人間とエルフは相入れない?
優理ちゃんの家は駅から歩いて数分の高級マンションだった。
ここって一人暮らしで使う様なマンションだったけ?こうゆうマンションって家族で住むものと思ってたけど・・・
「ここよ、入って」
「お邪魔します」
案内されたリビングは40畳以上はある広い部屋だった。アイランドキッチンにテーブルと椅子、右奥の方にはわたしの両手よりも大きなテレビがありその前には見ただけでそのふわふわの柔らかさが分かるソファがあった。
しかし部屋の大きさに対して家具は少なく豪華ではあるが寂しい空間にも見えた。
「大きいね・・・ここが蓮護さんのリビング」
「元々、学生寮に行くつもりだったんだけど両親からダメって言われちゃって」
「そうなの?」
「なんか、安全面がどうのとか相部屋は落ち着かないとか色々言われたの。結果、こんなに広い家に住んでるってわけ」
「ふふ、愛されてるんだね」
「過保護なだけよ。もう、高校生なのに」
家を選んだ時の事を思い出したのか優理ちゃんは頬を少し膨らませた。可愛い。
「そこの椅子に座っててお茶を用意するから。紅茶でも大丈夫?」
「あ、うん、大丈夫」
わたしはお絵描きの準備しつつもこの家の大きさに圧倒されていた。わたしの住んでいる家は最近買い替えたばかりだが敷地はこの家のぐらいのものだ。この大きさの家を一人の為に借りるなんて優理ちゃんのご両親ってかなりお金持ちなんじゃあ・・・この家借りるのに月いくらかかるんだろう・・・40万くらい?いや、もっと高いかも。
「さぁ、どうぞ。準備ありがとう」
ティーポットを用意して優理ちゃんはカップに注いでくれた。その姿は様になっておりいつも元気な優理ちゃんからは思い付かないような一面だった。
注いでくれたお礼を言ってカップを持ち上げる。紅茶から柑橘の上品で澄んだ香りがして思わず深く息をする。口に入れると爽やかなベルガモットが静かに支配した。
「美味しい・・・」
「良かった!私のお気に入りなの、いつもママ、じゃなくて!お母さんが買ってきてくれる奴なの。よくゲームのお供に飲んでるんだ」
優理ちゃん、母さんの事ママって呼んでるんだ・・・可愛い。しかしさっきから普段は見られない姿を見せてくれるから嬉しさと高揚感で体がどうにかなりそう、興奮して心臓が強く跳ねているのがバレませんように。
これ以上どうにかなってしまう前にやることを片付けてしまおう。うん、それしか無い!
「そ、それじゃあ!デッサンしようか!ささ、鉛筆とスケッチブックを持って」
わたしが研いだ鉛筆を優理ちゃんに渡す。
「最初は何をするの、先生?」
そういえば考えてなかった、えーっとそうだ!
「え、えっと最初は・・・そう!まずは蓮護さんの実力を見てみましょうか、それで教える方向も決めようかな」
「分かった、見て腰を抜かさないでね。あ、描くのは月僧さんでいい?」
「わ、わたし?」
「うん、私が月僧さんを描いて月僧さんは私を描く。これでどう?」
人物画か、得意といえば得意な方だ。
「それで大丈夫だよ、練習だから30分ぐらいでいい?」
「OK!うーん、このテーブル広くって良く顔が見えないわね、隣に来てもいい?」
「へ?う、うんいいよ!」
対面に座っていた優理ちゃんは私の隣の椅子に腰掛け、椅子を前にやってわたしとの距離を近づけた。
あと少しでわたしの膝と優理ちゃんの膝がくっつく距離だ。
「これで月僧さんの可愛い顔がよく見えるわ」
「へ!?あ、ありがとう」
優理ちゃんッッ!!なぜ貴方は急にドキッとする様な事を言うの!?この前も見惚れてたとか言うし!
