全てを斬り伏せろ
一列15人の中、六人は横一列に固まって並び、少し離れた位置に、獅堂このえが自分のパートナーの横で凛然と佇む。
他のメンバーも、横や後ろに密集隊形を組み、これから伝えられる内容を一言一句逃すまいと、神経を集中させていた。
そんな中、イチカは人生初の忍術試験を前にして、緊張を実感する。
(うわあ、ドキドキするなぁ……。普通、テストって言ったら机の上でやる筆記試験だし、今度の試験は、私と希更ちゃんの進級が懸かってるんだもん)
やがて忍術学園の教師陣が、一斉に壇上へ集結した。
緊張、余裕、闘志、不安。
様々な想いが会場を渦巻く中、五部学長が基本の注意事項を語り終え、やがて
想定外の補足へと移る。
「なお、今度の試験では二人一組を基本としましたが、それについて、教頭先生から追加の提案があるとのことです。では時村先生、どうぞ」
一瞬、声には出さねど、会場の空気がゾワリと流動した。
イチカも知るように、この若くして教頭に任命された中央政府の回し者は、忍術学園をハイテク学校に変えようと企む難物である。
いったい、どんな無理難題が飛び出して来るか分かったものではない。
時村教頭は、片手でマイクの位置を調節すると、事務的な口調で宣言する。
「教頭の時村だ。今、五部学長から紹介のあった通り、今度の試験は二人一組なんだが、対戦相手が二人しかいないと分かっていれば、結局は、一対一の多重戦にしかならない。そこで今からやる試験は、夜も遅いし時間の短縮も兼ねて、校内全域を戦闘範囲とした、30人15組の『バトルロイヤル形式』にしたいと思う」
時村の提案が、場内の空気を一斉に薙いだ。
二人一組の衝突戦と違って、15組では遭遇戦の厳しさがまるで違う。
特に、短期決戦を予定してた組にとっては、計画の大前提が大きく崩れた。
時村教頭は落ち着き払った様子で、生徒達のどよめきを掻き消す。
「静かに静かに……。こいつは何も、無茶な思い付きって訳じゃない。そもそも15組となれば、どうしたって一組だけ余る。とすると、この時点で、なにか特別なルールが課せられると見て当然だろう。それに、勝者だけに特別単位が入るんじゃ、半数の組は無得点になっちまうが、バトルロイヤルなら、1位から15位まで、ランク別に単位が支給される。それで助かるって生徒も多いんじゃないか?」
多くの級友が同調する中、イチカと希更は、棒を飲んだように立ち竦んだ。
二人にとっては、試験合格と必修単位数は同義である。
いままでの条件なら、未知の二人を倒すだけで充分だったのが、バトルロイヤル形式になったことで、1位通過の特別支給分だけが、絶対安全圏になってしまった。
すなわち、敵は戦友を除いたクラス全員である。
これこそハイテク化を望む時村教頭と、イチカとの直接対決を望む獅堂このえの奸智が産み出した強烈な一手であった。
希更が青ざめた表情で、イチカの袖にすがり付く。
「藤森さん。これじゃあ私達……」
隙を見せれば刈り取られる。
イチカは小声で友人を励ました。
「希更ちゃん、訓練を思い出して下さい。確かに私達の敵はクラスのみんなですけど、実際に全員と戦う必要はありません。二人でうまく隠行を使って……」
と其処で再び、時村教頭が畳みかける。
「それと、実践度を高めるために、初期配置はくじ引きによって決めさせてもらう。当然、倒した相手がたまたま味方だったとしても、撃破したことになるからな」
時村教頭は自信の笑みで左右を見回し、周囲の教師から賛同を求める。
「どうです? ほかの学年の先生方にも審査を手伝ってもらえば、なんとか人手は足りると思いますし、特別、反対意見もありませんよね?」
確かにないが、不安は感じる。
なにより、工作員の時村と意見を同じくして良いものか。
そう言った逡巡を切り捨てる形で、五部学長が、消極的にも賛成の意を唱えた。
「私は、時村先生の提案に賛成です。確かに実戦形式に近く、生き残りに応じて
単位を支給するのも、単なる勝ち負けで二分するよりかは、いくらか健全だと思いますから」
続けて学年主任の臥龍仁斎も、顔の渋みと声を同調させて、五部学長の同意に続いた。
「ぬうぅ……。時村教頭に続くのはちと癪じゃが、こればっかりは正論じゃな。考えてはみたが、特に違反性もなく、審査基準も、結局は例年に近いものじゃ。単に試験方式が変わっただけで、さして大きな混乱もあるまい……」
天敵二人が味方に付いたことで、時村は、壇上で浮付いた空気を全開にする。
「よっしゃ♪ ……さて、俺を含めたトップ3人が賛成なら、ほかの先生方も異論はないですよね?」
当然、反対意見などあろう筈もなかった。
満場一致の結果を得て、時村教頭が早々に話を締めくくる。
「んじゃ、そういう事で、二人一組のバトルロイヤル形式に決定! 開始地点は
身体検査のあとで個別に籤を引き、その後、試験開始までは、他者との接触は一切禁止とする。俺からは以上!」
こうして注意事項は終わり、イチカは順番通りに身体検査を受けて、配置に就いた。




