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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
4章 選ばれし者
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試験前日

 日曜日、イチカは自宅の縁側(えんがわ)で予備の忍者服を広げると、その横に忍具一式を

並べて、装備の点検を始めた。

 忍者服の様式(ようしき)から、携帯可能な忍具の数には限りがある。

 また、形状や材質によっては位置を選ぶので、()務前の収納配置は必須課題であった。

 上半身は、手裏剣のために空けておきたい。

 腰巻き型の忍具ベルトを押し入れから引っぱり出し、前部ポーチに癇癪玉(かんしゃくだま)をセット。

 ボタン金具の付いた(はい)()ポーチには、真空玉(しんくうだま)を左右に一つずつ。

 ()(びし)の位置はとっくに決まっている。

――(だい)(たい)()の外側ポケットだ。

 走りながらジッパーを解放し、ワンタッチで足下に()ける。

 まだ誰も、この位置を実践してる姿を見たことがない。

 我ながらナイスアイディアだ……。


 これで一通ひととおりの武装調節は済んだ。

 洗濯剤の香りを付けた、ビニール包装のハンカチも用意が済んでいる。

 イチカは立ち上がって一歩、二歩と後退し、忍者服と装備忍具のレイアウトを

()(かん)する。


「う~ん。でも、なんか足りないなぁ……」


 念のため、月曜特訓で開発した爽風薬(そうふうやく)も加えたが、それでもものりなさが残った。


「イ~チカ♪ 何をしてるのかしら?」


「うわっ、姉上(あねうえ)!」


 耳元で不意ふいに生じた声と気配に、イチカの思考が中断される。


「も~う!! どうしていつも、不意打ちばっかなんですか。もっと普通に出てきて下さい」


 驚きに()退(すさ)ると、(あおい)は耳打ちしていたポーズのままで、げんなりと肩を落とす。


「なに言ってんの……。今日ばっかりは、隠行ナシに決まってるじゃない。()()()()()()()()妹とはいえ、明日は大事な試験だもの。そんな気疲れするような事、する訳ないでしょ」


「私が可愛いのは、(いじ)めた(とき)限定ですか……。まぁ、それはどうでも好いとして、それじゃあ今のは、私がボーッとしてたからですか?」


 (あおい)は両手を肩の横へと広げると、ハア……、とわざとらしい溜め息をつく。


「そりゃそうよ。せっかく、もっと可愛らしいお客さんが来てくれたって言うのに、イチカってば、()ったらかしなんだもの」


「えっ、お客さん?」


 視線を変えてあねの肩越しに居間を見ると、玄関から台所を経由して、袢纏(はんてん)姿の

小さな身体が、ピコポコと微笑ましい動作で近付いてくる。


「イッちゃ~ん、今日(こんにち)は~、です♪」


「あっ、さよちゃんだ。こんにちは~♪ 今日はもう、お仕事は終わったんですか?」


 忍術学園の購買担当・瓊荷木(ににぎ)さよは、全身を上下に揺すり、あどけない()(ぐさ)

頷く。


「ハイです。詳しくは言えませんけど、明日(あした)の試験準備と商品整理はバッチリです。だから今度は、イッちゃんの様子を見に来たですよ」


 いじらしい事を『ですます口調』で言う彼女が、ふと、不安そうに尋ねる。


「それでイッちゃん……。結局は忍びを辞めて、この街を出るつもりですか? それとも、試験合格を目指して(がん)()るですか?」


 悄然(しょうぜん)と肩を落とす姿は、別離(わかれ)の寂しさだけでなく、自分が原因でなくとも、忍者社会とは無縁の誰かを巻き込んでしまったという、罪悪感と同情の表れだった。

(そっか……。さよちゃん、私のことを心配して来てくれたんだ)

 イチカは、握り拳を(うし)ろに引いたガッツポーズで、決心の強さをアピールする。


「それについては、もう迷いはありません。私、今度の試験には全力でのぞみ、絶対に立派な()()()()になってみせます!!」


「わぁ~い、やったです。これでイッちゃんとも、まだまだずっとお友達です♪」


 パアッ……と花咲くような笑みで、さよがイチカの胸へと飛び込む。

 (あおい)としては微笑ましい光景だが、妹とさよが同年齢の現実に、なんとなく素直に喜べない。


「どう見ても仲の良いまいなのに、どういう訳か、発育がちがうだけの同い年なのよね」


 (ほお)に手を当てて困惑するあおいの姿に、イチカも一瞬で、現実へと引き戻される。


「それについては私も一緒で、今でも時々(ときどき)、信じられなくなります……」


「……?」


 二人して苦笑いを浮かべる様子を見て、さよはコテンと首を(かし)げて腕を離した。

 身体との距離がひらいた拍子に、鑑定スキルの高さから、イチカの新装備へとすぐに気付く。


「あっ……。イッちゃんの武器、前とは少し、印象(カンジ)が違うです。ひょっとしてこれが、以前、注文したっていう忍者刀ですか?」


 イチカは(つば)を鳴らして、腰裏の斬空刀を(さか)()で鞘から引き抜いた。


「エヘヘ♪ よく分かりましたね。私に合わせて、武器工房の八幡(はちまん)バサラさんに造ってもらったんです。今となっては(あじ)が少し軽いんですけど、昨日のうちに、自主訓練で慣らして置きました。それと、コレ……」


