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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
4章 選ばれし者
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恋する剣客

 ややあって、イチカはモヤモヤとした気分で希更に呼びかける。


「師匠たち、一体どうして、石川先生に隠し事をしてるんでしょう?」


「さあ? 私としては、厳(きび)しい罰(ばつ)が待ってるって部分の方が、気にはなるけど……」


 二人して首を捻(ひね)っていると、道路に面した北門から、スリットだらけで布地の

少ない忍者服の女剣士が、血相を変えて駆け寄ってきた。

 疑惑の中心人物、石川残月(いしかわざんげつ)である。


「おお、藤森に水野か! お前たち、ちょうど良い所に」


「あっ、石川先生! そんなに慌ててどうしたんですか?」


「それが……。つい先程、生徒達の噂(うわさ)を小耳に挟んでな。なんでも、この不(・)平等院鳳凰堂に、忍ヶ丘では滅多に見掛けぬ剣豪が現れたと聞いて、『授業を棄(す)ててまで』やって来たのだ」


「なんだか、教師にあるまじき事をサラッと言った気がしますが……。それで先生は、その剣豪の方(かた)を探してるんですか?」


 イチカが疑問を口にした途端、残月の纏(まと)う剣士としての風格が、乙女チックに崩れだす。


「ふえっ!? あっ、まぁ、そんな所だ……。うむ……。故(ゆえ)あって、その者を探している」


 歯切れの悪い返答を、イチカが更に追及する。


「授業を抜け出すくらいなんですから、よほど重大な訳でもあるんですよね?」


「理由だと!? ええっと~、それはぁ~…………。ホラッ、あれだ! やはり、同じ剣豪として実力を確かめるというか、相(・)性(・)を確認して置いた方が、今後のためと言うか……」


 その後も、愚(ぐ)にも付(つ)かない『逃げ口上』を照れ照れと並べる残月(ざんげつ)女史の様子から、イチカはどうしようも無いくらい、彼女の本心を理解する。


(相性を確認って……。もしかして石川(いしかわ)先生、昔の師匠のことが『好き』だって

言うのぉぉ!?)


 内心、激しく動揺するイチカの隣りで、こいつはマズイ……、と言った表情の

希更が小(こ)声(ごえ)で呼びかける。


『ふっ、ふっ、ふっ、藤森さん。つまりはコレって、石川先生は龍様(りゅうさま)のこと……』


 声が震えているし、呼び名も怪しい不審者2号なのだが、イチカの驚きは残月(ざんげつ)女史に固定されているため、表層意識に引っ掛からない。


『間違いありません。相手が若返った師匠とも知らず、石川(いしかわ)先生は告白しようとしてるんです!』


『何(なん)ですってぇぇぇえ!!!!』


 希更の頭上に、『ポッポ~♪』と、蒸気機関車みたいな白煙が生じた。

 無論それは、赤面(せきめん)羞恥(しゅうち)の熱ではない。

 嫉妬の煤煙(ばいえん)粒子である。

 焦る希更が、慌てん坊教師((石川残月))に質問の刃で斬りかかる。


「先生は一人の剣士として、相手に果たし合いを挑むつもりなんですよね? ですが、負ければその……、教師としての面目に傷(きず)が付くというか、嫁入り前の身体に疵(きず)が付くことになりますから、絶対に危険ですよ!」


 不安から声が震えて、思わず長舌(ちょうぜつ)となる。

 希更が遠回しに『止(や)めて下(くだ)さいコール』を宣告すると、石川残月はなんら気付いた風もなく、むしろこれを諦念(ていねん)・不(ふ)退(たい)転(てん)の決意で迎え撃つ。


「否(いや)、それはもう、石川家の女児として此(こ)の世(よ)に生を受けてから、ハッキリと覚悟している。家訓に従い、剣士として二度も敗北した暁(あかつき)には、潔(いさぎよ)く相手のもとに嫁(とつ)ぐとな!!」


