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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
1章 忍びの里の忍ヶ丘
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二重身

 三人は店を出ると、正面の横断歩道を渡り、左右を住宅に囲まれた狭い路地を進む。

 こうして何(なに)気(げ)なく道を歩いていると、ここが忍びの隠れ里という事実が嘘みたいだ。

 店内や学園のしきたりは、どれも常軌を逸(いっ)した危険な物ばかりだが、外観だけはほかの街とも何(なん)等(ら)変わりない。

 忍(・)務や訓練中の風景も、一般人が相手なら、隠行術の真似事で充分だ。

 店を出て、信号から5メートル程(ほど)離れた所で、先頭を行くこのえが、次の目的地を挙げる。


「次に行くとすれば、専門(せんもん)商店街(しょうてんがい)が良いかしら?」


「専門(せんもん)商店街(しょうてんがい)?」


 イチカが不思議そうに首を捻(ひね)ると、希更は後ろを振り返り、歩みを止めずに口を開く。


「専門(せんもん)商店街というのは、専忍(せんにん)や業者さんが好んで使う、特殊忍具などを扱う店舗が並んだ通りのことよ。私達の持ってる忍者刀や忍具も、基本的には其処(そこ)で作られてるわ」


 と簡単な説明を終えた所で、イチカ達は意外な人物と遭遇した。

 儀礼的に整えられた鎧(よろい)兜(かぶと)の麗人、芹沢(せいざわ)立(りっ)花(か)である。


「おおっ、どこかで見掛けたと思えば、忍術学園の後輩たちではないか」


 台詞も姿も既視感(デジャビュ)そのもの。

 彼女は店内業務に向かったのに、いきなり正面の道から現れたのだ。

 イチカ同様、このえと希(き)更(さら)もビックリして立ち止まるが、すぐに冷静に対処する。


「芹沢(せりざわ)先輩でしたの……。こんにちは」


「お久し振りです……」


 ぎこちなく会釈する二人。

 久し振りどころか、ついさっき別れたばかりなのに、話し相手の芹沢も、平然と会話をつなげる。


「うむ、久方ぶりだな。……ときに、そちらのお嬢さんは見掛けぬが、友人かな?」


 イチカの姿を見付けて興味を示す芹沢。

 はじめはイチカも、専忍の動きを活かして此方(こちら)の行く手を先回りしたのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

 彼女の真剣な態度からして、本心から初対面のつもりのようなのだ。


「えっと……。さっき、店内でお話ししたばかりですよね? 今日から忍ヶ丘に住むことになった、忍術学園の後輩に当たる藤森(ふじもり)イチカだって」


 芹沢は顎(あご)に手を添えて、曖昧(あいまい)な態度で考え込む。


「ふむ、そんな筈(はず)はないと思うがな……。なにせ私は、今日は専門商店街の方で

素材の仕入れに出ていたからな」


「ふええぇ!? じゃあ、さっきの人は別人? それとも双子とか……」


 イチカの勝手な想像が、芹沢の心当(こころあ)たりと偶然に合致する。


「双子……? ああ、そうか! またしても、私に似た人物が現れたのだな」


「似た人物って?」


 うむ、と小さく頷き、芹沢(せりざわ)の表情に困惑が広がる。


「どうも私の周囲では、奇妙なことが多いらしい。以前にも、居るはずのない場所で私の目撃談が報告されてな……。もしもの備(そな)えと見た目の差異に、あえて普段からこのような格好をしているのだ」


 芹沢は、自身の戦闘(せんとう)衣(い)を『ガッチャ!』と拳で叩き示すと、諦めた様子で独(ひと)り合(が)点(てん)を始めた。


「まあ、相手の方が一枚上(うわ)手(て)なのかも知れんな。よもや、同じ格好でうろつくとは……」


 言動や顔立ちだけならともかく、忍び相手に日々(ひび)の服装すら同じにするなど、ソックリさんという次元では済まない。

 唖然とするイチカに代わって、希更が話し相手を務める。


「それで店長さんは、これから何か予定でもあるんですか?」


「否(いや)。今日はもう、特にない。午前中は、皆(みな)に店を任せていた事もあるし、少しだけ休憩を挟んでから、手伝いに回ろうと思う。では、さらばだ」


 去(さ)り際(ぎわ)も似たような台詞を口にする芹沢。

 彼女が視界から離れると、イチカは目にうっすらと涙を浮かべて、二人に詰め寄る。


「いったい全体、なにがどうなってるんですかぁ? あんなの絶対、他人の空似なんかじゃないですよね。まさか、分身の術とか言いませんよね、ねっ?」


 このえは、芹沢を遣(や)り過(す)ごした安心感から深呼吸をすると、恐慌(きょうこう)状態のイチカへ静かに返す。


「もちろん、そんな事はありませんわ。私達(わたくしたち)の使う分身の術は、幻影のみを近くに配置する影分身(かげぶんしん)の術。実体を持つ物となれば、余(よ)程(ほど)の高度な複合技か、禁呪とされる『陰忍術(いんにんじゅつ)』しかありませんもの。それに、芹沢先輩は剣術の専忍で、他(ほか)の技は苦手な部類。つまりはアレこそが、芹沢先輩の逸(いつ)話(わ)の一つ、二重身(ドッペルゲンガー)ですの」


「ドッペルゲンガーって……。もう一人の自分っていう、怪談物のアレですか?」


 青ざめた顔のイチカへ、希更が更なる恐怖を注ぐ。


「そう……。でも店長さんの場合は、もう一人の自分と出会う事もなければ、死ぬこともない。店内の話とさっきの言葉を総合するに、片方が店の手伝いをして、もう一人が別(べつ)の案件(あんけん)を片付ける。そして二人が一定範囲に接近すると、融合して記憶を埋め合うんです」


 忍術どころか、もはや奇跡としか言いようのない現象だ。

 希更の話を聞いたイチカは、ゾクリと肌が粟(あわ)立(だ)つ。


「うわあ……。せっかく普通な感じがしたのに、あの人が一番(いちばん)凄いだなんて」


 ややあって、二人が歩みを再開させると、イチカも自転車を引いて後(あと)に続いた。

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