出会いと別れは表裏一体
このパートを書き上げるのにすごい時間がかかった!
やっぱり頭空っぽにして書く方があってるな。
・・・それって、その人って」
「うん、そのおばあちゃんはみのりちゃんだったの。いつまで経っても来ないから会いに来たって。わたしは驚いて言ったの、みのりちゃんがおばあちゃんになってるってみのりちゃんはこう答えたの。70年以上経ってるから当然でしょって」
あの時の事は今も覚えている。目の前の老婆がみのりちゃんだと思えなかった。わたしの中のみのりちゃんはいつも小学校の時のままだったけど現実は非常だった。あの瞬間なんと言えばいいか分からなかった、名前を呼ぼうとしたけど声が詰まった。頭がひどく冷えた。わたしは変わってないのにみのりちゃんはもう寿命は残りわずかだった。
「・・・え?70年以上?」
「うん、わたしが色んな事をしている間にね。あっという間だった」
「え、えっと・・・」
「蓮護さんの言いたい事分かるよ、なんで気づかなかったの?って感じかな?」
「う、うん。そんな感じ」
「会いに行こうとは思ったの。けどいつの間にか時間が過ぎていたの。たぶん、人間の蓮護さんにはこの感覚は分からないと思う。わたしにとって一年はちょっと前で五年はこの前の事。これが長命種と短命種の時間感覚の違いだよ」
「・・・そう、なんだ」
「褒めてもらおうって思って約束をあと伸ばしにしてたの。あんなにみのりちゃんにダメだって言われたのにね。わたし全く成長してなかった」
「・・・みのりさんとはどうなったの?」
「出会った後予定をキャンセルしてカフェに入っていっぱいお喋りしたの。約束を破った事を謝ったり今までのことを褒めてもらった。小学生の頃に戻ったみたいだったけどわたしは約束を破ってしまった事で頭がいっぱいだった」
「・・・」
「蓮護さんはなんで会いにいかなかったのって思った?」
「・・・うん、思っちゃったごめんね」
申し訳なさそうに優理ちゃんは謝るが仕方のない事だ。
「大丈夫だよ、そう思って当然だから。わたしは会いに行くつもりだったけど時間はあまりにも速かったの。褒められる未来ばかり見て会いに行く約束を先延ばしにしてた。成長してなかったのわたし」
「そんなことは・・・」
「ううん、これは本当の事なの」
あの時わたしは思い知ったのだ長命種の時間感覚は短命種と合わせられないと。
「みのりちゃんはね、わたしに会った次の日に国に帰ってね亡くなったの。みのりちゃんには沢山の家族がいてお葬式にはいっぱい人が来てた」
「・・・」
あの連絡をもらった時膝から崩れ落ちたのを覚えている。わたしの好きな友達が亡くなった、こんなにも早く。わたしはまだ少ししか生きていないのにわたしの好きな友達はもう人生を終えてしまった。昔のエルフが排他的だった理由が分かった気がした、きっと耐えられないのだ。他の種族と仲良くなってもすぐに老い会えなくなる。それが耐えられなくって森にエルフ達だけで生活していたのだろう。
「家族の人から聞いたの、みのりちゃんはずっとわたしの事待ってたって。ずっとわたしの事を気にして心配してたってなのにわたしは約束を先延ばしにして褒めてもらう事だけを考えてた!・・・約束を破ってしまったの、みのりちゃんは自分に長く無い事を知ってわたしに会いに来たの」
「月僧さん・・・」
「みのりちゃんはどんな気持ちだったのかな、ずっと来ないわたしの事をどう思ってたのかな。けど、わたしのせいでみのりちゃんはずっと待つ事になってしまった、わたしに出会わなかったらこうはならなかったのに。わたしがみのりちゃんを不幸にしたの。けどみのりちゃんがどう思ってたなんて分からないの、遺書には書いてなかったから」
「遺書?」
「うん、わたし宛の遺書があったの。それにはわたしを責める様な事は書いてなかった。むしろこう書いてあったの。沢山の人に出会ってって」
「沢山の人に?それだけなの?」
「うん、わたし深く落ち込んでたけどみのりちゃんが残してくれたこの言葉に従う事にしたの。だから学校に行ってみようって思ったの」
「そこで私と出会った」
最初に出会った時、電車のデッキで声をかけてくれた優理ちゃんは可愛かった。その時は恋はしてなかったけどそれでもとても可愛く映った。身長は多分153cmでわたしの175cmよりも低い。けど乗る電車を間違えていたわたしを連れ戻そうとしてくれた優理ちゃんはとてもかっこよかった。そしてみのりちゃんによく似ていた。
