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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
1章 忍びの里の忍ヶ丘
19/83

八幡バサラ

 そうして彼女から離れること、およそ300メートル。

 専門商店街の西側(にしがわ)入り口で、このえは、理乃との会話を振り返る。


「まったく、ひどい目に()いました……。どうしてこう、ウチの有名人は人騒ひとさわがせな性格が多いのかしら」


 それにはイチカも同意するが、話が長引いても()のない結果が予想されるので、商店街の店構みせがまえへと意識を移した。

 左右に長く(のき)を連ねる店舗群。

 左前方には、ティッシュペーパーや野菜、その他日用品(にちようひん)を段ボールごと並べた

普通のスーパーが見えるが、右側ともなると、サギ師の巣窟そうくつじみた雰囲気が長々と続く。

 軒先に信楽(しがらき)タヌキや美術品を飾った骨董品(こっとうひん)店はまだしも、その隣りの工房が置いた金属甲冑が特に酷い。

 日常の穏やかな空間を、一気に殺伐さつばつとした世界へと染め上げている。

 キナ臭さの余波で、向かいの酒屋が、イケナイ薬を提供している密売所に見えた。

 その不思議な通りを、私服姿の一般人に混じって、忍者たちが平然へいぜんと行き交う

光景もまた、イチカには奇妙に映った。


「なんだか賑やかなトコに来ちゃいましたけど、ここが専門せんもん商店街なんですか?」


 イチカの問いに、希更が自然体で答える。


「そう。左のスーパーは『じらい屋』と違って、おろし売り以外に、自分で持ち込んだ商品や忍術媒体(にんじゅつばいたい)の買い取りもしてくれるの。私たち学生にとって、数少ない収入源の一つよ」


「ですから、この商店街を訪れた人のほとんどは、そこの『()(やま)質物店』で支度金を整えてから、駅前方向へと東へ廻って行きますの」


 と、これは口調から分かる通り、獅堂このえの(げん)である。

 封印氏族の(ほこ)()のほかに、忍び社会の治安を守る『守り部(まもりべ)』とも呼ばれる家柄だが、毎月の()(づか)いは三千円と苦しい金額。

 華美な装飾からも推測できるように、彼女こそ、やま質物店の常連であった。


「どうせ一日では廻り切れませんし、今日の所は、武具の注文でお世話になる『八幡(はちまん)バサラ』と、もう一つの収入源、『ペットショップもののけ』をのぞいていきますわよ」


 このえは、すぐ横の古美術店こびじゅつてんの前を通過して、隣りの工房、八幡バサラのガラス戸を開く。

 その途端、奥からムワッとした熱気が押し寄せて、イチカの歩みを(にぶ)らせた。


「うわっ……。なんか此処(ここ)だけ、異様に暑い……」


「ここでは特注品の武具を、工房(こうぼう)(ぬし)(ごう)()様が造ってらっしゃるんだもの。当然ですわ」


(ごう)()…………様?」


 このえの口から自然にすべた敬称を、イチカが不思議そうに復唱する。

 そのうしろで、最後尾の希更がガラス戸を閉め、いくらか熱に呼吸を(うな)された。


(ごう)()(せい)()(ろう)。獅堂さんと同じく封印氏族の末裔で、禿頭(とくとう)ねじはちきが特徴の

39才。頭の傷は、昔、機械に髪を巻き込まれた際、頭皮ごと引き剥がした英断えいだん(あと)で、髪の毛がないのは、遺伝が原因ではないとの事よ」


「さっきの店長さんもそうですけど、その人にも、色んな武勇伝がありそうですね」


 とその時、店内てんない奥の工房付近から、キンキンとしたお祭り声が入り口まで伝わる。


「そこはやっぱり軽くて丈夫。しかも、あじ抜群のヤツを造って欲しいだわさ!」


「バカ言ってんじゃねぇ。安易に丈夫で軽くとは言うが、同一素材を材料もとにすりゃあ、どうしたって密度は一緒だ。どちらかを重視すりゃ、もう一方が(おろそ)かになる。それでもアレコレ()()()()()()んなら、珍品名品の素材を配合するか、弱点補強の『符術ふじゅつ措置』しかねぇ」


 入り口まで聞こえる()()()()に、イチカが当惑する。


「なんですか、今のは?」


「なんなのって、決まってますわ。いつものやりとりですわよ。あの炎熱狂女(えんねつきょうじょ)の……」


炎熱狂女(えんねつきょうじょ)? また別の、変わった人のことでしょうか?)