「あは♪耳の先まで赤くなってる、可愛い」
「ぅう・・・あんまり見ないでぇ・・・」
「それはダメでしょ。今からその可愛い顔を描くんだから」
低身長ルックス満点行動力イケメン美少女が弄ぶ様に褒めてくるのは反則では?何かしらの法に引っかかってるでしょ!あーこれは逮捕ですね、うんうん、しかし今のわたしはスケッチブックで顔を隠すので精一杯なので逮捕はまた別の機会に。
「ほーら、隠さないで。よく見えないわ・・・あー、ごめん、距離近かったわね。普段友達なんて家に呼ばないからテンション上がっちゃって・・・」
「あ、大丈夫だよ!わたしもその、褒めてくれて嬉しかったから」
少ししょんぼりとした顔をした優理ちゃんに嬉しかった事を言うと可愛く微笑んだ。
「ありがとう、ごめんね。私の親、転勤が多くて長い付き合いの友達が居なくってね。高校から一人暮らしでようやくそのしがらみから解放されたか友達作ろって張り切ってて・・・だから最初出来た友達の月僧さんの事諦めたくなくって」
「そうだったんだ・・・」
だとしたら優理ちゃんには申し訳ない事をするね、私が居なくても戦蝶院さんや長船さんが居てくれる。
「よし、それじゃあ今からスタートね!私の腕前見せてあげるわ!」
雰囲気を変える為か明るい声で優理ちゃんは開始の合図を言った。
しばらくはお互いの顔を見合って描く時間が続いたが優理ちゃんが話を切り出した。
「・・・ねぇ、やっぱり別れたく無いわ」
わたしを見つめながら言った優理ちゃんの顔は寂しげだった。わたしはそれを見ないようにして視線をスケッチブックに移す。
「蓮護さん・・・ダメなの、わたしは側に居られない」
「なんで?何か理由があるの?お昼の時に不幸な目に合わせたとか聞いたけど」
お昼に色々話してと言われたからわたしはその事を話す事を決めていた。わたしにとって大きな過ちであり2度と繰り返してはいけないもの。けどこの理由で優理ちゃんが納得してくれると嬉しいけど多分してくれないだろう。
「・・・うん、昔のわたしは自分で言うのもあれだけど優秀だったの。15歳で小学校に行ってたくらいだから」
「15歳で小学校か・・・」
「ふふ、人間の感覚だとすっごく遅いかもしれないけどエルフではとっても学びが早い方だったの。普通のエルフだと30〜40歳ぐらいだから。けど、わたしのんびり屋だから馴染めなかったの。エルフと他の種族とは感覚がだいぶ違うから」
「寿命は人間の約10倍だもんね、戦争を体験した事あるのももうエルフしかいないって話だし」
「うん、エルフが他の種族と一緒に生活するのはかなり大変なの。小学校の頃置いて行かれてばかりだったけど助けてくれる女の子がいたの。橋口みのりっていう元気な人間の女の子でね、困っているわたしをいつも助けてくれたの」
「月僧さんが15歳の時っていうと・・・今から80年前?」
「そうだよ、みのりちゃんはいつものんびり屋のわたしを引っ張ってくれる子でね。優しくって太陽みたいな子だった。わたしは勉強は得意だったけど、時間の感覚は違うから次は体育だよーみたいな感じでわたしを助けくれたんだ」
あの頃のわたしにとっては早すぎる世界でみのりちゃんは引っ張って輪の中に入れてくれた恩人だ。いつもわたしの手を握って連れて行ってくれた、そのせいか小学校ではいつも同じクラスで先生達も気を遣ってくれていた。
「優しい人だね、月僧さんの話してる時の顔からも伝わってくるわ」
「あ、顔に出てた?」
「うん、優しそうに微笑んでたよ」
みのりちゃんと過ごした日々は昨日の事の様に思い出せる。わたしが今、一般的な人の時間感覚で行動できているのはみのりちゃんのお陰でもある。みのりちゃんがわたしを助けてくれたから苦手意識を持たずに学校に通えている。
「みのりちゃんはいつもわたしと遊んでくれてね、みのりちゃんと過ごす日はあっという間に過ぎて気づけば小学校卒業してたの。その時みのりちゃんは遠くの国に行くことになってね、わたし別れる時に一日中泣いてたよ。けどその時みのりちゃんと約束したの」
「約束?」
