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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
4章 選ばれし者
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63/83

集結

 翌日(よくじつ)の午後6時半、期末試験の時がやってきた。

 同学年、兵(ひょう)組(ぐみ)、闘組(とうぐみ)の試験は、午前と午後一番に別れて終了し、試験は残す所、イチカ達の臨組(りんぐみ)だけである。

 空は快晴。

 夕方といっても、この時期は陽(ひ)が長く、校庭はまだ視界が利いている。

 集合時間までは校内(こうない)の立ち入りを禁止されているため、イチカと希更は、準備運動代(が)わりの軽い訓練と作戦会議を済ませ、集合場所の体育館へと移動する。

 入り口前の下(げ)足(そく)置(お)き場(ば)から板張りの運動場を見渡すと、わずか20人強(きょう)の級友たちが、本番仕様の戦闘服に身を包み、互いのペアを牽制(けんせい)するように散っていた。


「うわあ……。みんな、もう集まってる。しかも早速、殺気みたいな物を撒(ま)き散(ち)らしてるし」


 余裕の表れか、まるで他人事みたいな口調で呟くイチカに、希(き)更(さら)は信頼の色を深める。


「でも、それが分かるのなら、藤森さんもみんなの気配が読めるようになったみたいね。あとは、その気配をどれだけ敏感(びんかん)に感じ取れるかで、隠行(おんぎょう)破りの精度が決まるわ」


 場内に渦(うず)巻(ま)く剣呑な空気が、ネットリとした湖(こ)泥(でい)のように押し寄せる。

 自然と、二人の身(み)も緊張に引き締まった。

 イチカは、わずか5メートル先の敷(しき)居(い)を越えただけで、同一空間の攻撃的な空気を感じ取ってピタリと停止した。


「急(きゅう)に立ち止まってどうしたの、藤森さん?」


「この気配……。副委員長の獅(し)堂(どう)さんです。体育館の奥の方に居ます」


 イチカに続いて、希(き)更(さら)も講堂内へと足を踏み入れる。

 殺気に似た緊張。その最大の発信源が、壇上前の右側、校歌が彫られた木版(もくはん)の下で、こちらに挑戦的な眼(まな)差(ざ)しを送っていた。


「そういえば獅堂さんは、この前(まえ)、藤森さんに決闘を申し込んでいましたね」


「微(び)動(どう)だにしない様子からして、戦う前に言(こと)葉(ば)は不要って感じですね。でも、教頭先生を焚(た)き付(つ)けたとして、一体どうやって、一対一に持ち込むつもりなんでしょうか?」


 その場で小さく相談していると、後(うし)ろの出入り口から、殺気とは無(む)縁(えん)の四人が現れた。

 委員長の坂本(さかもと)愛(あい)里(り)と金岡(かねおか)あきえ。

 そして、焰薙(ほむらぎ)華(か)隠(のん)と柳沼(やぎぬま)理乃(りの)のW(ダブル)ペアである。

 筆頭(ひっとう)実力者たちの登場に、イチカの注意がこのえから外れた。


「あっ。委員長さん達も、今から集まる所だったんですね」


 自然とイチカの目が、四人の装備に留(と)まる。

 全員、初日に見た時と服装は一緒だが、装備品の数と細(さい)部(ぶ)の意匠(いしょう)が明らかに異なる。

 特(とく)に華隠と理乃は、大艦巨砲(たいかんきょほう)主義を地(じ)で行く重装備だ。

 華隠の場合、金(きん)糸(し)の刺繍が鮮(あざ)やかな戦着物に、大太刀を二振り、背中へたすき掛(が)けに差し、その上から胴回りほどもある手(て)筒(づつ)を斜めに背負っている。

