第4話 6
6
着替えを終えて応接室に戻ってきた。今から本能寺さんと環境安全課ってとこの事務室に移動して、そこで新人の受け入れ安全教育と仕事の説明を受けるらしい。ま、職場はどこでもいいよ。あたしはどこでも全力を尽くしますわよ!
と、さっきまで思っていた自分が不憫で可愛そう。
本能寺さんに連れられて、綺麗な事務棟から外に出た。あれれ?環境安全課の事務所は別のところにあるという。
ふーん。もう一つきれいな事務所があるのかな?
あたし達は自分の荷物の入った鞄を持って、三角ぎざぎざ屋根のクリーム色の製造建物がある方にどんどん歩いて行く。何かを入れる大きなタンクやそこから延びている配管、煙突などの設備が沢山ある。
ここの敷地は十万平米くらいあると、先ほど万歳さんから説明を受けた。ざっくりと幅二百メートル、長さ五百メートル。中には工場、事務棟、研究棟、原料や製品を入れる倉庫、タンクヤード、野球やサッカーとかができるグランド等があって、結構広い。
道路には大きなトラックやフォークリフトがばんばん走っている。結構なスピードを出しているフォークリフトもいて、結構恐かったりする。
本能寺先輩もあたしも何も言わず、ただもくもくと歩いて行く。
製造建屋のエリアを抜けて、建物もなにもない草ぼーぼーの空き地を抜けて、既に五分くらい歩いている。なのにまだ着かない。このままじゃ敷地を越えて、海岸にたどり着いてしまう。ホントは事務所とかなくて、あたしをだましてどこかに連れ去るつもりなの?
工場敷地の周囲には高さ二メートルくらいの緑色のフェンスがぐるりと巡らされている。その一番端まで行くと、フェンスの向こうは海、太平洋の大海原が見える。わー、水平線だー!あたし海だあーい好きー!なんて言う余裕はあたしにはなかった。
案内された二階建ての建物はそこそこ大きいが、煤けたグレーの壁で(スレートっていうんだっけ?)、壁のあちこちが割れている。窓枠も白く塗装はされているが所々錆びていて、廃墟と説明されても信じてしまうくらいだ。しかも海風が強く吹き込んできて春なのに寒い。
建物の前は少し広い駐車場になっていて、車が数台停まっていた。
あ、この茶色のバンは雪ちゃんを助けに諏訪湖に行くときに本能寺さんが乗ってた奴だ。車あるんならここまで乗せて来てくれればいいのに。一番奥にちらりと真っ赤なバンのお尻が見えた。あんな派手な車で配達する業者さんでもいるのかな?
「あの、もしかしてココ、ですか?」
「そうだ。ここが環境安全課だけの旧事務棟だ。広いから自由に使えるぞ!」
環境安全課何人いるの?百人は働けるよ、ここ。しかもなんでこんな不便な所にあるの?
不安な気持ちで旧事務棟の入り口ドアを開ける。一階正面の部屋は電気も点いておらず真っ暗だ。入り口すぐの右側に二階へ昇る階段がある。ステップや手すりは木製で手すりの白いペンキは剥げ落ちて下地が見える。しかもあまり手すりを使っていないのか、埃が積もっていた。ばっちいので手すりを触らないようにして、急な角度の階段を昇る。よく見るとあちこち埃だらけだ。階段を昇りきった先にも薄暗い廊下があって、左側にガラス戸が見えた。
ドアを開けると、そこはだだっ広い空間で、その真ん中に机が三つかたまっておかれていた。そのうちの一つには人が座っている。
「お、到着したねー。ごくろうさん。遠かったんじゃないかな?」
立ち上がって、にこにこしながらあたし達の方に歩いてきた人は、年齢は60歳近くに見えて、髪の毛が少しバーコードになっていて、眼鏡をかけた細いおじさんだ。見るからに不健康そうな顔色をしている。
「初めまして、わたしはここの課長をやっている、柳沢辛紡といいます。よろしくお願いしますよ。」
「は、はい!こちらこそよろしくお願いします!あたしは鉄火マキといいます。これからがんばりますので、よろしくお願いします!がんばります!」あたしはめずらしく緊張して、同じことを二回言ってしまった。
「ええと、まずは鉄火君の席に案内しますね。それから少し休んでから、本能寺君から安全教育を行いますね」
あたしの席はグレーのスチール机で、上には古そうで大きなノートパソコンが一台おかれているだけだった。椅子も足が四脚のキャスター付きで、椅子を引くとキー、キーと耳障りな音がした。まるで昔の小学校の職員室のイメージだ。今は2043年だよね?20世紀じゃないよね?
あたしの輝かしい会社生活はこうして始まった。おしまい。
まだ終わりません