「約束ってゆうか宿題みたいなものかな、わたしがちゃんと普通の時間感覚になったかどうかの。わたしからみのりちゃんに貰ったブレスレットを返しに会いに行くって約束でね。当時はスマホとかなかったったしやり取りするのは簡単じゃなかったからその約束だけがわたしとみのりちゃんを繋いでいたの」
「80年前だもんね。電話もまだ一般的じゃなかった時代ね」
「うん、わたしはその約束してみのりちゃんと別れたの。ブレスレットはわんわん泣くわたしにみのりちゃんが貸してくれたの、これを見るたびわたしを思い出してって」
話しながらも鉛筆を走らせ優理ちゃんの顔を描いていく、いつも頭の中に思い浮かべてたし本物が目の前にいるからこのままのペースなら早めに描き終わるだろう。
「それからはどうしてたの?」
「落ち込んでいるわたしをお母さんが見かねていろんな事を学ばせてくれたの。お絵描きもその一つ。わたしの家庭まだ古い習慣が残ってて弓を習ったりとか海外に絵を学びに行ったりとか、あとお母さんの仕事を手伝いたくって調薬師の免許取ったりとかいろんな事をしてたなぁ」
「弓・・・確かエルフは森にいた頃の名残で弓をまだ教えてる家庭もあるんだったね。エルフは目が良いし遠くから弓を射って獲物を仕留めるのをテレビで見た事あるわ」
「流石にテレビに出てる様な達人芸じゃないけど弓の扱いは上手い方でね、大会で優勝した事もあるの」
「へー!日本国の大会ってことは天の川大会?」
「ううん、サジタリウス大会だよ」
「それって四年に一度の世界大会じゃあ・・・?」
「そうだけどおばあちゃんと比べるとまだまだだから。誇れるほどじゃ無いよ」
「・・・だからエルフの大会参加可能年齢が年々下がってるのね」
優勝したのは50年以上くらい前だし今の子と比べると腕前は落ちるけどね。少し懐かしいなぁ、おばあちゃんに言われて海外まで行って参加したっけ。
「本当に色んなことをしてたの、中学校にも行った後は調薬師として植物とか薬学の勉強を毎日してたの。楽しい毎日で飽きが来ることなんて無かった。みのりちゃんと会うのは楽しみだったけど、どうせならいっぱいすごい事をして褒めてもらおうって思ったの。だから弓の大会にも参加したし、絵画コンクールで優勝したりピアノのコンクールにも出てねクルシュシタイン帝国の皇帝様の前で演奏した事もあるのよ」
「え?もしかして月僧さんってめちゃめちゃすごい人!?」
優理ちゃんが驚いた顔を見せてくれた。可愛い。
「んー、そんなにかな?もっと色んな事している人いるからその人と比べると大した事無いよ」
「謙遜しすぎでしょ、もっと誇りなさい。てかスマホで検索したら名前出てくるし・・・あら、写真もある」
「は、恥ずかしいからあんまり見ないで・・・そ、それよりお絵描きに集中!集中しょ?ね?」
「ふふ、分かったわ。けど昔から変わってないのね、どの写真も今の月僧さんを切り出したみたい」
優理ちゃんはスマホをテーブルに置いて再び鉛筆を握った。昔の写真がネットにあるなんて考えてなかったので少し恥ずかしい。今よりお化粧下手だったし写りが悪く無いといいけど。
「エルフは恋をしてから老けるってよく言われるの。恋をするのも遅いし老けるのも遅いから。わたしも多分背が少し伸びるぐらいかな?」
「いいなー、ずっとお肌ぴちぴちなのは羨ましい。長生きできるのはいいな」
「・・・そうでもないの」
「え?」
わたしの言葉に優理ちゃんは驚いた顔を見せた。
「わたしはね、楽しくなっちゃったの。何かで賞を取る事を、努力して何かを成す事を、色んな事を知る事を。その全部が楽しかったの。腕のブレスレットを見る度にこれでまた一つ褒めてもらえることが増えたって喜んだの。ならもっと褒めてもらおうって思って次に行ったの」
「・・・うん」
「そしたらね、ある日駅に向かう時にねおばあちゃんに呼び止められたの。道案内でね、とある家に行きたいみたいだったけどそこは昔のわたしの家の住所だったの。それを教えたらそのおばあちゃんは笑ってこう言ったの」
わたしは鉛筆を止めて優理ちゃんの目を見て言った。
「まだ気づかないの、カレンって」




