月僧カレンの苦悩と恋
数話だけカレン視点になります!
わたし、月僧カレンは優理ちゃんが好きだ。好きになったと気づいたのは階段を踏み外して助けられた時。後ろから落ちて頭を打つと覚悟して目を瞑ったけど衝撃は来なかった。目を開けると優しく微笑む優理ちゃんの姿があった。その時、優理ちゃんから目が離せなかった。心が満たされていく様な、空いていくような、感じたことの無い感覚が体全部を支配した。匂い、目の形、瞳の色、まつ毛の長さ、唇の潤い。さっきまで気にしていなかった優理ちゃんの情報が気になって仕方ない。これが好き、恋という感情だとわたしは知った。昔、人間にあんな事をしたくせに人間を好きになってしまった。
好きになったら止められなくなった。気づいたら優理ちゃんのことを考えてしまい何も手につかない、だから部屋でスマホで調べた。優理ちゃんのことをもっと知る方法を。どこで何をしているのか、自然体をどうやって撮るのか、どうやったら一緒にいられるのか全部ネットに書いてあった。
けど隠し撮りも失敗したし優理ちゃんは好きな人がいた。皇舞桜だ。なんでって気持ちもあった、優理ちゃんの事を応援しようと思っただけどできなかった。ならいっそ離れてしまおうと考えた・・・元々わたしには人間と友達になる資格なんて無かったし寿命の差もある。ここで別れるのが正解だと自分に言い聞かせた。
それを優理ちゃんに伝えたら
「この私を舐めるなぁ!」
「大好き!!!」
あんな事を言われてしまった。もちろん優理ちゃんの大好きは友達としての好きだと言うことは分かっている。けど体が嬉しさで震えていた、離れないといけないのに優理ちゃんには好きな人がいるのに・・・わたしはわたしが嫌いだ。
そして放課後、わたしは優理ちゃんに連れられて龍昌市の中心地であり遊びスポットも豊富な浪佐区にやって来た。
「来たわね、浪佐区!」
「来ちゃった、浪佐区?」
わたしの隣で元気に声を上げたのは優理ちゃん。見てるだけで癒されるような淡いラベンダー色のふわふわとした髪にわたしの肩ぐらいの身長で少し近づくとホワイトミルクの様な甘い匂いがする。顔は小さく目は可愛い、なのにわたしを助けてくれる好きな人。
「そういや、どこ行くか全く決めてなかったや。月僧さんはいつもどこに行ってるの?」
「え、えっと、本屋さんとか画材屋さんかな」
見惚れていたので少し返事につまってしまった。これが最後なんだし見惚れてないで楽しまないと。
「画材屋さん!そっか、趣味絵描きだったね。デジタルの方じゃないんだ」
「うん、デジタルの方はよく分からないから。パレットで自分の理想の色を作ってキャンパスに塗るのも楽しいよ。蓮護さんは絵を書くの好き?」
「好きだよ、けどやっちゃダメって言われてるの」
「な、なんで?」
「私にはダダ甘のママですら私が画家になりたいって言ったら真顔でやめてっていうレベルで下手だから!」
「えぇえ!?」
「美術の先生からは死後評価されるタイプ、パパからはSAN値減りそうって評判だったね」
「描くことを禁止にされるってどんな絵を描いたの?」
「知らない方がいいよ。私、作るより壊す方が得意だからなぁ」
「・・・は、破壊が無いと創造は生まれないからね」
「ありがと・・・」
手先は器用そうに見えるけどそうでもないのかな?