 イチカが『考えるポーズ』で固まっていると、そのすぐ横で足を止めた希更が、言葉少なく解説する。


「お昼に藤森さんも会った、焰薙(ほむらぎ)()(のん)さんのあだ()のことよ。彼女、剣豪タイプの戦闘(バトル)ジャンキーだから」


 言われてイチカも、そんな好戦的な人も居たなぁ……、と裏門での集結図を思い出す。

 やがて三人は、声が聞こえた売り場の奥へと向かうと、そこには工房とは別の(たたみ)が敷かれた座敷があり、工房主の(ごう)()(せい)()(ろう)と、装飾華美な戦着物をまとった焰薙(ほむらぎ)華隠が、卓袱台(ちゃぶだい)を挟んで議論をあつく交わしていた。

 このえは、二人が座る休憩用の座敷へと近付き、まずは騒ぎの元凶を(いさ)める。


焰薙(ほむらぎ)さん。あなた、なんて声で喋ってますの。入り口まで届いていたじゃありませんか」


 横槍を入れられた華隠は、ムスッとした顔で振り向いて軽口を叩く。


ふく委員長に水野希更、それに転校生も一緒とは……。あちしがどんな声で議論してようが、三人には関係ないだわさ。むしろ、武器に関しては素人なのに、あちしに口出しするなんて、10年早いってなモンよ」


 上から目線でせいい華隠だったが、本職の(ごう)()征士郎に鼻であしらわれる。


「フン……。何を()()()()()()と言ってやがんだか。俺にすりゃあ、お前さんも

立派な素人だよ」


 悪意を持たぬ()()()()()()さで(たしな)めると、征士郎は、楊枝を(くわ)えた職人顔を来客へと向けた。


「んで……、忍術学園の生徒が三人()()って来たってことは、なにか大口(おおぐち)の注文でもあんのかい?」


 ()()()()()それを期待する口振りの征士郎に、このえはとおった微笑を浮かべた。


(せい)()(ろう)様は相変わらず、仕事になると活き活きしますのね」


「へへっ……。もう長い間、(アイツ)と向き合ってるからな。休みのとき以外は、日に必ず一度は向き合わねえとソワソワしちまう……。それより、『さま』はしてくれ。(ガラ)じゃねえし、いくら先祖が立派だからって、そのお(こぼ)れで()(はや)されちゃ座りが悪い」


 せと言ってるのに、一番(うし)ろの希更が前に出て、意地悪く(かしこ)まる。


「こんにちは、征士郎()。小太刀の鍛造(たんぞう)ではお世話になりました」


「まったく……。何奴どいつ此奴こいつ)も、頑固なヤツばかりだ」


 征士郎は、見事に禿げ上がった頭をひとでして、困り顔から復帰する。


「で、武器の話じゃないとすると、いったい(なん)の用だ。まさか、こんな暑苦しい

場所に顔を出して、世間話に来たって訳じゃないんだろう?」


「きょう此処(ここ)に来たのは、こちらにいる藤森さんを紹介するためです」


 このえが、サッと横にずれて、イチカと征士郎が向かい合わせとなる。


「初めまして。今日からこの街に住む事になりました、藤森イチカと言います」


 イチカが改まった調子で会釈すると、征士郎は、わけありがおで身を乗り出す。


「ああっ……。ってことは、お前さんの事か。今度、新しく生徒さんが入って来るから、新規で色々と武具をようててくれって、学園から連絡があったのは」


「あっ、はい。さっき、身体測定をしたばかりなんで、たぶん、私の忍者服のことだと思います」

上忍:葉山かほる

でっぷりと太ったオバサンくのいち。

戦闘スタイルは、氣術強化による相撲技。

学生時代から使い続けた決め技、氣術を用いた時間差掌底こと『異次元張り手』の強さにより、皆伝級と認定される。


対物破壊能力に優れ、かつては集団戦で名を馳せるも、家業が軌道に乗ったのを

契機に、後方支援・物流部門の一翼を担う。

2児の母。

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