 ペアの理乃は普段通りの格好で、暗器を多(た)数(すう)仕込んでいる忍者服。

 その左肩から右下の腰裏(こしうら)へと湾曲した太い革筒(かわづつ)に、忍術媒体を含んだ細(ほそ)い鎖(くさり)を

収納し、先端部分の鎌(かま)だけを、接続金具の金属ボタンで腰(こし)ベルトの右側に留(と)めている。

 鎖(くさり)の長さは、推定でおよそ15メートル。

 収納体積と引き替えの細(ほそ)さを補う特殊合金は、伝導させる氣術(きじゅつ)の精度で硬度を変えられるため、生身の力(ちから)では容易に引き千切れない。

 それ以上に気懸(きが)かりなのは、常識外れに長い鎖(くさり)を、一本の皮筒(かわづつ)にどうやって絡(から)ませずに蔵(しま)っているかだ。

 この点、忍ヶ丘での経験が浅いイチカには、皆目(かいもく)、見当がつかなかった。

 加えて彼女の最大の特徴は、条件次第では両太腿(りょうふともも)の飛行翼を展開して空を飛べることだ。

 校庭での夜間移動と広域偵察において、理乃には圧倒的な優位性(アドバンテージ)がある。


 一方、愛(あい)里(り)とあきえの装備は、軽装・暗殺に特化したもの。

 練丹術(れんたんじゅつ)の得意な愛(あい)里(り)は、黒の忍者服に、忍具を忍(しの)ばせる弛(たる)みを持たせた改造制服。

 色は全て黒一色(くろいっしょく)に統一し、杖無し帽子(フード)無しのローブに、隠れ蓑の耐刃(たいじん)マントを肩の後(うし)ろに装着している。

 反対にあきえは、分厚い金属爪が甲(こう)から突き出た手甲(ガントレット)に加え、軽金属の圧砕脚甲(バスターレガース)に鉢金(はちがね)と、基本装備が断(だん)トツに薄い。

 ヘソ出しのタンクトップ一枚とショートパンツ。

 スピード重視の軽装(けいそう)に、忍具ベルトを腰(こし)から斜めに二巻き、スタイリッシュに

着崩している。

 隠し忍具は一切ない。

 衣服の中に仕込(しこ)んでいると、取り出す際に手甲(しゅこう)の爪で自分を傷付けてしまうからだ。


 ちなみにイチカの格好は、いつもの忍者服に、忍具ベルトを腰に一巻き。

 肋骨(ろっこつ)周(まわ)りには、手裏剣を納めたコルセットを装着し、狐(こ)面(めん)を頭に横掛けして、首には厚手のマフラーを巻いている。

 希更に至っては、小太刀(こだち)以外の忍(にん)具(ぐ)全てを和服の下に隠した、普段と同じ格好であった。

 イチカに名前を呼ばれた事もあり、四人の先頭に立つ愛(あい)里(り)が最初に口を開いた。


「戦闘前に囲まれるのは良(い)い気(き)がしないし、一応、学級委員の務めとして、綾平(あやひら)先生に試験続行か延期か、あと、なにかトラブルが無いか、確かめる必要があったもの」


