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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
1章 忍びの里の忍ヶ丘
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伝家の宝刀

 三人とも、なんとなくの気不味(きまず)さに口を閉ざし、無言の時がしばし流れる。

 左前方、空き地に茂る雑木林を前にして、頭上から明るい声が響いた。


「おっ……。転校生に、希更ん(キサラン)と副(ふく)委(い)員(いん)ちょ(ちょ)じゃん。めっずらしい~♪」


「えっ、どなたですか?」


 突然、陽気な声に呼び止められて、イチカはキョロキョロと周囲を見回す。

 頭上を影が通過し、ブワッと何かが広がる音で、相手の位置を特定できた。

 クリーム色のダブ付いた忍(しの)び服(ふく)を着た少女が、ムササビ状の布(ぬの)を広げて宙を滑空する。

 三人の上空背後から通過すると、両手で握った軸(じく)柄(え)を両太腿(りょうふともも)の脇へと寄せて、ゆっくりと高度を下げた。

 やがて三人の前へと静かに着地すると、飛行翼を調節する棒を腿(もも)の側面へと折り畳み、両折棍(ヌンチャク)に戻して格納する。

 飛(と)び忍(にん)形態から地上型へと姿を変えると、柳沼(やぎぬま)理乃(りの)は、仔犬みたいな活(い)き活(い)きとした眼で前のめりに口を開いた。


「なになに? まさか、転校生を舎弟(しゃてい)にして街を練(ね)り歩いてるとか、番長的なカンジ?」


 にひ~っと締まりのない笑みを近付けると、このえが不服そうに顔を背(そむ)けた。


「他人(ひと)聞(ぎ)きの悪いことを仰(おっしゃ)らないで。私たちは、藤森さんに街を案内してるだけです!」


 それきり、ムッツリと口を閉じてしまう。

 潔癖症を思わせるこのえと、年がら年中ズボラな空気の理乃(りの)とでは、どうしても相性が悪い。

 自然と希(き)更(さら)が、話の調整役を買って出た。


「今のところ、読眼流(どくがんりゅう)とじらい屋。それと、店長の芹沢(せりざわ)さんの怪異を見せて回った程度で、今から専門(せんもん)商店街に向かう所なの」


「ふっつ~だなぁ。これからく(・)の(・)い(・)ち(・)として生きていくんだから、少しくらい冒険しても良いと思うのに」


 半透明のポリ袋を片手に、頬を膨(ふく)らませる理乃。

 彼女の一風(いっぷう)変わった個性は、忍ヶ丘に不慣れなイチカにも難(なん)なく飲み込めたが、如何(いかん)せん、これが二度目の出会いである。

 校門ではロクに会話ができなかったこともあり、イチカは念のため、理乃に確認をとる。


「あの……。あなたも確か、裏門で私(わたし)と会った一人ですよね?」


「そうだよ。僕(ボク)の名前は柳沼(やぎぬま)理乃(りの)。こんな形(なり)でも、隠密行動と特殊武器が得意なんだ♪」


 胸を張った勢いで、身体の後ろで輪(わ)っか状(じょう)に束ねた細い鎖が、太陽光をキラキラと反射させた。

 どうやら擦過音を抑(おさ)える表面加工を施してあるようで、金属同士が擦れるジャラジャラとした音はないが、潜伏中に目立つような武装であるため、隠密行動は至(し)難(なん)の業(わざ)だ。

 風を受けやすい服の弛(たる)みも、動きを鈍(どん)磨(ま)させる要因の一つとなる。


「その目立つ格好と装備なのに、隠密(おんみつ)が得意だなんて意外ですね……。それに、空(そら)を翔(と)ぶだなんて、忍者というより魔法使いみたい」


 相手のお世辞(せじ)に気を良くした理乃は、ポリ袋から手を離し、忍術媒体(にんじゅつばいたい)を用(もち)いたチェーンの一部を指(ゆび)で摘(つま)んで、誇らしげに解説する。


「今はこうしてるけど、隠密時には表面を黒く塗るし、空を飛んでるのも神通力の御陰だよ。実際に風(かぜ)だけで飛ぼうとしたら、竜巻くらいの風圧が必要だからね。それに、はじめは高い所に登ってからじゃないと、高度が稼げないから」


 説明の冒頭(ぼうとう)、理乃の手から離れたゴミ袋が、地面に落ちて不快な音を立てた。

 一瞬、そちらへと注意が逸(そ)れたイチカは、話が終わった隙(すき)を見計らって、なにげなく質問する。


「あの、さっきから少し気になってたんですけど……。その袋に入ってる物って、なんですか? 見た感じ、雑誌みたいですけど……」


「えっ? あっ、コレのこと!? これは、そのぉ~……。収穫物(しゅうかくぶつ)…………かな?」


 イチカの指摘に身体をギクリと震わせた理乃は、額(ひたい)に脂汗を滲(にじ)ませて、ゴミ袋をそ(・)そ(・)く(・)さ(・)と背後に隠す。

 さらには体裁の悪さから、視線を斜め上に躱(かわ)すと、彼女の素行を知る希更が、

眉間に皺(しわ)を寄せて真実を呟く。


「柳沼さんの、半(なか)ば公然の悪癖(あくへき)……。一言で言うと、エロ本収集(しゅうしゅう)」


「ええっ!? エロ……じゃなくて。その、なんと言ったらいいか……。とにかく、そんな物を拾ってるんですか?」


 気恥ずかしさに表現を暈(ぼ)かし、強引に叱り付けるイチカ。

 それに対して理乃は、気まずさと罪悪感の反動から、強気に反論する。


「ち、違うよ! そっちこそ他人(ひと)聞(ぎ)きが悪いなぁ……。これは春画(しゅんが)(注:エロ本)集めなんかじゃなくて、歴(れっき)とした『町内美化』だよ!!」