 頭部右上、髪に添えたワンポイントの装飾品をゆびして礼を述べる。


「この髪留め、ありがとうございます。どうせ造ってもらうのなら、自分が気に入ったデザインにするのが一番ですからね」


 イチカの頭部で、青、赤、黄、白、黒、五色の宝石が(いろ)()せた輝きを放つ。

 試験に全力を注ぐイチカは、単位認定証の全てを()しげもなく結晶化し、お菓子忍具の素材に()てた。

 その高純度媒体がなぜ残ってるかというと、訓練用はタダでも、本番()(よう)の忍具ばかりは有料なので、結晶物が尽きるよりさきに、イチカの()(づか)いの方が尽きてしまったのである。

 光をこばむ結晶器具を見て、さよは数日前の注文内容を思いだす。


「そういえばあの時、イッちゃんは髪飾りにしたんですね」


「ハイ! 授業で配られたプリントによると、明日は、単位認定証をさんした方が良いみたいなので、どうせなら試験の時も、この髪飾りで受けることにしました!」


 装飾品の形状によっては持ち込み不可能だが、イチカの髪を(いろど)るソレは、刀の(つば)した楕円形のプレートだ。

 これならば、学園からの支給品ともあって、没収される心配はない。

 どうやら、さよの()()(がね)にも(かな)ったようで、そばで見ていた彼女が、ほへぇ……と感心に口を鳴らす。


「準備はバッチリみたいですね。どうですか、イッちゃん。対戦相手に勝てそうですか?」


「そんな……。勝てるもなにも、対戦チームが決まるのは試験直前ですし……。それに、ちょっと気掛きがかりな事があって悩んでるんです」


 こうなると、自称・妹()きのお姉ちゃんの出番である。

 (あおい)が畳の上で正座を構え、助言モードの体勢を整える。


「そう言えばさっき、なんだかブツブツ言ってたわね。なにかがりないとかどうとか」


 姉に(なら)って、イチカもぶつの一角にペタンと腰を下ろした。


「私、基本戦闘の修練は積みましたけど、敵からの(あん)()対策は、ほとんど何もしてないんです。それで思うんですけど、暗殺道具って、どういった物が多いんですか?」


 イチカの正面に座るあおいが、漠然(ばくぜん)とした質問に悩んだ。


「そうねぇ……。正規の武器とは別に隠し持ってるのが暗器。()(がら)に吹き矢、首切り(ひも)とか色々あるけど、大体(だいたい)は、遠距離武器が中心かしら。まぁ、(すき)を突かれなければ大丈夫よ」


 実践じっせんよりも知識重視のさよが、自分の専門分野から意見を持ち出す。


「心配なら、厚手のマフラーとかをくびに巻くと良いですよ。あと、含み針や瞳術(どうじゅつ)対策に、お面なんかがあると便利です。ほかにもわきしを持っていれば、武器を落とした時に心強いですね」


「とすると、私が今から用意するのは、お面に首輪にわきしですね……」


 今から新しい装備を追加して、夕方までに訓練調整が()()うだろうか。

 イチカが不安そうに対策を挙げると、(あおい)が、先細りした(あご)に人差し指を当てて

眉をくねらす。


「う~ん。でもイチカって、防具の扱いには慣れてないみたいだし、目の(まわ)りを

少し空けて、視界を確保した方がいいかしら?」


 不安の的に『スタタタタッ!』と、(あおい)の鋭利な指摘が刺さる。

 ものごとに、ぜんぶ図星だ。

 緊張感が極限に達したイチカは、パニックを起こして暴れ始めた。


「う~あ~!! 私はどうしたら良いんですか。もう、試験前日だっていうのにぃぃぃ!」


 右へ左へと、イチカが頭を(かか)えて畳の上を転げ回る。

 こんな事で、術持ちにんへの進級試験が務まるのだろうか?

 不安と動揺のげんローリングを見ていたさよが、両手を()()()()と揺らして(なぐさ)める。


「イッちゃん、落ち着いてください。どれも(うち)の中にある物ですし、さよ達が用意してあげるですから」


 同じく、妹の醜態を持て余したあおいが、ガッカリとした様子で腰を上げた。


「まったく、まだまだ世話が焼けるんだから……。準備は私達に任せて、イチカは少し待ってなさい。ぜんぶ揃ったら、身体をらすために軽い練習をすること。分かった?」


「ハイ、面目ないです……」

・忍ヶ丘来歴

周辺地域の祭祀を取り仕切る日陽ひなた家を象徴に、鋼仕事の八幡やはた一派、商家として知られた中野家の3つによって町は成り立ち、陽忍集団『五部』の来訪をに、歴史の裏舞台の中心地となる。

明治政府の設立前から、幕府の弱体化と異能力案件への対処と引き替えに独立自治権を獲得しており、中央政府よりも古い歴史がある。

独自政策を取っていたため文明開化の波に乗り遅れるも、第2次大戦期に里の

重鎮・緋群一刀が中央政府と交渉をまとめ、忍ヶ丘に近代文明を呼び込む代償として、忍ヶ丘北西・近宮ちかみや神宮の先にある忍ヶ丘樹海に陸軍最終防衛ラインの構築を

許可した。

緋群一刀を始めとする北部重鎮の読みは当たり、日本ひのもとは本土決戦を前に降伏。

忍ヶ丘はタダ同然で一般社会と同じ生活水準に達し、むら家は大いに面目を施した。

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