第2話 8
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「へー、広くて気持ちいいね!」
あたし達が来たのは野鳥観察エリアの野鳥観察小屋の中。
ここはもともとの城ヶ島の地形のままで、JIMを建築するときにもなにも変えていない。唯一の人工物は展望台と野鳥観察小屋が高台に建っていることだけだ。
ここから見ると入り江がよく見える。奥の半島の先は断崖絶壁になっていて、そこがウミウ、ヒメウなどの繁殖地になっているそうだ。黒い点々が沢山見える。あれがウミウかな?
月平は自分の趣味は野鳥観察だと言った。今日の迷彩の格好は野鳥観察エリアでゆっくりと野鳥を見たかったからだそうだ。もしも誰も興味がなかったら自分一人だけでもここに来るつもりだったらしい。
「月平にそんな趣味があったとはねー」
「やはり退屈かな?嫌だったら水族館とか、別のエリアに行ってもらってもいいんだが」
「ううん。ここがいいな。この景色、あたしの田舎に似てるし、落ち着くよね?」
本当に似てる気がした。下北半島の津軽海峡に迫った山や海岸の感じに。
「あそこにはウミウがいるな。見てみるか?」月平はリュックから望遠鏡と三脚を出してきてセットしている間、あたしに双眼鏡を貸してくれた。さっき起きてきた雪ちゃんがあたしの肩にのって、交代で双眼鏡を覗いてみる。
「あー、黒い鳥がいっぱい見えるよ。あれ、背中が青い鳥もいるね」
「それはたぶんアオサギだと思う。あれは一年中いるな。もう少し手前の岩場を見ると、ウミネコがいるぞ。もう少し右の方かな?」
「あー、ウミネコってカモメの仲間のことなんだね。クチバシの先が黒いね。あ、あれなにかな?ウミネコよりかなり小さくて、背中が茶色っぽくてお腹が白くて、歩いているの」
「どれどれ、あれはイソシギだな。あれも一年中いるぞ。歩き方が面白いだろ?
今はしぎや千鳥の渡りの時期だから、他にもいろいろ・・・・、あそこ見てみろ」
双眼鏡では小さすぎてわかりくいけど、茶色と黒と白が混ざったような・・・、なんか模様が歌舞伎の隈取りみたいな鳥が集団で岩場を歩いている。
「あれはキョウジョシギ、渡りの途中に寄ったんだろうな。漢字で書くと『京女の鷸』って書くんだ」
「あーっ、『隈取りモンスターカブキ』に同じ名前の女の子のモンスターが出てた。あれが元だったんだ。色も似てるし」
あたしの周りには気がつかなかったけど沢山の野鳥がいたんだね!
「うんうん。あれれ、大きな白い鳥が飛んでいるよ。あっ海に飛び込んじゃった。あっ魚を足でつかんで出てきた!あれ何?」
「おーっ、ミサゴだ!魚を食べる猛禽類、ワシタカの仲間だ。珍しいものが見られたなー」
月平って無口かと思っていたけど、好きなことは意外とよくしゃべるんだ。野鳥をみて興奮してる月平ってなんか可愛いね。すごく楽しそう。それにあたしも野鳥みてて楽しいな。
「鳥面白いねー。もっといろんな種類がいるの?」
「日本で一回でも見られたモノを含めるとざっくり五百五十種類以上いると言われている。俺はまだそのうち百五十種類しか見てないけど。もっともっと沢山、全部の種類を見るのが夢なんだ」
「月平の夢応援するよ。うん、あたしも見てみたいな沢山の野鳥」
「あの、よ、よかったら今度違うところでも行かないか?カワセミが見られるけど?」
「カワセミって小さくて青っぽい綺麗な鳥だよね!見たい見たい!連れてって!」
野鳥って楽しい!きっと月平と一緒だともっと楽しいと思うんだ。
あれ、これってもしかしてデートのお誘いなの?なんか恥ずかしくなってきたよー。
「あのさ、月平。新入社員研修のときや今日も助けてくれたじゃん?月平、ありがとね」
なんでお礼を言うだけでこんなに恥ずかしいの?
「でさ、聞いてみたかったんだけど、月平、なんであたしを何度も助けてくれたの?」
もしかして、もしかしてよ?月平はあたしのことを大事に想ってくれてるのかな?あたし今まで散々罵詈雑言や蹴りを入れてきたから、そんなことないと思うけど、万が一、万が一よ?まさかね。月平は研修期間中にメルちゃんとよく逢い引きしてたからメルちゃんのことを・・・。あたしなに考えてんだろ。あたしなんか。
「あ、ああ。あれは、えーと、その・・・、そうだ衣奈に頼まれたんだ。鉄火を助けてやってくれと。」
え?そーなの?あれ、あたしがっかりしてる。なんでだろ?なにを期待してたんだろ。あたし馬鹿だね。そりゃそうだよね。今までのあたしの態度を見れば月平もあたしをなんとも思わないよね、そうだよね・・・。
あたしは月平の顔をよく見てみた。そういえば月平大きいからあまり顔を見れてなかったよね。失礼だなあたし、いまさら。あれ、よく見るとけっこう男前だったんだね。でも、もうまともに顔見られない。でもこの顔、昔どこかでよく見てたような気がするんだよね?いつだったかな?どこだったかな?
「あ、そうだもう一つだけ教えて?研修中に『忘れてる』だとか、『今度こそ守る』とか言っていたけどあれはどういう意味なの?あ、いいんだよ言いにくいことだったら、別に無理に聞こうとか思ってないからさ・・・」
「あの、鉄火。実は俺・・・」
月平がなにか言いかけたとき、壁の裏の方で何か大きな声がした。メルちゃんの声に似ているような気がしたけど?気のせいかな?
「いやいいんだ。またいつか話できる時がきたら、その時は・・・」
月平がなにか、一人だけさっぱりしたような顔をしている。あたしはもやもやしてるんだけど!
その時、15時を告げる鐘が城ヶ島全域に響き渡った。