 愛里が喋(しゃべ)り終えると、四人の中で最(もっと)も心配性のあきえが、最弱候補の二人を気に掛ける。


「そんな事より、イチカに水野っち(みずのっち)、ちゃんと訓練はして来たのかい? なんでもあの後(あと)、どの霊場にも顔を出さなかったっていうじゃないか」


 こうして6人は会話をしながら、級友たちの敵対視線を裂いて、体育館の中央を突っ切ってゆく。

 その道行きに、およそ一ヶ月前はズブの素人だったイチカが、敵意に怯(ひる)まずついて来ている。

 委員長の愛里は、またしても其処(そこ)に、一週間前の危惧を蘇らせた。

 そうとは知らずに、イチカはあきえの質問へ快活に答える。


「ハイ! 秘密特訓でみっちり鍛えてきました。そう簡単にやられたりはしません」


「へへっ、イイ返事だね。でも、訓練して来たのはコッチも同じだからね。条件が一緒なら、アタシ達の方が有利だよ」


 自信満々に力こぶ(ちからこぶ)を作り、爽快な笑みを向けるあきえ。

 確かに彼女の言う通りなのだが、イチカの言う秘密特訓とは、あきえ達のこなしてきた自主訓練のことではない。

 その点に疑問を抱(いだ)かせないのは、なんと言っても、イチカの用意してきた二つの脱力アイテムにある。

 目に見える罠(わな)に誘導されて、呆れ顔の華隠が、後(うし)ろから憎まれ口を叩いた。


「隠れて修業してた割には、頭に狐(きつね)のお面だなんて、祭りにでも行くような格好だわさ」


 条件反射で縁日(えんにち)の景色を思い浮かべた希更は、イチカの左隣りで微笑を作った。


「これで綿菓子にリンゴ飴(あめ)もあれば、完全装備の仮(か)装(そう)ですね。もっとも、変化の術は関係ないから、技術点は入らないんですけど」


 あれだけ試験内容を危惧していた希(き)更(さら)からも、悲壮感がまるで感じられない。

 みずから冗談に加わり、他のメンバーと談笑している。

 今度はお調子者の理乃(りの)が前に出て、鼻をスンスン鳴らしながら、イチカの周囲を執拗(しつよう)に歩き回った。


「でも、なんだか安心したよ~♪ だってあのイチカが、お爺(じい)ちゃん先生に特訓を受けてたって言うんだもん。裏庭での一件以来、ボク達の霊場封鎖も成功してたみたいだし、これでイチカ達の勝利は絶対(ゼッタイ)ないね」


 不(・)平等院鳳凰堂を使ったとは言えず、イチカはわざと、ありきたりな台詞(セリフ)を返す。


「あっ、その言い方って非道(ひど)いです。こう見えても私だって、あれから更に成長したんですから。秘策の一つや二つだって、用意してるんですからね!」


 強がりを言えば言うほど洗濯剤(せんたくざい)の香りに気を良くして、理乃がニヘラ顔(がお)を加速させる。


「ど~だかね~♪ イチカはやっぱり、いつものイチカだからね~」


 理乃の能天気な認識に、あきえも然(しか)り、華隠も右に同じで同時に頷く。

 しかし、練丹術に詳しい愛里だけは、匂いの発信源に工(く)夫(ふう)があるのを察知した。

(違う……。この匂いは、忍者服からじゃない!)

 愛里の歩みが、イチカ達から一人だけ遅れる。

 長い付き合いのなせる業(わざ)か、あきえは、自分達から離れて絶句する愛(あい)里(り)に気が付いた。

 たった一(ひと)目(め)で彼女の心配を見抜いて、さり気(げ)なく列を外れる。


「そんなに深刻ぶった顔をしちゃって、どうしたのさ。ひょっとして、今度の試験でイチカが学校を辞(や)めるかもって、気が咎(とが)めんのかい?」


 一行の歩みは、体育館の三分(さんぶん)の一(いち)まで来ている。

 壇(だん)の下までは、あと少しだ。

 その距離が、まるで自分達の危機を暗(あん)示(じ)しているようで、愛里の心臓は早鐘(はやがね)の如(ごと)く高鳴る。

 四人から充分、距離が開(あ)いたのを確認して、愛里は小(こ)声(ごえ)で警告した。


「違うの、あきえ! あの藤森(ふじもり)さんを甘く見ては……」


 愛里が忠告を終えるより先(さき)に、ステージ脇のスピーカーから、五部(いつつべ)学長の放送が流れる。


「一年臨組(りんぐみ)の皆さん、長らくお待たせしました。これより、期末試験の説明を始めます」


 それを機に、クラス全員が二(に)列(れつ)横隊(おうたい)で壇上前に集合する。

 こうなると、一切の私語は厳禁である。

 やむなく愛里は、あきえの説得を打ち切って、ルール説明の聞き取りに専念した。

・忍術学園、開校の由来

新政府軍が旧幕残党の対処に当たっていた頃、陽忍たちは雪風と篠崎洞仙(しのさきどうせん)の遺言、そして封印直前に呪術師・天空(てんくう)が残した不吉な警句を参考にして、忍ヶ丘の各地に対・侵略措置を施した。

まず、天空封印の地である泰岳(たいがく)富(ふ)山(ざん)を明治政府、または、後(のち)の新たな中央政権の手から紫水晶を守るべく星ヶ山城(ほしがやまじょう)を建築し、天海衆を含む外敵の襲来に備えた。

また、武器庫を兼ねた防衛拠点として陽炎城(かげろうじょう)を建てる一方、忍ヶ丘の最前線基地と修練場を兼ねた不(・)平等院鳳凰堂を建立(こんりゅう)。

そして後進の育成のために、それまで雪風が担当していた忍術訓練道場を改め、忍ヶ丘独自の人材養成機関・忍ヶ丘忍術学園を開く。

後(のち)に、男女の戦闘力や陽忍術の目覚めの違いから、忍ヶ丘くのいち忍術学園へと

形を変えて現在に至る。

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