「うん、最初にね蓮護さんと会った時にみのりちゃんを思い出したの。今度は失敗しないって思って友達になったけどダメだったの。連絡先訊いてくれた時あったでしょ?」
「うん、あの時の事覚えてるわ」
二日前のあの日連絡先を交換しようと優理ちゃんは言ってくれたけどわたしが躊躇った時の事だ。そのせいでわたしが階段から滑り落ちて優理ちゃんに助けてもらうきっかけになった。
「あの時ね、不安だったの。連絡先を交換したとしてちゃんと返信できるか、返事が遅れてみんなから距離を置かれないかとか不安だったの」
学校では頑張っているが普段のわたしはとてものんびりだ。急激に普及したネット文化と携帯についていけてなかったのだ。
「あー、そうだったのね。ごめんなさい、気が回らなくって」
優理ちゃんが申し訳なさそうな顔をするがすぐに否定した。
「蓮護さんのせいじゃないよ!わたしが悪いの。みのりちゃんの沢山の人に出会ってって言葉に従って高校に来たはいいけどまだ怖いの。また誰かを傷つけるんじゃ無いかって。蓮護さんの事好きなの。好きだから傷つけない様に別れたいの」
これはわたしの本音、まだ諦められない気持ちはあるが仕方のない事だ。優理ちゃんは皇さんの事が好きだし、わたしの想いは邪魔なだけ。それにまたみのりちゃんの様に傷つけてしまうかもしれないのが怖かった。好きな人を増やして死に別れるのが怖かった。
デッサンを終えノートを閉じて優理ちゃんの目を見ながらわたしは告白した。
「好き、好きです蓮護さん。だから別れて・・・ください」
優理ちゃんの目が大きく開かれる、しばらく考え事をする様に視線をあちこちに逸らした後優理ちゃんは言った。
「今度こそよく分かったわ。話してくれてありがとう・・・私から友達でいる事を無理強いさせるわけにはいかないわ。けど最後に訊いていい?」
優理ちゃんは真っ直ぐと私から目を逸らさず話した。
「なに?」
「みのりさんの遺書に書かれてた沢山の人に出会ってって言葉をどう思っているの?」
「え?」
それは・・・文面通りの沢山の人に出会ってって意味じゃないかな?
「沢山の人に会うってだけ?」
「その意味を考えた事は?」
「意味・・・?」
そういえばなんでみのりちゃんはこんな言葉を残したのだろう?あの時は悲しくって約束を破った罪悪感でいっぱいで他の事を考える余裕はなかった。
「憶測になってしまうけど多分みのりさんは月僧さんを一人にしない様にこの言葉を残したんじゃないかしら。月僧さんが罪悪感でいっぱいになっているのを見てその背中を押したかったんじゃない?」
「わたしの背中を押す?ど、どうやって?」
「みのりさんって月僧さんの事を誰よりも知っていたんじゃない?落ち込んでいる姿を見て他人と関わるのを辞めてしまわないようにする為に。実際月僧さんはその言葉に従って高校に来たでしょ?」
「う、うん」
「あの言葉が無かったら今頃どうしてたと思う?」
「えっと、数十年は家に引きこもってたかな?」
「そう、それよ。それをみのりさんは止めたかったんじゃないかしら。うじうじしない様に、新たな出会いに巡り合わせる為に、私と出会う為に」
「蓮護さんと出会う為に・・・?」
デッサンの手を止めて話す優理ちゃんは不思議と大人びて見えてた。わたしの方が何倍も生きているのに人生の先輩と話している様な気がした。
「うん!同じ人間だからかな?なんとなくみのりさんがそんな言葉を残した意味が分かるわ。月僧さんは今、出会いを怖がってるんだと思う」
「・・・そうね、怖い。これ以上好きな人を失いたくない、死に別れるのが怖い、傷つけてしまうのが怖いの」
これ以上好きな友達や誰かを作りたくない、作るとしても同じ長命種の人達にしたい。
「・・・それじゃあもう一つ聞くね、みのりさんと出会った事後悔してる?」
後悔してる?そう言われた時動揺した。
みのりちゃんが私の絵を見て上手と言って褒めてくれた事。一緒に走り回った学校の運動場。わたしの手を引っ張るあったかい手。初めてわたし一人で時間通りに行動できた時のみのりちゃんの嬉しそうな顔。優しくって頼りになる声。太陽の様な笑顔。別れる時の悲しそうな顔、お互いに泣きじゃくったあの日。約束の証の金のブレスレット・・・絶対にまた会いに行くと決めたあの日の夜。
後悔なんてするわけない!約束を守れなかった事は今ので思い出すだけで苦しくなるけどあの思い出は大切でかけがえのない宝物。後悔なんてしない、しないけど・・・
