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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
4章 選ばれし者
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全てを斬り伏せろ

 一列15人の中、六人は横一列(よこいちれつ)に固まって並び、少し離れた位置に、獅(し)堂(どう)このえが自分のパートナーの横で凛然(りんぜん)と佇む。

 他のメンバーも、横や後(うし)ろに密集隊形を組み、これから伝えられる内容を一言(いちごん)一(いっ)句(く)逃すまいと、神経を集中させていた。

 そんな中、イチカは人生初の忍術試験を前にして、緊張を実感する。

(うわあ、ドキドキするなぁ……。普通、テストって言ったら机の上でやる筆(ひっ)記(き)試(し)験(けん)だし、今度の試験は、私と希更ちゃんの進級が懸(か)かってるんだもん)

 やがて忍術学園の教師陣が、一斉に壇上へ集結した。

 緊張、余裕、闘志、不安。

 様々な想(おも)いが会場を渦巻く中、五部(いつつべ)学長が基本の注意事項を語り終え、やがて

想定外の補足へと移る。


「なお、今度の試験では二人(ふたり)一組(ひとくみ)を基本としましたが、それについて、教頭先生から追加の提案があるとのことです。では時村(ときむら)先生、どうぞ」


 一瞬、声には出さねど、会場の空気がゾワリと流動した。

 イチカも知るように、この若(わか)くして教頭に任命された中央政府の回(まわ)し者(もの)は、忍術学園をハイテク学校に変えようと企む難物(なんぶつ)である。

 いったい、どんな無理難題が飛び出して来るか分(わ)かったものではない。

 時村(ときむら)教頭は、片手でマイクの位置を調節すると、事務的な口調で宣言する。


「教頭の時村(ときむら)だ。今(いま)、五部(いつつべ)学長から紹介のあった通り、今度の試験は二人一組(ツーマンセル)なんだが、対戦相手が二人しかいないと分かっていれば、結局は、一対一の多重戦にしかならない。そこで今からやる試験は、夜も遅いし時間の短縮も兼(か)ねて、校内全域を戦闘範囲とした、30人15組の『バトルロイヤル形式』にしたいと思う」


 時村の提案が、場内の空気を一斉に薙(な)いだ。

 二人一組の衝突戦と違って、15組では遭遇戦の厳(きび)しさがまるで違う。

 特に、短期決戦を予定してた組にとっては、計画の大前提が大きく崩れた。

 時村教頭は落(お)ち着(つ)き払った様子で、生徒達のどよめきを掻(か)き消す。


「静かに静かに……。こいつは何も、無茶な思い付きって訳じゃない。そもそも15組となれば、どうしたって一組(ひとくみ)だけ余る。とすると、この時点で、なにか特別なルールが課(か)せられると見て当然だろう。それに、勝者だけに特別単位が入るんじゃ、半数の組は無得点になっちまうが、バトルロイヤルなら、1位から15位まで、ランク別に単位が支給される。それで助かるって生徒も多いんじゃないか?」


 多くの級友(きゅうゆう)が同調する中、イチカと希更は、棒を飲んだように立(た)ち竦(すく)んだ。

 二人にとっては、試験合格と必修単位数は同義である。

 いままでの条件なら、未知の二人を倒すだけで充分だったのが、バトルロイヤル形式になったことで、1位通過の特別支給分だけが、絶対安全圏になってしまった。


 すなわち、敵は戦友を除(のぞ)いたクラス全員である。


 これこそハイテク化を望む時村(ときむら)教頭と、イチカとの直接対決を望む獅(し)堂(どう)このえの奸(かん)智(ち)が産み出した強烈な一手であった。

 希更が青ざめた表情で、イチカの袖(そで)にすがり付く。


「藤森さん。これじゃあ私達……」


 隙(すき)を見せれば刈(か)り取られる。

 イチカは小声で友人を励ました。


「希更ちゃん、訓練を思い出して下さい。確かに私達(わたしたち)の敵はクラスのみんなですけど、実際に全員(ぜんいん)と戦う必要はありません。二人でうまく隠行(おんぎょう)を使って……」


 と其処(そこ)で再び、時村(ときむら)教頭が畳みかける。


「それと、実践度を高めるために、初(・)期(・)配(・)置(・)は(・)く(・)じ(・)引(・)き(・)によって決めさせてもらう。当然、倒した相手がたまたま味方だったとしても、撃破したことになるからな」


 時村(ときむら)教頭は自信の笑みで左右を見回し、周囲の教師から賛同を求める。


「どうです? ほかの学年の先生方(せんせいがた)にも審査を手伝ってもらえば、なんとか人手は足りると思いますし、特別、反対意見もありませんよね?」


 確かにないが、不安は感じる。

 なにより、工作員の時村(ときむら)と意見を同じくして良いものか。

 そう言った逡巡を切り捨てる形で、五部(いつつべ)学長が、消極的にも賛成の意を唱えた。


「私は、時村(ときむら)先生の提案に賛成です。確かに実戦形式に近く、生き残りに応じて

単位を支給するのも、単なる勝ち負けで二(に)分(ぶん)するよりかは、いくらか健全だと思いますから」


 続けて学年主任の臥龍仁斎(がりゅうじんさい)も、顔の渋みと声を同調させて、五部(いつつべ)学長の同意に続いた。


「ぬうぅ……。時村(ときむら)教頭に続くのはち(・)と(・)癪(しゃく)じゃが、こればっかりは正論じゃな。考えてはみたが、特に違反性もなく、審査基準も、結局は例年に近いものじゃ。単(たん)に試験方式が変わっただけで、さして大きな混乱もあるまい……」


 天敵(てんてき)二人が味方に付いたことで、時村は、壇上で浮(うわ)付(つ)いた空気を全開にする。


「よっしゃ♪ ……さて、俺を含めたトップ3人が賛成なら、ほかの先生方も異論はないですよね?」


 当然、反対意見などあろう筈(はず)もなかった。

 満場一致の結果を得て、時村教頭が早々(そうそう)に話を締めくくる。


「んじゃ、そういう事で、二人(ふたり)一組(ひとくみ)のバトルロイヤル形式に決定! 開始地点は

身体検査のあとで個別に籤(クジ)を引き、その後、試験開始までは、他者との接触は一切(いっさい)禁止とする。俺からは以上!」


 こうして注意事項は終わり、イチカは順番通りに身体(しんたい)検(けん)査(さ)を受けて、配置に就(つ)いた。

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