 希更は声もなしに、『うわっ、やっぱり退(ひ)く気ねぇ~!』と絶叫した。

 暁(あかつき)などと、本音がダダ漏れである。

 しかもその決意が、告白なんか素(す)っ飛ばして、家訓を盾(たて)に求婚を迫ろうと言うのだから、希更は気が気でない。

 もし残月(ざんげつ)女史が仁斎と夫婦(めおと)になれば、『龍様(りゅうさま)=萌えの対象』は消滅し、希更の腐(ふ)女(じょ)子(し)人生はバッドエンドを迎える。

 かと言って、彼女に諦(あきら)めてもらうために真実を話せば、学園長からの必殺稼業によって、人生自体がデッドエンドしかねない。

 この袋小路(ふくろこうじ)の問題に、ただ一人、冷静沈着なイチカは、無難に『逃げの一手』を打った。


「あの……。その人でしたら、さっき、この不(・)平等院鳳凰堂から出て行っちゃいましたよ」


「なにっ!? それで、どちらに行ったか分かるか?」


「それが、私たち下(げ)忍(にん)に見破れる動きじゃないんで、サッパリ……」


 恋愛守護者の巧(たく)みな回避に、恋愛(れんあい)至上主義者の残月(ざんげつ)女史は、握り拳を悔しそうに震わせて、爛(ただ)れた執念を見せる。


「クッ、それもそうか……。だが、これでハッキリしたぞ。あの御(お)方(かた)は、この忍ヶ丘に異変や緊張が高まると、出現確率がグッと上がる。誰か、なにか問題を起こしてくれないだろうか……」


「うわっ! なんか石川先生が、怪談の『八百屋(やおや)お七』みたいなこと言い出しました!!」


 生徒にドン引(び)きされてる事もそっちのけで、石川残月は憔悴(しょうすい)した様子で、門の外へと出て行った。

 イチカがしばらく呆然と立ち尽くしていると、隣りの希(き)更(さら)が対抗心を燃やして

宣言する。


「藤森さん。私、決めたわ!」


 希更の同人好きを知らないイチカが、不思議そうに首を傾(かし)げる。


「決めたって、なにをですか? 希更ちゃん」


「私、忍びの技倆(ぎりょう)を高めて、いつの日か、石川先生を倒してみせるわ!」


 もしも希更が残月(ざんげつ)女史を打ち負かせば、家訓を守る以前の問題として、彼女の

未熟さを証明できる。

 それで諦める石川残月ではなかろうが、少なくとも、『一:朧月(ろうげつ) 二:希更 三:残月』の順位が続く限り、危険は先送りされるのだ。

 打(だ)倒(とう)石川による求婚阻止を表明して、希更が一瞬で姿を消した。

 それから数秒後、硬直から解けたイチカは、互い違いに眉を捻(ひね)った滑稽(ユーモラス)な表情で思考を整理すると、残月(ざんげつ)女史の敗北が意味する事実から、奇想天外な推理を組み立てる。


「どうして希更ちゃんが、石川(いしかわ)先生のことを狙ってるのぉぉぉぉ!?」


 パズルの柄(がら)も、時として重要な欠片(ピース)が欠けてるだけで、とんでもない絵柄が完成するようだ。

 希更、残月(ざんげつ)女史、萌えの対象(龍様)。

 三者を巡る奇妙な三角関係。

 その半分は正解でも、希更を中心とするも(・)う(・)半(・)分(・)の矢印が、完全に見当(けんとう)違(ちが)いの

方向で結ばれてるのだ。

 こうなると、親友のイチカが出せる答えも、自然とおかしな方向へと向かってゆく。


「とすると、師匠と希更ちゃんは一種の恋敵(こいがたき)。私、師匠の邪魔は無理ですけど、

忍(・)者(・)なだけに、希更ちゃんの恋を蔭(・)な(・)が(・)ら(・)応援して行きます!」


 イチカは立ち去った親友に声援(エール)を送ると、拳を固く結び、不(・)平等院鳳凰堂を去るのであった。

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