「ッ!・・・そ、それは・・・してない、してないよ!でもこれ以上誰かと別れたくない・・・ずっと側にいて欲しい」
わたしの目にはいつの間にか涙が溜まっていた。それは重力に負けて一つ、二つと落ちていく。また大切な人を傷つけるのが怖い、死に別れるのが怖い・・・
「私と出会った事は後悔してる?」
「してないよ!けど・・・もう失いたくないの、傷つけたくないの!」
「そう、後悔してないなら良かったわ」
優理ちゃんは椅子から立ち上がるとわたしに近づいてゆっくりと抱きしめた。
「え?蓮護さん?」
涙を流していても優理ちゃんの柔らかな匂いや感触が伝ってくる。涙を流して冷えた心がじんわりと溶かされていくみたいに優しくて温かな熱が伝わってくる。
「きっとね私はみのりさんから月僧さんを託されたんだと思う。次に会う人にこの言葉を直接伝えさせる為に」
「・・・どうゆうこと?」
優理ちゃんはわたしから手を離した後わたしの両手を優しく握った。
「出会う事を恐れないで。出会いは悪いことでは無いわ、喜ばしいことよ。だって月僧さん、私と出会った事もみのりさんと出会った事も後悔してないんでしょ?」
「うん、後悔はして・・・ないけど」
優理ちゃんはわたしの目をしっかりと見て握り力を少し強めた。その瞳はとても魅力的で目が離せない。
「出会いは喜ばしい事よ、月僧さんがみのりさんに出会って色んな事を頑張った様にね。今の月僧さんは別れの事ばかりに目がいってるわ。別れは悲しいけど出会いまで怖がらないで。失敗する事に囚われないで」
「あっ・・・」
そうなのかな・・・わたしは変わってないって思い込む事で逃げてたのかな。
「月僧さんはね色んな可能性があるの。私の約十倍の寿命があるって事は私の十倍色んな人に出会えるの、その出会い一つ一つが月僧さんに喜びを与えてくれるわ」
「・・・そんな、事は」
「いえ、事実よ。私がその証明よ。みのりさんの最後の言葉が月僧さんを外に導いて私と出会わせてくれた。なら私はもっとあなたに出会いの喜びを知ってもらわなくっちゃ!確かに別れは悲しいわ、けど裏を返せば悲しくなる程その人との別れたくなかったって事、もっと一緒にいたいと思える人だったって事!」
「っ!」
今、優理ちゃんはこんなに近くにいるのに手を伸ばせば触れられる距離にいるのにわたしは怖がって手を伸ばさなかった。
臆病になって勇気を持てず大切な人を失うところだった。
「別れの悲しさは私にも分かるわ。転校ばっかりだったから友達ができてもすぐにお別れが来てやるせない気持ちにもなった。けどね、新しい友達と出会うのはとっても楽しみだったわ。だから私はこの出会いを失いたくない、お別れなんて無理!だってもっと仲良くなりたいんだもの!どんな月僧さんでも私が引っ張って一緒にいたいぐらいの友達なの」
「優理ちゃん・・・!」
人間とエルフの物語はいつもの悲しい結末で終わってしまう。寿命という残酷なものの前ではいくら努力しても無駄なんだ。どれだけ足掻いたって約10倍の寿命差はどうにもできない。人間に恋をしたエルフは置いていかれるだけなんだ。
けどそれでもこの光に手を伸ばしてしまう。
別れは悲しいし寂しい。けど今から別れて寂しくなる理由なんてなかったのだ。出会って楽しんでずっと死が別れを運んでくるまで側にいたい。この恋は叶わないかもしれないけどそれでも。
「ほ、本当にいいの?わ、わたし本当はのんびり屋でおっちょこちょいで優理ちゃんの事困らせるよ?」
「構わないわ!友達だもの!それに私も完璧なんかじゃないわ、私もあなたを頼るしあなたも私を頼るのよ。別れを怖がらないで、今の出会いを大切にしましょう!それとも・・・本当は私とお別れしたい口実とか?」
「そんなわけない!わたしもずっと優理ちゃんといたい!ずっと、ずっと!側にいて欲しい!」
本音を心の奥から引き出し優理ちゃんにぶつけると彼女は笑顔で答えた。
「うん!私も!これからずっとよろしくね!」
わたし達はお互いに強く抱きしめあった。長く、涙を流しながらそれでも力強く離さないように抱きしめあった。もうこの温かさを手放したりなんて絶対にしない。
ああ、女神様。どうしたらいいの?更にこの人が好きになってしまいました。
こんな事になるなんて考えてなかった。
・・・・・・ああ、なんてこと。
更にわたしのものにしたくなってきちゃった。