 虚勢と共に、豁然(かつぜん)と言い切った。

 このえは、あまりの莫迦々々(ばかばか)しさに身を乗り出して、理乃の胸に人差し指を突き当てる。


「嘘おっしゃい! 以前、あなたが罰掃除を命じられた事は聞いてますが、その件はとっくに済んだ話です。今では、あなたの自由意志じゃありませんの!」


 希更の説明よりも一(いっ)歩(ぽ)踏み込んだ指摘だが、理乃は苦しくなるどころか、開きなおって清々しく嘯(うそぶ)いた。


「って事は、ボランティア活動に青少年の保護? な~んだ。ボクって結構(けっこう)、イイ事してんじゃん♪」


 理乃が手前勝手な理屈をこねると、イチカが自信なさそうに意見を求める。


「え~っと……。これこそ委員長さんに言った、公序良俗(こうじょりょうぞく)に反するという奴なのでは?」


 すると、すぐ横でそれを聞いていた希更も、同じく覇気(はき)のない様子で返す。


「ところが、全部が全部そうではないから、誰もが厳しく取り締まれないの……」


 実際、理乃の活動は監(かん)視(し)の役(やく)目(め)を果たしているのか、ゴミの不法投棄は減り、

治安も改善されて、報奨金(ほうしょうきん)が支払われる事例もある程だった。

 趣味と実益(じつえき)が完全に一致した奉仕活動として、あの五部(いつつべ)学長が、非公式ながらも認めているくらいである。


「そうそう♪ 学園長も言ってたよ。どうせ悪影響が出るんなら、周囲に広がるよりは、一人に抑(おさ)えておけってね♪」


「それは、誉め言葉なんかじゃありません! 第一(だいいち)、そんな破(は)廉(れん)恥(ち)な行為、たとえ周囲が認めていようと、里の治安を預かった『守り部(まもりべ)』の娘である私(わたくし)が許しませんわ!」


「じゃあ副(ふく)委(い)員(いん)ちょ(ちょ)が、ボクの代わりをやってみる?」


 こともあろうに、理乃は3人に向かって、適当な雑誌を広げてみせる。

 一瞬、真正面から中身を見てしまったこのえは、瞬時に顔を紅潮させて視線を

背ける。


「結構(けっこう)ですわ! さっさと、その下品な雑誌(もの)をしまいなさい!」


「フフン♪ 副(ふく)委(い)員(いん)ちょ(ちょ)はダ(・)メ(・)ダ(・)メ(・)だね。こんなのに動揺したんじゃ、一流の忍びになんかなれないよ。イチカなんて『ガン見(み)』してたのに」


 衝撃の事実を知った希更が、大きく目を瞠(みは)ってジリジリと後退する。


「まさか藤森さんにも、そう言った性癖(せいへき)があるんですか!?」


 戦闘中でもないのに、ひどく警戒されている。

 加えてその顔には、唖然とした空気に混じって、軽蔑の色がうっすらと滲(にじ)んでいた。

――どうして、こんな濡れ衣を着せられてるんだろう?

 ショックを受けたイチカは、片手を激(はげ)しく振って弁解する。


「違います!! ただ、忍者も一般人みたく不法投棄するんだな……って、呆気に取られてただけなんです!!」


 時を追うごとに混乱は拡大し、その元凶は、伝家の宝刀(エロ本)を片手に、微(み)塵(じん)も動(どう)じる隙を見せない。

 このえは今更になって気付く。

 この会話自体、すべてが不毛なのだと。

 いや、下手(へた)をすると自分達までもが、坂本愛里・柳沼理乃に続いて、淫(いん)靡(び)な集団だと認識されかねない。

 まわりに第三者が居ないこの隙(すき)こそ、撤退のチャンスであった。

 堪らずこのえは、イチカと希更を連れてその場を後(あと)にする。


「くっ……。このままでは、不本意な印象がこちらに伝染するだけですわ。申し訳ありませんが、私(わたくし)達はこれにて失礼します!!」


「ホイホ~イ♪ 要(い)らない本(ヤツ)があったら、まずは僕(ボク)に渡してね~。裏ルートだと、美品は結構(けっこう)高値で取引されるんだ~♪」


 鋼(はがね)のハートがなかったら、エロ本収集など出来はしない。

 クラスメイトに無視されてると知りながら、理乃は片手を大きく振って、三人を見送った。

時々、レアな忍術書を入手するから大したものです。

〇忍ヶ丘5大奇書

 木:雪風家伝・創刊号(初版本) 【イチカが所持】

 火:陽忍者・龍剣伝       【陽炎城】

 土:徐庶の奇妙な冒険      【所在不明】

 金:荒神(アラジン)と振動バット      【二学期・裏側の校舎にアリ】

 水:麦チョコ畑でつかまえて   【理乃が拾う】

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