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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
1章 忍びの里の忍ヶ丘
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乱蛇帯

 ひとまず用事が済んだ所で、希更が、誰にでもなく疑問を唱える。


「それで、さっきは何を騒いでたのかしら? なんだか、とても興奮していたようだけれど」


 話の腰を取り戻した華隠が、拳を握(にぎ)って景気よく啖(たん)呵(か)を切る。


「それは勿論、最強の武器のことだわさ! 忍びたる者、一度は誰でも憧(あこが)れる理想の武具。これを手に入れずして、どうしてく(・)の(・)い(・)ち(・)を続けられようか!!」


 小学生男子みたいな持(じ)論(ろん)だが、観光気分のイチカとしては、妙に共感を憶える。


「確かにゲームとかでも、必ずソレっぽい物(もの)が出て来ますよね。私も興味あります♪」


 脅迫が駄目だと分かっているので、華隠は拳(こぶし)を縦に揺すって、泣き落としに掛かる。


「転校生のイチカだってこう言ってる事だし、勿体(もったい)振らないで、さっさと蔵から出して来るだわさぁ~」 


 すると征士郎は、幼稚な態度の華(か)隠(のん)に辟易して渋面を作った。


「だから何度も言ってる通り、ウチにそんな名品が残ってる訳ないだろう。仮にうまく作れたとしても、基本的には宝(ほう)具(ぐ)や神(しん)具(ぐ)扱いで、即刻、保(ほ)管(かん)庫(こ)行きになっちまう」


 聞き覚えのある名称が、イチカの意識に強く引っかかる。


「あの……。もしかすると保管庫って、底(そこ)知(し)れぬコミュニティーセンターの事ですか?」


 イチカが控(ひか)え目(め)な声で話に割り込むと、征士郎は、出来(でき)の良(い)い生徒を見付けたように、パッと明るく瞼(まぶた)を広げてニヤリと笑った。


「おっ、よく知ってるな。あそこは書物以外にも、特殊忍具や名品を納(おさ)めておく

場所だ。なにせ人によっちゃ、この忍ヶ丘は、素(す)の状態でも宝の山だからな」


 最後の方は、日々(ひび)、里の外から侵入する盗掘者たちを想像して、片手で顎(あご)を支えながら、厄介そうに片目を瞑(つぶ)った。

 いっぽう、敵勢力の存在を知らないイチカは、

「なるほど……」

 と、勉強程度の気持ちでコクコクと頷いてから、希更とこ(・)の(・)え(・)に視線を求める。


「ところで、宝(ほう)具(ぐ)や神(しん)具(ぐ)って初めて聞きましたけど、希更ちゃん達は知ってるんですか?」


「いいえ。実(じつ)を言うと、私もあまりよく知らないの」


「私も右に同じです。実物(じつぶつ)は一度も拝見したことがないですし、精々(せいぜい)、特殊な力を秘めた武具としか、話に聞いた事がありませんわ」


 二人の曖昧(あいまい)な反応を、征士郎が補足交じりに肯定する。


「否(いや)、それで充分に合ってる……。武器の性能は、材質や職人の腕によって、必ず一長一短が生じるが、稀(まれ)に、不図したキッカケで弱点のない物が出来あがる。それがいわゆる宝(ほう)具(ぐ)ってヤツだ。いっぽう神(しん)具(ぐ)は、製造前の素材選びや、刀身に施した術式の組み合わせが相乗効果を生んで、装着した人間に特殊な力を授けるんだ」


「へええ……。それで、宝具と神具では、どちらの方が強いんですか?」


 征士郎は、イチカの安直な質問に対して首(くび)を横に振った。


「ハッキリ言って、効果はま(・)ち(・)ま(・)ち(・)だな。一般的には神(しん)具(ぐ)の方が上とされてるが、特殊効果はあっても、武器として鈍(なまくら)だったってケースもある。対して宝(ほう)具(ぐ)は、

見事な造りには違いないが、決して武器としての範疇(はんちゅう)を超えることはない」


 一息(ひといき)入れて、征士郎が困った様子で、華隠を親指(おやゆび)で指し示す。


「んで、コイツが求めてるのが、二つの性質を備えた理想の武器……」


「そう。硬度、軽さ、切れ味、そして持(も)ち主(ぬし)への特別な恩恵を与える、伝説の装備だわさ!」


 素振(すぶ)りの動作を手で真似ながら、陶酔感に浸る華隠。

 背後に業(ごう)火(か)でも引き連れてるような勢いに、希更は気が抜けてゆく。


「伝説の装備って。いくらなんでも幼稚な……」


 希更が滑稽(こっけい)な主張に肩を落とすと、常識派に近いこのえが、意外そうな表情で返す。


「あら、あ(・)な(・)が(・)ち(・)デタラメな話でもありませんわよ? 守り部(まもりべ)の伝承にも、過去にたった一例だけ、乱蛇帯(らんじゃたい)なる武具が存在したという話ですもの」


