俺は、鑑定を向けた。


====================

▼ 鑑定結果

 名称:(縁なき黄金) / 守りの型・特異

 ─── 持ち高 ───

 属性 ………… ゴールド(無相関)

 火力 ………… なし

 耐久 ………… ―(減りも増えもせぬ)

 コスト ……… 中

 ─── 銘柄カルテ ───

 割安・割高 …… 見向きされず、安い

 体力(財務)…… 不変(何があっても目減りせぬ)

 還元(尽くす度)… なし(利を生まぬ)

 気になる兆し …… なし

 ─────────────

 見立て:平時は、退屈。

     だが——皆が崩れる時、

     これだけが残る。

====================


 ……短い。


 ホムラの窓は、長かった。欄が十も並んで、そのうち五つが赤くて、⚠が二つ灯っていた。危ないやつほど、注意書きが増えていく。あの時、俺はそう学んだ。


 こいつの窓は、そのちょうど裏返しだ。欄は八つきり。赤は、ひとつもない。気になる兆し——なし。


 それに。


「耐久」の欄に、線が一本、引いてあるだけだった。


 高いとも、低いとも、書いていない。減りも増えもせぬ、と添えてある。


 ……測る意味がない、ってことか。


 増えも減りもしないものに、耐久という物差しは、そもそも立たないのだ。こんな書き方をされた欄は、はじめて見た。


 火力、なし。還元、なし。利を、生まない。


 なるほど。攻めもしないし、配当みたいに何かを生むわけでもない。派手好きの召喚士が「使えない」と投げ出したのも、わかる。持っていても、いい相場では、何ひとつ、儲けさせてくれないのだから。


 けど。いちばん下の、見立て。


 ——皆が崩れる時、これだけが残る。


 その一行に、俺の目は、釘付けになった。


「……オルカ。こいつは、何なんだ」


「(ゴールド——金です)」オルカの声が、静かに響いた。「(攻めのホムラ、守りのダイチ、コアの私。実は、私たちには、ひとつ弱点があります。——本物の総崩れ、世界のすべてが同時に崩れ落ちる"大嵐"では、守りのダイチさえ、無傷ではいられない。人も、守りも、みな道連れに、沈むのです)」


「……ダイチも?」


「(ええ。ですが、この黄金だけは——別です。周りが崩れようと、流行ろうと、我関せず。何にも連れ立たず、ただ、変わらずに在り続ける。だから、すべてが沈む底で、これだけが、揺るがず残る。ポートフォリオの、最後の砦です)」


 最後の、砦。


「(ただし、ガク様。この者にも、弱点があります)」


「弱点?」


「(何も、起きないことです)」


 オルカの声は、静かだった。


「(平穏な狩り場にこの者を出せば、ただ、何も起きません。傷つきもしない代わりに、一銭も生まない。……その枠に、ダイチ様を出していれば、ほんのり黒字でした。ホムラ様を出していれば、追い風に乗れました)」


 ……ああ。


 窓にも、収支にも、出てこない損。あの日、翔け兎を取り逃がした時と、同じ形の損だ。


「あの爺さんが『ハズレだ』って言ったのは」


「(半分は、正しいのです)」


 平時は、退屈で、冴えない金塊。けれど、本物の大嵐が来た時、たったひとつ、残るもの。


 ……ぞくりとした。豊穣の層の崩壊が、頭をよぎる。あの時、逃げ惑う人々は、抱えていたものを、根こそぎ失った。もし、あの中に、こいつがいたら。すべてが砂に還る中で、これだけは、目減りせずに、残ったんじゃないか。


 俺は、金色の塊に、そっと手を伸ばした。


 ——その、瞬間だった。


(第29話へ続く)


====================

 【用語辞書】第28話に出てきた「投資」の話


 ● 金(ゴールド)=利益を生まない資産


 金は、配当も利子も生みません。持っているだけでは、一円も増えない。だから景気のいい時は「冴えない資産」に見えます。ところが、戦争や金融危機のように皆が恐怖に駆られる局面では、逃げ場を求めたお金が金に集まり、価値を保ちます。ふだん退屈なことと、いざという時に強いことは、同じ性質の裏表です。


 ● 「測る意味がない」という評価


 耐久の欄に線が一本だけ引かれているのは、高いのでも低いのでもなく、その物差しが立たないという意味です。増えも減りもしないものに、耐久力という尺度は使えません。評価軸そのものが対象に合っていない、ということは現実の分析でも起こります。無理に数字を当てはめるより、測れないと書くほうが正確です。


 ● 保険料ではなく、機会損失


 この札の弱点は、持っていると高くつくことではありません。何も生まないことです。平穏な場面でこれを出すと、その枠で別の札を使っていれば得られたはずの利益を、まるごと逃します。損益計算書のどこにも出てこないのに、確実に減っている——これを機会損失といいます。


 ● 説明書が短い資産


 前に手に入れた攻めの札は、注意書きが十行あって、そのうち五行が赤でした。この札は八行で、赤はゼロ。リスクの多さは、注意書きの数に出ます。短い説明書は、たいてい、良い知らせです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。