だとしたらわたしが教えてあげたい。
「そうだ、いつかは綺麗な絵を描きたいって思ってたんだ。お願い!絵を教えてくれない?画材屋さんにも興味あるし!」
「え!?うん、いいよ。それじゃあこっちだよ」
心を読まれたのかと思ったが優理ちゃんの気遣いだった様だ。優理ちゃんは元気の無いわたしをなんとかしようとしてくれている。そんな姿を見るたびに好きになっていく自分とそんな自分を心の奥底に突き落としたいわたしがいる。ぐちゃぐちゃにかき回した心は元通りになるのか今は知らない。ただかき回す原因を今は止めないと。
よく行く画材屋さんはショッピングモールの中にあり様々な画材道具が揃っている。昔利用していたところは無くなって今は品揃えの多さからここを利用している。
「ペンってこんなにあるの!?へぇーすっごい!」
お店に入った優理ちゃんは興味津々にあちこちに目を向けている。助けてくれた時のカッコいい姿とは違い今は可愛らしい。思わず写真を撮りたくなったがぐっと我慢する。駅ではバレちゃったし。
「うん、ここのお店いっぱいあるから好きなんだ」
「私にはよく分かんないや、これとこれとかほぼ同じ色じゃない?」
「ふふ、色にこだわり出すと違いが分かるようになってくるよ。今日は何を書く?友達は今日で最後だから色を塗るのは付き合えないよ」
「またそんな事言ってる。でもそうね・・・あ!自画像を書くってのはどう?絵は下書きが八割って聞いたことあるし!デッサンができればなんとかなりそう!」
「うん、それならまずは鉛筆だね」
「鉛筆?あーそういや、薄いのがいいんだっけ?」
「うん、消す時に楽だし自分のにあった鉛筆を見つけた方がいいよ。鉛筆はこっちだよ」
店に置いてある物は把握しているので鉛筆コーナーに案内する。
「鉛筆もこんなにあるんだ・・・」
「芯の材質、硬さ、濃さ、描き心地、筆圧の強さによっても変わってくるしどんな線を描きたいかによっても適切な物は変わってくるからね」
「へぇー、これだけあるとどれがいいか分かんない」
「初心者向けのやつがあるからそれにしよう。わたしも昔使ってたよ」
「お、じゃあそれで!先生のお墨付きなら大丈夫でしょ」
「せ、先生?」
「うん!教えてもらうから。お願いしますね、月僧先生」
先生・・・先生、先生!なんていい響き。わたしが先生で優理ちゃんが生徒・・・美術の授業で居残りしてる優理ちゃんに付きっきりで教えるわたし・・・後ろから抱きしめるように優理ちゃんの手を握って塗り方や書き方を教える・・夜に二人、そのまま・・・
「ふへ、ふへへ」
「急にニヤついてどうしたの?」
「あ、ごめんなさい!なんでもない!」
危ない、つい顔に出てしまった。自分で優理ちゃんから離れると言っておいて妄想をしだしてしまう変なエルフだと思われてしまうところだった。お別れするにしても優理ちゃんには良いエルフのままでいたい。
おすすめの鉛筆を選んだあとその他に必要な物を教えて優理ちゃんはそれらを購入した。
「そういえばどこで書くか決まってる?」
「私の家はどう?」
「優理ちゃんの家・・・」
盗聴器、小型カメラ・・・いや、ダメダメ!今からじゃ間に合わないし優理ちゃんから離れるんでしょ!
「ダメ?」
「うんうん!行こう!行かせてください!」
「う、うん。すごい気迫ね・・・」
落ち着けわたし・・・深呼吸だ、今から好きな人の家で二人っきりで絵を教えるだけ・・・いや無理でしょ!耐えられるのわたし・・・今一緒に歩いているだけで心臓がこんなにもうるさいのに二人っきりとかどうなるの?
落ち着け、わたし。まだ時間はある心を整えて備えるのよ。まずは深呼吸。
すーーーーーはーーーーーーすーーーーーはーーーーー。
そうだ。優理ちゃんには好きな人がいるんだ、わたしには友達になる資格なんて無いしこんな気持ちは迷惑なだけ。
優理ちゃん、皇さんが好きだから女の子同士には抵抗ないはずだけど人間とエルフじゃ寿命があまりに違いすぎる。
優理ちゃんの邪魔したらダメだ、迷惑にならない様に立ち去ればいいだけ。だから今日が優理ちゃんとの最後の日。優理ちゃんを納得させて去らないといけない。
わたしの大好きと優理ちゃんの大好きは違うから。
よし、落ち着いてきた。今日の最後、ちゃんと話してしっかり別れよう。