 このえの証言に勢い付いて、座敷の上で胡座(あぐら)をかいていた華隠が、ズバッと立ち上がる。


「その通り! あちしが真(しん)に目指しているのは、ズバリ、その乱蛇帯(らんじゃたい)! 忍術学園の開祖にして初代皆伝(かいでん)者(しゃ)、雪風(ゆきかぜ)様が持ってたソレだわさ!」


 二人の口から、里の秘事が揃(そろ)って語られると、専門家の征士郎が、慌てて腰を浮かせる。


「お前たち、いったい何処(どこ)で里の秘密を! まさか、他の場所でも口外(こうがい)してないだろうなぁ」


 五行(ごぎょう)連(れん)剉(ざ)・乱蛇帯(らんじゃたい)。

 時を遡(さかのぼ)ること、およそ150年。

 幕末期における前大戦で、天海衆(てんかいしゅう)との戦いに使用された、雪風(せっぷう)家(か)伝(でん)の初版本に

のみ伝わる特殊武器だ。

 その形状は、鎖鎌(くさりがま)に似て殺傷能力に乏しいものの、陽忍術の力を抽出した高純度媒体、五行宝輪(ごぎょうほうりん)を本体に仕込んでおり、陰忍術(いんにんじゅつ)の力を完全に相殺するとも言われている。

 あくまで伝承の存在だと思っていたイチカは、征士郎の言葉に強い関心を示す。


「里の秘密ってことは、本当にこの街に、乱蛇帯(らんじゃたい)があるんですか?」


 再び『しまった!』という空気を顔に表して、征士郎が重苦しい声で答える。


「まぁ、あ(・)る(・)にはあ(・)る(・)……。だが、そういった内容も含めて、ぜーんぶ重要機密扱(あつか)いだ。悪いが嬢ちゃんも、いま聞いたことは秘密にしといてくれ」


「はい……。分かりました」


 厳(いか)つい空気に押されてノロノロと肯定しておきながら、イチカは、乱蛇帯の存在に期待を膨らませる。


「でも、伝説の武器かぁ……。もし、そんなのが作れたら、本当にすごい事ですよねぇ」


 おなじく希更も、前大戦で呪術師・天空(てんくう)を封じたく(・)の(・)い(・)ち(・)、雪風(ゆきかぜ)への興味が手伝って、イチカの期待を後押しする。


「以前にも例があるのなら、それを真似して、もう一(いち)度(ど)作れないんですか?」


 征士郎は、再び難物(なんぶつ)に出会ったかのような顔付きで、忍具造りの難しさを語る。


「そいつはもっともな意見だが、実際、どの素材や術式(じゅつしき)が作用しているのか、原因を特定できるだけの事例がない。それどころか、同じ材料と配合でやってみたにも関わらず、模造品止(ど)まりだった例すらもある。俺たち職人のあいだじゃ、今もなお、大いなる謎だな」


 お手上げとばかりに、両手を肩の横へと挙げる征士郎。

 湿(しめ)っぽい空気がその場を支配すると、相次ぐネガティブ発言に耐え切れなくなった華隠が、鬱屈(うっくつ)した気分を爆発させて立ち上がる。


「ンガ~!! もう分かっただわさ。そんなら、あちしが霊場までひとっ走(ぱし)りして、素(ス)敵(テキ)素材をガッポガッポと採(と)って来るだわさ!」


「オイオイ……。下忍のお前さんが無茶した所で、大怪我するのがオチだ。大人しく小隊(しょうたい)を組んで、上層付近で我慢しろ」


「ハン! 仲間連れなんて、まっぴら御免だわさ。足手まといにしか成(な)りゃしない」


 相手の制止を振り切って、ズカズカと店を去る華(か)隠(のん)。

 彼女(かのじょ)1人が出て行っただけで、店内が随分(ずいぶん)と静まり返った。

 工房から伝わる窯(かま)の熱が、ズゥゥン……と音もなく大気を揺さぶる。

 不意に征士郎が、掌で『パシッ!』と自分の腿(もも)を叩(はた)き、気合いを入れて立ち上がる。


「よし、そろそろ休憩も終わりだ。嬢ちゃん達も武(ぶ)装(そう)強化は良いが、まずは、自分の腕を磨くことが大事だぞ。いくら武器が良くっても、使い手がヘタクソじゃ意味がないし、反対に、自分に合わない武具を持っていたって、単なるお飾(かざ)りにしかならないからな」


「えっ……?」


 征士郎は思(おも)わせ振(ぶ)りな笑みをイチカへ送ると、工房の奥へと引っ込んだ。

 一度、作業に取り掛かった以上、職人たる彼が此方(こちら)へ注意を戻すことはない。

 イチカ達は八幡(はちまん)バサラを後にして、次の目的地へと向かった。

盗掘者。

機械武装を駆使する所属不明の侵入者たち。

捕虜となったものは、中央政府を介して身代金と引き替えに解放される。

ただし中央政府は、武装集団(陰忍を含む)との関係を認めていない。

仲介人は時村守人。

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